やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】   作:ボッチボール

142 / 205
あんこう祭りとかきっと大洗がすごい事になるんだろうな…、是非とも一度は行ってみたいと思う今日この頃。


この状況でも、比企谷八幡にとってはフェアではない。

「相手との試合開始地点は離れているので、すぐには遭遇しないはずです」

 

それは試合前、作戦会議中での話だ。

 

俺のエイエイオー羞恥プレイが終わっても会議は続くのだ、今は西住が机に試合会場の地図を広げている。

 

「そんな訳で、黒森峰が来る前にさっさと高地に陣取っちまおうって訳だ」

 

幸いな事に大洗と黒森峰のスタート地点は離れている、黒森峰は重戦車が多い事を考えると目標の高台には先に辿り着けそうだ。

 

「どうして山に登るんですかー?」

 

「たぶんあれだよ、ことわざにあった」

 

「なんとかと比企谷先輩は高い所が好きってやつ?」

 

おい、絶対わかってて言ってるだろ一年共。

 

「世の中の仕組みと同じだ。下の奴が上の奴を攻めるより、上の奴が下の奴を攻める方が圧倒的に楽だろ?」

 

「あの、その例えだと比企谷さんにしかわからないような…」

 

え?みんなわからないの?あ、ちょっと待って、よく考えたら俺も上から攻めた事ないしわかんないや、一緒だね!!

 

「…単純に砲撃にしても上からの方が狙いはつけやすいだろ、しかも山頂に陣取れば登ってくる相手を狙い撃ちできる」

 

付け加えるなら、下から相手を狙うってのはなかなかに難しい、角度の調整とかいろいろ複雑な計算がいるからね。

 

今までの試合の撃破数を見てもわかると思うが、戦車戦で相手の戦車を撃破するのって難しいのだ。行進間射撃ならまず当たらないと言っていい。

 

ノンナさんやナオミなんかは連続撃破していたが、アレは彼女達がダンガンをロンパっぽく撃ち出せる超高校級のスナイパーだからだ。

 

「世の中、登ってくる奴が狙い撃ちされるなんて良くある事だからな、気にせずやれ」

 

「また変な例え話してるし…」

 

「なるほど…バレーでも身長が高い方がアタックが有利ですもんね」

 

あぁ、バレーで例えるならわかりやすいか。わりとうちのバレー部(元)って高身長なんだよな、キャプテンの磯辺は除くけど。

 

「ふむ、つまり山頂に要塞を構えると…」

 

「一夜城の築城だな、任せておけ!!」

 

歴女グループは相変わらずやる気満々のようだが…大丈夫だろうか?

 

「………」

 

と、そこで誰かから服をクイッと引っ張られた。この感じ、前もどこかでと思ったが…案の定丸山だった。

 

「なんだ丸山か…どうした?」

 

「………」

 

そしてこの無言である。というかこの子、作戦会議中ずっと明後日の方角見てたんだけど、ちゃんと作戦わかってるよね?

 

だがそんな丸山がスッと人差し指を地図に置いたのだ、そこは黒森峰のスタート地点近くにある森である。

 

「………」

 

そして丸山はコクッと頷く。あぁ…なるほど、そういう事ね。つまりよくわからん。

 

「沙希がこの森から黒森峰が来たらどうするんですかって聞いてまーす」

 

そんな困惑する俺に山郷が通訳をくれる、てか聞いてたの?今の一連の動作で?

 

確かにスタート地点こそ大洗と黒森峰は離れているが、それはあくまで平原の話だ。森の中をショートカットされては一気に追い付かれてしまう可能性はある。

 

黒森峰の持つドイツ重戦車は足回りが弱い事を前提条件に考えていたので、相手が無理して森の中を突っ切ってくる展開は予想していなかった。

 

「…西住、どう見る?」

 

「うん、可能性はあると思う」

 

…西住がそう予想を立てるなら用心に越した事はないか。

 

「うーん、そうなると案外簡単に追い付かれちゃうかも」

 

「ポルシェティーガーだと山を登るのにも時間がかかるしね」

 

自動車部の人達の言うことも尤もだ。ならば山頂に陣取る作戦を捨てて最初から市街地に向かうか?となれば答えはノーである。

 

とにかく、まずは一両でも多く相手の戦力を削ぐ事が大事だ。その為にもこの作戦は外せない。

 

「だったら…これを使うしかないな」

 

作戦会議に使っている教室の隅にあらかじめ置いておいた段ボール箱を持ち上げ、机の上に置いた。

 

「あぁ、比企谷ちゃん、これって…アレだよね?」

 

「えぇ、義援金の余りで買った煙幕弾です」

 

