やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
八幡の誕生日話は書きたい書きたいと言いつつ毎年スルーしてる気がする、時期的にも夏休みど真ん中で本腰いれて書くならいろいろとキャラも絡ませやすいんですけどね。8月8日って…全国大会終わった後だよね?どうなんだろ…?
…某ジャンプ漫画が最悪な形で打ち切りくらってすげぇショック受けてます、いや、ここで書く事じゃないけど。
「…えと、すんません、聞き取れなかったんでもっかい言ってもらっていいですか?」
「だから、聖グロリアーナから比企谷ちゃんに来て欲しいってご指名だよ」
…そこは空気を読んで濁す所じゃないですかね?いや、もちろん最初から聞こえてましたけど。
「夏休みの終わりに聖グロリアーナとエキシビション試合を行う、我々の優勝記念も兼ねてだ」
「…はぁ、まぁそれは聞いてましたけど」
…夏休み?妙だな…、夏休みとか言われても全然休んだ記憶がないんだけど?俺の夏休み終わっちゃってるの?こっちはぼくの夏休みの続編ずっと待ってんだけど?
「それでね、聖グロリアーナからエキシビションの打ち合わせをしたいって連絡があったの」
「…それ、河嶋さんの仕事じゃないですか?」
仮にも…じゃなかった、普通に広報なんだから。今さらながら、生徒会に広報ってポジション自体必要なんだろうかというツッコミは置いといて。
「だが比企谷、そもそもの言い出しっぺはお前だろう?」
「…いや、まぁ、そっすね」
それを言われてはこちらも反論が出来ない。
『大洗が優勝した時には…そうね、試合をしましょうか?今度こそ、お互い全力のね』
『あぁ、それは良いですね』
プラウダ戦の前に俺とダージリンさんが交わした半ば冗談のようなやり取りは、エキシビションマッチと銘打って実現されようとしているという訳だ。
…てか、聖グロリアーナ側の仕事が思ったより早い。大洗が優勝してすぐこの話を進めてくるとか早すぎて俺の仕事が休まる暇がない。
「てか、わざわざ行かなくても打ち合わせならリモートで済ませられるんじゃないですか?」
「んー、なんでも男手が必要だって聞いたけど。いやー頼られてるね、比企谷ちゃん」
「男手って力仕事ですか?自慢じゃないですが俺、力そんなないですよ」
いや、戦車道の手伝いやり初めてから砲弾の準備やら後片付けやらなんやらでだいぶ筋肉こそついた気がするが、単純な力仕事ならそれこそ俺より適任がいる。
…具体的に言うなら、この前校庭の岩が邪魔だからって理由で持ち上げて動かしていたアリクイチームとかね。あいつらなんなの?力こそパワーなの?
「本当に自慢じゃないのよね…」
「ま、とにかくよろしくー」
バンバンと肩を叩かれる。仕事の振り方が段々雑になってきてない、この人達?
…まぁでも、確かに今回は発端、言い出しっぺは俺ではある。それに聖グロリアーナ女学院はお嬢様学校だ、力仕事は苦手なのだろう。
それに…そういえば聖グロリアーナは横浜が母港だったはずだ。横浜か、横浜となればあそこしかないよね!!
ーーー
ーー
ー
そんなこんなで聖グロリアーナにやって来た訳だが、まさかの開幕お茶会スタート…いや、なんとなく予想はしていましたけどね。
ダージリンさん、アッサムさん、オレンジペコと…えーと、あと知らない髪を三つ編みにした生徒だな。
この人達いつもお茶会してんな…。
「あなたとこうしてお茶を飲む機会は初めてね」
「え?いや…試合の度にお世話にはなってましたけど」
思えば毎試合この人達とはお茶を飲んでいた。試合会場とか毎回バラバラだったのに、よくわざわざ来てくれたものだ。そこまで暇だったのだろうか…?
「ふふ、こうしてゆっくりと、私達だけでお茶をする事がよ」
「…そうですね」
一回戦の時は黒森峰、二回戦はサンダース、準決勝は知波単と継続、決勝戦にはなんかもう様々な学園艦が来ていたな。
ダージリンさんと飲む機会といえばプラウダの学園艦に向かう時にやったぐらいだろうか。ん?あれ?そもそもあれってお茶会の為にプラウダに向かってなかったっけ?
「今日は私達、聖グロリアーナ流のおもてなしをさせていただきますわ。マックスコーヒーも良いものですが、紅茶も楽しんでね」
「すいません、いただきます」
郷に入っては郷に従え、という訳ではないがせっかくの申し出だ、今日くらいマックスコーヒーも自粛しておくか。
「とはいえあんまり紅茶って詳しくないんですよね…」
意外に思うかもしれないが、俺が大会の時に頑なに紅茶じゃなくてマックスコーヒーを頼んでいたのも、それが理由である。…本当ですよ?
