やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
最近ここに書く内容が思い付かない…、じゃあ書かなければ良いじゃんという話しなんですが寂しいじゃん。
波乱の練習試合が終わり、羞恥にまみれたあんこう音頭もようやく終わり、しかし日曜日は終わらないのだ。
この後は学園艦が出港する7時まで自由行動を頂けた、普段は海の上を進む学園艦、当然、こういった機会や燃料の補給等の時にしか生徒である俺達も陸には上がれないのである。
久しぶりの陸である、別段聖グロリアーナとの練習試合を見に来てない学園艦の生徒や住民も今日はそのほとんどが陸に降りている事だろう。
自由行動、という事はその名の通り、何をしても良いのだ。つまり、このまま学園艦に戻って家でごろごろするのもまた俺の自由である。
さて、本来ならせっかくなので久しぶりに大洗の本屋にでも寄ってその後家に帰って残りの休日ライフを堪能する所なのだが、今の俺は大洗駅前で可愛い女の子を待っているところだ。
ん?聞こえなかった?可愛い女の子を待っているところだ、大事な事なので二回言っておこう。
そんな事を考えているとちょうど前の方からその可愛い女の子がこちらに手をふりながら歩いてくるのが見えた。
「お兄ちゃん、待った?」
「おー、小町、すげぇ待ったぞ」
「もう、そこは嘘でも今来たところって言った方が小町的にポイント高いのに」
妹の小町である、嘘は何一つ言っていない。
「あれ?西住さん達は?一緒じゃないの?」
「は?何で?」
あんこう音頭が終了し、その熱気も冷めやまぬ中、俺はひっそりと退場させてもらった、これ以上あの場に居ようものならあの歌の歌い手が俺だと特定されてしまう可能性もあったし、んなもんバレたら俺の学園生活は破綻だ。
声でバレる?安心しろ、教室とかでも普段俺に話しかけるような奴は居ないから基本的に喋らない、丸一日一言も喋らなかった日は次の日、ちゃんと声が出せるか心配になるくらいだ。あれ?これってもう破綻してるようなもんじゃないか?
「…なんでって、あれー?おっかしぃなぁ…小町の読みではもうだいぶ良い感じになってると思ってたのに」
一人で首を傾げてぶつぶつと呟く小町、何がおかしい事があるというのか。
集団とは数多くのグループが集まった一つの集合体だ、その集合体の中にぼっちが一人混じっただけ、うん、今回の話はそれだけなのだ。
「人を呼び出しといて用がないってどうなの?ないなら俺は帰るぞ?」
「えー、だって小町的に西住さん達か、他の戦車道の人でも居ると思ってたのにー」
「はぁ?何で?」
「だって…お兄ちゃん、みんなとあんこう音頭やったじゃん、お兄ちゃんは歌だけだけど」
あー!あー!聞こえない!!つーか小町が来ること完全に忘れてたわ、アレを家族に見られるのは一番キツい…、なんで忘れてたの?俺。
「…何言ってるの小町ちゃん?オレ、シラナイ、ウタ、ウタッテナイ」
「小町がお兄ちゃんの声聞き間違える訳ないじゃん、一応は家族なんだし」
一応って…、ちょっと酷くない?お兄ちゃん的にポイント低いぞそれ。
「あれは…練習試合に負けた罰ゲームみたいなもんだ」
「そうだよ!あの試合、何で大洗の反則なの?なんか戦車道連盟の偉い人っぽい人が説明してくれたんだけどうやむやなままだったし」
「…え?」
…どうやら小町を含む観客の皆さんには戦犯である俺の事は伝えられていないらしい、まぁ試合の中心はⅣ号とチャーチルだったろうしな、カメラの映像に俺がやらかした場面は映ってないのだろう。
蝶野教官がなんとかうやむやにして誤魔化してくれたのだろう。突然の大洗の反則負けに会場は相当荒れただろうに。
おかげで俺の反則を知っているのは一部の人のみ、適当な人だと思ってたけど、知らない所で助けられていたのか…。
「…もしかしてお兄ちゃん、また何かやらかしたの?」
しかし、さすがに小町は鋭いな…、俺の事を心配そうに見るその目には僅かながら怒っている空気も感じられた。
「おい、またって何だよ、まるで俺がいつもやらかしてるみたいじゃねーか」
「やらかしてるでしょ…、お兄ちゃん、小町は家族だからもう諦めてるけど、他の人がお兄ちゃんのこと理解してると思わない方がいいよ」
「安心しろ、思ってないし、思われようともしてないから」
「だからそういうのが駄目なんだけど…」
「…用事がないなら俺はもう帰るぞ?」
「あ!ちょっと待って、じゃあちょっと小町に付き合ってよ」
これ以上この話を続けてもお互いに譲らないだろう、このまま続けても喧嘩になるだけなのは俺も小町もわかっている、伊達に長年兄妹をしている仲ではない。
「別に構わんが、小町も受験なんだしほどほどにしろよ」
「わかってるよ、じゃあお兄ちゃん、小町あれに乗りたいなぁって」
小町が指差すのは人力車だった、…はい?
