やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
聖グロリアーナ戦の一年チームが不遇過ぎたんで活躍させてみたかったんです、まぁこれが後の成長には繋がるんですけどね。
「…やっぱ駄目か」
今の不意討ちで倒せたならベストではあったが流石はチャーチル、なんともないぜ!!装甲の厚さに定評があるだけはある。
だが、そんなチャーチルもついさっき西住達のⅣ号戦車と戦ったばかりだ、砲弾だって受けてるし消耗しているのはこちらから見ても充分にわかる程だった。
「M3リー、なんであれがここにあるんですの?確か崖の上で撃破されたはずですわ!!」
「違うな、乗員が全員逃げて放置されてただけで白旗は上がってなかった」
校内模擬戦で蝶野教官も言っていたが基本的に戦車から降りるのは自由だ、降りるのが自由なら当然また乗るのだって自由に決まっている。
まぁ、履帯が外れただけの38(t)をそのままにした事もそうだし、なんだかんだいって大洗の戦車道チームを甘く見ていたツケだな、おかげで彼女達一年チームもたっぷり準備する事が出来ただろう。
…しかし良かった、本当にちゃんと来てくれて。
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以下、回想。
市街地へ向かうⅣ号戦車、Ⅲ号突撃砲、八九式とそれを追う聖グロリアーナの戦車達を見送った俺はローズヒップにトイレと告げながら、目的はもう一つ、別の所にあった。
…まぁトイレもしたんだけどね、ローズヒップはこちらが溢さないように飲むと同時に「おかわりですわねー!!」とかいって紅茶カップいっぱいに注いでくるし、新手の拷問かと思ったわ。
「…いた」
ようやく見つけたのは砲撃の嵐に怯えてM3リーを放置して逃げ出した一年チームの面々だ、本能がそうさせたのか知らんが何故か木の上に全員登っていた、お陰で見つけにくかったぞ、おい。
「…あ、比企谷先輩だ」
一年の一人、山郷が俺に気付いたのか、それに反応して全員が俺に目を向ける。
「おっす…」
…んでアレか、誰も降りる気配ないのね?こっちとしてはあまり時間を取られたくない、このまま大洗が不利のままⅣ号とチャーチルが激突し、決着が着けば放置されたM3リーも自動的に敗北扱いにされる可能性もあるからだ。
「…とりあえず、お前ら、降りないか?パンツ見えるぞ」
あまり言いたくはないが、彼女達一年はスカートを履いてそのままに木に登ってる、見上げれば普通に見える、いやぁー、圧巻だわ。
「え?嘘ッ!?」
「比企谷先輩のエッチ!スケベ!ゾンビ!!」
慌てて木から降りてくる一年グループ、ちょっと、最後の何?エッチでスケベなゾンビってそこだけ聞くと怖くもなんともねーな。
「ちょっとみんな…、ちゃんと謝らないと駄目だよ、私達、戦車放り出して逃げちゃったんだよ」
澤が一年みんなにそう促してメンバーを整列させる、車長なだけあって一番しっかりとしてるな、そしてたぶん、一番苦労してそう。
「うぅ…、先輩、ごめんなさい!!」
「怖くて逃げちゃいました!ついでに言えば今も先輩がすっごい怖いんで逃げたいです!!」
「まぁ…、俺に謝っても仕方ないだろ、それに怖いのは当たり前だしな」
あとお前らちょっと正直過ぎない?
「…怖いのは当たり前ですか?」
「そりゃそうだ、まだ戦車に乗って半年も経ってないのにいきなり戦場に出りゃ怯えて当然だ」
涙を流さない生粋の戦闘マシーンとかならいざ知らず、彼女達にとって戦車はまだ乗り始めたばかりだ、相手の砲撃の嵐に怯えても不思議はない、校内の模擬戦じゃまともに撃ち合いする事もないまま撃破されてたしな。
「先輩も怖いんですか?」
「ん?んなもん超怖ぇに決まってんだろ?お前らと大富豪やってたあのクルセイダーの車長、砲撃の嵐の中を猛スピードで飛ばしやがるんだぞ?」
いや、本当に勘弁してもらいたい、またアレに乗らにゃならん事を考えると今から鳥肌もんだわ。
「そっか…、それで比企谷先輩のズボン濡れてるんだ」
「あの…、上手く言えませんがドンマイ♪です」
「いや、これは違うからね?なんでお前らちょっと一歩引いてんの?普通に傷付くから」
一年チームの距離が軒並み遠い、アレ?このままじゃ社会的に死にかねない?
