やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
そんなこち亀がもう来週のジャンプに乗ってないのが信じられん、ここで書くような事じゃないけどお疲れ様でした!!
さて、次は聖グロリアーナとそれを誘いだす為に囮になっているⅣ号戦車だ。
「比企谷さん、マックスコーヒーのおかわりはいりますでございますか?」
「いや、マックスコーヒーはもういらん」
クルセイダーに乗り込むなり、ローズヒップがそう聞いてくる、さすがにいくらマックスコーヒー好きな俺でも、この暴走娘の指揮するクルセイダーでマックスコーヒーはもう勘弁だ。
「ではお紅茶ですわね!どうぞですわ!!」
「は?いや…、そういう意味じゃ」
こちらが否定するよりも早く、ローズヒップは紅茶カップ並々に紅茶を注いで渡してきた、表面張力の実験でもしてるの?この子は。
「では出発ですわよ!ガンガン行きますわよ!!」
「だから…飛ばす必要なんてどこにもーーッ!」
そして予想通り急発進で飛ばしていくクルセイダー、注がれた紅茶はまだ熱く、マックスコーヒーのようにイッキ飲みすら出来ない。
「熱ッ!」
紅茶をこぼさないよう、集中し、上手くバランスをとる、多少指に紅茶がかかるがなんとか今回は俺のズボンを死守出来そうだ。
「見えましたわ!!」
「え?もう?」
紅茶に気を取られているとローズヒップが声をかけてくる、いくらクルセイダーが機動力に優れてるとはいえどれだけ飛ばしてんだよ。
「砲撃飛んできますわよ!しっかりおつかまりになるとよろしいですわ!!」
「…は?」
砲弾がクルセイダーの近くに着弾し、戦車内が激しく揺れる、紅茶カップからこぼれた紅茶は再びズボンに直撃した。
「つーか!なんで砲撃がこっちに飛んでくるんだ!?」
ズボンの事はもう…最悪な状況だがそれよりもクルセイダーが砲撃を受けるってどういう事だ?観戦用で通ってるんだよね?
「流れ弾ですわ、向こうはもうドンパチやらかしてますわよ!!」
ドンパチって…、お嬢様の口から出てくる言葉じゃないよ、お嬢の口から出る言葉だよ。
「流れ弾…?」
外の様子を伺おうとクルセイダーの蓋を開けて顔を出す。
クルセイダーの真横をⅣ号戦車とそのⅣ号戦車から身を乗り出している西住が通っていった…、はい?
目の前を見る、聖グロリアーナのチャーチルと四両のマチルダがこちらに向かってくるのが見える、たぶん、ついさっきクルセイダーの真横を通っていったⅣ号戦車を撃破すべく、追いかけてるのだろう、砲撃しながら。
「…ローズヒップさん、なんで俺達、戦場のど真ん中に居るわけ?」
「比企谷さんのご注文通り!我が校、聖グロリアーナの観戦に来ていますのよ!!」
違う、そうじゃない、俺の知ってる観戦って安全な場所から見る事で、こんな砲弾飛び交う戦場のど真ん中に武器も無しに連れて来られるものではない。
「全速後退!さっさと逃げるぞ!!」
聖グロリアーナの戦車はこちらのクルセイダーなんぞお構いなしに撃ってきている、そりゃそうだ、邪魔してんのはこっちだし。
「ワガママですわね!ですがそんな殿方のワガママを叶えてこそ立派な聖グロリアーナ淑女ですわ!!」
いや、お前のせいだからね?
砲弾飛び交う戦場を、ローズヒップが的確に指示を飛ばし、駆け抜ける、こいつ、アホの娘だが、それでもクルセイダー部隊の隊長なだけはある。
…もし戦車道大会で相手にしたら結構面倒そうだな、今の内に腕前を見られて良かったのかもしれない。
クルセイダーの機動力とローズヒップの暴走力ですぐにⅣ号戦車に追い付いた、西住は相変わらずⅣ号戦車から半身乗り出した状態だ。
敵の砲弾飛び交う中、その表情には何一つ怯えがない、校内模擬戦の時もそうだったがこれが彼女の戦車に乗るスタイルなのだろう。
周囲の状況を確認するには最適であり、往年のドイツの戦車乗りを思わせるそのスタイルを西住は平気な顔をしてやってるが、これ、普通に危ないので良い子は真似しないのがベストだ。
一瞬、チラッと西住と目が合うがそこはお互いに修羅場中、特にコンタクトを取る事なく、俺達クルセイダーはⅣ号戦車を通りすぎ、大洗のキルゾーンへとさっさと向かう、どうせ目的地は同じだしな。
…と、クルセイダーがキルゾーンを通った瞬間だった、砲撃が再びクルセイダー目掛けて飛んできた。
今度は大洗学園のチームから、ちょっと、何やってんの?どいつもこいつもこのクルセイダーに付けられてる白旗見えないの?
