やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

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そういえば聖グロリアーナとサンダースってどっちのが強いんですかね?
そろそろ次話で練習試合始まると思うんで気長に待って下さい。


当然ながら、西住 みほは隊長になる。

「いいか!相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を生かした浸透強襲戦術を得意としている」

 

生徒会室に集めれた俺と西住、そして磯辺や澤のような各戦車の車長に向けて、広報の河嶋さんが説明をする、歴女チームだけは車長のエルヴィンではなく、カエサルだが。

 

浸透強襲戦術か、確か第一次世界大戦でドイツ軍側が用いた戦術を一般的にはそう呼ぶな。

 

「とにかく相手の戦車は硬い、主力のマチルダⅡに対し、こちらの攻撃は百メートル以内でないと通用しないと思え」

 

百メートル…とそれだけいえばじゃあ近付いて撃てば良いじゃん、という話になりそうだが、戦車同士での撃ち合いの最中に相手戦車の百メートル以内に入るというのは言うほど簡単な事ではない。

 

「そこで一両が囮となり、こちらが有利となるキルゾーンまで敵を誘い込み、高低差を利用して全員でこれを叩く!!」

 

ダンッと河嶋さんがホワイトボードを叩いた、そこには丘に書かれた4両の戦車と囮、相手側の戦車が書かれていた。

 

…なるほど、自信満々に言うだけの事はあって今回はキチンと考えてるみたいだ、また校内の模擬戦の時みたいにとにかく撃ちまくれとか言うかと思ったわ。

 

相手の戦車の種類や得意な戦術を説明する辺り、しっかりとそこら辺の下調べはやってくれたようだ。

 

他の車長達もおーっとかなるほど…と頷く中、西住の方は少し浮かない顔をしている。

 

「西住ちゃーん、どうかした?」

 

そんな西住の様子に会長も気付いていたのか、いつもの態度で声をかけた。

 

「あ、いえ…」

 

「いいから、言ってみ?」

 

言い淀む西住に会長は言葉を続けさせる、貴重な経験者からの意見だ、ここで普段の引っ込み思案な所を出させる訳にもいかないのだろう。

 

「聖グロリアーナは当然、こちらが囮を使ってくる事を想定すると思います、裏をかかれて、逆に包囲される可能性もあるかと…」

 

まぁ一両だけで現れたらそりゃあ囮だと思うわな、相手が経験豊富なら尚更だ、状況こそ違うが校内の模擬戦で俺がやった作戦と少し似ている。

 

…となれば逆包囲されれば最悪だぞ、丘の上で包囲なんかされようものなら逃げ道も無くなるし。

 

そんな西住の意見に他の車長達もうんうんと頷いてみせる。

 

「黙れ!私の作戦に口を挟むな!そんな事言うならお前が隊長をやれ!!」

 

そんで河嶋さんがキレ出した、なんつー理不尽な…、ちょっと沸点低すぎんよこの人。

 

「…すいません」

 

そしてそんな河島さんに押されてシュンとして顔を下に向ける西住、弱いな、おい。

 

…仕方ない、ちっとは援護してやるか、このままだと大洗学園戦車道チームは河嶋さんによるワンマン営業の後に幕を閉じてしまいそうだし、閉じちゃうのかよ…、閉じちゃうだろ。

 

「…ちょっといいッスか?」

 

「なんだ!比企谷!!貴様も意見があるのか!!」

 

うわっ、ちょっと手を上げただけなのにすげぇ怒鳴られた、取り扱い注意の爆発物かよ。

 

「いや、その作戦は…まぁ、いいとして、んで、その後はどうするんです?」

 

「…後?」

 

「いや、その作戦で相手の全滅はまず無理でしょ?相手の装甲が硬いなら尚更、撃破に成功したとしても一、二両程度、残った相手をその後どうするかですよ」

 

相手だって馬鹿ではない、それどころか強豪だ、すぐに退却か、それとも西住の言うように逆に包囲すべく動いてくる可能性もあるだろう。

 

「とにかくここで全滅させる!撃って撃って撃ちまくるのだ!!」

 

まるで成長していない…、安西先生が聞いたら悲しむこと間違いない。

 

作戦というのは一つのものを立ててはい終わり、というものでは無い、あらゆる不測の事態にもある程度対応出来てこそ、初めて作戦と呼べるのだ。

 

「えぇい!貴様等、人の作戦に意見ばかり!そんな事なら貴様達で考えろ!!」

 

「まぁまぁ…、でも、隊長は西住ちゃんが良いよね」

 

「…えぇ!?」

 

もう怒りでむちゃくちゃな事を言ってる河嶋さんをなだめながら、生徒会長は西住に笑顔でそう話した。

 

「西住ちゃんがうちのチームの指揮とってよ」

 

…普段何事にも適当なイメージのうちの生徒会長だが、こういうやり方はやはり上手いと思う。

 