「まっ…、西住だってそこら辺はわかってるだろうし、キチンと謝ればそこまで怒らんだろ、河嶋さんは知らんけど」
「…うん、怖かった、やっぱり強豪校って凄い」
「このままじゃ先輩達もすぐに負けちゃうよね…」
あぁ、なるほどなと納得した、一年チームの不安要素はそこにあるのか。
「…すぐに負ける?あの西住がか?冗談だろ、校内模擬戦でやられたの思い出してみろ、あいつの乗るⅣ号戦車に完勝食らったの忘れたか?」
確かに、戦況は不利も良いところだ、こちらは二両動けないまま、聖グロリアーナは五両健在で戦闘は続いている。
だが、俺は、そして同じく西住を相手にしていた一年チームだってわかってるはずだ、このまま簡単に試合が終わる訳がないと。
「じゃあ比企谷先輩は勝てると思ってんるんですか?」
「いや、このままなら負けるだろうな」
宇津木の言葉にあっさりとそう返す、そんな西住でも今回はちょっと条件が悪すぎるな。
「…駄目じゃん」
「やっぱ負けるんだよ…私達」
「まぁ落ち着け、あくまでそのままなら…だ、決戦の終わり際にちょろっと行って漁夫の利で相手倒して勝利の立役者になれるなら、こんなボロい商売はないと思わないか?」
過程はどうであれ、最後に活躍出来ればそいつは紛れもなくヒーローだ、民衆は過程よりも結果を好むものである。
「…え?それって私達が、ですか?」
「でも、私達のM3リーは…」
「それが綺麗さっぱり、そのまんま放置されてる、白旗ももちろん上がってない、いつでも乗れる」
「私達…、完全に相手にもされてなかったんだ」
大野の言葉にシュンとなる一年チームの面々、だが、俺からすれば彼女達がそこまで暗くなる理由がさっぱりわからない。
「え?何?相手にされてないとか最高じゃね?」
「えと…、どういう意味ですか?比企谷先輩」
「俺なんか基本的に教室でも誰にも相手にされないぼっちだからな、自由時間とか、誰かに束縛される事もないし、何でもやり放題だぞ」
「…なんでそんなに自慢気なんですか?」
や、だって実際自慢話だし、リア充とか常に誰かと一緒に居るような連中は結局の所、自由時間とかで一緒に行動してる分、束縛され、自由なんて無いも同義だ。
「試合は終盤、観客の目も、戦ってる奴らも、聖グロリアーナと大洗の決着に注目してる、今更M3リーが1両復活した所で、誰も見向きもしない」
だから…、だからこそだ。
「つまり今なら文字通り、なんでもやり放題なんだよ、罠を仕掛ける時間も充分にある、これを最高と言わずに何という?」
「…汚い、さすが比企谷先輩、汚い」
うん、今ので君達一年チームが俺の事をどう思ってるのかよーくわかったわ。
「それにほら?やられた先輩達の仇を後輩が討つ、って展開、燃えるだろ?」
「わかります比企谷先輩!超燃えます!最ッ高の展開です!!」
やはりアニメ、特撮好きの阪口が食い付いてきたか、信じてたわ。
「みんなやろう!私達が仇を討って、今は亡き先輩達の無念を晴らすんだよ!!」
…確かに俺は仇討ちっていったけど、別に死んだ訳じゃないからね?一応そこら辺、ちゃんとわかってる?
「…でも」
「うん、今更私達が行っても…」
阪口はやる気満々になってくれたようだが、他の一年チームはどうにもまだ踏ん切りがついていないようだ。
…不味いな、とにかく今は時間が無い、早い所M3リーに戦意がある所を見せないと本当に失格にされるぞ。
あと一押し…、なんかあれば良かったがさすがにこちらもこれ以上、説得に使えそうな材料は無い。
…ここまでか。
「………」
「…!?紗希、急にどうしたの?」
一年チームの一人、丸山 紗希が頷くと阪口の隣についた、つーかこの子、俺が話してる間もずっとあさっての方を向いてたし話聞いてないのかと思ってたけど。
「えと…丸山?」
「………」
…返事がない、え?無視されてるの?ついには下級生からも無視されるようになったの俺?
