やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
作中でも書いてますが校内模擬戦編が思ったより書いてて楽しかったのでまたいずれ八幡を戦車に乗せて試合させたいなーとは思ってます。
他のチームが増えてチーム分けも変えて、八幡があんこうチームの車長で西住殿が敵チームとかも面白そうですし。
まぁまだまだ全然構想段階ですが。
「んで…この後どーするんですか?」
走行不能になった戦車をこのまま置いておく訳にはいかないだろうし、もしかして引っ張ってこいとか言わないよね?
『撃破された戦車は後で回収班が回収するわ、とりあえずみんな、戻ってきてちょうだい』
「…徒歩でですか?俺も回収して欲しいんですけど」
『じゃあ待ってるわね、あんまり遅れないように』
人の話聞いてねぇ…、てかもしかして聞こえてて無視されてる?いじめ、駄目、絶対!!
「うだうだ文句言ってないでさっさと出ろ!!」
「もう…服もボロボロ」
河嶋さんの抗議の声が上がる、砲弾を受けた俺達は身体こそ戦車道仕様の装甲のおかげが対した事ないのだが、服装は何故かボロボロだ、そこ、深く考えない。
「はいはい…」
38(t)の蓋を開けるとちょうど西住達もⅣ号から出てくる所だった。
「あ、比企谷君」
西住達の方も俺達に気付いたのか駆け寄って来る。
「えと…、お疲れ様」
「お、おぅ…、お疲れさん」
本当に疲れた…、やっぱり慣れない事はするもんじゃないと実感する。
「えっへん!比企谷、私達の勝ちだよ!!」
武部がドヤ顔でピースしてきた、まぁいいんですけどね、実際負けたし。
「というか…比企谷殿!本当に戦車道初めてなんですか!!なんだかすごく手慣れてたっていうか…」
「初めてに決まってんだろ、戦車道は女子の武道だぞ」
「でも作戦とか比企谷殿が考えたんですよね?かなり危なかったですよ、私達」
「まぁ…、結果として負けてんだけどな」
結局、西住率いるAチームのⅣ号に3タテされる結果になった、ハットトリックの達成だ。
第一、今回俺が立てた作戦なんて戦車道には余り関係ないものばかりだし。
西住が経験者だというのを利用した待ち伏せも、最後のⅢ号を囮にした突撃も、ただ単に不意打ちを狙っただけの事。
肝心の戦車運営、例えば待ち伏せのポイントとか、各戦車の指示とか、お粗末だったと言うしかない。
つーか…、うん、河嶋さんの腕前をもっとしっかり把握するべきだったわ、あの場面と展開で外しちゃうかー、この人(2回目)。
「ううん、そんな事ないよ比企谷君、私も勉強になったから」
「勉強に…?俺相手に西住がか?」
「うん、最初の囮も、最後の突撃も、どちらもまともに決まってたら負けてたし」
「そんなもん…、どっちも初見殺しみたいなもんだ」
「それを見破られなかった私の負け…だよ」
…やっぱり、事戦車道においての西住は力強いな、本人は絶対否定するだろうが。
「まぁ世の中結果が全てだからな、今回は完全に初心者狩りされたわ」
「その言い方はいじわるかな…」
そう言うな、俺だってちょっとは悔しいのだ、自分にくらいそう言い訳しても良いだろ。
「…そういやスーパー五十鈴さんはどうした?」
「スーパー五十鈴さん?」
「あ…いや」
模擬戦の終盤、覚醒し、まるで人が変わったかのような 運転技術を見せてきた地球育ちの地球人、スーパー五十鈴さんである。
「あ!そうだ!比企谷、華が大変なんだよ!!」
「…あん?」
どーしたの?もしかしてもろもろすっ飛ばしてゴットにでもなっちゃった?
スーパー五十鈴さんゴットスーパー五十鈴さん、…言いづらいしもう良いや。
まぁさっきからその五十鈴の奴が居ないのだ、と思っているとⅣ号戦車からノロノロと一人出てくる、ようやく今回の模擬戦の立役者が出てきたか。
「駄目だ、起きない」
「…誰?」
戦車から出てきたのは…えと、どちら様でしたっけ?
