やはり俺の戦車道は間違っている。【完結済み】 作:ボッチボール
なんでPS4だけかなぁ…PSVで出ないかなぁ。
戦車戦はもちろんなのですがいろんなキャラの掛け合いが見れるそうでそっちがすごく気になるところ、特典の戦車裁判も気になるなぁ…。
「ここで撤退…ですか?このまま突撃してフラッグ車を討ち取るのでは?」
大洗側の撤退を不思議と思ったのか西が聞いてくる。討ち取るとかどこの無双系戦国武将ですか?
「集落には敵の主力部隊が居る、下手に突っ込むと囲まれるぞ」
話を聞く限り知波単の連中なら間違いなく突っ込んでいるだろうな…いや、うちの連中も試合前の浮かれた状態なら突っ込んでただろうが。
「…なるほど」
頷いてはいるが大洗があのまま突撃しなかったのが納得できていないのか、先ほどまでのようなはっきりとした返事ではない。
「ご不満かしら?」
「いえ…隊長を任されて少し、考えてしまうのです。我々知波単学園はこのままで良いのだろうかと」
全国大会が終わり三年生が引退した事で西が隊長になったと聞いた。聖グロリアーナも継続も、途中まで一緒だったし試合を見に来るのはわかるが、彼女が今日、こんな北の方までわざわざ試合を見に来たのには何か理由があるのだろう。
「そんな時、大洗学園の活躍を耳にしました。無名校でありながら準決勝まで勝ち進んだその強さの秘訣を知りたいと思いまして」
本当は昔は戦車道でそこそこ強かったらしいんだけどね。まぁ20年も昔の話だし知らないよね、俺も知らんし。
「突撃こそ我が知波単学園における伝統…ですが、果たしてそれだけで良いのでしょうか?」
「伝統を守る事はもちろん大切よ、でも…それだけでは何も変わらないわ」
ダージリンさんが紅茶を飲む、空になったカップをオレンジペコに渡すと涼しい顔で一言こう添えた。
「ペコ、マックスコーヒーをお願いね」
「はい、ダージリン様」
オレンジペコはダージリンさんの言いたい事がわかったのか、やや苦笑いしながらも答えた。
「我々聖グロリアーナのティータイムといえば紅茶が伝統ですけど、こうやってマックスコーヒーを頂くのも悪くないもの」
そう答えてオレンジペコからマックスコーヒーの入った紅茶カップを受け取り飲むダージリンさん、前にも少し話したけど、この人はそういう人だったな。
伝統を守りながらも新たな変化はきちんと受け入れる、両方ちゃんとやっているのがこの人の恐ろしい所ではあるが。
「それならもう試合中に紅茶飲むの止めても良いんじゃないですか?」
「それは出来ないわ、淑女としての嗜みですもの」
それ、単にダージリンさんも飲みたいだけなんじゃないかなぁ…。
「風がいつも同じ方向に吹くとは限らないからね、大切なのはそれが追い風となるか、向かい風になるかの違いだよ」
…継続高校の伝統ってなんだろ?カンテレ弾いたり戦車盗む事じゃないよね?
いや、この三人以外の継続メンバー知らないけど、ミカさんみたいな強烈なキャラが何人も居ないとは思う…思いたい。
「それに、大洗の強さの秘訣を知りたいなら彼に聞いたらどうかしら?」
「…え?は?」
え?そこで俺に振るの?つーかやっぱり俺に西の事押し付ける気だよねこの人?
「比企谷殿、大洗の強さの秘訣とはなんでしょうか?」
「いや…まぁ、その…なんだろうな?」
…うーん、大洗の強さの秘訣とはって改めて聞かれてもな…、戦車の数も性能も劣るし、メンバーは今年始めた素人ばっかりだし。
隊長の西住については語る必要はないだろうが…それだけでここまで勝ち進んだとは言えないし、それはちょっと違う…と思う。
それは彼女達の努力を否定するような、冒涜するようなものだ。確かに西住の力は大きいだろうが、それだけで結論をつけるのは間違いだろう。
「…相手の舐めプと初見殺しの作戦と、あとは…運?」
とはいえそんな話、この人達の前で出来る訳ない、つーか恥ずかしいでしょ?