まぁ無視される事自体には慣れてるけどね、というか中学時代とか下手に手を出して来ない分、そっちのがよっぽどありがたいまであるわ。
「え?私達でやろうって…、紗希、やるの?」
「紗希ちゃん…、やる気満々なんだ」
「待て待て、お前らちょっと待て」
え?今丸山なんか言ってた?全然聞こえなかったんだけど、ひょっとしてテレパシーなの?
…そういえば戦車道の手伝いやらされてから丸山が喋ってるのって見たことないな、もしかして天使みたいな声してたりするのかしら?
「何ですか?比企谷先輩?」
「何ですか?って…、え?丸山何て言ってるの?」
「紗希は、私達で先輩達の応援に行こうって言ってるんですよ」
…頭が痛くなってきた、ひょっとして俺がおかしいんだろうか?
「紗希ちゃん…、よーし、やるぞー!!」
阪口も阪口で嬉しそうに丸山と手を繋いでおおはしゃぎしてるし…、丸山は相変わらず表情一つ変えてないし。
「…もう、二人がやるなら私もやるよ!!」
「うん、それに…M3リーが放置されたのも何か悔しいしね」
丸山と阪口に押されて他の一年メンバーも次々にやる気を出してくれた、うん…良かった、何だかスゴく腑に落ちないけど、うん。
「えと…、ありがとうな、丸山、お陰でみんなやる気になったわ」
「………」
…へんじがない、ただのまるやまのようだ。
やっぱり無視されてるよね?これ。
「あー!紗希ちゃん照れてる!!」
「良かったね、比企谷先輩に誉められて」
だから無表情だって…、ん?あれ?ちょっと微笑んではいるのか…あれは。
ーーー
ーー
ー
「…ってのが、今回の作戦なんだが」
さて、一年チームの面々がやる気になってくれたので、いよいよ今回の作戦について説明できた。
聞いていた一年メンバーの様子は一言で言えば唖然、うん、気持ちはわかるよ、自分でも突拍子のない作戦だとは思うわ。
「…それ、本当に大丈夫なんですか?」
澤が不安な顔で聞いてくるが無理もない、言い訳をするようだが、今回は前回の校内模擬戦のように作戦を練る時間もなかったし、こんな強引な作戦しか思いつかなかった。
かといって単純に西住達Ⅳ号戦車の応援に行っても、戦車経験がまだまだ未熟な彼女達が満足に戦えるとは思えんし。
「ぶっちゃけ相手次第だが、そこに関しては大丈夫だ、相手の隊長であるダージリンさんの事はローズヒップにある程度聞いておいた」
いや、本当にあの子、あれでいいのか?自慢気にダージリンさんについて話してくれたけど情報ガバガバだったよ?
「それで比企谷先輩、作戦名はなんですか?」
「…作戦名?そんなのいるか?」
「いや、だってなんかないと締まらないっていうかー」
んな事急に言われてもなぁ…。
「ちなみに西住はどんなのにしてたんだ?」
「えっと…こそこそ作戦、でした」
…西住らしいといえばらしいな、まぁこそこそ隠れてこそこそ戦ってたし。
「なら【先生の見えない所でこっそりいじめ作戦】は?隠れていろいろやるならそれっぽいだろ?」
「却下です!!」
「【ロッカーに閉じ込め作戦】」
「…なんでさっきから作戦名がネガティブなのばっかりなんですか?」
えー…、わかりやすくていいと思ったんだけどな。
うーんと本格的に悩み出す一年メンバー達、作戦名なんてなんでもいいだろうに。
「はいはーい!私、いいの思いつきました!!」
「はい、阪口」
「ウル○ラ作戦ーーー」
「それ以上は良くない」
特撮好きだとは言ってたけどそこら辺まで詳しいの?どう考えても年代違うよね?
あー…、でも、そういやそんな感じのクイズ番組あったな、今回の作戦もなんかそれっぽいし、ちょうどいいか。
「まるばつ作戦、とかでいいんじゃないか?」
「まるばつ作戦…、うん、可愛くて良いかも!!」
「わかりやすいし、そうしよう」
やれやれ…、やっと決まったか。
一年チームの士気は充分、作戦もキチンと決め、状況を考えれば下準備は簡単だ。
さて、ダージリンさん、電話で予告した通り、面白いものを見せてあげますよ。