いや、悪いのは戦場のど真ん中に居る俺らなんですけどね、囮作戦展開中なのになんでⅣ号戦車すら通ってないのに撃ってくるの?
「な!やりやがりましたわね!こちらも撃ち返しますわよ!比企谷さん、装填お願いしますわ!!」
「いやいや、ねーよ…」
観戦用のクルセイダーには砲弾すら搭載されていない、つーか俺、いつからクルセイダーの装填手になったの?
そんなこんなのやり取りをしているとようやくⅣ号戦車とそれを追う聖グロリアーナがキルゾーンにやってきた。
悲しきかな、大洗学園チームの皆さんは到着したⅣ号戦車にも砲撃を撃っている、囮をやらされてその報酬が砲弾とはいいジョークだわ、指揮は河嶋さんだろ、絶対。
ようやく大洗チームの砲撃がまともに聖グロリアーナの戦車を狙い始めるが、その撃ち方はとにかく乱射、バラバラもいいところだ。
簡単に例えるなら「うわぁっ!?来るなぁ、来るなぁ〜」とか言いながら乱射するようなもので、そんな砲撃が簡単に当たるはずもなく、聖グロリアーナの戦車は易々と砲撃をかわしながら大洗チームを囲んでいく。
前から思ってたけど河嶋さんってトリガーハッピーの素質あるよな、あ!意味がわかる人はわかるとおもうけどもちろん誉めてませんよ。
あっさりと大洗チームの包囲を完了した聖グロリアーナは砲撃を開始、もちろんこちらとは違い、キチンと狙いを付けての砲撃だ。
「いいですわ!相手チームの戦車なんてバッタバッタと薙ぎ倒すのでございますわ!!」
これには横にいるローズヒップも興奮気味でおおはしゃぎだ、うるさい、あと近い。
お互いに一つの蓋から身を乗り出して観戦しているので仕方ないのだが、もう少し大人しくしてもらわないと、その…、いろいろ当たっちゃうだろ。
そんで戦況はと言えば、砲撃を撃ちつつ後退していた38(t)は直撃こそないものの履帯が外れて走行不能。
砲撃の嵐に怯えたM3リーの一年グループはM3リーから降りて逃げ出す始末、いや…、この砲撃の嵐の中外に出て逃げ出す方が遥かに危険なんだけど。
「勝負ありましたわね!私達の勝利ですわ!!」
放置されたM3リーに履帯の外れた38(t)、これでこちらの動ける戦車は三両か…、西住、ここが決断所だぞ。
そう思っているとⅣ号戦車が崖から移動を始め、Bチーム、バレー部八九式とCチーム、歴女のⅢ号突撃砲がそれに続く、まぁ心配するまでもないか。
「な、逃げるんですの?どんなに逃げてもこのクルセイダーの機動力の前では無意味ですわ!!」
しかし、なんでこいつはこうも戦闘に参加する気満々の闘志剥き出しなの?体当たりとかやりそうで怖いんだけど。
まだ五両健在の聖グロリアーナはそのまま大洗チームを追い掛けていく、ここをこのまま放置するとは、ずいぶんと余裕かましてくれるな、38(t)は履帯さえ直せばまだ戦闘に参加出来るはずだ。
さて…、本番はどちらかと言えばここからだ。
「さぁ!早速私達も追いかけますわよ、私達聖グロリアーナの勝利をこの目で見届けるのですわ!!」
「…あー、ちょっとたんまな」
そういきり立つローズヒップを無視して俺は一度クルセイダーから降りた。
「な!どこに行きますの?」
「…トイレだトイレ、飲み物飲みすぎた」
…いやほんと、こぼれないようにつがれた飲み物そのまま飲みまくったせいでめっちゃ近い。
「トイレ…、こんな時に何悠長な事を、…は!?」
ローズヒップが何か言おうとして、急に言葉を止める、その視線は俺のズボンに集中されていた。
飲み物溢して濡れちゃったズボンである。
「あ…その、私、言って下さればキチンと対応しましたのに、その、申し訳ございませんわ!!」
先程の元気な姿はどこにやら、顔を真っ赤にして頭を下げてくる。
「ちょっと、漏らしてないからね?俺もう高校生だから、そこら辺ちゃんとわかってる?」
「ももももちろんですわ!この事は私の胸の中に閉まっておきますの!墓場まで持って行きますのでご安心なさいませですわ!!」
「いや、絶対勘違いしてるだろ…」
…まぁ、良いか、こちらとしてもあまり時間もないし。
ーーー
ーー
ー
「遅かったですわね!もしかして大きい方を嗜んでおられでございましたの?」
「おい、丁寧な言葉使えばそれで良いって訳じゃないからな、覚えとけよ」