一回戦、サンダース戦でバレー部アヒルチームが見せた発煙筒による簡易煙幕作戦は、アリサやナオミを相手に存分に効果を発揮した。

 

発煙筒による簡易的な煙幕でもあの効果だ、煙幕弾…それもこれだけの量があれば相手の足止めには充分だろう。

 

「森から黒森峰が来たらこいつで煙幕を張る」

 

「煙幕って…なんかセコくない?」

 

「うんうん、考えたの絶対比企谷先輩だよ」

 

だから一年共、ひそひそ話はせめて聞こえないようにやりなさい、そもそもだ。

 

「…言われてるぞ?比企谷先輩」

 

「あぅ…」

 

隣でこのセコい作戦の立案者である西住殿ががっくりしてますから、これ以上は止めたげて。

 

「え?これ西住隊長の案だったんですか!?」

 

「すごい!さすが西住隊長です!!」

 

手のひら返しもここまで清々しいといっそ気持ち良いな…。

 

「やっぱり…変、かな?黒森峰じゃこんな作戦考えた事もなかったし」

 

「そりゃ西住流の戦い方とは違うだろうな」

 

つーか黒森峰なんて戦力整えすぎてんだから、そもそも煙幕とか必要無いレベルだったんでしょうが。

 

「まぁでも…良いんじゃねーの?西住には西住の戦い方があるんだしな」

 

確かに最初煙幕弾の話を聞いた時は意外に思ったが、西住流という型にはまらない柔軟な思考は彼女らしいとも思える。

 

「私の…戦い方、うん、私達の戦い方で勝とう」

 

「…達はどっから出てきたんだよ」

 

「みんなからだよ」

 

「そ、そうか…」

 

「うん」

 

まったく。こういう恥ずかしい事をさらっと言っちゃうんだよなー、この子は。

 

「この煙幕によるモクモクしちょる作戦を【俺のズボンがアイス食っちまった】作戦と…」

 

「えと…作戦名は【もくもく作戦】です、皆さんよろしくお願いします」

 

バッサリ切られた!ちょっとー西住さん、せめて最後まで聞いてくれないかな?

 

「煙幕は各チームに配るとして、それでもまだ余っちゃうね」

 

「あ、それ八幡君が多めに欲しいって」

 

「比企谷、まさかお前、義援金を私利私欲で使ったんじゃないだろうな」

 

「使いませんよ…つかなんに使うんですか、煙幕とか」

 

…いや、本音を言えばちょっと欲しいんだけどね。煙幕とか憧れるよね、だって男の子だもん。

 

「私達風紀委員から逃げる為…じゃないわよね?」

 

あ、それ本当にちょっと欲しいかも。

 

「アリクイチーム、ちょっと良いか?」

 

そんなやり取りもほどほどに、ちょいちょいと手招きして猫田達アリクイチームの面々を呼ぶ。

 

「ど、どうしたにゃー、比企谷さん」

 

「ちょっと聞きたい事がある」

 

この余った煙幕弾は是非とも彼女達に使って貰いたいが…。さて、ここは彼女達の筋肉がどこまで通用するか、だな。

 

…冷静に考えたら筋肉がどこまで通用するかって何?戦車道で出てきて良い言葉かなそれ?

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

ーー

 

 

「煙幕をはるなんて…」

 

「All is fair in love ane war.」

 

と、ここでダージリンさんが流暢にスピーチ。日本語でおK?

 

「恋と戦いは、あらゆる事が正当化されるのよ」

 

それ、『イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない』とどう違うんですかね?

 

しっかし手段を選ばないとか、あらゆる事が正当化されるとか、恋愛恐ろしすぎだろ。うちの恋愛脳な武部が将来なにかやらかしそうで心配になるから、早めに誰か貰ったげて!!

 

「まさか森の中をショートカットしてくるなんて、まほもなかなかクレイジーね」

 

それ、狂ってるって意味なんですが誉めてるんですよね…。いや、確かに試合開始早々容赦なさすぎでしょ。

 

しかし本当に森を抜けてくるとは…丸山のやつやるな。つーかちゃんと話聞いてたのねあいつ。

 

ここまでまっすぐ向かって来たという事はだ、俺達大洗が山頂を陣取るつもりなのもわかっているのだろう。

 

「上手く煙幕を張れたは良いが…この後はどうするんだ?」

 

「そりゃ当然、最初の目標地点に向かいますよ」

 

煙幕で多少の足止めが成功した今なら、まだ距離を離す事も可能だ。

 

「え?お兄ちゃん、せっかくなんだし、ここで戦えば良いじゃん」

 

「あのな小町、黒森峰相手に正々堂々勝負したって相手にならないからな」

 

