IS 復讐の海兵   作:リベンジャー

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ソレイユ激怒!制裁の一撃

同じ頃、ソレイユとタンジェントはビット内でビールを飲みながら試合を観戦していた。鈴音の完璧ともいえる試合運びに二人は喜び、鈴音の勝利に乾杯してビールを一気に流し込んだ。しかし、突然侵入してきたISの登場に少し顔色を変えた。

 

「なんだあれは?」

「まあ、どう考えてもサプライズの一種という訳ではなさそうですね」

「アリーナのバリアが壊れてる・・・この前から強度変わってないのか?」

「学園の防衛力に疑問を感じます」

 

突然の侵入者に鈴音は最初こそ驚いたが、危険を感じてすぐに撤退しようとした。しかし織斑は無鉄砲にもISに突っ込んで行ったのである。勿論すぐに攻撃されて吹っ飛んだが、それに懲りる事無く再びISに突撃していった。それを見た鈴音は仕方なく織斑の援護に向かい、鈴音は織斑を庇いつつ撤退するように何度も諫めたが、織斑はそれを聞くことは無かった。

 

「あの馬鹿何考えてんだか。SEがほぼ無い状態で何をしようってんだ」

「あのお馬鹿さんの事ですから、女を置いて逃げられない。なんて事を考えてるんでしょうね」

 

織斑はともかく鈴音と観客たちがこのままでは危ないと考えソレイユはラーを起動させようとしたが、IS学園に何かあった時には教師部隊が迎撃に向かう事になっており、それより先に海軍が出撃することは越権行為である事、何より学園の防衛はソレイユの役割では無いとタンジェントがそれを止めた。タンジェントの言葉に一理あるなと納得し、少し静観することにして上げかけた腰を下ろした。

 

10分程たった後、本来ならすぐに来るはずである教師部隊がなかなか来ない事に違和感を感じたタンジェントが山田先生に確認の通信を入れたところ、アリーナの出入り口にどこかからのハッキングがあり、突入できないとの返答があった。その事を聞いた二人は顔色を変えた。そうなると話は別である。今まで二人が静観していたのも、教師部隊というもしもの時の為に生徒を守る人達がいたからである。しかしそれが来ないのであれば自分達が出る必要があると考え、ソレイユは気を引き締め直し山田先生に自分が出る事を伝えた。

 

「なら、俺が行きます。俺ならアリーナの出入り口が閉まっていようが関係ありません」

「そ、そんなの駄目ですよ。危険です」

「山田先生、俺は海兵です。海兵はか弱き民衆を守る為にいるんです。今こそ俺が行く時なんです」

「・・・分かりました。でも危ないと思ったらすぐに避難してくださいね」

 

ソレイユの覚悟を感じ取った山田先生はソレイユを心配する言葉を残して通信を切った。ソレイユは内心で山田先生にお礼を言うと即座にラーを起動した。

 

ソレイユにとって織斑がどうなろうとどうでもいいのだが、このままでは鈴音や観客席にいる一部のまともな生徒達、来賓たちに被害が及ぶ可能性がある。そのような事は海兵として見過ごすわけにはいかない。タンジェントは同行を申し出たが、ソレイユはそれを断り山田先生達の手伝いをするように頼んだ。それを了承したタンジェントはすぐに山田先生のもとに向かい、ソレイユもアリーナに向かって行った。

 

ソレイユが突入する数分前、乱入してきたISを相手に織斑は相も変わらず突撃を仕掛けては躱されるか、返り討ちに合うのを繰り返していた。SEも無くなりかけており、鈴音から何度も撤退するように言われていたがそれでも頑として撤退しようとしなかった。

 

「一夏、いい加減にしてよ!!一体何度言ったら分かるのよ!?もうあんたのISにはもうSEが無いの!!このままじゃ二人そろってやられるのがオチよ。早く撤退しましょう」

「嫌だ!!こいつは俺が倒すんだ!そして皆を守るんだ!」

 

織斑の現実を見ない妄言に鈴音は大きくショックを受けた。以前だったらカッコいいと思っていたかもしれないがソレイユ達との訓練を受けた今の鈴音には無鉄砲としか思えなかった。訓練中の休憩時間にタンジェントから雑談交じりに「危険な相手から逃げる事は恥ずかしい事ではありません。例えば、目の前に刃物を持った危険人物がいて自分は丸腰の状態。この場合一番良い行動は逃げる事です。極論かもしれませんが、自分が適わない相手に挑むのは蛮勇でしかないんです」と教えてもらっていたのである。鈴音がソレイユに確認した時も何故か苦虫を嚙み潰したような顔をしながら肯定していた。それから鈴音は退く事は恥ずべき行為では無いと理解したのである。それなのに鈴音が止めるにも関わらず再び無謀にも一夏は突撃していったが、ISはその攻撃をサラリと避けた。避けられた一夏の攻撃は止まることなくアリーナを覆うバリアに突っ込んで行き、ISの侵入によりダメージを受けていたバリアはとうとう限界を迎え消滅した。観客席からは悲鳴が上がり、一部の観客からは一夏を非難する声が上がった。それと同時に白式のSEも遂に無くなってしまった。