「はぁ…、えぇと、それは」
困惑している西には悪いが…、まぁあながちそんなに間違った事も言ってないのが悲しい。
「ふっふふふ…、ね?参考になるでしょう?」
どこが笑いの壺に入ったのか知らないが…絶対この人楽しんでるよ。
「そういうからにはまだ作戦はあるのね」
「まぁ、一応は…」
大洗を誘い出す為に撃破される戦車まで用意したプラウダ側だ、その戦車だけが撃破され、誘い出しが失敗したとなれば良い挑発にはなるだろう。
カチューシャさんの性格を考えたらやられっぱなしなのは我慢ならないだろうし、ムキになって追ってくる可能性が高い。
「ありますよ、とっておきの【靴隠し作戦】が」
【もぐもぐ作戦】?なにそれ認めない、なお、認めなかったのは俺一人だけの模様。
「大洗の作戦名って変なの多いですね…」
「え?前もこんな感じなの?」
「前は【消しカス作戦】とか【偽ラブレター作戦】とかでした」
「…それって西住さんが考えてるのかな?」
こそこそと話してるアキとオレンジペコ、仲良くなってるようでなによりだ。
なんだか西住が軽く風評被害受けてるけど…うん、まぁいいか、人の作戦名を頑なに却下する罰だとでも思って欲しい。
ーーー
ーー
ー
『こちらフラッグ車ー、なんか大洗の連中後退していきますー』
「なんですって!?」
やたらと呑気な報告ではあるが、フラッグ車からのその報告にカチューシャは驚いた。
「陽動が読まれたのでしょうか?」
横で同じくその報告を聞いたノンナが答える。
「それじゃうちがやられ損じゃない!このまま逃がす訳にはいかないわ!追いかけなさい!!」
カチューシャの指示にプラウダの部隊も動き出す。誘い出しが失敗したとはいえ大洗の部隊はすぐ近くにいる。
『敵、発見しました』
なので先頭を走る二両のT-34が大洗側に追い付くのにさほど時間はかからなかった。というより大洗側が思ったより進んではいない、という方が正しいか。
「…来た、アヒルさん、うさぎさん、カモさん、カメさん、このまま前進して下さい」
先行して追いかけてくる二両を確認した西住みほは各車に指示を送る。
逃げる大洗の部隊とそれを追うプラウダのT-34、その先には不自然に膨れた雪の固まりが左右にある。
大洗の部隊がそれを通りすぎ、プラウダが通った瞬間だった。
「撃てっ!!」
雪の固まりから放たれた砲撃が2両のT-34を左右からそれぞれ同時に撃破した。
そして姿を現したのはⅢ突と三式中戦車、先行し、雪の中に潜んでいた2両である。
2両はそのまま大洗の部隊と合流し、大洗側は再び全車両でプラウダから逃げる。
「やったねみぽりん、もぐもぐ作戦大成功だよ」
「これも継続さん達にいろいろ教えて貰ったおかげですね」
雪原を利用した戦術、奇策での戦いかたは流石、寒冷地での戦いが得意と言われるだけある。
「これで10両対7両、少しずつですが戦力差は少なくなりましたね」
「うん…」
確かにここまでは順調だ、だが西住みほは決して気を緩める事はなく、静かに深呼吸して気を引き締めた。
この場の誰よりも彼女が一番理解しているのだ。プラウダが、カチューシャがこのままやられっぱなしでいるはずがないと。
なぜなら西住みほ自身が去年の戦車道全国大会において、それを身をもって体験しているのだから。
ーーー
ーー
ー
「更に2両を撃破…快進撃ですね」
これで相手の戦力もかなり削れた。元から差があったとはいえ、大洗側がここまで序盤に戦果を上げる事が出来た試合展開は初めてだ。
少し…ほっとした、この勢いならいけるんじゃないかと。
「………」
だが、ダージリンさんの方はどこか険しい表情だ。もしかしてこの人、カチューシャさんと知り合いだし本当はプラウダ応援してたのかな?
「ダージリンさん?」
いや、さすがに今さらそれは無いか、じゃあなんだろうか?
