やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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見たただけで誰が出てくるかわかる素晴らしいタイトル、黒森峰?残念!!まだちょっと待ってね。
そして大洗屈指のチート集団の初登場です。


しかしながら、彼女達の根性は逞しい。

「こんばんはッス」

 

「お、比企谷が来るなんて珍しいな」

 

「今日は差し入れを持ってきたんですよ」

 

本日の戦車訓練も無事に終え、俺はといえば大洗学園の敷地内にあるとあるガレージを訪れていた。

 

【自動車部】、ここに所属する彼女達には大洗学園の戦車の整備を一任している。

 

そう、件の自動車部である。長年放置され、全く整備すらされてなかった我が校の戦車を一晩で稼働可能な状態にまで仕上げるという離れ業をやってのけた人達である。

 

まず最初に俺に気付いて声をかけてくれたのは部長でもあるナカジマさんだ。

 

「おーい、みんな、比企谷が差し入れ持ってきてくれたぞ、ちょっと休憩しようか?」

 

ナカジマさんの掛け声に一旦整備の手を止めて集まる自動車部のメンバー。

 

部長のナカジマさんに褐色の肌が特徴的なスズキさん、ツナギを腰に巻いたホシノさん、この三人は三年である。

 

「比企谷の差し入れって…、どうせまたマッ缶じゃないの?」

 

そしてこの四人の中で唯一の二年、ツチヤ。はい、自動車部、メンバー紹介は以上である。

 

あれだけの離れ業をやってのけた自動車部だ、最初はどんだけの人数でやったのかとおもったら、なんとその部員は四人、しかも全員が女性というトンでも集団だった、ちょっとうちの男子何してんのよ?

 

「愚問だな、それにほら、疲れた時は甘いものが良いんだぞ」

 

つまりマッ缶大好きの俺は常に疲れているのだろう、主に人生とかに。

 

「まぁ確かに、整備もまだまだこれからだからね」

 

当たり前だが、整備がしっかりしていないと戦車は動かない、戦車道の授業なんてほぼ毎日行われてるし、彼女達自動車部が居なければ大洗の戦車道復活は夢のまた夢だっただろう。

 

さすがに西住も本格的な整備までは専門外と言ってたしな、縁の下の力持ち、というかこの人達は力がありすぎる、そもそも自動車部なのに戦車の整備も出来るって凄すぎるでしょ。

 

「いつもすいませんね、本当に良かったんですか?戦車の整備引き受けても」

 

全国大会を目指して日々訓練に励む我が校の戦車道の授業が終わるのはいつも夕方頃、そこから彼女達自動車部は整備をしている。あれ?この人達いつ寝てるの?昼間は授業だよね?

 

「いや~、確かに大変だけど、その分やりがいはあるね」

 

「これも良い勉強になるし、私達に不満はないよ」

 

…そしてこれである、ちょっと自動車部の方々良い人過ぎない?もう普通に店出して良いレベルだよ。

 

「それに、戦車の試運転も出来て運転の練習にもなるしね」

 

それに加えてホシノさんの言うとおり、試運転やら試し撃ちやらもするので戦車にも乗れるときている。

 

前にホシノさんの試運転に乗せてもらった事があるが普通に上手い、曰く【大洗一速い女】と呼ばれているらしく、ヘタすればうちの戦車道メンバー普通に食っちゃいそうなチート集団の方々だ。

 

もし彼女達が戦車に乗る時が来るなら、大洗の戦車道メンバーの力も大きく上昇するだろう、まぁもう戦車ありませんけどね。

 

「…たまには手伝いましょうか?」

 

と、少し申し訳なさを感じつつ、思わず声をかけてはみたが、俺みたいな素人に出来る事なんてたかが知れてる。

 

「あー、じゃあちょっと頼みたい事があるんだけどいいかな?」

 

「頼みたい事ですか?」

 

「八九式の戦車、本人達の希望でまだ帰ってきてないから、そろそろ整備に入りたいんだけど」

 

八九式…っていうとバレーボール部の連中か?戦車授業はもう終わってるのに、何でまだ乗ってるんだ?