「冷泉 麻子さんです、沙織さんの幼馴染で、えと…、比企谷君も今朝会ってると思うけど」
…あぁ、今朝の奴か、ん?なんでこいつがここに居るの?なんでⅣ号に乗ってんの?
「む…、今朝は世話になったな」
「お、おぅ…、つかここで何やってんの?戦車道の授業中だぞ」
「それはこちらの台詞だ、戦車道の授業になぜ男が居る?」
「麻子さん、この人は比企谷 八幡君、男の人だけど戦車道を手伝ってもらってるの、それで比企谷君、麻子さんは模擬戦に巻き込まれそうになったのをⅣ号に乗せたの」
…そういやこいつ、前も堂々と授業サボってここら辺で寝てたよな、完全に大物だわ。
「最後Ⅳ号を動かしてたのも麻子なんだよ!スゴいでしょ!!」
「えー…何それひどい、ルール無用のデスマッチかよ」
じゃあ何?完全飛び入り参加で戦車道全く関係ない奴がⅣ号動かしてたの?いくら校内模擬戦でもルール緩すぎない?
「まぁ比企谷殿が参加してる時点でルールも何もありませんがね」
「そりゃそうだわ…」
忘れてたわ、男の俺が参加してる方がよっぽど異質でしたね、てへっ。
「でも…うん、確かにそうかな…、比企谷君、今回は引き分け、だね」
「いや、別に西住が気にする事じゃないだろ」
「ううん、でも…次は負けないよ」
もし次があるのならばもうそれはボロボロにやられる未来しか見えないのですが…それは?今回の作戦なんか全部通じないだろうし。
「まぁ、次はないけどな、そもそも、俺は戦車道には出れないし」
当たり前だが、本来女子の武道である戦車道に男の俺が参加出来るはずがない、今回が特別なのだ。
「ん?別にそんな事はないでしょ、比企谷ちゃん」
「…会長?」
俺達の話を聞いていたのか、会長が口を挟んでくる。
「そりゃ公式戦は駄目でも、今日みたいに校内で模擬戦なら比企谷ちゃんも戦車乗れるじゃん、じゃんじゃんやるよー、そこんとこよろしく」
「………」
「………」
俺と西住がお互いに顔を見合わせて唖然とした顔をした、そういえばこの人はそういう人だ、基本的なルール、当たり前の常識なんか簡単に飛び越えてくる。
「あははっ、またよろしくね、比企谷君」
「…お手柔らかに」
俺も西住もお互いにどこか可笑しくなって笑ってしまった。
「ちょっとー!二人共、華の事忘れてるでしょ!!」
…あ、すっかり忘れてたわ。
「んで、五十鈴がどうしたって?」
「いいから比企谷、ちょっと来てよ!!」
武部が強引に俺の腕を引っ張ってⅣ号の所に連れて行く、いや、ちゃんと主語入れようね、あと、そうやってすぐ男子の身体に触らない、逆の立場だとすぐセクハラだーとかいうでしょ?君達は。
武部に連れられてⅣ号の中を覗くと五十鈴が気を失っていた、あぁ、それで操縦手を交代した訳ですか。
…んで、俺にどうしろと?いや、もう何となく展開は読めてますけどね。
ーーー
ーー
ー
「…どーしてこうなった?」
戦車倉庫への帰り道、気を失っている五十鈴をおんぶして森の道を歩くはめになった。
「華に変な事したら通報するからね!!」
「だったら…変わってくれ」
よく漫画とかじゃ軽い軽いとか言うが、当たり前だがそんな訳ない、女子とはいえ人一人、それも気を失っている人間を背負っているのだ、ある程度は重いに決まってる。
というかそれ以前に五十鈴の身体が柔らかくて力の入れ加減が全然わかりませぬ、思春期の男子高校生にはまるで毒みたいなものだ、身体に毒が回れば全身に力が入らなくなる、道理だね。
「だってこういうのは男の子の仕事じゃん」
そんな俺の苦しみを絶対にわかってないだろう、武部は簡単にそう言ってくれる、ちょっと男子に理想持ちすぎなんじゃないかこの子。
逆に訓練されたぼっちである俺は女子に対してはなんの理想も持っていない、何事も現実が全てである。
つまり、今背中にある感触は理想だ、決して現実ではなく、理想は手に届かない、と自分を律する。
