やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
もう頭の中でループしまくっててマジで勘弁して貰いたい。
倒れた五十鈴の母親をそのままにしておく訳にもいかず、俺達は新三郎さんと共に五十鈴の家に行く羽目になった。
しかしあれだわ、家というより屋敷と言った方がいい外観だな、まさに武家屋敷、やっぱり五十鈴ってお嬢様というよりお嬢だな。
ちなみに小町は先に帰らせた、修行はしたがはっきり言ってこの戦いにはついていけそうにない、というか受験生ですし、勉強なさい。
というかあの三つ目のゼットン戦士はついていける気だったんだろうか?あの時、大抵の読者はツッコミをいれたはずだ、お前もな!!と。
つー訳で俺もついていけそうにないんで自主的に帰ります、と言いたい所なんだけど。
「…すいません、私が口を滑らせたばかりに」
「いえ、私がちゃんと母に話してなかったがいけないんです」
…この雰囲気である、ぼっちの俺は空気は読むのもなるのも得意だが、この重い空気に口を挟むほどの精神力は持ち合わせていない。
「お嬢、奥様が目を覚まされました、お話があるそうです」
襖を開けて新三郎さんが入ってくる、五十鈴の母親もただ単純にショックだっただけで命がどうこうという訳ではなさそうだ。
「私、もう…戻らないと、お母様には申し訳ないけど」
「さしでがましいようですが、お嬢のお気持ち、ちゃんと奥様にお伝えた方がよろしいかと思います!!」
まぁ…そりゃそうだ、いくら学園艦が普段は海の上で、五十鈴が実家に帰る事が滅多にないとしても、このままにしておく訳にはいかないだろう。
「…わかりました、お母様と話をしてきます」
五十鈴は一人、部屋から出ると母親の所へと向かおうとする。
「華…、ちょっと待ってよ!」
「皆さんはここで待っていて下さい」
武部や西住の心配そうな顔に柔らかく微笑むと五十鈴はそのまま部屋から出ていった。
「五十鈴殿、大丈夫でしょうか…、まさか、このまま戦車道をやめたりとかは!?」
「えぇ!?そんな…」
「…私達に何か出来る事とかってないのかな?ね?八幡君」
西住達がそんな五十鈴の様子を心配してそんな話をしている。
「これは五十鈴の家の問題だ、人様の家の問題に口を挟むもんじゃないだろ、西住、お前だってわかってるはずだ」
西住だって戦車道の家元の娘だ、華道の家元の娘である五十鈴が華道ではなく戦車道を選んだ時点で、西住もこうなることは薄々わかってたはずだ。
「で、でも…」
「…それに、こうなる事が薄々わかってたのは五十鈴だって同じだろうしな、あいつならそこら辺、キチンと話をつけてくるだろ」
「…比企谷って、なんか華のこと信頼してるよね?」
「そうか?…まぁ、お前らよりは危なっかしくはないな」
「ちょっと!それってどういう意味なの!?」
どうもこうも、そのまんまの意味なんだが…。
あの気絶退場となった校内模擬戦を経て砲手になる決意をした彼女は、今日も西住の指揮があったとはいえマチルダを3両も撃破してみせた。
五十鈴 華は芯が強い、こと今回に限っては俺達がどうこうする事もなく、彼女ならば、母親と話をつけてくるだろう、余計な事はするべきではない。
「でも…心配だし、そうだ!偵察!偵察に行こう!!」
「あ、おい…」
五十鈴の後を追う武部達を思わず追いかけてしまった…、まいったな、ほっとけばよかったのに。
「どうしたの?華道が嫌になったの?」
「そんなことは…」
襖を少しだけ開けて中の様子を伺う、部屋の中では五十鈴とその母親がお互いに正座をして向き合っていた。