 

「一夏!?もう、バカ!!」

 

SEが無くなりほぼ丸腰になった織斑を無慈悲にもISは追撃を行なおうとした。鈴音は一夏を守ろうと一夏の前に立ち、相手からの攻撃に備えたが、いつまでも攻撃が来ることは無かった。恐々と目を開けると目の前にはラーを纏ったソレイユが楯になるかのように立っていた。ソレイユはヨウヨウの実の能力による防御技「スーリヤ」によって鈴音とついでに一夏を守ったのである。太陽の力を応用したバリアのまえにはいかなる攻撃も意味をなさない。ソレイユの姿を見た鈴音は心底から安堵し、一夏は憎々しげにソレイユを睨んでいた

 

「今までよく頑張ったな鳳さん。後は俺に任せてくれ」

「ソレイユ少将!?」

「ソレイユ!

 

鈴音とついでに織斑の無事を確認したソレイユはヘリオスの槍(前の名前はあまり良くないと部下に言われたので変えた)を生成した。

 

「織斑、お前はさっさと逃げろ。ここに居られても邪魔だ」

「嫌だ!あいつは俺が倒すんだ!おまえこそ・・・」

「もう一度だけ言う・・・失せろ!!」

 

織斑の言葉を遮り、ソレイユは睨み付けて吐き捨てるように言った。ソレイユに睨まれた織斑は先程の威勢を一気に無くし、怯んでしまった。鈴音もソレイユの初めて見せる顔に驚いていたが、気を取り直して織斑を連れて撤退しようとした。しかし織斑はソレイユの圧によって足が竦んでしまい動けなくなってしまった。ソレイユはそんな織斑に侮蔑の視線を向け内心呆れながら、侵入したISに対峙した。

 

早速ソレイユは見聞色の覇気を使って相手の気配を探ろうとしたが、全く探る事が出来なかった。一瞬不思議に思ったソレイユだったが、すぐに目の前のISに人が乗っていないと悟った。そうなると後で色々と調べる必要がある為、出来る限り損壊を最小限で倒さなければならない。今回の戦闘ではレインボーシャワーは使えないと考えソレイユはヘリオスの槍を構えた。

 

「(弱点となる部位のみを攻撃して戦闘不能にした後に整備班に渡す。そろそろアイツも来るだろうしな)」

 

ISはソレイユに銃撃してきたが、スーリヤを発動したままソレイユは剃で突っ込んで行き、ISに槍で強烈な一撃を入れた。灼熱の槍で刺されたISは大ダメージを受けて吹き飛んだ。ソレイユが追撃を行なおうとした瞬間、放送室からいきなり大声で誰かが叫んだ。

 

「一夏――――!!何をボヤボヤしているんだ!!男ならそれぐらいの敵倒せなくてどうするーーー!!」

「そうだ!私の弟ならそれぐらいの敵倒せ!!行けーー一夏―――!!」

 

声の主は篠ノ之箒と織斑千冬であった。ソレイユは馬鹿二人の愚行を呆れてみていたが、見聞色の覇気によって馬鹿二人の周りに数人居る事が分かると顔色を変えた。しかもISは放送室に攻撃をしようとしている。

 

「それは不味いぞ!?モップ女とクソ教師が!!いらねえ事しやがって!」

 

なりふり構ってられないと理解したソレイユはレインボーシャワーをISに向けて放射した。本来ならISの解析を優先すべきなのかもしれないが、ソレイユは馬鹿二人の巻き添えで関係のない人が死ぬのを見過ごすわけには行かなかった。勿論馬鹿二人だけなら間違いなく見捨てていたが。

レインボーシャワーを受けたISはみるみるうちに溶けていき、後には鉄屑のみが残された。太陽光線をモロにくらったせいでドロドロに溶けてしまっており、ベガパンクであっても解析することは出来ないだろう。

 

(解析に回したい所だがあんなになっちゃ意味無いな。ッチ、あのクソ教師とモップ女が余計な事しなければ)

 