場所を探すのに思いの外手間取ってしまったがようやくすっきりした。
「戦況はどうなった?」
ローズヒップには俺がここを離れている間、戦況を把握してくれるよう頼んである。
「残念ですわ!うちのマチルダが1両撃破されましたの!」
「おっ!マジか?」
西住と共に立てた作戦が上手いこと機能してくれたようだ、これで勝ちの目が少しは見えてくればいいけど。
「ですが私達の方は二両撃破しましたので、これでおあいこですわね!!」
「あいこでもなんでもねーよ、完全にこっちの負けじゃねーか!!」
チラリと38(t)のあった所を見るともうそこにはいない、どうやら履帯を直して西住達の応援に行ってくれたのだろう。
「うし…俺らも向かうぞ、場所は大洗市街地だ」
「あなたのおかげでずいぶんと遅れましたわよ、向かう途中で決着がついたらどうするんですの?」
抗議のするように不満気な顔をしてくるローズヒップ。
「間に合うだろ?お前のクルセイダーなら」
「ッ!当然ですわ!リミッターを外しましてよ!!」
ローズヒップは嬉しそうに頷くと指揮を飛ばす、やっぱりチョロい。
「さぁ!最終決戦ですわよ!!我ら聖グロリアーナの勝利をその目で確かめると良いですわ!!」
…悪いなローズヒップ、勝つのはうちだ。
ーーー
ーー
ー
場面は一転し、大洗の市街地に移る。
白旗を上げている38(t)とマチルダ、まさか…河嶋さんが相討ちで倒したのか?いや、ないか(確信)。
大洗の街中に砲撃の音が響く。
「この先ですわね?」
「今度は邪魔すんなよ…、大事な場面だからな」
「それくらいわかってますわ!またダージリン様に怒られますの!!」
また、って事はもう何回かやらかしてるって事じゃないか…、マジで勘弁してもらいたい。
砲撃のした所に向かっていくと白旗を上げている二両のマチルダ、そしてそのマチルダを強引に押し退け、チャーチルがⅣ号戦車の前に出てきた。
「マジですの!?うちのマチルダが全滅?」
「良かったな、最終決戦には間に合ったみたいだぞ」
いや、本当マジですの!?西住さん、あのあとマチルダ三両撃破したんですの?と思わずローズヒップの口調も移るものだ、西住もⅣ号戦車のメンバーもさすがの一言である。
となればあとは隊長同士の決戦か…。
Ⅳ号戦車は旋回しつつ、チャーチルと向き合う、一旦、路地に逃げるという選択肢もあっただろうが西住はここで決着をつけるつもりなのだろう。
Ⅳ号戦車はそのままチャーチルに向けて突撃した、単純な突撃?いや、西住に関してそれはないな。
Ⅳ号戦車は突撃のスピードをそのままにチャーチルの右側へと回り込み、砲塔も回転して同時にチャーチルを捉える。
だが、チャーチルの車長であるダージリンさんもどうやらそれを察知したのか、チャーチルの砲塔も回り込んだⅣ号戦車に狙いを定めた。
両車の砲撃はほぼ同時に起こり、煙が二両を包み込んだ。
「どど!どうなりましたの!!ダージリン様!!」
横のローズヒップがうるさい…、煙はすぐにはれ、Ⅳ号戦車とチャーチル、二両の戦車の姿が見えてくる。
白旗を上げているのは…Ⅳ号戦車だった。
「来ましたわー!!」
ローズヒップが拍手喝采、…やはり装甲の差が出たか。
聖グロリアーナはチャーチルが残る中、これでうちの戦車は全滅…か。
ーーー
ーー
ー
…そう思ってんだろ?ダージリンさん。
「ローズヒップ、無線を使わせてくれ」
「へ?無線は使用厳禁ですわよ?」
「いいから、早く」
「えと、どうぞ…、ですわ?」
ローズヒップから無線を受け取る、この無線は聖グロリアーナにも大洗の方にも繋がってるだろう。
「あー、テステス、ただいまマイクのテスト中、ダージリンさん、聞こえます?」
…どうやらまだ向こうさんの準備は整ってないらしい、ならばここは、ちょっとは時間稼ぎと足止めをしておくか。
あんこう音頭は絶対に嫌だからな、使える手札はなんでも使ってやる。
ーーー
ーー
ー
「…比企谷君?」
敵の隊長機、チャーチルとの一騎討ちに負けちゃった私達は走行不能になったⅣ号戦車の中で彼の無線が入ってきたのでびっくりしました。
「この声?比企谷…だよね、何してんだろ?」
「向こうの隊長さんに話しかけてるみたいですけど…」
私達Aチームのメンバーもみんな困惑してます、もう試合も終わったのに、なんの話があるんだろ?