「じゃあ、なにか不満でも?」
「そうじゃないんです…」
「だったらどうして!!」
「私…、生けても生けても、何かが足りないような気がするんです」
「そんな事はないわ、あなたの花は可憐で清楚、五十鈴流そのものよ」
「でも…、私はもっと、力強い花が生けたいんです!!」
…それで戦車道か、五十鈴のやつ、前々からやたらとアクティブな事に積極的だとは思っていたが、彼女は彼女なりに自身の華道について考えていたのだろう。
根本的な所で彼女もまた、華道の家元の娘である事に変わりないのだ、母親にその思いが伝わっていなくとも。
「お母様、私…戦車道はやめません!!」
母親に対して、まっすぐに向き合ってそう宣言する、やっぱり何の心配もいらなかったじゃないか。
「あぁ、素直で優しいあなたはどこに行ったの?これも戦車道のせいなの?」
五十鈴の母親にとって戦車道は娘から華道を奪った憎むべき対象といったところか…。だが、五十鈴が華道も戦車道も続けるのなら、彼女ならいずれその二つを合わせた力強い花を生ける事だろう。
…これで解決だな、五十鈴と母親との間に多少の確執は残るだろうが五十鈴が華道をやめない限り、いずれはキチンと和解するだろう。
さて、帰るか。
「戦車なんて…、野蛮で不格好で、うるさいだけじゃない!!」
……………………………?
「戦車なんて…、みんな、鉄クズになってしまえばいいんだわ!!」
………………………………………………なん、だと?
「鉄くずッ!?」
「ちょっ!?ゆかりん、落ち着いて!!」
「優花里さん、今出てっちゃ駄目だよ!!」
「西住殿、武部殿、お二人共離して下さい!!」
鉄クズの一言に眉をピクリとさせた秋山を西住と武部が押さえ付けている。
「だ、だって今離したらゆかりん、華のお母さんに…」
「違います!私が止めようとしているのは比企谷殿です!!」
「八幡君…?あっ!!」
「しまったぁ!比企谷が居た!!」
ハハッ、おかしな事を言うなぁみんなして、俺が何かやらかすとか思ってんの?俺が今からやることはごくごく普通、当たり前の事だが?
襖を勢いよく開いて部屋に入る、五十鈴も、五十鈴の母親も急な乱入者に驚いた顔をしている。
「比企谷さん…?」
「…花なんて臭いし虫たかるし、邪魔なだけだろ、花なんて全部枯れてしまえばいいんじゃね?」
「…なっ!?急に出て来て、何ですかあなたは!!」
「えと…、比企谷 八幡さん、私達と一緒に戦車道を選択してます」
「また戦車道…、やっぱり戦車道なんてろくなものじゃないわ!!」
「戦車道?いや、今はそんなもんはどうでもいい」
「言い切った!比企谷の奴、言い切ったよ!!」
「あはは…」
や、別に戦車道に関してとやかく言われるのは構わない、俺だって好きじゃないんだし。
「それより戦車だ!戦車の発展が人類史にどんだけ影響与えたか知らないんですか?」
人によっては言うだろう、戦争を苛烈にした憎むべき兵器だと、それも間違ってはない。
だが、戦車がなければ、結局、人は人同士、生身で銃で撃ち合う戦争が続いていただけだ。戦車によって死んだ人間も当然居るだろうが、戦車があるから命の助かった者も必ず居る。
「それに比べて花?花がいったい何の役に立つよ?野菜に比べて食べられるもんでもないし、生産性もないし、あれですか?刺身に添えるくらいですか?」
「なっ…!あなた、五十鈴流家元の前で花を侮辱するのですか?」
「五十鈴流家元?ならあんたは戦車道家元の娘の前で戦車馬鹿にしてんだろ?」
「比企谷さん」
「五十鈴、お前は黙って…」
「比企谷さん!!」