「マックス、さっきあなたの言った大洗の強さの秘訣に相手の油断があったわね」
「え?えぇまぁ…そうですね」
大洗はほぼ今年が初出場みたいなもんの無名校である。そんなパッと出の高校だ、相手も少しは油断してくれていただろう。
「…なら、相手が油断しなくなれば、どうかしら」
「ッ!?」
…言われて気付いた、つーか浮かれすぎてたな、本当に。
「忘れたの?去年の戦車道全国大会、10連覇目前の黒森峰を倒して優勝したのは彼女達なのよ」
別に忘れていた訳じゃないが、油断や慢心が恐ろしい事に改めて気付かされた。これじゃ俺も模擬戦前の大洗の連中の事言えねぇな…。
「どうやら…眠れる獅子が起きたようだね」
…なにそれ怖い、メテオとか唱えてきそう。
「それに風向きも変わって来ているしね」
「…風向き?」
本当にこの人風ってキーワード好きだよね、風になりたいのかな?そのカンテレでひけそうだけど。
いや、今のはもっと別の、しっかりとした意味がある気がする。確かにさっきから身体に当たる風が強くなっているのを感じているのだ。
吹雪いてくる前兆だろうが…、これがどう繋がるのだろう?
ーーー
ーー
ー
『カチューシャ隊長、すいません、撃破されました』
「何やってるのよ!あんな低スペック集団相手に!!」
『それがあいつら、雪を利用して隠れてて…』
大洗を追うカチューシャの主力部隊は先行していたT-34が更に2両撃破された報告を受ける。
それも今回は先ほどの大洗を誘い出す為のものとは違い、完全に向こうにしてやられたのだ。
「雪ですって…?」
「…カチューシャ、少し吹雪いて来ました。攻めるなら今です」
「わかってるわ、私達相手に雪原で勝負しようなんて良い度胸よ、必ず後悔させてやるんだから」
カチューシャとノンナが道を開け、後方から1両の戦車が大きく進軍を進める。
「ニーナ!アリーナ!頼れる同士、かーべーたんの出番よ!!」
『はい、カチューシャ隊長!!』
それはKV-2ギガント、かつてたった1両でドイツ軍を食い止め続けた街道上の怪物。
大洗の主な戦車は75㎜砲弾であり、ティーガーⅠ等の強力な戦車でさえアハト・アハトと呼ばれる88㎜砲弾である。
それに対してKV-2の主砲は152㎜榴弾砲、その火力は絶大であり。
「もう手加減しないわ、やっちゃいなさい!!」
まともに食らわなくとも、その爆風だけで大洗の戦車を吹っ飛ばす事だって可能なのだ。
ーーー
ーー
ー
「ッ!!」
KV-2の主砲が大洗メンバーの近くに着弾し、それによって雪が大きく宙を舞う。
『え?なになに?』
『なんだ!?く、空爆か!?』
幸い吹き飛ばされた戦車こそ無いが河嶋のその率直な一言もあながち間違ってはいない、そう思わせるほどの衝撃である。
「な、なんなの今の!?」
「KV-2ですね、いよいよ敵の主力部隊が来ましたか」
「うん、…皆さん落ち着いて下さい、KV-2は装填に時間がかかります」
絶大な火力であるKV-2だが、152㎜砲の装填には時間がかかるはずだ、次がすぐに飛んでくる事はない。
「今のうちに相手の位置を特定して…ッ!?」
だが、KV-2の着弾が大洗にもたらしたのは衝撃だけでない。
着弾の衝撃で舞い上がった雪が吹雪と合わさり彼女達の視界を奪う、ホワイトアウトにも似た現象。
その現象は一瞬ではあったが、後続に続くプラウダの部隊による砲撃はさらに雪を舞い上がらせて彼女達の視界を奪う。
『うわー!真っ白で前が見えない!!』
『これってぇ、お先真っ暗ってやつ?』
『この場合、真っ白じゃないの?』
『もう!そんな事言ってる場合じゃないでしょ!西住隊長、どうしましょう!?』
「………」
各チームから報告を受けつつ、西住みほはキューポラから身体を乗り出し、全神経を集中する。
『ど、どこだ!?敵はどこにいる?に、西住!?なんとかしろ!!』
視界は相変わらず真っ白だ。普段彼女がこうして戦車から身体を出しているのは状況確認が容易だからではあるが、今はその視界が奪われている。
このままここで固まっていてはやられてしまうだろう、急いで動かなければまたKV-2の砲撃が来る。