皆が納得しつつあった河嶋さんの作戦に対し意見を求め、その意見により皆をキチンと納得させた上で西住を隊長に任命した。

 

パチパチと会長から始まった拍手が生徒会長室に集まった皆の拍手に変わる、うん?河嶋さん?やってないよもちろん。

 

この場で西住が隊長をやる事に不服のあるものは居ないだろう、うん?河嶋さん?知らんがな。

 

まぁこの人は会長の決定なら基本的に従うので問題無いといえば問題無いだろう。

 

「え、えと…?」

 

皆からの拍手を受けた西住はその顔を右に左にキョロキョロと、困惑している様子でその顔が俺の方で止まった。

 

あぁ…、そういや俺も拍手してなかったな、いや、ぼっちってこういうノリ苦手なんだよ、あと、一人に向けて大勢の人間が拍手すんのっていじめみたいじゃん、…違うか?違うな。

 

「どど、どうしよう…?比企谷君」

 

「いや、むしろ他に選択肢が無いだろ」

 

…少なくとも、このまま河嶋さんに大洗学園の戦車道チームの隊長として台頭されるほうが何倍も困ることがこの一連の会議を得て確信した、仕事とか超増やされそう。

 

「隊長は西住が適任だとは思うが…、やっぱ無理か?」

 

彼女としても、黒森峰で副隊長をやっていた時の出来事もある、そう安易に責任のある地位には就きたくないのだろうか。

 

「…ううん、私、頑張ってみる」

 

「んじゃ、西住ちゃんと比企谷ちゃん、作戦、ちゃーんと考えといてね」

 

「…西住はともかく、何で俺もなんですか?」

 

ようやく作戦会議が終わって家に帰れると思ったのに…、あったかホームに帰りたい。

 

「だって比企谷ちゃんも河嶋の作戦が不服なんでしょ?二人で良いの考えてよ」

 

…しまった、そういう事ならあそこで出しゃばらなければ良かった。

 

「頑張ってよー、勝ったら素晴らしい商品あげるから」

 

「えっ?何ですか」

 

あぁ、もうオチが読めたわ、西住もあんまり期待して聞かない方がいいぞ、これ。

 

「干し芋三日ぶーん!!」

 

…やはりというか、なんというか、大体三日分って、一日辺りの干し芋の摂取量ってどんなもんなの?十万円分食べるっていえばちゃんと三十万円分の干し芋くれるんだろうな、まぁ食わんけど。

 

「えと…、もし負けたら?」

 

あっ!馬鹿っ!!アホな事聞くんじゃない、蜂の巣だってつつかなけりゃ刺される事もないのに…。

 

「大納涼祭であんこう音頭踊ってもらおうかな」

 

なん…だと?

 

「西住!!」

 

すぐに西住の肩に手を置いて声を荒げた。

 

「え?えと…、き、急にどうしたの?比企谷君」

 

西住は突然の事に動揺しているのか顔を赤くしているがそんな事、知ったこっちゃない。

 

「死んでも勝つぞ!!」

 

あぁ…ついに恐れていた事態が起きてしまった、思えば会長、それは別の機会にでも、とか言ってたもんね、誰だよ練習試合の相手を強豪校にしたやつ、絶対目が腐ってるよそいつ。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「…ほれ」

 

他のメンバーが帰ってしまった中、俺と西住は生徒会室で机の上に地図を広げていた。

 

…信じられるか?本当にみんな帰ったんだぜ?俺と西住は残業の残業だ、深夜手当て余裕です。

 

だが今はそんな文句を言ってる暇もない、何しろあんこう音頭がかかっているのだ。

 

「え?比企谷君、これは?」

 

なので今回の作戦の要である西住にはより良い作戦立案を期待したい、となれば必然必要になるのは頭を活性化させる甘い物、糖分である。

 

「知らんのか?マックスコーヒーだ」

 

そして甘いものといえばこのマッ缶こと、マックスコーヒーである、俺はこのマッ缶を生徒会室の冷蔵庫に常備させてもらっている。

 

プルタブを開けて一口、…疲れた脳に暴力的な甘さが染み渡る、マッ缶は良いぞ。

 

「ありがとう、えと…お金」

 

「いらん、その代わり絶対に勝つぞ、西住!!」

 

「…比企谷君が今まで見たことないくらいやる気出してる、そんなにあんこう音頭ってあんまりな踊りなの?」

 

…そうか、西住はまだ大洗に来たばかりだから知らんのか、あんこう音頭の恐ろしさを。

 

「踊りも…まぁ、確かに勘弁だが、酷いのはあの衣装だな、女子は特にキツイ」

 

「…え?それって」

 

西住が何か言いかけてピタリとその言葉を止める、その顔は何かもう恥ずかしさで真っ赤だ、あんこう音頭がどんなのか知ってるのだろうか?