「ッ…」
五十鈴が強い口調で俺の言葉を遮ってくる、彼女がこうまで強く物を言うのはあの生徒会室で西住を戦車道に入れる一悶着があった時以来だろうか。
「…西住さん、比企谷さん、秋山さん、先程のお母様の不躾な物言い、大変申し訳ありませんでした」
そして、五十鈴は正座を一度正すと俺達に向けて頭を下げた。
「そんな、私は別に…」
「頭を上げて下さい、五十鈴殿!!」
「いえ…、確かにお母様の発言は皆さんに対して余りにも非礼なものでした、母に変わり、謝罪します」
俺と秋山が戦車大好きなのは五十鈴も知ってるし、西住にいたっては戦車道の家元の娘だ。一度戦車道から逃げた西住が戦車についてどう思っているのか知らないが、五十鈴にとっては彼女もけじめをつけるべき相手なのだろう。
「…あれ?私は?」
武部は…、まぁ今はほっとこう、まず最低限、戦車の区別くらいはつくようになれ、話はそこからだ。
「…華さん」
五十鈴の母親も娘のその行動に驚いたのか、先程の勢いもなく静かに呟く。
「…悪かった、俺もちょっと冷静じゃなかった」
…くそ、面と向かってこんな事されたらもう怒るに怒れんだろうが。
「…頭を上げてくれ、すいません、言い過ぎました」
冷静に考えたら、華道の家元である五十鈴の母親の前で相当むちゃくちゃな事言ってた気がする。これ、新三郎さんの言うとおり、五十鈴流敵に回しちゃったんじゃないの?
「比企谷さん、ありがとうございます」
「あぁ、気にするな…、じゃあ俺は戻るから、すまんな、変な横槍入れて」
そんな事を考えながら少し恐怖を感じつつ、部屋から出ようとする。
「比企谷さん、待って下さい」
と、五十鈴に声をかけられた、え?まだ何かあるの?
「…どうした、五十鈴?ーーー、いえ、五十鈴さん?」
はて、何だろうと五十鈴に声をかけると、彼女は柔らかく微笑んでいた。うん、表情は柔らかいんだよ、表情は。
「比企谷さん、そこに座って下さい」
ただ、その雰囲気はどう見ても怒ってらっしゃる!!
「えーっと…、そこって?」
「正座です」
「…五十鈴さん?」
「正座です」
「…はい」
五十鈴の有無を言わさない態度に大人しくその場で正座をする。
「そこでは遠いです、もっとこちらへ」
「いや、俺はここが…、話ならここでも出来るし」
「駄目です、こちらへ」
「………」
五十鈴に指定された場所にすごすごと移動する、すぐ目の前に五十鈴と五十鈴の母親が居るので大変気まずいんだけど…。
つーか近いです、女子と面と向かってこの距離で向き合った事なんてないので、五十鈴の顔をまともに見れないんだけど。
「人と話す時は相手の目を見るものです!!」
「あっ…はい、すいません」
…勘弁してくれ、というか五十鈴さん、普段のおっとりお嬢様はどこに行ったの?
つーか普段から人と話す時は目を見てないんだけど…。
「さて、先程の比企谷さんのお言葉ですが、花なんて全部枯れてしまえばいい、ですか?」
「や…、それはなんというか、言葉のあやというか、勢いというか…」
「言葉のあや?勢い?そんな理由で花を侮辱したのですか?」
「いや…、そうじゃなくて、なんつーか…」
「はっきりなさい!それと目をそらさないで下さい!!」
「…すいません」
ふえぇ…、怖いよぉ。
「いいですか比企谷さん、お花というのはですね、私達の生活においてーーー」
そこから始まってしまった不肖、五十鈴 華先生による生け花講座。あの…、せめて正座を崩してもいいですか?
「足を崩さない!正座が乱れてますよ!!」
…駄目でした、これ?終わるまでこのままなの?というか終わるの?これ?