 

「残ってまだ訓練を続けたいんだって、でもさすがにもう遅いし、あんまり根を詰めすぎるのもよくないと思うんだ」

 

「いやいや、それをあなた達が言いますか…」

 

多分、大洗で一番根詰めまくってる方々ですよ、あなた達。

 

あー…、しかしバレーボール部かぁ、あの熱血スポ根全開の連中はどうも苦手なんだよなぁ。

 

校内の模擬戦で相手チームだったのもあって今まであんまり絡んだ事もなかったからな、あまり気は進まないが、まぁ自分から言い出した事だ、仕方ない。

 

「じゃあちょっと様子だけ見てきます」

 

「頼んだよ比企谷、また試運転させてあげるから」

 

「いいですね、楽しみにしてます」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

ナカジマさんに教えられた所に行くとちょうど八九式が的に向かって砲撃をしているのが見えた。

 

「佐々木!今のスパイクは中々良かった、しかしまだだ!実戦では相手戦車は常に動いている、相手コートにアタックを決めるように根性で狙うんだ!!」

 

「はい!キャプテン!!」

 

…これである、やだなー、あの熱血スポ根全開のノリにはついていける気がしない。

 

「次は河西ッ!操縦だ、相手ボールに食らい付くように根性で飛ばすんだ!!」

 

「はい、キャプテン!!」

 

八九式から顔を出している磯辺がチームメンバーに激を飛ばす、正直指示は何言ってんのかよくわからないが、彼女達バレーボール部メンバーには伝わってるらしい。

 

大洗学園バレーボール部…、いや正式に言えばもうバレーボール部は廃部になったんでバレーボール部復活を目指す彼女達。

 

二年、キャプテンの磯辺 典子と一年の河西 忍、近藤 妙子、佐々木 あけびの四人組である。

 

「!? 停車ッ!!比企谷…?どうしてここに?」

 

一人顔を出していた磯辺が俺に気付いて八九式を停車させる。

 

「やる気があるのは構わんが、あんまり自動車部の人らに迷惑かけるなよ、そろそろ整備がしたいんだと」

 

「もうそんな時間か…、よーし!本日の訓練はここまで!お疲れ様でした!!」

 

「「「お疲れ様でした!!」」」

 

磯辺の掛け声に、バレーボール部メンバー一同も八九式から降りてくる。

 

「あれ?比企谷先輩、お疲れ様です」

 

「お疲れさん、いつもこんな時間までやってるのか?」

 

「はい、最近じゃ早朝のバレーの朝練の後も戦車訓練してます!!」

 

…え?マジで?というか廃部になったバレー部が体育館とか使っていいの?

 

「俺が朝来た時にバレー部が体育館使ってるの見たことないんだけど?」

 

「他の運動部が来る前にやるんですよ、大体朝の5時からですかね?」

 

「他の運動部の人達が来たら授業始まるまで戦車訓練してますよ」

 

つまり…どういう事だってばよ?この子達、朝5時からバレーボールやら戦車やらを今のこの時間まで練習しっぱなしって事?流石バレーボール部、体力モンスターにも程がある。いや、もうバレーボール部関係ないけど。

 

「まぁバレーの練習ならまだわかるけど、さっきは戦車訓練やってたな、この時間なら体育館も使えるだろうに」

 

もともとバレーボール部復活の為に戦車道を始めたメンバーだ、ならば優先すべきはバレーボールの方であるはずだろう。

 

「えっと…、それは」

 

「キャプテン、せっかくですし、比企谷さんに相談してみたらどうですか?」

 

「戦車に詳しいって話ですし、何かヒントが貰えるかもです」

 

「そうだな…、比企谷、私達は今八九式の成長訓練をしているんだ!!」

 

「…はぁ?」

 

八九式の…成長?改造とかじゃなくて?