「…煙幕使っといて正々堂々って、よく言うわね」

 

「煙幕で相手が見えないのはこっちも同じですからね、条件はフェアですよ」

 

カチューシャさんが鋭い指摘をしてくるが、煙幕の効果は相手だけでなく、こちらにも当然ある。

 

「自分達で煙幕使ってお互い姿が見えないからフェアって…すごい理屈ですね」

 

「お兄ちゃん…それもう発想が当たり屋みたいなもんだよ」

 

「酷い言われようだ…」

 

「ですが…大洗にはポルシェティーガーが居ます」

 

「そうね。足が遅い分、坂道を登るのにも時間がかかるから煙幕がいつまで持つかが問題ね」

 

「ポルシェティーガーってあれですよね、確かにあんまり速度出てないですね」

 

「ポルシェティーガーは重戦車ですから、足回りにもいろいろ問題がありますし」

 

「そういえば私もCV33からP40に乗り換えたばかりの頃はその違いに違和感があったな。ほら、なんたってうちの重戦車だから!!」

 

安斎さんどんだけP40買えて嬉しかったんだよ。まぁ皆さんの意見は尤もだ、ポルシェティーガーにあの山を登らせるとなればかなりの時間が掛かるだろう。

 

ここの隊長ズさんが気付いているのだ、当然、姉住さんがその事に気付いてないはずがない。

 

もちろん、西住だってそれは気付いていた。それでも彼女が高地を陣取る事にしたのは策があるからだ。

 

「あ、煙幕晴れます」

 

最初の【俺のズボンがアイス食っちまった】作戦による煙幕が晴れ、そこに見えたのは坂道を登るポルシェティーガー。

 

とはいえポルシェティーガー単機ではもちろんこうは登れない、Ⅳ号を先頭にⅢ突とM3リーがワイヤーでポルシェティーガーを引っ張り上げているのだ。

 

「そっかー、ポルシェティーガーをみんなで引っ張るのね」

 

カチューシャさんがまるで子供のように…まるで?まぁ目をキラキラさせている。

 

「んんっ…、や、やるわね」

 

そんなカチューシャさんを微笑ましく見ていると彼女は少し恥ずかしそうにした。

 

さて、ここまでは順調…あとは陣形を作る為のもう一押しだ。ポルシェティーガーのワイヤーも外さないといけないしね。

 

そんな訳で次は【次は5段を買うといい作戦】だ。ちなみに西住は【ぱらりら作戦】と銘打っていたが聞こえなかった。

 

八九式とルノーが煙幕を張りつつ蛇行運転を繰り返す。高所から散布した事で煙幕が広範囲に広がっただろう。

 

だが黒森峰の軍勢も迫って来ている、榴弾による砲撃が煙幕に向けて発射された。

 

大洗側が陣取るのが先か…黒森峰が追い付くのが先か。

 

「やられる前に…有利な地形に逃げ込まないと」

 

「あなたもいつの間にか、彼女達の味方ね」

 

「えっ!?」

 

ダージリンさんにからかうように言われて真っ赤になっちゃうオレンジペコ、うん、可愛い。

 

まぁダージリンさんのせいか知らないけど、毎試合見に来てくれてますもんね…これで大洗に興味ないとか言われたらどうしようってなっちゃうレベルだよ。

 

「…わずかに黒森峰が速いですね」

 

「このままじゃ追い付かれるぞ」

 

…煙幕やらワイヤーやら、ここまでやったっていうのになんつー立て直しの早さだよ、これが黒森峰の練度に姉住さんの指示って訳か。

 

いや、赤星の天使性もあるのかもしれない…いや、あるね!!現副隊長?あぁ、居ましたねそんな人も。

 

だったら…もう1つ、足止めするしかない。そろそろあの人達にも働いて貰わないとね。

 

天使が相手ならこっちは悪魔だ、それも大洗きっての悪魔的生徒会である。

 

試合開始早々に単独で行動していたカメチーム、ヘッツァーが草陰から黒森峰の戦車を撃ち抜く。

 

砲撃は撃破こそないものの二両の履帯の破壊に成功、これでだいぶ時間が稼げたはずだ。

 

「あのヘッツァー…、元は38tね」

 

「まぁ改造ヘッツァーですけどね」

 

砲撃の威力上昇のおかげで履帯の破壊に成功したのだ。いやー、よくヘッツァー改造キットなんて売ってたよね。

 

「元は38tって…38トンもあったの?」

 

「それだと元々38トンあったみてぇじゃねぇか…、このtは重さの単位じゃないからな」

 

とはいえ…これで大洗は無事に高地に陣取る事に成功した。

 

作戦の第一は成功、まずは高地からによる砲撃戦となる。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。