ソレイユによってISが倒された事に納得がいかない放送室の馬鹿二人は、ソレイユに聞くに堪えない罵詈雑言をまき散らしていたが、ソレイユは全く意に介さず山田先生にISを撃破した事を報告し、放送室にいる馬鹿二人の近くに居るであろう生徒たちの保護を頼んでさっさと帰還した。ソレイユの圧倒的な強さに唖然としていた鈴音も一夏を連れて帰還した。その際一夏は悔しさと逆恨みを混ぜたような顔をしていた。

アリーナにいる本音を始めとした何人かの生徒達は帰っていくソレイユに感謝の言葉を言い、それ以外の女尊男卑に染まっていない生徒たちはソレイユへの認識を多少改めた。今までの「関わらない方がいい人」から「怒らせなければ大丈夫な人」に。無論これはこの戦いだけを見て変えた訳では無くここ数日のソレイユの行動も多分に含まれていたが。女尊男卑に染まっている生徒達はただ醜悪な顔を見せるのみであった。

 

 

「・・・圧倒的すぎる。あれがかの国の海兵か・・・」

「しかもまだ彼は少将だとか。そうなると中将や大将になるとあれ以上という事。恐ろしいですな・・・」

「ええ。ですがあの全く無駄の無い動きは素晴らしい。それだけ兵の訓練に力を入れているという事なんでしょう」

「これからもかの国への対応には気を付けなければ。下手な事をすれば良くてイギリスのように属国化。悪ければ滅びかねませんからな」

「早急にこの事は本国に連絡を」

 

来賓席にいた各国からの来客達はソレイユの圧倒的な強さに唖然とする者、脅威を感じる者、感心する者と多様な反応を見せた。しかし全員が共通して持っている事が一つだけあった。それは織斑一夏への失望であった。クラス対抗戦での無様な戦いに加えて侵入してきたISには全く歯が立たなかった。おまけに自分の攻撃でバリアを破壊して自分たちを危険な状態に追い込むという大失態。全くと言っていいほど評価すべき点が無かった。来賓達は織斑一夏への当初あった期待を完全に無くしていたのである。

 

「あの織斑一夏とかいう男性操縦者に関しては何も言う事はありませんな」

「ええ、あのブリュンヒルデの弟だからと期待していましたがただの馬鹿でしたな」

 

各国は今回の大失態により織斑一夏への興味を急速に失っていく事になった。一部の国を除いて。

 

 

事件の結果報告をする為、ソレイユは学園室を訪れた。見れば既にタンジェントに山田先生、鈴音と一夏、千冬と箒は揃っていた。

 

全員が揃ったところで学園長から今回の事件についての協議を行う事を告げられた。開始一番に千冬がソレイユのISは危険であり取り上げて解析に回すべきだと主張したが学園長はその意見を即却下した。

 

「織斑先生、前にも言いましたがソレイユ君のISは検査を受けており、問題無しという報告を受けています。何度言わせる気ですか?」

 

学園長から叱責を受ける千冬を山田先生は千冬を冷ややかな目で見ていた。そこには以前の千冬を尊敬していた面影は全くなかった。

 

千冬はそれでも学園長に反論しようとしたが、学園長からもう黙るように言われ渋々押し黙った。

 

「言っておきますが、もしソレイユさんのラーを力づくで奪おうというのでしたら我々も容赦はしませんよ。その()()()()()にやられて見れたモノでは無くなった顔をもっと酷い事になるかもしれませんね。ニャハニャハニャハ」

「ああ、その()()()()()にやられた顔を更に不細工にしてやるよ。ハッハッハッ」

 

ソレイユとタンジェントの悪意のこもった嘲りに千冬は包帯の下で醜く歪んだ顔を更に歪ませてソレイユ達を睨んだ。出来る事なら今すぐこの場で掴みかかってやりたいが、そんな事をすれば返り討ちに会う事はこの前の件で分かっていたし、学園長から今後海軍がらみで怪我をしても治療費は負担しないと宣告されている為睨むことしか出来なかった。

 

「おい!千冬姉に何てこと言う「黙りな!」っ・・・」

 

シスコンの一夏は姉への罵倒に文句を言おうとしたが、またもやソレイユの一喝に怯みそのまま引っ込んでしまった。鈴音はそんな織斑に若干の失望の眼差しを向けていたが織斑はそれに気づく事は無かった。

 

 

「織斑先生、先生には緊急時には生徒達及び来賓方への避難誘導及び安全の確保という大切な仕事があったはずです。それなのに何故篠ノ之さんと一緒に放送室にいたのですか?」

 

学園長は逆に千冬に今回の事件における問題行動について詰問した。千冬はそれは、その・・とゴニョゴニョしていたが急に何か閃いたように言い訳を始めた。

 