 

「先日の練習試合、私達はBクィック作戦で相手戦車の背後をとった」

 

あぁ、あの立体駐車場を使った作戦の事言ってんのか、え?あれ本気で実行したの?半ば冗談で立てた作戦だったんだけど。

 

つーか成功したんだ…アレ、嘘だろ、聖グロリアーナの方々にも意外とポンコツな人居るんだな。

 

「相手の真後ろ、それも超至近距離からスパイクを決めた我々だったが…、根性が不足していて撃破に失敗してしまった、だからこその特訓だ!!」

 

うわー、マジかー、そんだけ条件揃っててもマチルダの装甲抜けなかったかー、うん、予想はなんとなくついてたけどさ、八九式だし。

 

「私達が強くなれば八九式の砲撃の威力も上がるよね!!」

 

「きっと強烈なアタックを決めれますよ~」

 

すいません、火力に関しては仕様です、諦めて下さい。

 

「そうだ!更には装甲も上がってスピードも上がれば前回の屈辱は必ず晴らせる!皆根性だ!!」

 

「「はい!!」」

 

すいません、装甲は相変わらず機関銃に貫かれかねませんし、スピードも最大25㎞がやっとです。

 

「とりあえず…、どんだけ訓練しても八九式のスペックは変わらんぞ、どう足掻いても対戦車戦には向かない」

 

「そんな!!」

 

いや、ゲームじゃないんだから、当たり前だろ、八九式はレベルが上がった、砲撃の威力が5上がった。とかそんなノリなの?だったら俺、レベルマックスに躊躇しないよ?

 

別に八九式が嫌な訳じゃない、むしろ好きだ、自分の名前も入ってるしな、あっ!八幡式中戦車とか良いんじゃない?強い(小並感)。

 

「だから言ったじゃないですか…キャプテン」

 

河西がため息混じりにそう呟く、うん、この子が一番常識人っぽいな。

 

「そんな…、じゃあ私達がどれだけ頑張っても八九式は強くならないって事ですか!?」

 

「私達の努力は無駄だったの…」

 

先ほどまでのスポ根はどこに言ったのか、バレーボール部の面々は暗い顔をする。

 

「皆!落ち込むな、火力がなくとも根性はある!!」

 

そんな落ち込むメンバーにキャプテンである磯辺が活を入れる、磯辺はキャプテンで二年ながらこの中でも一番身長が低いが、それでもこういう時はキャプテンなんだと思わせる。

 

「八九式に文句とか言わないんだな…」

 

「文句?どうしてですか?」

 

だってそりゃ…、人間、普通与えられたものが他人より劣っているなら文句の一つでも出るものだ。

 

こう言っちゃなんだが八九式は大洗最弱の戦車と言ってもいい、ただでさえ旧式の戦車が目立つのに、その中でも最弱だろう。

 

火力不足で装甲も脆く、速度も出ない。そんな戦車を与えられた彼女達バレーボール部から文句の一言も聞いた事はない。

 

「だって八九式も私達と同じチームメンバーですし」

 

「なんだかんだで愛着が沸いてますよ」

 

「バレーの練習にも付き合ってもらってます」

 

「八九式もバレー出来たらいいのになぁ、そしたら部員もあと一人だよ」

 

「そうか!その手があったか!!」

 

どの手だよ?ねーよ、つーかバレーの試合に八九式出したら俺が相手チームなら間違いなく棄権するね、あれ?八九式最強じゃね?

 

しかし…そうか、八九式もチームメンバー、ね。

 

彼女達の八九式に対する並々ならぬ愛着は正直言って嬉しい。思えば廃部を宣言されても今なお、バレーボール部復活の為に尽力する彼女達だ、その思いをスポ根の一言で片付けるには短すぎる。

 

「しかし…まぁ、あれだ、この訓練が無駄なんて事は一切ないだろ」

 

確かに、彼女達がどれだけ訓練をしても八九式のスペックが変わる事はない、魔改造とかすれば別かもしれんが。

 

「比企谷先輩…」

 

「だってお前らバレーボール部の連中は、操縦技術も装填スピードも射撃技術も、うちの戦車道の中でトップクラスだしな、西住率いるAチームにも負けてないと思うぞ」

 