「うぅ…ん、その生け方は違います…、!?」
なんとも珍妙なうめき声を上げた後、はっと気が付いた五十鈴が顔を上げた。
「…あれ、私?ひ、比企谷さん!?」
「気が付いたか?」
「ここは…、試合はどうなったんですか?」
「安心しろ、そっちの勝ちだから」
「…そうですか」
「あまり嬉しそうじゃないな?」
表情こそ見えないが、勝ったと言われたのに五十鈴から返ってくる返事はどこか元気がない、まぁ当然か。
「私、結局何も出来ませんでしたから…」
「まぁ、そうだな、冷泉…武部の幼馴染らしいが、後で操縦変わったそいつに比べたら操縦技術に差はあるな」
というか、後から聞いたがあれが冷泉の初戦車操縦だったらしい、マニュアルを読んだのよって何それ?どんなチートだよ。
「…ですよね」
「んで、それがどうした?たかだかくじ引きで決まったポジションだ、操縦は冷泉のが上手い、そんだけだろ」
いや、今回はちょっと相手が悪いんじゃないかって思いますがね、それでも所詮、今回のAチームのポジションは西住以外はくじ引きで決まったものである。
五十鈴はたまたま操縦手になったに過ぎないのだ。
「…なら、五十鈴にもっと適した役割があるんじゃねーの、知らんけど」
戦車は操縦手だけではない、車長や砲手、装填手、通信手と担当すべき事は多いのだ。
「私に適した役割…、それって何でしょうか?」
「いや、だから知らんけどって、つーかそういうのは俺が決める事じゃないからな」
他人に与えられる役割なんてだいたいは幻想だ、そういうものは自分で決めてこそ意味がある。
「そうですよね…、私、ずっと華道ばかりでしたから、戦車の事よくわからなくて」
華道か…、そういえば五十鈴の家は華道の家元だって言ってたな、やる事こそ違うけど西住と同じ立場みたいなもんか。
もし生徒会が戦車道じゃなくて華道にノリノリだったなら今頃は西住と立場が逆だったんだろうか…、なんかちょっと見てみたい気もする。
「華道ね、悪いが俺は生け花とかそこら辺はさっぱりだ、難しいのか?」
「難しい…というのはどうでしょう?幼い頃から一日に一回は花を生ける事がもう日課ですから、ただ、もちろん花を生ける時は集中しますが」
集中…、集中ね。
「なら、砲手とかどうだ?今日の秋山がやってたやつだ」
「砲手…ですか?」
「あぁ、相手に砲弾を命中させる、戦車の役割ん中じゃ一番集中力がいる所だ、逆説的にここに集中力のない人材を割り振ると悲惨だな、戦車自体の攻撃力がなくなるのも同義だ」
どこぞの生徒会広報の桃ちゃんが素晴らしい前例と経験を俺に作ってくれたのだ、自信をもってオススメしよう。
「まぁ決めるのは五十鈴だがな…、どうした?」
「いえ…、じつは私も砲手をやってみたいと思っていたので」
「なんだ、それなら話は速いじゃないか」
まぁそれは良いんだけど、なんでちょっと顔が赤いのだろうこの娘は。
「はい、その…今日の砲弾を撃った後のジンジンとした感じが気持ちよくて、忘れられないんです」
「…えーと、うん、そりゃいいんじゃないですか?」
非常に返答に困るので、人の背中の上でそんな意味深な言葉はやめていただきたい。
「はい、私…砲手をやってみます!!」
少し後ろを見る、五十鈴の表情を見るにもう心配はいらないだろう。
「っていうか五十鈴、さすがにもう歩けるだろ、いい加減降ろしていいか?」
「ふふっ、私…重いですか?」
「世の中に背負って軽いものなんてないんだよ、人とか責任とかな」
だから俺は絶対責任とか背負わないと心に誓おう、背中は軽い方がいいというものだ、うん。
「比企谷さん、そういう時は嘘でも軽いというものですよ」
五十鈴は軽く微笑むと、また俺の背中に身体を預けてきた。
全く降りる気がないのね…、そんなに歩きたくないの?俺もだよ。
…今更ながら、Ⅳ号戦車はまだ動くんだし、それに乗れば簡単に帰れたんじゃないかと気付いてしまった。