やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
「………」
「………」
さて、西住を廊下まで連れ出したはいいけど、そっからはお互い無言、いや、俺が用があると言って連れ出したんだから俺から話をしなければならないのは当たり前だけど。
チラッと教室の方を見るとわくわくした表情の武部と困り顔の五十鈴がひょこっと扉から顔を出していた、バレバレである。
「あの…、比企谷さん、それで用事っていうのは?」
「え、お、おぅ…」
ここで黙っててもラチがあかないし、さっさと伝えてしまおう、磯野〜、戦車道しようぜ、とかそんなノリで。
「必修選択科目なんだけど、西住はもう何か決めてんのか?」
「必修選択科目ですか…?いえ、まだですけど、沙織さんと華さんと相談して決めようって」
「そうか…」
二人とは本当に友達になったようだ、どうやら西住は俺とは違って単なる引っ込み思案できっかけさえあれば友達なんてすぐ作れたのだろう。
「なら生徒会からの命令だ、必修選択科目、戦車道をとれ」
「え…」
軽く伝えたつもりだったのに、西住の表情は驚き、一気に暗いものへと変わる。
「あの…、この学校は戦車道の授業はなかったはずじゃ」
「なんでも今年から復活するらしいぞ、それで経験者である西住に声がかかった訳だが」
「私、この学校が戦車道がないって思ってわざわざ転校して来たのに…」
今の西住の言葉、そしてその態度から彼女が戦車道に対して、何かしらの思いがあるのはわかる。
「必修選択科目って、自由に選べるんですよね…?」
「まぁ…普通は、でもうちの生徒会にはあんまし逆らわない方がいいぞ、後が怖いし…、西住?」
「………」
俺の言葉が聞こえていないのか、西住は虚ろな目にふらふらとした足取りで教室へと戻っていく、え?何?俺何かやらかした?
「ちょっと比企谷!みほに何したの!!」
そんな西住の様子に唖然としていると今度は後ろから声をかけられた。
振り返ると腰に手を当てて怒ってる武部と鋭い目付きで俺を睨む五十鈴が居た。
「いや、特に何もしてねぇよ…」
「特に何もしてなくてみほがあんなになるわけないじゃん!!」
「そうですよ、何か酷い事言ったんではないですか?」
二人して怒ってた顔で俺に詰め寄ってくる。
あぁ、この状況には見覚えがある、デジャブってる。
中学の時、たまたま目の前のクラスの女子の落とし物を拾って渡そうとしたら別の女子が「比企谷が◯◯のハンカチ盗んでるー」とか騒ぎだして落とした娘が泣いちゃって大勢の女子に囲まれた状況に似ているのだ。
あの状況はマジで恐ろしい、こちらが少しでも反論しようとするならば何倍もの言葉で押し潰してくるし、そもそもこちらの話なんぞ全く聞いちゃいない。
三人よればやかましいとさえ言われる女子だが囲まれたら本当、泣きそうになる。
あぁでもアレだな、あれから数年もたって冷静に考えたら女子に囲まれるって字面だけならまるでリア充主人公のハーレムだな、リア充じゃなくてもハーレムは作れる事を証明できたわ。…ねーよ。
「いくらフラれたからって女の子を傷付けるのは最低だよ!!」
「は?フラれ?何言ってんのお前」
ちょっと待て…その単語は俺に効果は抜群だから、あんま使わんといて。
「え?比企谷、みほに告白して、フラれたんでしょ、それでみほに酷い事言ったんじゃないの?」
「いや、違うから、つか、その一連の綺麗な流れ何?告白してフラれちゃうの決定事項かよ」
いや、フラれるだろうけどね、別に告らんけど。
「だから私は違うと言ったじゃないですか…」
「えー、男の子が女の子を呼び出すシチュなんて告白意外にないじゃん」
「いや、あるだろ…、だいたいそんな事でいちいち告白なんてしてたら世の中フラれた男だらけになるぞ」
「カップルだらけ…ではないのですか?」
いや五十鈴さんはちょっと世間知らずなお嬢様でしょうしわからんと思いますが男の告白の成功率なんてたかが知れてますから。
あぁ、でもあれだな、クラス内でも目立つから武部の事はなんとなくわかってたけどコイツ、間違いない。
恋愛脳と書いてスイーツ(笑)だ、うん、俺の苦手なタイプだわ、むしろ得意なタイプもないけど。
「じ、じゃあみほは何であんなにふらふらだったの?」
「知らん、俺はただ生徒会の要件を伝えただけだ」
「あれ?そういえば比企谷って生徒会だったっけ?」
「違うんだよなぁ…」
どう二人に説明したもんか…と頭を悩ませてると、てか悩ませる必要ないよな、説明する義理もないし、でも説明しないと解放されそうにないし。
「ごめんなさい、気分が悪いからちょっと保健室に行きます…」
西住が先ほどと変わらぬ虚ろな目のまま、ふらふらと教室から出て来て保健室へと向かう。
「ちょっとみほ、あたし!あたしも行くから」
「私もご一緒します」
そしてその後を慌てて武部と五十鈴が付いていこうとする。
「おい、授業始まるぞ…」
「私、お腹痛いから!比企谷、先生に伝えといて」
「私は持病の癪が…」
…行ってしまった、よし、じゃあ俺は不治の病のコミュ障が…、不治の病なのかよ。
ーーー
ーー
ー
『戦車道、それは伝統的な文化であり、世界中で女子の嗜みとして受け継がれて来ました。
礼節のある、淑やかで慎ましい、そして、凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもあります。
戦車道を学ぶ事は、女子としての道を極める事でもあります。
〜中略〜
さぁ、皆さんも是非とも戦車道を学び、心身ともに健やかで美しい女性になりましょう。
来たれ!乙女達!!』
派手な音と共に、ステージに煙があがり、戦車道に関する映像が終わる。
え?何なの?これが生徒会が用意した戦車道に関する素晴らしい映像なの?
とにかくひたすら戦車道は素晴らしい、健康的、男にモテる、と下手すれば戦車道のおかげで宝くじに当たりました、とか戦車道のおかげで実年齢より若く見られます、みたいな深夜の通販番組にでもありそうな謳い文句が流れ続ける映像だった。
こんな胡散臭い映像に誰が騙されるっていうのだろうか…、こりゃ心配しなくても戦車道復活はないな、うちの生徒会が無能で助かったわ。
「選択どうしたー?」
「私、迷ったんだけど、戦車道にしちゃった」
「嘘ー?私も私も」
…やだ、この学校の女子ってチョロ過ぎ。
「彼が早く私の戦車乗ってる姿見たいってー」
「男子戦車道って、確かに聞いた事ないよねー」
「男子と戦車って、何かミスマッチー」
「………」
何でだよ、男が戦車好きじゃ悪いのかよ。
苛ついた衝動に思わず声を荒げたくなったのをグッと飲み込む、最悪だが戦車道復活は生徒会の思惑通り、順調のようだ。
そうなるとやはり、戦車道復活の最後の鍵と言えるのは経験者である西住にあるのだろう。