「…華さん」
「…?お母様、どうしました?」
俺と五十鈴のそんなやり取りをひとしきり黙って見ていた五十鈴の母親が声をかけてくる。
「どうやら…あなたの華道に対する気持ちは変わりないのね」
「お母様…、はい、戦車道を選んでも私の華道に対する気持ちは変わりません」
「あなたの手からは鉄と油の匂いを感じましたが、確かにお花の匂いも残ってました、日々、お花を生ける事は忘れていないようですね」
「はい、私…花が好きですから」
五十鈴の母親に、五十鈴はさも当然、とでもいうように柔らかく笑顔で返す、母親もまたそんな五十鈴の顔を見て何か決意した表情を見せた。
「わかりました…、華さん、あなたには家の敷居を跨ぐ事を禁じます」
「奥様ッ!それはーーー」
「新三郎はお黙り!!」
五十鈴母の言葉に新三郎さんが黙り込む、なんかあれだな、五十鈴流って基本的に男弱くない?というか五十鈴流の女が強いのか?
まぁ華道も基本的に女の伝統芸だし、その家元となれば当然か、なんか男は尻に敷かれそうだな…。
「…はい」
五十鈴もそこら辺は覚悟していたのだろう、母親の強い物言いも、動揺する事なく受け止めた。
「そしていつか、私が、そして…あなた自身が納得のいく花を生けた時、戻って来なさい、それまでは家の敷居を跨ぐ事は許しません」
「…お母様、それは」
「華さん、あなたの言う力強い花、楽しみに待っています」
「…はい!お母様!!」
五十鈴は母親に頭を下げる、…どうやら本当の意味で二人の確執もなくなったようだ。
「比企谷さん?誰が正座を崩してもいいと言いました?」
「あ…はい、すいません」
…せっかくこの良い雰囲気のまま然り気無く正座を崩したのに、あっさりバレた、つーか駄目なんですか?
「…あなた、比企谷さん、でしたね、名前は?」
「え?えと…八幡です」
答えた瞬間、しまったと思った。ここまで花を馬鹿にしまくった俺だし、五十鈴流のブラックリストみたいなのに載るかもしれん。
「そうですか、なら華さん、その時は比企谷さんもご一緒に連れて来なさい」
「…はい?」
「彼には華道に対する指導が必要のようですから、生け花、延いては五十鈴流の基礎からみっちり教える必要がありそうね」
「まぁ…、それは素晴らしい考えですね、お母様」
ちょっと君達何言ってんの?いつから俺が五十鈴流の門下生になったのよ?
そんなに花を侮辱したのが許せなかったのだろうか…、いや、俺も戦車を侮辱されて許せなかったけどさ。
「いや…、あの、お母さん、それはちょっと…」
「あなたにお母さんと言われる筋合いはありません!五十鈴流を基礎から学び、出直して来なさい!!」
えー…、だって俺、五十鈴の母親の名前知らないのに。
「では…お母様、私はもう行きます」
「…えぇ、帰りは新三郎に送らせるわ」
「お嬢ッ!!」
「笑いなさい、新三郎…、これは新しい門出なんだから、私、頑張るわ」
「はいっ!!」
やっぱり…、何の心配もいらなかったじゃないか。それだけ、五十鈴 華は芯が強い女の子なのだから。
「…華さん」
「…はい」
そんな五十鈴に向けて、西住が声をかける。
「私も…頑張る」
「…ふふっ」
西住もまた、戦車道の家元の娘である、今日の五十鈴の決意に彼女もまた、何か思うところがあるんだろう。
この先、西住が戦車道を続けるなら、当然自身の流派である西住流とぶつかる事もあるだろう。
その時までに西住がどのような答えを出すのかはわからないが、たぶん、きっと彼女なら答えを見つけるだろう。
ーーー
ーー
ー
「いつまでも待っています!お嬢様ぁ〜!!」
「顔は良いんだけどなぁ…」
辺りもすっかり暗くなってしまった、ってか!?日曜!日曜日が終わっちゃったよ!?
