やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
貯めに貯めた持ってる石全部使ってピンポイントで出ないとは…。
其アプリの方じゃ雀女将も師匠もアンチエイジングの達人も来てくれたのに、ソシャゲのガチャって本当に片寄るねぇ。
「来たか」
黒森峰の本隊が市街地に到達、試合開始から始まった鬼ごっこもここが終着点だ。
大洗にとってもこれ以上逃げ回るつもりはない、ここで決着をつける。その為にマウスだってわざわざここで倒したのだ。
西住の乗るフラッグ車、Ⅳ号を黒森峰側も当然追いかけてくる。だが、ここはだだっ広い平原とは違い市街地だ。
狭い路地に入ってしまえば必然、大勢で追い回すといっても黒森峰側は縦一列になってしまう。
加えて、大洗は最後尾で八九式を蛇行運転させてフラッグ車の防衛に回らせている。これが黒森峰にとって相当邪魔になっているだろう。
「あれでは黒森峰側も簡単には撃てませんね」
「どういう意味ですか?ノンナさん」
「あの八九式を倒してしまえば道が塞がります。なかなか嫌らしい真似をしますね、比企谷さん」
「ルールに則ってるだけですよ」
そう、こっちは何も悪い事はしていない。黒森峰側が最後尾の八九式を撃破するのは簡単だろう。
だが撃破すればルール上、ある制限が黒森峰にも発生する。
【白旗の上がった戦車は攻撃してはいけない】
これが罠カードで、この狭い路地で八九式が白旗を上げれば、その時点で八九式は排除不可能な障害物になる。
当然、回収車に回収されるまでは路地を占拠する事になるので、縦一列で追いかけている黒森峰は立ち往生。上手く背後をつければ、その戦車がやられても白旗で黒森峰を完全に路地に足止めできる。
まぁそれがわかっているのか、先頭の現副隊長さんも八九式に攻撃するような真似はしないようだ。
とはいえいつまでも路地を逃げ回る訳にはいかない、こっちだって挟み撃ちを受ければアウトだ。
分かれ道を使って少しずつ大洗側も分散していく、追いかけてくる黒森峰も何両かはそれに引っ掛かって戦力を分散させた。
この分散作戦だが、先頭車には効果が高いが最後尾にはもちろん効果が薄い。しかも黒森峰の最後尾に備えるのはエレファント、そしてヤークトティーガーだ。
この高火力の2両に西住の乗るⅣ号を追いかけさせる訳にはいかない、後の作戦に影響が出てくる。
だから、この2両はここで仕留める…のがベストではある。
重戦車特有の高火力、そして強固な装甲、大洗にとってはマウスに次いで強敵であるこの2両に対し、
「!? あれは…」
「ラビッツ!!」
挑むはM3リー、ウサギチームの一年達だ。この機会を伺わせる為に伏兵として路地に隠れていた。
「これは…さすがにミスマッチなのでは」
オレンジペコの言う事も最もで、ほぼ奇襲同然で仕掛けた一撃もエレファントには大して効いていない。
だが挑発にはそれで充分だ、エレファントは狙いをM3リーに変更して追撃を始める。
「まるで練習試合の再来ね」
あぁ、そういえばあの時もこうやって路地を追いかけっこしてましたっけ。あの時はすいませんね、ほんと。
「まぁ…あの時とは違いますけどね、いろいろと」
そう、あの時とは違う。練習試合じゃ戦車戦が怖くて逃げ出してさえいたあいつらが。
まさか、自分達がその2両を相手すると言い出すとは思わなかったーーー。
ーーー
ーー
ー
「あっ!居た居た、おーい!比企谷せんぱーい!!」
「お疲れさまでーす」
「ん?あぁ…お疲れさん」
練習の片付けが終わり、ようやく帰れると思って自転車のハンドルに手をかけると一年共に声をかけられた。
「気ぃ付けて帰れよー」
声をかけられたので返事を返す、会話終了。じゃあのと自転車に乗り込むが何故かこいつら、俺を囲んでいる。
「えぇ…邪魔なんだけど?」
自転車を漕ぐにも漕げない、この隙の無いディフェンス力、まるでなでしこジャパンを思わせる。そのディフェンス力とコイツら一年共の名前に思わずサッカーでもやった方が良いんじゃね?と思ってしまう。
「待って下さい!てかあきらかに用があるから声かけたじゃないですか!今の!!」
「普通、そこで帰ろうとします?」
「帰ろうとするんだよなぁ…」
あきらかに用があるのを察したからさっさと行こうとしたんだが、こう囲まれると帰るに帰れない。
「で、何の用だよ?」