普段飲み慣れていない紅茶の良し悪しなんてわからない分、わざわざ良い茶葉を使って貰うのも申し訳ないのだ。…いや、本当だからね?
「それなら、マックスさんの知っている紅茶をご用意しますよ」
オレンジペコがそう言ってくれるがそもそも種類がわからないのだ、俺の知る紅茶って午後に飲むティーだし。
「…そういえばダージリンさん達の名前って紅茶からとってるんですよね?」
「えぇ、代々受け継いだ伝統的な名前よ、ダージリンティーはご存知かしら?」
「名前くらいですが…」
さすがに俺もそれくらいは知っている。サイゼドリンクバー制覇の実績は伊達じゃない。
「私達の名前は全て紅茶が由来ですから、私のアッサムもその一つです」
となると…俺の知っている聖グロリアーナの人達=紅茶の種類となるのか。
ダージリン、アッサム、オレンジペコ、ローズヒップ…。え?こん中から選ぶの?なんか変な意味に捉えちゃいそう。
となると…あえてまったく知らない銘柄を選ぶのも手か。
「じゃあこのルクリリってのにーーー」
「わ、私か!?」
「…え?」
なんか声が上がったと思ったら知らない三つ編みの女子生徒だった。え?何?
「そういえば…紹介してなかったわね、彼女はルクリリよ」
「…そですか」
やべぇよ聖グロリアーナ、どこに地雷あるかわかんねーんだけど?
ルクリリと呼ばれた三つ編み女子生徒はなんか俺の事をじっと見ている…てか、睨まれている。
「大洗…あの八九式の居るチーム」
ついでになんかぶつぶつ呟いている。八九式ってバレー部の連中だよな?黒森峰といい、ちょくちょくヘイト稼いでるなあいつらも…。
「それでマックス、どの紅茶を選ぶのかしら?」
話が戻った…というより強制的に戻らされた。え?ルクリリ駄目なの?バットエンド選択肢だった?
だってほらダージリンさん、なんか目が笑ってないんだもん…。
「えーと、じゃあダージリン…、で」
…頼んどいて気付いたが、ダージリンさん達が居るのにその名前の紅茶を声に出すとかなんかむず痒いものがあるな。
「…え、えぇ、よろしくてよ」
だがそれはダージリンさんの方も同じだったのか、少し戸惑った返事が返ってくる。それを聞いてさらにむず痒い。
今さらだけど普段から紅茶を飲んでるのに紅茶のニックネームとかややこしくない?伝統らしいが聖グロリアーナの過去の生徒達は何考えてんの?
ダージリンを飲むダージリンさんとか段々とダージリンがゲシュタルト崩壊を起こしそう。
「どうぞマックスさん、ダージリンティーです」
とか考えているとオレンジペコがカップにダージリンティーをいれて持ってきてくれる。なるほど…混乱を避ける為にティーをつけるのね。
「ダージリンティーは紅茶の中でも特に香りを大切にしていますから、香りも楽しんで下さい」
オレンジペコからの補足説明を受けて嗅いでみると確かに、なんか独特な感じの香りがする。
「…どうかしら?」
「なんか…嗅いだことのない匂いというか…、俺の知ってるダージリンとはだいぶ違う気が…」
「ダージリンの茶葉はとても貴重ですから、紅茶が好きでもなければそう飲む機会は無いと思いますよ?」
えぇ…?じゃあサイゼに置いてあるあれ、そんな貴重だったの?さすがサイゼ、また一歩ファミレス界の頂点を進んじまったな。
「一般的なダージリンティーのほとんどは他の茶葉とブレンドされてますから、たぶんその事を言っているのでは?」
「えぇ…それ、詐欺じゃないっすか?」
「法律上でもダージリンと他の茶葉とのブレンドはダージリンティーとされるようですから、問題はないのでしょう」
アッサムさんの解説になんだか騙された気分になってしまう。とりあえずダージリンが混ざっていればダージリンティーになるって事なんだろうか…。
そう考えるとダージリン強すぎる…、誰とフュージョンしてもダージリンの名前不動とか、さすが聖グロリアーナの隊長の名前になるくらいではある。
「じゃあこれも他の茶葉とのブレンドですか」
ダージリンが高級品と聞いてしまって一般男子高校生として飲むのに躊躇してしまうが、それなら安心だ。
「まさか、あなたをもてなすのにそんな失礼な事、いたしませんわ」
だが、それを砕いてくれたのは他ならないダージリンさん本人だった。少し意地悪な表情で微笑みながら自分のカップに口をつける。
「純度100%のダージリン茶葉を使ったダージリンティーよ、あなたのお口に合えば良いのだけど」
ダージリン100%って…絶対狙って言ってるでしょこの人。イチゴ100%を狙ってるのかもしれないけど最近じゃアキラっぽい100%の芸人だって居ますからね?
