やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
異論は一切認めない。
ー砲音のせせらぎ。
ーー心地よいエンジン音。
ーーー戦車が織り成す、上質な空間。
「そうだ、戦車喫茶に行こう」
ついに始まった、戦車道全国大会、本日はその抽選会である。
なので全国各地の戦車道全国大会参加者達が抽選会場のあるこの街に集まっている。今ではマイナーになりつつある戦車道ではあるが、こうして各地から集まった高校を見ると意外と参加学校も多い。
そういえば文科省も戦車道に力を入れるよう、各地の高校に働きかけていると言ってたな、そもそもうちが戦車道復活させた理由もそれらしいし。
さしずめ戦車少女育成計画といった具合だろう、やだ…しばらくしたら増えすぎた戦車少女を半分に減らしますとか言われそう。
我等が大洗学園戦車道メンバーも全国大会に参加するので、今は抽選会場に行っている頃だろう。
さて、俺はといえばさすがに女子だらけの抽選会場に男一人で入る訳にもいかず、抽選会が終わるまでやることがないのである。
なので別に家に居てもよかったのだが、じつは前々から行ってみたかった店がこの街にある。
戦車喫茶【ルクレール】、なんとここは戦車に関した演出がされている喫茶店なのだ。
先に言っておくがメイドさんがラブラブキュンキュンするような頭の悪い喫茶店じゃないぞ?そういうのはどこぞの材木屋君とかに任せとけ。
ここ、ルクレールは店先に置かれたルクレール戦車のオブジェクトに、店内には土嚢やドラム缶等が置かれ軍服を着たウェイトレスが働いている、正に戦車好きにとって夢のような喫茶店だ。
何より凄いのはこの店員を呼ぶボタンだ、押すとなんと90式戦車の主砲発射音が店内に響くという素晴らしい仕掛け、是非とも持って帰って家の呼び鈴にしたい、そして意味もなく鳴らしたい。
え?店内主砲発射音ばっかでうるさくないかって?砲音のせせらぎだよこれは。
「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」
「コーヒーセットをお願いします、あ、練乳もあれば付けて下さい」
「は、はぁ?練乳ですか?」
「はい、あります?」
「えと…、承りました、少々お待ち下さい」
少し戸惑ってはいたがビッと敬礼すると店員さんは去っていく、んー?別にご注文はうさぎではないので変な注文はしてないんだが。
まぁいいか、この戦車空間でコーヒーを頂きつつ、読書でもしていよう、ダージリンさんではないがこういうまったりした休日も悪くない。
ドラゴンワゴンによって運ばれてきたコーヒーセットを読書と共に堪能していると…なんだか店内が急に騒がしくなってきた。しかも女子高生ばっか。
時間を見る限り、抽選会が終わって皆でここにお茶をしに来ているのだろう。大洗は結局どうなったんだろうか?トーナメントの抽選はくじ引きだったはずだし、そこは西住のくじ運の強さに期待するしかないが。
…つーか、この女子高生だらけの空間はちょっと居心地が悪いな、テーブル席を一人で占領してるのもあって睨まれてる気もするし。
仕方ない、もう少しゆっくりしたかったがさっさと食べて出るか。
「…ん?」
と、ポケットの携帯が震えるのを感じた、あれ?この付近にボケモンなんて居たっけ?と思ったら西住から電話がきている。
「…どーした?」
「あっ、八幡君、今抽選会が終わったんだけど、今どこに居るの?」
なんだ、わざわざ抽選会が終わった事を知らせに電話くれたのか、相変わらず律儀な奴だな。
「ルクレールって喫茶店」
「あ!私達も今からそこに行こうって話してたんだ、優花里さんが前々から行ってみたかったって」
流石は秋山、考える事は俺と同じか、まぁこの店なら秋山の奴もきっと気に入るだろうな。
「そうか、なら結構混んできたから来るなら早めに来た方がいいぞ?俺はもう出るけど」
「えぇっ!?そこは待っててよ…」
いや、だってもうケーキもコーヒーもほぼ終わりで、周りはもう敵(女子高生)ばっかだし。
「えっと…、その、一回戦の話とかもしたいかなって」
まぁ、確かに一回戦の相手については気になるけど…。
「ちょっと待ってて、すぐに行くから、ね?」
「お、おう…」
なんだかなし崩し的に西住達を待つ羽目になってしまった…、くそぅ!またコーヒーおかわりするために店員さん呼ばなきゃな!よーし、90式戦車の主砲発射音だ!!ドーンッ!!