「まぁまぁ、ここではなんですから」
「ちょっと私達に付き合って欲しいな~、なーんて」
「その手の誘い文句で良かった試しが無いんだが…」
「え?比企谷先輩、そんな風に女の子に誘われた事あるんですか!?」
「なにそれ聞きたい!!」
なんでそんな驚かれているんだよ…、まぁ聞きたいなら聞かせてやろう。
「あれはクラスの女子のリコーダーが無くなった時の話なんだが。その放課後、クラスの女子共に『ちょっと付き合って』と言われた俺は…」
「あっ…もう良いですから、…ごめんなさい」
何を察して、そんでなんで謝られたの?あとそのちょっと憐れむような視線やめろ。
「さすが比企谷先輩…一筋縄ではいかない」
「みんな!大丈夫だよ、その為に事前に武部先輩にアドバイス貰ったんだから!!」
「そうそう、マニュアル通りに行けばなんとかなるって」
うん、まず俺に話しかけるのにマニュアルが必要な所からつっこんでおこうか。武部も何を吹き込んだんだよ…。
「そんな訳で比企谷先輩!これどーぞ!!」
阪口がにっこにこと差し出してきたのはマックスコーヒーだった。初手から物で釣ろうとする恐ろしさよ。
「いや、いらんし…つか怪しすぎるだろ…」
さすがにこんな見え見えな罠に引っ掛かる程アホではない。俺を動かせたいならダース単位で持ってこい!…結構簡単に動くんだよなぁ。
「えー!せっかくみんなでお金出しあって買ったんですよ!!」
「比企谷先輩のケチー!!」
「一人頭20円の出費でよくそんな事言えるなお前ら」
それで人一人働かさせようとするのだから…全く、ケチはどっちだ。
「どうしようか?」
「もう最終手段しかないよね~」
「うぅ、ちょっと恥ずかしいな…」
「こういう時は勢いだよ、梓!!」
円陣を組んでひそひそとなにやら作戦会議をしている一年共。よし、今のうちにさっさと行ってしまおう。
「………」
と思ったらいつの間にか背後を丸山にとられていた。恐るべし気配遮断力…こやつ、忍の者か!?
「………」
丸山はいつものように無表情だが服をひっぱりながらこちらをじーっと見つめている。なんなのこの威圧感、見てて吸い込まれそうになるんだけど。
「よーし!みんな、いくよ!!」
そんなやり取りを丸山としていると澤達も作戦会議が終わったのか、ズラリと横一列に並ぶ一年ズ。何するつもりだ?
「お兄ちゃん」
「お兄~ちゃん!!」
「お兄さん」
「おに~さん♪」
「お、お兄…ちゃん」
「………」
何を吹き込まれたか本当に知らんが…コイツらと、あと武部には説教が必要だな。
「あ、あれ?なんかダメっぽい?」
「ほら、やっぱりダメだったじゃない…」
「おっかしいな~、比企谷先輩にはこれが一番効果があるってアドバイス貰ったのに」
ある意味効果的で一番精神的に堪えたのは事実だけどな、こいつら俺をなんだと思ってるんだよ…。
「で、結局何がしたかったんだよお前ら」
「ほら、比企谷先輩ってシスコンじゃないですか?」
シスコンじゃないですかって、なんなのその断定?まずそこが前提なのおかしくない?
「だから私達も妹になればお願いを聞いて貰えるかなって」
「まず俺はシスコンじゃねぇし、あと小町以外がそう易々と俺の妹になれると思うなよ」
小町の完璧妹ポジションは揺るがないのだ。以前はちょっと危なかった事もあったかもしれんが、そこは脳内姉住さんという特効薬も出来て無事解決した。
そもそも一気に妹が六人増えてみろ、作画崩壊待ったなしだ。
「やっぱりシスコンじゃないですか…」
だから違うからね?あと、俺が本当にシスコンだったら危険だからな、そこら辺もうちょい気を付けなさいと。
「はぁ…もう行くぞ?」
いい加減、このやり取りにも疲れてきたので自転車を引っ張りながら歩き出す。
「えぇ!?いっちゃうの!?」
「可愛い後輩の頼みなんですよ!!」
「自分でよく可愛いとか言えるな…」
呆れながら答えるとカラカラと自転車を引っ張りながら歩き、立ち止まって後ろを振り向いた。
「…何してんだ?」
「え?」
ぼーっと突っ立っている一年共に声をかける。声をかけられた一年共はよくわかってないのか首を傾げていた。
「何か用があんだろ。場所、移動するんじゃなかったのか?」
学校の周辺で長々とこんなやり取りを繰り広げるのは勘弁して欲しい。下級生の女子数人に囲まれてる上級生男子の図とかなにそれいじめなの?