「い、いただきます」
そんな事言われては、もったいなくてますます飲みにくいんだが…高級品な紅茶らしいし、冷ましてしまうのはもっともったいない。
飲むと口に広がるのはなんとも個性的な、複雑な味というか…少なくとも俺の知る他の茶葉とフュージョンされたダージリンティーとは違うものだった。
とはいえ、飲みにくい…という事はない、渋みもあるがそこまで気になるものでもない。
「どうかしら?ダージリンの味は?」
「そうですね…美味しい、と思いますよ、個性的ですけど好みな味ですし」
「ふふっ…そう、それなら良かったわ」
そう答えるとダージリンさんは少し頬を赤くする。
「…紅茶の話ですよね?」
「もちろんよ、あなたがダージリンが好みなのはね」
…だから紅茶の話ですよね!?聖グロリアーナ罠だらけじゃねぇか。
「サンドイッチも用意しているわ、紅茶とも合うのよ」
そうこうしている間にテーブルにサンドイッチの乗った皿が並べられる。
「今朝取れたばかりの新鮮なきゅうりを使ったものよ」
…そういえば聖グロリアーナってきゅうりの栽培してるんでしたっけ?あれ?なんか今ので一気にお嬢様度が下がったぞ。
うーん、しかしまいったな、俺個人としてもきゅうりが苦手なのもあるが問題はそこじゃなくて。
「すいません、あんまり食べると昼飯が…」
「あら?お昼ご飯なら心配しなくても用意がーーー」
「いや、それが…」
まいったな…あいつ、事前に説明しなかったのか?
どうしたものかと考えているとドタドタとなんか廊下を走る音が聞こえてくる。
かと思えばすぐに俺達の居る部屋のドアが勢いよく開いた。
「マックスさん!聖グロリアーナへようこそですわ!!」
ドアを開いたのは赤毛かかった髪が特徴的な女子…紹介するまでもなくローズヒップだ、…だよね知ってた。
「おー、よしよし…久しぶりだな、元気だったか?」
「もちろんでございます!私はいつも元気100倍ですわ!!」
うーん、この親戚で飼っている懐いてた犬に久しぶりにあった感じ。
「てかお前、ダージリンさん達に昼飯の事言ってなかったのか…」
「あっ、忘れてましたの!!」
相変わらずの暴走特急娘である、むしろこの場合信じていた俺がアホだったのか…。
「えーと、ローズヒップさん、なにかマックスさんと約束があるんですか?」
「はい!私、マックスさんとお昼ご飯を一緒に食べる約束でしたの!!」
ガタン…と何か音がしたかと思ったらダージリンさんがカップを溢して紅茶をテーブルにぶちまけていた。えー…なにこのデジャブ感。
「だ、大丈夫ですか!ダージリン様!?」
「…なんでもありませんわ、それでマックス、これはどういう事かしら?」
なんでローズヒップのやらかした事の説明を俺がしなくてはいけないのか?しなくてはいけないんだろうなぁ…。
「いや…ローズヒップに飯屋紹介して貰う話したら一緒に行くって聞かなくて」
「だってマックスさんお一人で食べるつもりなんてズルいですわ!!」
「お前はいつでも食えるだろうが…」
「ローズヒップにお店を?何か食べたいものがあるなら言って貰えたら私が調べましたけど」
いや、たぶんデータマニアなアッサムさんでもこのデータを持っているとは思えない。てか、思いたくない。本当やめてね、これ以上は聖グロリアーナのイメージを損なっちゃうから。
「…ラーメンっす」
「らーめん?」
聖グロリアーナの方々が目を丸くしている。おっと…そんじょそこらのラーメンと思わないで欲しい。
「いや、ただのラーメン店じゃなくて本場の横浜家系ラーメンが食べたくて…」
「よこはまいえけい?」
横浜家系ラーメンをご存知でない!?豚骨醤油ベースのスープに太麺、ホウレン草に海苔と味玉を乗っけた最強ソウルフードですぞ!!
なによりライスに最高に合う、ニンニク入りのスープを染み込ました海苔をライスに巻いて食べるのは最強、覚えて欲しい。
ごめん、やっぱ覚えなくていいから。…さすがの俺もこの人達が横浜家系ラーメン食ってるシーンは見たくない。
ダージリンさんに「麺硬め味濃いめ、ニンニクマシマシでお願いしますわ」とか言わせた日には聖グロリアーナの全生徒から袋叩きにでも合いかねないし…。
「…すんません、なんでもないです。ローズヒップ、飯行くのはなしだ」
「えー!なんででございますか!私、とっても楽しみでしたのに!!」
「なんででもだろ…」
逆にローズヒップが「麺硬め味濃いめ!ニンニクマシマシでお願いしますわー!!」とか言ってる姿は簡単に想像できるよね…うん。