やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
ドーンッ!!
という音と共に砲撃が着弾した、みたいな?
『西住隊長!敵戦車発見しました!!』
双眼鏡で周囲を見渡していたバレーボール部の車長、磯辺さんの報告に私達のⅣ号とバレーボール部の皆さんの八九式は一度、戦車を停車させました。
まだ向こうの戦車とはかなり距離があるので撃たれても当たる事はないでしょう。
「磯辺さん、向こうの先頭はどのチームですか?」
『えと…、それがEチーム、生徒会の38(t)だけです』
「生徒会チームだけ?他の戦車は?」
『…見当たりません』
「どういう事ですかね?西住殿」
元々三両で一気に攻めてくる事を考えてたので私達も戦車の中で相談しあいます。
「はぐれちゃったんじゃないの?」
「それはどうかな…」
確かにみんな、戦車には初めて乗っている人だけだしあり得ない話じゃないけど…。
『!? 敵戦車のアタック、来ます!!』
磯辺さんからの報告と共に砲撃音が響きます。
「わわっ!?撃ってきたよ!みぽりん!!」
「大丈夫、まだ当たる距離じゃないから、磯辺さん達も落ち着いて下さい」
それに着弾した後を見るとⅣ号とも八九式とも遠い、狙って撃ってないようなものでした。
「西住殿…、頼もしいです!!」
「どうしましょう?こちらから少し近付いてみます?」
「そうだね!相手が一両だけなら余裕だよ!生徒会チームをやっつけちゃおう!!」
操縦手の華さんの言葉に沙織さんが頷きますがどうにも嫌な予感がします。
「その前にこちらからも撃ってみましょう、優花里さん、お願いします」
「当てられますかね…」
「こっちもまだ簡単には当たる距離じゃないから、目的はどちらかというと威嚇です、相手の出方を見てみましょう」
「了解です!いきますよー!!」
優花里さんが頷いて砲撃を放ちます、砲撃にⅣ号が揺れ、久し振りの振動に少し懐かしくなりました。
「…すごい揺れ」
「なんだか…気持ちいい」
「くぅうっ!!感動です、みなぎってきますね!!」
「あはは…、磯辺さん、相手の38(t)はどうですか?」
パンツァーハイ状態の優花里さんはとりあえず置いといて…、私は磯辺さんに聞いてみます。
『一度後ろに下がりましたけど、また同じ場所に戻って来ました!!』
「私達を誘ってるんでしょうか?」
「比企谷の奴!女心がわかってないよ!女の子を誘う時はもっとスマートにしてもらわないと!!」
「誘われた事、あるんですか?」
「あるよ!そこのお嬢さん、今日は大根が安いよ!とか」
「えと…そうではなくてですね」
「うん、罠…かもしれない」
他の二両を待ち伏せさせておいて、私達が追いかけてきた所を狙う…かな?
「西住隊長、どうしますか?」
「落ち着いて、少し様子を見ましょう」
でも今日初めて戦車に乗った比企谷君がそこまで作戦を考えているのかな?
…でも比企谷君なら、なんとなくだけどやりそう。
『!? 敵戦車、もう一度アタックして来ます!!』
それに気になるのは砲撃してきている38(t)の着弾場所がⅣ号とも八九式とも遠い所に着弾している事です。
まるでどちらも狙っていないような、そんな撃ち方でした。
ーーー
ーー
ー
「あのー、河嶋さん?」
「ななな何だ!?」
「(どーせ当たらないんで)当てる必要はないとは言いましたが、もうちょっと狙ってる感じは出さないと」
「ううう五月蝿い!もうやっている!!」
え?もうやってたの?さっきから見当外れの場所にばっか着弾してるしわざとだと思ったわ。
あれ?ひょっとしてこの人砲手でヤバくね?