「私達が…ですか?」

 

「あくまで普段の戦車道訓練をちょこちょこ見てた俺の感想だけどな、その錬度の高さはこうやって訓練する事で生まれてんだろ」

 

そう、戦車道訓練においての彼女達の錬度の急上昇は、こうやって訓練する事により生まれている。

 

誰かがこの世に無駄な努力など有りはしないと言った、別にこの言葉を肯定するつもりはない、世の中、努力が無駄になる事なんて多すぎるのだから。

 

相手にそれを否定されるのはまだいい、ただ、してきた努力を自分で否定するのはよくないと思う。

 

「でも…私達じゃ相手の戦車倒せません」

 

「佐々木、砲手のお前がそう思うのもわかる、だけどな、相手の撃破だけが戦車戦じゃないだろ?」

 

「えっと…、他に出来る事って…」

 

「偵察や囮に陽動、時にはフラッグ車を守る盾、攻撃以外にやることなんていくらでもあるだろ、どれもこれも技術があって出来る事だ」

 

「偵察や囮…、そっか、本格的な試合となると必要ですもんね」

 

「俺もバレーには詳しくないが、バレーだって全員がアタックする訳じゃないだろ?戦車道にもポジションはいろいろある、だから、自分達に合った役割をすればいいんじゃねぇの?」

 

とはいえ、うちの戦車でまともにアタッカーが勤まりそうなのはⅢ号突撃砲とⅣ号戦車くらいなもんだが。

 

「それに、撃破しなくても相手の戦車の戦力を削ぐやり方もあるしな、上手くいけばうちのⅣ号だって無力化出来る」

 

「そんな方法もあるのか!?教えてくれ、比企谷」

 

「あぁ、簡単な話だーーー。」

 

「なんか…比企谷先輩がすっごく悪い笑みを浮かべてる」

 

「いかにも何か企んでますよって感じ」

 

余計なお世話だ…、まぁ実際企んでますけどね、八九式が強いという事を証明してやろうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「んで、どうだ?こういうのはいけそうか?」

 

俺が考えていた事を伝えるとバレーボール部の皆さんは唖然としていた、んー、なんかデジャブだなと思ったら聖グロリアーナ戦で一年のチームに作戦説明した時と同じだこれ。

 

「えぇっと…、実際にやってみないとなんとも…」

 

八九式の操縦手である河西が一番動揺している、うん、だろうね。一番大変なのは君だから。

 

「でも、これって…なんというか」

 

「せこい?」

 

「そうそう、それ!!」

 

いや、普通に失礼だからね、それ。

 

「いいんだよ、せこくても立派な戦術だ、それにやるからには相当な技術がいるんだぞ?せこいの一言で片付けるな」

 

いや本当に、ぶっちゃけやる事は本当にせこい、俺が相手チームならヘタすりゃキレるレベルだ。

 

「今日は相談に乗ってくれてありがとう比企谷、いや、比企谷コーチ!おかげで八九式、バレーボール部復活にまた一歩近付いた!!」

 

「は?えと…、コーチ?」

 

磯辺がいきなり訳のわからない事を言って頭を下げてくる。

 

「比企谷は我がバレーボール部の戦車道コーチだ!!」

 

「コーチ!これからもご指導の方、よろしくお願いします!!」

 

「コーチッ!!」

 

しまった…、これが体育会系のノリだった、せっかく染まらないように気を使っていたのに。

 

つか、コーチって何よ?ナンバーワンをアタックする猪の熊コーチなの?サングラスとかかけた方がいいの?

 

「比企谷コーチ、私達はこれからもバレーと戦車道の両方を応用して根性で乗りきってみせるから、また指導をお願いします」

 

「お、おう…、頑張ってくれ」

 

「あと、バレー部の練習試合の相手探しもよろしく頼む、コーチ!!」

 

「「「お願いします!コーチ!!」」」

 

…え?ちょっと待って、それとこれとは全く関係なくない?

 

…やっぱり俺はこの熱血スポ根全開のノリの彼女達は苦手である、いや、マジで。


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