五十鈴の家に思ったより長居してしまったせいで大洗の学園艦の出航時間ギリギリになってしまった、新三郎さんが人力車出してくれなかったら間に合わなかったな。
なんだかんだ言ってやっぱり母親だ、娘には甘いものなんだろう、しかし小町を帰らせたのは正解だったな、ただでさえ五人も乗っていて狭いのに。
…そう、五人だ、この狭い人力車の中で女子四人と俺、しかも新三郎さんは勢いよく飛ばしてるのでめっちゃ揺れる。
揺れる度に横にいる西住と武部の身体、ヘタすれば胸とかに当たってしまいそうになる、落ち着け、こういう時は冷静に、そうだ!格言でも思い出したらどうだ?
どんな人力車の操縦をしようとも、我がぼっちの身体は一瞬たりとも女子に触れる事はありませんの、あっ…、駄目なフラグのやつだこれ。
「…遅い」
港に着くと冷泉の奴が若旦那のように格好いいポーズで迎えてくれた、さっさと学園艦に戻ってればよかったのにわざわざ待って居たとは、なんだかんだで良い奴だな…。
「夜は元気なんだから〜!!」
つーか朝の様子を見るとスロースターターにも程があるけどね、夜間の学校とか通えばいいんじゃないかな。
「出航ギリギリよ!!」
「す、すいません」
全員がキチンと戻って来ているのかをチェックしている風紀委員の園さんに謝り、学園艦に戻る。
「すまんなそど子」
「その名前で呼ばないで!!」
つーか冷泉の『そど子』呼びが違和感無くて『園さん』と呼ぶのに違和感がありすぎる、もうそど子さんでいいかな?怒られるだろうけど。
学園艦に帰ると俺達を待っていたのは一年チームの澤達だった。
「…みんな、どうしたの?」
「…西住隊長、戦車を放り出して逃げたりして、すいませんでした!!」
「「「「すいませんでした!!」」」」
困惑している西住達に一年達は頭を下げる、彼女達もこの練習試合を得て、少しは成長したのか。
「先輩達、格好良かったです!!」
「すぐ負けちゃうかと思ってたのに…」
「私達も、次は頑張ります!!」
「絶対頑張ります!!」
「みんな…、ううん、試合の最後、駆け付けて来てくれて嬉しかったよ、ありがとう」
「そうだね!だって皆があそこまで相手を追い詰めたんだよ!!充分スゴいじゃん!!」
「それは…比企谷先輩の作戦があって」
一年チームがチラリと俺の方を向く、いや、そこで俺に振られても。
「いや、まさか電柱やら人ん家の塀をぶっ壊すとは思わなかった、駄目だぞ、あんまり戦車道連盟に迷惑かけちゃ」
「…この人、私達に言ったこと全部なかったことにするつもりだ」
「悪いのは基本的に実行犯だ、いや〜、俺もまさか本当にやるとは思わなかったな」
「…なんか、さらりと自分は悪くない風にもってってるし」
ほら?会社とかでもよくあるじゃん、曖昧な指示して責任押し付けるやつ、それと同じだ、勉強になったろ、一年共。
「まっ…、でも、よくやった方だろ、あと、あんこう音頭、よかったぞ」
「それは言わないで下さい…」
…いや、本当に、来てくれてありがとうな。
「これから作戦は西住ちゃんに任せるよ」
そんな俺達と一年チームの話に会長率いる生徒会の面々が混ざってきた、小山さんは手に何やら大きめの箱を持っている。
「んで、これ」
小山さんの持つ箱の中にはティーカップと紅茶の茶葉、いわゆるティーセットが入っていた。
『今日はありがとう、あなたのお姉様との試合より、面白かったわ。また、公式戦で戦いましょう』
そんな文面の手紙も一緒に入っている。
「すごいです!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか、紅茶を送らないとか」
「そうなんだ」
つまりこれは、ダージリンさんが大洗をライバルだと認めた証拠、といったところか。
みんな喜んでるけど、これ、次戦うとなったら向こうも間違いなくガチで潰しに来るって事だからね?チャーチルやマチルダだけじゃなくてローズヒップ率いるクルセイダーの機動戦術とかもしてくるんだろうか。
んー…でもローズヒップだしなぁ、あいつ基本的にアホな娘っぽいし、なんとかなるか?