「西住ちゃん、攻めて来ないねー」
「…みたいですね、たぶんこっちを警戒してるんでしょう」
「これじゃあ比企谷君の作戦はーーー」
「えぇ、予想通りです、良かったです、今攻めて来られたら普通に負けてました」
ーーー以下回想。
「私達Cチームは待ち伏せか?」
「あぁ、Ⅲ号は元々車体が低いからな、森の中に上手いこと隠れれば相手の不意をつける」
俺は地図にある一つのポイントを指差す。
「ふむ、奇襲をかける訳だな」
「となれば狙うのはやはり、Ⅳ号戦車ぜよ」
「確かに仕留められるならⅣ号を狙ってもいいが、正直どっちでもいい、狙って失敗するよりも不意討ちを成功させるのが重要だからな」
下手に失敗してこちらの作戦が破綻するよりも、八九式でも仕留めれば後はⅣ号のみ、いくら経験者の西住が居ても三両でかかればなんとでもなる。
「問題はそこまでどう誘導するかだが…」
「比企谷先輩、私達はどうすれば?」
「Dチームは俺達Eチームと一緒にⅣ号と八九式をⅢ号の待ち伏せポイントまで誘導する、とはいえ普通に二両並んで相手に迫ったんじゃ向こうは移動なんてしない、下手すりゃ撃ち合いになり負ける」
「負けるの前提なんですね…」
え?負けるでしょ?三両対二両でもこうやって悩んでんだから。
「なのでここも不意討ちだ、DチームとEチームは各々別の地点から敵二両を追い込む」
「なんだか不意討ちばかりで姑息だな」
姑息とは失礼な…、立派な作戦ですよ作戦。
強い相手に正面からぶつかるなんて愚策もいいところだ、姑息上等、相手がいくら強かろうが不意さえとれればこちらが勝てる。
「なので一年のDチームは敵二両に気付かれないようにこっそりこのポイントまで移動してくれ、合図と共に飛び出して俺達Eチームと共に二両を追い込む、奇襲で混乱した状態なら応戦は考えないだろうしな」
敵二両を挟み撃ちにして逃げ道を一つにし、その先に待ち伏せさせたⅢ号を設置する形だ。
「しかし八幡、この作戦には一つ欠点があるぞ、我々やDチームが目標のポイントまで移動する時間をどう稼ぐ?」
「あ、そうか…、相手チームも動いてるもんね」
「あぁ、だから一両、つまり俺達Eチームが準備が整うまでⅣ号と八九式を足止めする」
「え?ちょっと比企谷君…、私達だけでⅣ号と八九式の相手をするの?」
小山さんが不安そうな顔で俺の事を見る、何この人、年上なのに可愛い。
「まさか…、撃ち合いだけが足止めじゃありませんよ」
「しかし、こちらが一両だけで居たら相手側は攻めてくるぜよ」
「まぁ何も考えない素人ならそうだろうな、だが西住は違う、経験者のあいつが何も考えずに攻めてくるはずがない」
ことさら西住流ともなれば尚更だ。
「先程言った、相手が経験者なのを利用する、ですか?」
「あぁ、だってこっちのチームは戦車が三両あるのに出てきたのは一両だけ、しかも撃ち合いには消極的、となればどうだ?」
「すごく…胡散臭いです」
「つまり、何かあるかも…って思わせればいい、相手が戦車道に携わってれば携わってるほど、迂闊な行動はしてこなくなる、時間稼ぎくらいならそれで充分だ」
「はぁ〜、なんかぺてん師みたいですね」
「比企谷先輩!素晴らしいぺてんの才能です」
ふふふ、もっと褒めてくれていいんだぜ?