だが、視界を奪われたこの状況で闇雲に動いてしまえばバラバラになる可能性がある。特にフラッグ車の孤立だけは避けなければならない。
つまり、大事なのは相手の位置をしっかりと把握する事。
「…ここだ」
西住みほの聞いていたのは砲撃音と着弾音、そこから相手が居ない場所を特定する。
「全車、東の方向へ移動して下さい、はぐれないように近くの仲間を目印に!!」
その方向からは砲撃音も着弾音もしていない、つまり、敵戦車が居ないのだ。
「とでも思ってるのかしら?」
だがようやく視界がはっきりした先に見えたのはカチューシャも含めた2両のT-34。
砲撃音がしなかったのは敵が居なかったからではない、大洗側を誘い出す為にあえて、カチューシャが砲撃をしなかったのだ。
「出てきたわね!狙い撃ちよ!!」
「ッ!全車北東に方向転換!!」
それを確認した西住みほは全車両を連れて北東へと移動を開始、だがその先にはクラーラの率いる2両のT-34がいた。
後方からは追いかけてくるカチューシャの部隊、幸いにもまだ進む道はあるが…。
「…集落に誘導されてる」
それは間違いない、だが、わかっていてもここで足を止めての応戦は無謀というしかないだろう。
大洗側は着々と集落に戻されている、そこに待っていたのは…。
「IS-2!!」
KV-2と並ぶプラウダ高校の重戦車、これをまともに相手にするのは今の追われる身の大洗では厳しいだろう。
プラウダによる一斉射撃、砲弾の嵐が大洗を襲う、そんな状況の中、また視界を奪われる前に西住みほは辺りを見渡す。
「全車、南西に大きな建物があります!そこに立てこもります!!」
苦肉の策ではあるが、この状況では他に選択肢がない、少なくともそこなら一斉射撃を受ける事はないだろう。
大洗側は全車両で南西の建物へと進む。だが、それを見たカチューシャは小さく微笑んだ。
「予想通りね、まっ…無名校にしては頑張った方かしら」
ーーー
ーー
ー
「砲撃が…止んだ?」
なんとか建物の中に避難する事が出来た大洗メンバーではあったが、その被害は大きい。
M3リーは副砲が破壊され、Ⅲ突は履帯、Ⅳ号は砲搭が故障して回らない。
だが、不思議な事にプラウダ側からの砲撃がピタリと止まったのだ、外にまだ居るので撤退した訳でもない。
「あ…」
ふと、プラウダの方から二人、白旗を持った生徒がやって来る。もちろんここでの白旗は降伏した、という意味ではない。
「カチューシャ隊長からの伝令を持って参りました」
その生徒の言葉に隊長の西住みほと副隊長の河嶋が前に出る。
「降伏しなさい、その条件は全員土下座する事」
「なんだと!?…ナッツ!!」
「そしてもう1つ、比企谷八幡という生徒を捕虜…交換学生扱いという形でプラウダ高校に一時期滞在させること。この2つの条件を守るなら許してやるそうです」
「…え?八幡君を?」
あまりにも予想外なプラウダ側のその要求に西住みほは驚いて思わず聞き返してしまった。
「隊長は心が広いので三時間は待ってやるとの事です。それと降伏しなければ今度は容赦しないと…、では」
ーーー
ーー
ー
「…本当に良いのですか?」
「あのゾンビがプラウダに来た時言ったでしょ?必ず後悔させてやるって」
これこそがあの時、カチューシャが思い付いた彼女なりの良いことである。
「雪かきでも麦踏みでもじゃがいも掘りでも、あいつにどんな強制労働させてやろうかしら」
意地悪く笑みを浮かべるカチューシャではあったが、ふと身体をもじもじとさせた。
「あと…そ、そうね、肩でも揉んで貰おうかしら、ふふっ…楽しみね、ねぇノンナ、クラーラ」
「「………」」
「ひっ!ふ、二人共、なんか…怒ってない?」
「いえ、なんでもありませんよ、ですよね、クラーラ」
「ーーー(訳:そうですね、彼がプラウダに来たらいろいろと″やりやすい″ですから)」
「だから!ちゃんと日本語で会話してくれないとわからないでしょ!!」
そう怒鳴るカチューシャなので、クラーラがノンナの日本語に対してきちんと返事を返した事には気付いていないのである。