「試合…終わったのか?」
「そうですね…、私達もやられちゃいましたので、残念ではありますがこれで大洗の戦車は全滅です」
戦車道の試合が始めての麻子さんに優花里さんが説明します。
「そうか、何も知らせがないんだな、もう出て良いんだろう?」
「…あれ?」
…まだ試合終了の放送が流れてない違和感に気付きます、普段なら私達のⅣ号戦車が白旗を上げた時点で流れるはずなのに。
「えと…みぽりん、どういう事?」
「…もしかして」
これが本当なら比企谷君、もしかしてあの後?
ーーー
ーー
ー
「ダージリン様、この無線、比企谷さんからですけど」
「…繋いでちょうだい、ペコ」
クルセイダーの無線は使用厳禁だと、あれほどローズヒップには注意しておいたのに、後でお仕置きが必要ね。
「はい、聞こえますわよ、比企谷さん」
恥ずかしいながら、少しイライラとしていて、棘のある口調になっていたかもしれませんわ。
Ⅳ号戦車に乗る大洗学園の隊長、彼女は間違いなく強敵で、この戦いはとても面白いものだったのだから。
だからこそ、この戦いに決着がついたというのに、勝利の余韻より先にそこに水をさして来た彼にイラついてしまいました。
『あー、えと、とりあえずおめでとうございます、さすが強豪校ッスね、勉強になります』
「ありがとう、それで…それを言うためにわざわざ無線を?無線は使用禁止だとローズヒップから言われたと思いますが?」
『あぁ、もちろん違いますよ、ちょっと伝えたい事があったんで』
「…何かしら?」
『こんな言葉を知ってますか?一度剣を抜いた以上は、息が絶えるまで、勝利を完全に手中に収めるまで、剣を捨ててはならぬ』
「チャーチルですね」
ペコがいつも私に言うようにそう答える、それくらいもちろんわかっていますの。
それよりも…今のあの言い方は、完全にこちらを挑発してますわね。
「ダージリン、ちょっと落ち着いた方がいいわ」
「…私は冷静ですわ、聖グロリアーナの戦車道は常に優雅であれ、ですのよ?」
「…眉がピクピクしてますよ」
「それで…、あなたは何が言いたいんですの?」
チャーチルの砲手であるアッサムにそう指摘され、冷静に心掛けて比企谷さんに返事を返す事にしますわ。
『いや、今回の試合のルール、覚えてます?』
「五両対五両の殲滅戦ルールでしょう?そちらの戦車は全滅、私達たちはチャーチルがまだ残ってますから比企谷さんには気の毒ですが、私達の勝ちのようですわね」
八九式とⅢ号突撃砲の破壊の連絡はもらいましたし、38(t)も私の前で白旗を上げたのを確認済み、Ⅳ号戦車は今しがた一騎討ちで仕留めた所。
「…?」
自分でそう言って違和感に気づきましたわ、…どうしてまだ試合終了の放送がならないのかしら、いや、それより。
「ッ!?まさか…」
いや…でも、あの子達は戦車を放置して逃げ出したはず、私達もそれは確認してーーー、ッ!!
チャーチルが激しく揺れる、考えられませんが、敵からの砲撃を受けて。
私の持っていた紅茶のカップが戦車の床に落ち、割れる、ですが…おかげでようやく、状況が飲み込めましたわ。
チャーチルから外を覗くと、そこにはあの時、乗員が全員逃げ出して放置されたM3リー。
「彼女達を呼び戻したのね?」
『いやぁ?何の事だか、罪悪感で自分から戻ったんじゃないですか?』
比企谷さんは口調こそ変わらないものの、無線越しでもその表情は何となくわかりますわ。
『でもほら、やられた先輩達の仇を後輩達が討つって展開、なんか燃えません?』
…良いですわ、元々あの場でM3リーを放置した私達に責任がありますし。
「宜しくてよ、ならばこちらも…、全力でお応えしますわ」