「比企谷先輩って…」
「本当にめんどくさいよね」
ほっとけ…。そもそも用事を聞かないとは一言も言っていない、勝手に勘違いしてたコイツらが悪いのだ。
「用がないなら帰るぞ…」
「あ、待って下さい!!」
後ろから追いかけてくる一年共を待ち、歩幅を合わせながら自転車を引っ張る。
「んで、どこ行くんだよ?」
「せっかくですし、どこかでお茶とかどうですかぁ?」
横からひょいっと顔を出してきたのは宇津木だ、相変わらずのこのあざとさ加減である。
「私ラーメン食べたい!比企谷先輩にオススメのお店があるんですよ!!」
「こんな時間にラーメンって…太らない?」
阪口の奨めるラーメン屋については気になるが、7人でいきなり入れる店なんてそうないだろう。
「比企谷先輩はどこが良いですか?」
「どこって言ってもな…」
こういう時真っ先に思い付くのは若者達の強い味方であるサイゼだが…下級生女子6人と一緒のテーブルにつくとか…うん、無理だな。
じゃあどこならテーブルにつけるかと聞かれると…うん、まぁ無理だよね。
「えー!いつも戦車道の訓練で使ってる訓練場じゃないですか!!」
「別に話をするだけならどこでもいいだろ…」
無理なので片付けも終えた訓練場に入る。ここなら人目もそこまで気にしないでいいだろう。
「ここだとお茶が飲めないですよー!」
「そうだそうだー!!」
ぶーぶーと文句を垂れる一年共、いつの間にかお茶が目当てになってないか…。
「近くに自動販売機があるし、だいたいマッ缶があるだろ」
「でも…これ、比企谷先輩のだから」
おぉ…、意外だが一度拒否した物をまたプレゼントしてくれる気があるらしい。
なら仕方ない、ここは遠慮なく受け取ってやるかとマッ缶を貰う。
「じゃあ私達の分は…」
「そこの自動販売機で比企谷先輩におごって貰おう!!」
「いや…なんでだよ?」
「私達が比企谷先輩に奢ったんだから、比企谷先輩も私達に奢るって事で」
「すごーいあや!頭良い~!!」
なんかものすっごい頭の悪い計画を自信満々に見せられた気がする…。
一人当たり20円の出費で結果的にジュース奢って貰う気とか、うちの一年強かすぎんだろ、将来が末恐ろしい。
「はぁ…、何か飲むか?」
「え?本当に良いんですか!?」
「…俺は養われる気はあるが施しを受けるつもりはないからな」
…何が恐ろしいかって、可愛い後輩の為に思わず言う事聞いてあげたくなるような気にさせるのが恐ろしいんだよなぁ。
ガコンッ。
ガコンッ。
ガコンッ。
ガコンッ。
ガコンッ。
ガコンッ。
自動販売機で6人分のジュースを購入。営業も接客もする必要がなく、顧客の方から勝手にやって来て商品を購入してくれる自動販売機のシステムは素晴らしい。
生まれ変わるなら自動販売機になりたい。もちろんつめた~いもあったか~いも全品マックスコーヒー!…撤去という悲しい結末まで予想は出来そうだが。
「んで、話ってなんだよ?」
それを一年共に配る。結果的に俺、一番温くなったマッ缶飲んでるんだけどどういう事なの?
「はい!私達、決勝戦に向けて作戦を考えてきたんです!!」
…予想はしてたが。まぁ、だからこうやってジュースを奢ってやったんだが…戦車道関連か。
それも決勝戦に向けて作戦を考えてきたと。
「…それ、俺に言うより西住に直接話せばよくねぇか?」
企業の間に入ってる中間業者じゃないんだからさ…作戦の提案なら隊長の西住に直接言えば話はもっとスムーズだろ。
「だって比企谷先輩に拒否されるレベルの作戦が西住隊長に採用されるとは思いませんし…」
「うん、まず比企谷先輩をクリアしてからって話になって」
「人の事予選会場みたいに言うの止めてくんない?んで、作戦はどんなのだ?」
「はい、名付けて…【戦略大作戦】!!」
「…うん、だいたい作戦の内容わかったわ。あとお前らの見た映画も」
良かったよなー、あれ。そう思うとまた見たくなってきた、家に帰ったら見よう。
「えぇ!なんでわかるんですかー!!」
「ひょっとして比企谷先輩、ストーカーなんじゃ…」
「なんでだよ…作戦名がもうネタバレってか答えだろ」
決勝戦、市街地の狭い路地を決戦の地にするのはコイツらも知ってる事だし、それを踏まえてあの映画を見たならやる事はだいたいわかった。
影響されちゃったのね、まぁ気持ちはわかるけどちょっと簡単に影響されすぎじゃない?
「えーと…じゃあやっぱりダメーーー」
「まぁ、やってみたら良いんじゃないか?」
「え?良いんですか!?」
「あぁ、もちろん西住がダメって言わなきゃだけどな」
まぁ西住の事だし、たぶんその点は心配ないだろう。
こういう単純なやり方は案外盲点というか、意外と黒森峰相手にも効果的な気がする。向こうもまさか映画を参考にして来るとか思わんだろうし。
それになにより、一年生達が自分達だけで考えた作戦だ、そこは一番に尊重されるべきだろう。
「あとは西住隊長に合格を貰うだけだね!!」
「せっかくなら強い戦車を倒したいよね、重戦車ってやつ」
「目指せ、重戦車キラ~♪」
「よーし!やるぞぉー!!」
わいわいと盛り上がる一年生、気合いは充分だし、これなら心配はいらないか。
「ところで比企谷先輩、重戦車ってどんなのですかー?」
「…お前らな」
気合いは充分だし作戦は尊重されるべきだとは思うんだが…。うん、正直不安だ、大丈夫かこいつらで?