「昨日の敵は今日の友、ですね」
ちなみに基本的にぼっちには敵しか居ないので昨日の敵は今日も明日も明後日も永遠に敵ではあるが。
「あと、比企谷ちゃんにはこれー、河嶋」
「はっ!…まったく、なぜ私が比企谷の為に」
ガラガラとスーパーによくありそうな荷台を押して河嶋さんが持ってきてくれたのは…、おおっ!?
「マッ缶!!」
しかもダンボール一式、ひゃっほぉぉお!最高だぜぇ!!
「…何これ?」
「さぁ、紅茶と一緒に、比企谷ちゃん宛に送られてきたんだけど、こんなたくさんどーするのかねぇ?」
「こんだけあれば一週間はマッ缶分が補充できます」
「一週間しかもたないんだ、比企谷ちゃん」
「会長でいうところの干し芋みたいなもんです」
「あぁ、それなら納得」
納得しちゃうのかよ、俺も俺だがこの会長も会長だな、つーかこの人の場合はガチで四六時中干し芋食ってるし。
「わぁ…、マックスコーヒー、ねぇ、八幡君、私も少し貰っていいかな?」
「みぽりんが比企谷に毒されてる…、それ、そんなにおいしいの?」
「う〜ん、甘くて癖になる味、かな?」
「甘くて癖に…、私も貰うぞ、いいか?比企谷さん」
「西住殿がそこまで言う飲み物…、私もよろしいでしょうか?比企谷殿!!」
「…なんだか太っちゃいそう」
「なら沙織さんの分は私が頂きます」
「ちょっと待ってよ、あと華はなんで太らないの!?」
「いや、まだ一言もやるなんて言ってないだろ」
これは俺宛に届いたマッ缶なんだけど、君達にはティーセットがあるでしょ?砲火後ティータイムすれば良いでしょ?
「まっ…でもいいか、会長、これ、戦車道の受講者みんなに配ってもらっていいですか?」
「ほー、戦車道の"みんな"に、ねぇ?」
「…えぇ、"みんな"に、です」
やー…ほら、俺ぐらいのマッ缶マエストロになると布教にも努力は惜しまないのよ、これで大洗でマッ缶が売れまくれば将来的にマックスコーヒー大使とかになれるかもしれないじゃん?ないか、うん。ないな。
「んで、これが比企谷ちゃん宛の手紙だよ、中身は読んでないから安心してねー」
そりゃ当たり前だとツッコミを入れつつ、手紙を読む。
『楽しい試合をありがとう、今日の試合が終わった後のあなたの様子が気になったので、せめてもの感謝にマックスコーヒーをお贈ります』
…やっぱり見抜かれてたのか、ダージリンさんには悪いことをしたな。あと、マックスコーヒーとはわかってるじゃないですか。
『また公式戦で会えるのを楽しみにしてますわ、それとお茶会の日取りが決まったらまた連絡しますので、連絡先をここに記します』
手紙にはダージリンさんのものかわからないけど、連絡先の番号とメールのアドレスが書いてあった。
『最後に、聖グロリアーナでの執事の話、考えておいて下さいね』
…あの人もやっぱりブレないなぁ、まぁでも、ここまでされたらお茶会、断る訳にもいかないな。
あとで西住にでもこの連絡先のアドレスを登録してもらうよう頼んどくか、俺よくわかんねーし。
「公式戦は勝たないとねぇ」
「はい、次は勝ちたいです」
「…公式戦?」
マジか、武部、そんな事も知らなかったのかよ。
「戦車道の…全国大会です!!」