 

「もしかして…その、露出が凄く多い、えっちな衣装…とか?」

 

「…ぶっ!?」

 

思わず飲んでいたマッ缶を吹き出してしまいそうになった…、ちょっと何言い出すの、この子は。

 

「は?いやいや、安心しろ、露出はむしろまったくないくらいだ」

 

何しろ全身ピンク色のピッタリスーツである、エロいか…?とか聞かれたら人によるとしかいえんが…。

 

へ?俺?身体のラインがピッタリ出る全身スーツだぞ、言わせんな恥ずかしい。

 

「…なんだ、変な衣装じゃなくて良かった」

 

はたして実際のあんこう音頭の衣装を見た後の彼女も同じ事が言えるだろうか、無理だろうな。

 

「ともかく、俺は絶対に嫌だからな、そのマックスコーヒーはその為のおごりだ」

 

「うん、ありがとう、って、これ、すっごく甘い…」

 

「甘いものは脳を活性化させるからな、安心しろ、すぐに癖になる」

 

「その言い方ってへんな薬の宣伝みたいだよ…」

 

そう言って苦笑いをしながらも西住はマッ缶を飲む、そこそこには受け入れてもらえたようだ。

 

「そんで西住、河嶋さんの作戦、どう思う?」

 

「…うん、やっぱり相手側に読まれた時のリスクは高いと思う」

 

西住の意見は先程の作戦会議と同じく、あまり賛成的とは言えないようだ。

 

「だな、たぶん失敗する、それでも俺はやってみてもいいんじゃないかと思うぞ」

 

「えと…、それは?」

 

「まず一つ、たぶんやらないと河嶋さんが拗ねる、そうなると面倒臭い」

 

「…あはは」

 

いや、本当に子供か、とでも言いたくなるけど、まぁあれだけ自信満々だったしね。

 

「それに、本当に逆包囲されそうになったら西住の意見が正しかった証明になるだろ?西住の隊長としての信頼度も上がる」

 

「…私、隊長としてやってける自信ないなぁ」

 

「まぁ結果がついてまわるだろ、隊長の信頼度については…説明する必要もないか」

 

「…うん、それはお姉ちゃんを見ていてよくわかってるから」

 

黒森峰の西住姉か、名門たる黒森峰で絶対的な隊長として君臨する彼女の事を考えても、隊長の信頼度というのは大切だ、チーム全体の士気に関わるのだから。

 

「西住、お前なら逆包囲される前に気付くだろ?ほどほどになったら包囲される前に撤退だな」

 

「…問題はその後、どこで戦うかだけど」

 

戦車道の試合は戦車を用いてる事もあり、広大なフィールドで行われる、練習試合でもそれは同じだ。

 

「河嶋さんも言ってたが相手の戦車は硬い、真っ向から撃ち合ってもまず負けるな」

 

「開けた場所は駄目、となると…遭遇戦の方が都合が良いかな、なるべく死角の多い所で」

 

「あとこっちが有利な所は試合場所が大洗だって事だな、地の利に関してだけは向こうよりずっと上だ」

 

「こちらの地の利が生かせて、死角も多くて、遭遇戦が出来る場所…」

 

となれば、おのずと答えはもう出ているようなものだな。

 

「「大洗市街地」」

 

言い合って、お互いに少しおかしくなって笑ってしまった。

 

いや、実際のところ市街地で戦車乗り回して撃ち合いとか大丈夫なのかと思うけど、戦車道的にはアリらしいので問題無い。

 

その後は大洗の市街地を利用した各戦車チームのおおよその戦いかたを決めた。

 

「…でも、私、大洗の街はまだよく知らないなぁ」

 

あぁ、そういや西住は黒森峰から大洗学園の学園艦に越してきたばかりだしな、無理もないか。

 

「…そこら辺は武部達がなんとかするだろ、他のチームは元々地元だから問題はないだろ」

 

「うん、そうなんだけどね…」

 

あぁ、西住の奴、たぶん自分だけ大洗の街に詳しくないのが引っ掛かってるのか。

 

「まっ…、この試合が終われば後は自由なんだし、武部や五十鈴達と大洗観光に行ってくればいいだろ」

 

今回の試合は基本的に海の上を進む学園艦生活において陸地を観光出来る貴重な機会でもある。

 

「うん、えへへ…、友達と一緒にお買い物なんて楽しみ、良いボコグッズないかな」

 

ボコグッズは知らんが、試合前に西住のモチベーションが上がってくれて何よりだ。

 

「比企谷君も明日、一緒に頑張ろう!!」

 

「いや、だから俺は試合には出ないって」

 

「来てくれるだけで良いから…ね?」

 

上目遣いに懇願してくる西住、一昔前の俺ならば勘違いして今日の夜から明日の場所取りに行っていただろう。

 

だが、今の俺は違う、余計な勘違いはもうしないのだ、なのでここは魔法の言葉を使わせてもらおう。

 

「あぁ、行けたら行くわ」


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