以上、回想終了、あれ?よくよく考えたらまったく褒められてねーわ。
『Cチーム、目標地点に到達した』
『こちらDチーム、こっちもOKです』
C、Dチームからの無線に心の中でほっと一息いれる。
良かった、いつ攻めて来るんじゃないかってヒヤヒヤしてたわ。
…これが戦車道、か。
「うし…、なら作戦通りにいくぞ、Dチーム、準備はいいか?」
『大丈夫でーす』
「んじゃ…作戦開始!!」
悪いが西住、初手はもらったぞ。
ーーー
ーー
ー
「うわぁっ!?また撃ってきた!!」
「…今の砲撃は」
私達が対面している38(t)とはあきらかに違う、別の所からの砲撃に私は急いで周囲を確認します。
「M3リー…」
私達の背後、そこからDチームのM3リーが現れて私達に向かって進んで来ます。
『西住隊長!38(t)も動きだしました!!』
続けて前に居たEチームの38(t)も私達目掛けて前進してきます。
「嘘っ!?いつの間に!!」
「華さん!磯辺さん!落ち着いて一度撤退します!向こうにまだ道がありますから、そこに向かって下さい!!」
奇襲を受けてしまったこの状況ではまともに交戦なんて出来ないので、一度撤退して体勢を整えた方がいいでしょう。
『了解です!!』
「はい!!」
私達二両は残された一つの道に向かって戦車を走らせます、それを相手二両は砲撃しつつ、追いかけてきます。
…驚きました。M3リーが私達の後方から出てきた事もそうですが、一番は比企谷君が私達の足止めに使ったそのやり方です。
自分の乗る戦車をあっさりと囮に使ったその判断が、今日初めて戦車道を始めた人のものとは思えないからです。
そしてそれにまんまと引っ掛かっちゃった…、久し振りでちょっと勘が鈍ってるのかな。
私はⅣ号から顔を出したまま、追いかけて来る後ろの二両を確認します。
「…追いかけて来ているのはDチームとEチームの二両だけ」
…CチームのⅢ号が居ない。
相手二両の砲撃を確認しつつ、次は前方を確認します、前には木々が広がる森の中。
「…華さん!Bチームの皆さん、一度止まって下さい!!」
「え?でも…」
「止まったら撃たれちゃうよ!!」
「大丈夫、次の砲撃までまだ時間があるから、沙織さん、地図を見せて」
「え?う、うん!!」
沙織さんから地図を受けとるとすぐにこの周辺を確認します、この先は進めないと思います。
「…たぶん、この先にはCチームのⅢ号が待ち伏せしています、進路を右に!その先に広場があるのでそこで迎え撃ちましょう」
『了解です!コートチェンジですね!!』
先手は取られちゃったけど…、もう大丈夫、だと…思う。
ーーー
ーー
ー
「…西住ちゃん達、右に行っちゃったね」
「…みたいですね、すんません、あっさり看破されました」
つーかあっさりし過ぎでしょ、なんなのあの娘、ニュータイプなの?直感スキルEXなの?
あんだけ格好つけてもったいつけて作戦説明してたのに…、恥ずッ!!
「すまん、Cチーム、作戦がバレた」
『私達も合流するか?』
「いや…ちょっと待って、会長、地図見せて下さい」
「ん」
干し芋を食いながら地図を渡してくるというずいぶん雑な渡し方をされたが、ツッコむのも面倒だ。
「西住の狙いは…この先の広場か?だったら…」
ここでCチームの姿を晒すのはまだ早いと感じた、姿が見えないだけでも相手にはまだどこかに隠れている可能性があると思わせる事が出来るだろう。
「Cチームはこのままこっそりと広場に先回りしてくれ、たぶん、撃ち合いながらの俺達よりは早いはずだ」
『了解した』
「Dチームは俺達とこのままあの二両を追いかける、今度は相手も撃ってくるぞ、気を付けろ」
『ちょっと不安ですけど、なんとかやってみます!!』
二両に指示を飛ばし、ふぅと心に一息いれる。
「…なんですか?」
ふと、さっきから会長がニヤニヤしながらこっちを見ているのに気付いた、なんか腹立つ。
「いやぁ、比企谷ちゃん、やりたくないってわりにはイキイキしてるなーって」
「やらされてるんですよ…」
いや本当、俺、戦車道とか嫌いだから。
別に今だって、楽しいとか…そんなの…。