「そ、それは篠ノ之が急に居なくなったので探しに行っていたからです。教師たるもの生徒が急に居なくなれば心配して探しにいくものでしょう」

「なるほど。では山田先生、織斑先生に篠ノ之さんがいないので探しにいくという旨の事を報告されていましたか?または引継ぎなどはお願いされましたか?」

「いえ、織斑先生は急に居なくなりましたので。現場の指揮系統は混乱しかけました」

 

千冬は山田先生に余計な事を言うなと言わんばかりにキッと睨みつけた。山田先生は多少たじろいだが自分の言葉を撤回することは無かった。

 

「分かりました、その件に関しての処分は最後に通達します。では次に篠ノ之さんから話を聞きましょう」

 

篠ノ之の顔は誰が見ても分かるほどに不貞腐れていた。「なぜ自分がこんな所にで尋問されなければならないのだ!」という内心が透けて見えた。

 

「篠ノ之さん、何故貴方は避難せずに放送室に行ったのですか?」

「それは一夏に活を入れる為だ!あんな訳の分からないISに苦戦していたから活を入れてやろうと思ったんだ!!」

「ほう。しかし織斑君のISは既にSEが切れかけていたのですよ。そんな状態でどう戦えというのですか?」

「そんなもの気合いさえあれば!「気合なんかでSEは回復しねえよ。バーカ」き、貴様!?」

 

訳の分からない理屈を言う篠ノ之に呆れたソレイユから侮辱の言葉を掛けられ、怒りの顔を向ける篠ノ之であったが欠伸でソレイユは返した。

 

「ソレイユ君の言う通りですよ。貴方がやった事は自分と放送室に居た生徒達を危険に晒しただけです。もう一つ聞きたい事があります。放送室に元々居た生徒達を貴方は竹刀で危害を加えたそうですね。なぜそのような「何だと!」ど、どうかしましたソレイユ君」

 

放送室にいた生徒達に危害を加えたという言葉にソレイユは顔色を変えた。以前のお茶会の時に本音から姉がおり、今度のクラス対抗戦で放送を担当するというのを聞いていたからである。

 

「学園長、放送室に居た生徒達は大丈夫なんですか?」

「え、ええ。多少の怪我はしていますが、全員命に別状はありません」

 

学園長の返答に安心したソレイユは篠ノ之を睨みつけて問い詰めた。

 

「おまえなんでそんな事しやがったんだ!?」

「ふん!そんな事お前に「答えろ!」ウッ・・・あ、あいつらが一夏に喝を入れようとした私の邪魔をしたからだ!だから排除したんだ。悪いのは邪魔をしたあいつらで私は悪く無い!!」

「おまえのせいで下手したら全員死んでたかもしれないんだぞ。お前が死ぬのは自業自得だが、他の生徒まで巻き添えにしていいと思ってるのか!!?」

「おまえなんかに説教を受ける筋合いは無い!それに千冬さんも邪魔をする奴は叩きのめせと言っていたぞ」

 

篠ノ之のとんでもない発言に学園長と山田先生は顔色を変えて驚いた。仮にも教員が生徒に暴行を支持するなど断じてあってはならないことである。

 

「織斑先生今の話は本当ですか!?」

「え、いや・・それは・「千冬さんも言ってやってください。一夏に喝を入れるのを邪魔するような奴は敵だ。叩きのめせと」篠ノ之!!」

 

何とか誤魔化そうとしていた千冬であったが、篠ノ之の自白により自身が暴行を指示したことが証明されてしまった。千冬は先程同様に篠ノ之を睨みつけたが、篠ノ之は自分の発言のなにが悪いのか理解できていなかった。

 

「織斑先生、今回の件はハッキリ言って教師としても社会人としても失格と言わざるを得ません。相応の処罰を覚悟しておくように」

 

学園長に叱責された千冬は顔を俯かせて黙った。最も反省している訳では無くどんな処罰を受けるのだろうかと考えていただけである。

 

「これで分かっただろう!私が全く悪く無く、悪いのは邪魔をした放送部に居た連中だと!!そもそもお前が一夏の邪魔さえしなければこんな事にはなってなかったんだ!悪いのはお前の方だ!」

「てめえ、それを本気で言ってんのか・・・!?」

「何だ!?私は何も間違った事は言っていな・・・な、なんだその目は!?」

 

篠ノ之の身勝手な言動に堪忍袋の緒が切れたソレイユはゆっくりと篠ノ之に向かって、体全体から殺気を漂わせて歩き始めた。

 