ーーー
ーー
ー
「わ!何これ?」
「これ、ドラゴンワゴンですよ」
「ケーキも可愛い~」
さて、西住達Aチームの面々を迎えて再びティータイムが始まった、とはいえ彼女達、ドラゴンワゴンと戦車の形に作られたケーキに夢中だが。
「んで、一回戦の相手、サンダース大学付属高校…だったか?」
正直、戦車道知識はあまりなく、黒森峰やプラウダ、あと聖グロリアーナくらいしか知らないんだけど。
サンダース大付属ね、名前だけ聞くとでんきタイプだな、あと、素早さの種族値高そう。
「うん…、ごめんね、一回戦から強いとこと当たっちゃって」
だが西住の様子を見ると結構強いところっぽいな、まぁこればかりはくじ運か、トーナメント表を見ると黒森峰も聖グロリアーナも決勝まで戦う事はなさそうだし、そこまで悪い結果には思えんが。
「サンダース大付属ってそんなに強いんですか?」
「強いというより、とてもリッチな学校で戦車の保有台数は全国一位なんです、チーム数も一軍から三軍まであって」
五十鈴の問いに秋山が答えてくれる、うわー、金持ちかよ、保有台数全国一位なら5両しかないうちに少し分けてもらいたいくらいだ。
「え?ちょっとそんなのうちが勝てるわけないじゃん!!」
うん、そうなんだよね、なにしろ大洗の戦車は5両だ、これ?試合にもならないんじゃないか?
「公式戦の一回戦は戦車の数は10両までって決まってるから、砲弾の総数も決まってるし」
…なるほど、なら考え方によっちゃ一回戦で当たったのは逆に良かったかもしれんな。戦いは数だと偉い人も言ってたし、制限があるならまだ救いはある。
「でも10両って…うちの倍じゃん、それは勝てないんじゃ」
「あのな武部、たぶんどの学校と当たっても向こうは10両で来るぞ、むしろうちがおかしいからな」
たった5両で、しかもほぼ全員が初心者なのだ、うちの生徒会もよくよく無茶な事に挑戦したもんだ。
「むー、なんか納得いかない!戦車道って不公平じゃない?」
「戦いは始まる前から始まってるんです、戦車の用意も戦いのうち、という事でしょう」
「ではこちらは1両辺り、相手2両を撃破すればいいんですね」
五十鈴さん、ヤル気満々なのは結構ですが普通に無理だと思いますよ。
「ううん、公式戦はフラッグ戦だから、相手のフラッグ車さえ撃破出来れば勝ちだよ」
「なんだ…それなら、って、うちもそうだからこっちが不利なのは同じじゃない?」
「おー、よく理解したな、偉いぞー、武部」
「いや、比企谷はちょっと馬鹿にしすぎだからね!?」
「…単位は?」
と、今まで黙ってケーキを食べていた冷泉が聞いてくる。
「負けたら貰えないんじゃない?」
「…おい」
冷泉はそれはもうジロリと恨みの込めた視線を俺に向けてくる、話が違うとでも言いたそうだ。
「俺はちゃんと好成績を収めたなら…と言ったぞ?」
嘘は言ってない、嘘は。
「………」
冷泉は小さくうめき声を上げるとフォークでケーキを乱暴に突き刺してそのまま食べる、ちょっと!?今の何?お前もフォークで突き刺して食ってやるとか考えてないだろうな?
「ま、まぁアレだ、ブースター大付属だかシャワーズ大付属だか知らんけど…」
「比企谷殿、サンダース大付属です…」
「…相手が何であれフラッグ車さえ潰せば勝ちだ、例え相手が10両でこっちが残り1両でもな、それに強い所に勝てば注目されるぞ、武部」
「あっ!そうだよね、全国大会はテレビ中継されるんでしょ?ファンレターとか来たらどうしよー!!」
まぁ…、初登場の学校がいきなりそんな有名な学校倒したとなれば武部の言うこともあながち間違いじゃないかもしれん、大物食いは誰しもが好きな展開だしな。
「生放送は決勝だけですよ」
「よーし、なら決勝にいけるように頑張ろー!!」
いくら生放送でも戦車に乗ってるから顔とか見えないんだけどな…。ま、武部のやる気も戻ってきてくれたようでなによりだ。
「ん?ほら、みほも食べて、ケーキ、美味しいよ」
「…うん」
武部に促され西住もさっきから手付かずだったケーキを食べる、くじ運に落ち込んでいた西住もちょっとは立ち直ったか。
「…副隊長?」
「…えっ?」
と、その時、通路から誰かが西住に声をかけてきた、見るとそこには二人の女子が居る。
あの制服は…黒森峰のか?
「あぁ…、元、でしたね」
その中の一人には俺も、というかたぶん、ここにいる全員見覚えがあるだろう。
「…お姉ちゃん」
西住 まほ。
西住流の後継者。
黒森峰の隊長。
国際強化選手。
去年の戦車道全国大会のMVPにして、高校生の頂点。
そして…西住みほの姉である。