「人力車?なんでまたそんなもんに…」
「お兄ちゃん、乗った事ある?」
「いや、ないけど…」
こういうのは観光客向けなので地元民は逆に乗る必要も機会もないのだ、俺も小町も当然乗った事はない。
「だから、小町、一回は乗ってみたいなぁって…、駄目?」
「まぁいいけど…」
「あれ?意外だね、お兄ちゃんならもっと渋ると思ったのに」
「歩くの面倒だし」
「このゴミぃちゃんは…、まっいいや、じゃあ決まり!すいませーん!乗せて下さーい」
「はい!ありがとうございます!!」
小町が人力車のあんちゃんに声をかけて二人して人力車に乗り込む。
「んで、ここからどうすんの?」
今更大洗の町の観光案内なんて必要ない、かと言って行くところも特にないし、帰るか。
「んー…、ちょっと待って、お兄さん、行ってほしい所があるんだけど」
「はい、どちらまで?」
人力車のあんちゃんは爽やかな笑顔で小町にそう返した、チッ…、爽やかイケメンかよ。
「えっと…、とりあえず走ってもらって、突き当たりを右です」
「? よくわかりませんが了解しました!!」
ぽちぽちと携帯を弄りながら始まった小町の案内で俺と小町を乗せた人力車が動き出す。
「何?ナビでも開いてるの?」
「んー…、みたいなものかな、あ!右に曲がったら次は信号を左です!!」
携帯を弄る小町…、なんか前にもこんな事あったような、それも最近、というか具体的にいうと今朝だけど。
…なんか嫌な予感。
ーーー
ーー
ー
「あ!来た来た、小町ちゃん久しぶりー!!」
「お久し振りです皆さん!小町試合見ましたよ!!すっごくドキドキしました!!」
うん…、完全にやられた、人力車の向かう先には西住や武部、五十鈴に秋山とお馴染みのⅣ号メンバーが居た、冷泉は居ないようだけどまたどこかで寝てるのだろうか?
「あはは…結局負けちゃったけどね」
「いえいえ、本当に惜しかったですよ、小町も調べたんですが相手、すごく強い所だったみたいじゃないですか、そんな相手をあそこまで追い詰めたんですから」
「小町ちゃん良い子だなぁ…、本当に比企谷の妹なの?」
「おい、それはどういう意味だ?」
会うなりハイタッチを交わす武部と小町、そしてⅣ号メンバーとわいわいと騒ぎ出す、ちょっと君達、いつの間にそこまで仲良くなったの?
つーか小町は単純に西住達に会いたかっただけかよ、一人で行けばいいのにわざわざ人力車まで使って、あれ?人力車のあんちゃんはどこ行った?
「お嬢!!」
人力車のあんちゃんは五十鈴を見かけると駆け寄って頭を下げだした。
「新三郎?」
「え?何それ聞いてないんだけど!!」
「うちに奉公に来ている新三郎です」
「皆さんはじめまして、お嬢のご学友ですか?」
奉公人…、あぁ、そういや五十鈴のうちは華道の家元だっていう話は前に聞いたな、奉公人まで居るとは思わなかったが。
「んで…兄さん?」
「…はい?」
西住や武部達とにこやかに接している新三郎さんが俺の方を睨むように見てくる、心なしか声にドスが効いてる気がするんですが?
「兄さんはお嬢のなんなんですか?まさかお嬢に手を出したりしてませんよね?」
「…は?いや、ちょっと言ってる意味がわかんないです」
なんか勘違いされてる…、つーか怖い、やっぱり五十鈴ってお嬢様っていうよりお嬢って家系だろ。ヤのつく人だろコレ。
「じゃあお嬢のお友達で?」
「いや、友達ではないですけど…」
「友達以上の関係ですと!?兄さん、五十鈴流を敵に回す覚悟がおありで?」
何でそうなるの、…勘弁してくれ、つーか五十鈴流を敵に回すとどうなるの?華道の家元とか言ってたし花を切るようにスパッと殺られるのかな、もしくは生花の剣山とかで刺されるとか、やだそれ普通に怖い。
もしくはお米を数トン単位で送り付けられて潰されたり、…米?はて、どっから米が出てきたんだ?
…つーか、この理論だと西住流を敵に回すと西住流戦車集団が攻めてくるんだろうか?もうそれ戦争ですよね?
将来西住と付き合う人、御愁傷様です。
「華さん」
と、新三郎さんとの会合に助けを求めていると今度は別の方から声をかけられた。
「お母様!!」
「奥様!連絡を頂ければこの新三郎、どこへでも迎えに行きましたのに!!」
「たまには歩いてみるのもいいものです、こうして華さんとも出会えたのですから、元気そうで良かったわ」
…五十鈴の母親か、確かに五十鈴に似ているな、見た目はもちろん、身に纏う雰囲気も。
「そちらの皆さんは?」
「同じクラスの武部さんと西住さん、それと比企谷さんと妹の小町さんです」
「「「こんにちは」」」
「…どもっす」
「私はクラスは違いますが、戦車道の授業でーーー」
「戦車道…?」
五十鈴の母親がその言葉に目を鋭くさせた。…もしかして五十鈴のやつ、家族に伝えてなかったのか?
華道の家元の五十鈴が選択授業で華道以外の、それも戦車道を選択した。あの時は西住の事でバタバタしてて考えてなかったが翌々考えてみると…それって結構大変な事じゃないか?
「はい、今日は戦車道の試合だったんですよ」
慌てて秋山を止めようとしたが遅かった、いや、とっくに手遅れなんだが。
「華さん、これはどういう事?」
「…お母様」
五十鈴の母親が五十鈴の手を取るとくんくんと匂いをかぐ。
「…鉄と油の匂い、あなたもしや、戦車道を?」
…え?今のでわかるの?俺とか五十鈴達と居てもそんな匂い全然感じないんだけど、いや、別にくんかくんかすーはーすーはーとかしてねーけど。
そういえば前に五十鈴も戦車の鉄と油の匂いを感じて戦車探しに役立ったらしい、五十鈴流の家元になるには敏感な嗅覚が必要なのだろうか?
「…はい」
「花を生ける繊細な手で戦車に触れるなんて…、あぁ」
よっぽどのショックだったのか、五十鈴母はその場で白目を向いて倒れてしまった。
…え?マジで?