ーーー
ーー
ー
「…どうしてプラウダは突撃しないのでしょう?」
うん、今回は西の言う事が全く正しい。いや、この状況で突撃なんかされようものならうちの敗北は間違いないのでありがたいが。
形勢はあっという間に逆転された。こうなると素直にカチューシャさんの実力を認めるしかないだろう。わかってはいたが去年の戦車道全国大会の結果はまぐれなんてものじゃない。
なんとか建物へと避難した大洗だがこれでプラウダからは完全に囲まれた、こうなると逃げ場は無い。
だがそんな状況でプラウダは動かないのだ。先ほどの一斉射撃でもわざと大洗の戦車を撃破せず、まるでなぶっているようにさえ感じたが。
「プラウダの隊長は楽しんでいるのよ、この状況を」
そんな俺達が不思議と思っている事がわかったのか、ダージリンさんが教えてくれる。この人とカチューシャさんは結構長い付き合いのようだが…。
「彼女は搾取するのが大好きなのよ、プライドをね」
それ、プラウダとプライドをかけた高度なジョークなんですかね?どちらにせよ趣味が悪いとは思うが…大洗にとっちゃ幸運でもある。
「さっき白旗を持ったプラウダの生徒が建物に入ってったけど、降伏勧告かな?」
あれってやっぱりそうなのか?いや、さすがにこの状況でプラウダ側が降伏するはずがないが。
「…戦車道でそれってありなんですか?」
「もちろんありよ、無理に戦えば怪我の可能性もあるでしょ?」
あ、やっぱりあるんですね、怪我の可能性。
なんか普段から謎カーボンで守られてるから感覚麻痺してるけど、戦車道って戦車での撃ち合いですもんね、そりゃそうだ。
「それに相手が負けを認めてくれれば被害は少なくてすむから、次の試合がやりやすくなるわ」
あぁそういう事ね、あくまでもプラウダの本番は決勝戦、黒森峰って訳だ。
うちなんてその道中にある道端の石ころみたいな扱いなのかね、全く強豪校様は羨ましい限りだ。
「それで、大洗は降伏するのかしら?」
「しませんよ…、たぶんですけど」
プラウダ側が提示した降伏条件は知らないが、そもそも大洗は負ければ廃校なのだ。それを知っている彼女達が自ら敗北を選ぶ事はないだろう。
「戦って勝てるとは限らない。でも、戦わないなら勝つ事は絶対無いからね」
そう、道端の石ころだって、躓けば転ぶ事だってあるのだ。
「そう、それは命拾いしたわね」
「…さすがにそれは大袈裟じゃないですか?」
まぁ廃校にはなるが、死ぬ訳ではないし…、ん?今の言い方ってもしかして俺に向けてるのか?
「あの後カチューシャが自信満々に教えてくれたわ、あなたをシベリア送りにする為に大洗を降伏させてやるって」
「…どんだけ根にもってたんですか、あの人」
本当に高校生ですか?やる事小学生染みてるよ…。
え?じゃあ大洗が降伏したら俺、マジでプラウダで強制労働なの?1050年地下行きなの?
「その話を聞いて思ったわ、その手があったわね、と」
「いやいや…ないです、ありませんからね」
やだなぁ、怖いなぁ、さっき戦う約束したけどもう聖グロリアーナとは戦いたくないなぁ…。
『ただいま、プラウダ高校より降伏勧告が宣言されました』
スピーカーからアナウンスが流れる。つまり審判団である日本戦車道連盟もこの降伏勧告を受け取ったという訳か。
『試合の続行か終了か、三時間後に決定します。会場の皆様は今しばらくお待ち下さい』
三時間も猶予をくれるとは太っ腹だな、さすがカチューシャさん、心が広いわー(皮肉)。
どこぞの三分間しか待ってくれない大佐とは大違いだ、これなら今のうちに大洗側は修理や作戦をたてる事だって………。
…………………………………三時間?
「あの…ダージリンさん」
「なにかしら?」
「試合続行は三時間後なんですか?」
「さっきアナウンスでそう聞かなかったかしら?」
「…三時間、待つんですか?」
「そうね」
「…吹雪いてきてますね」
「…そうね」
「……寒いですね」
「……ペコ、おかわりを貰えるかしら?」
………三時間、待たないといけないらしい。