「な、なんだお前!私に何をするつもりだ!私は篠ノ之束の妹だぞ。私に何か有ればただでは済まないんだぞ!」

「・・・・・・」

「おい、ソレイユ何をする気なんだ辞めろよ!!」

「邪魔だ!」

 

ソレイユは立ちはだかった一夏を弾き飛ばして歩みを進めた。周囲はタンジェントを除いてソレイユの怒りによる威圧に圧され呼吸さえも忘れていた。

 

「う・・・うわーーー死ねーーー」

 

恐怖に負けた篠ノ之が何処からか取り出した木刀でソレイユに襲い掛かったが、ソレイユは木刀を片手で受け止めるとそのまま握り潰した。

 

「ヒッ・・・」

「ウオーーーーーーーーー」

 

ドッゴーーーーーーーーーーン 「ヴォゲァア!!!」

 

怒りに満ちたソレイユの強烈な覇気を込めた一撃は篠ノ之の顔面に入り、勢いそのままに篠ノ之は吹き飛んでいった。学園長室の壁を突き抜けたが、それでも勢いは止まることは無く隣の空き教室の壁にめり込む形でようやく止まったのであった。

 

「屑が・・・姉がゴミ屑なら妹もゴミ屑だな」

 

吐き捨てるようにそう言うとソレイユは頭を掻きながらタンジェントに軽く謝った。

 

「わりぃな、タンジェント。どうしても我慢できなかったんだ」

「ニャハニャハニャハ、ソレイユさんがやらなければ私が切り捨てていたところですよ」

 

続いてソレイユは学園長に向き直り唖然としている周囲を無視して姿勢を正して頭を下げた。

 

「すいません。修理費はこちらの方に請求してください」

 

一枚のメモ用紙を渡すとソレイユは何事もなかったかのように自分が元居た場所まで戻っていった。その後、最初に気を取り直した学園長により今回の事件による処罰が発表された。

 

「織斑先生は減給半年及び緊急時の指揮権の剥奪と篠ノ之さんに暴行を教唆したとして被害に遭われた生徒達への賠償、加えて担任から副担任に降格。代わりに山田先生を担任とします。篠ノ之さんは反省文100枚に停学一週間と致します。協議は以上です」

 

篠ノ之への罰が軽い事にソレイユは抗議したが、下手に重い罰を下すとIS委員会の横槍が入れられる可能性がある事、篠ノ之束の不興を買う可能性がある事、なによりソレイユにより跡が残るほど強烈な一撃を喰らっているという事情によりこの程度に済んだ事を説明されて引き下がった。一撃をかました事を言われてはソレイユもこれ以上何も言えず、学園長に挨拶を済ませてタンジェントと部屋を後にした。

 

織斑も篠ノ之を殴打したソレイユに何も罰が無い事を抗議したが、木刀で先に殴りかかったのは篠ノ之の方でありソレイユの行動は正当防衛として認められるとけんもほろろに相手にされなかった。それでも食い下がろうとしたが姉から無理矢理止められ、引きずられるように部屋から出て行った。学園長以外の人達も順次部屋から退出していった。

 

 

「あの侵入してきた無人機を詳しく解析できてたら、いろいろ分かった事もあるだろうに。本当に余計な事しやがって、あのメス共」

 

帰りの軍艦の中の自室でソレイユはビールを飲みながら一人ごちた。一発かましてやったものの箒に対して完全に腹の虫が収まった訳では無い。むしろヨウヨウの実の力も込めてやったら良かったと後悔しているぐらいである。

 

「ニャハニャハニャハ、ソレイユさん大分ご機嫌斜めですね」

 

ノックをした後にタンジェントが部屋に入ってきた。ソレイユはタンジェントを一瞥すると短く「ああ」とだけ答えてビールをまた煽った。その様子を見たタンジェントは冷蔵庫からビールを取り出してから、厳かな顔になってソレイユの向かいに座った。

 

「ソレイユ、今回無人機を解析出来ないのは確かにあの馬鹿どものせいですが、0,5%程は貴方にも責任があるのですよ」

「お、俺に責任が!ど、どんなだ」

 

タンジェントの思いがけない言葉にソレイユは思わず立ち上がって問いかけた。そんなソレイユに手で着席を促してからタンジェントは語り始めた。

 

「ソレイユさんの責任というのは言い過ぎたかもしれません。しかしソレイユさんが最初の一撃で仕留めることが出来なかったのはふがいない事ですよ」

「そ、それはそうかもしれねえが・・・でも「大将黄猿でしたら間違いなく一撃で仕留めていましたよ」っ!?」

 

非常に痛い事を突かれてソレイユは顔をゆがめて黙った。少将と大将を比べるのは酷だと思うかもしれないが、能力だけを見るなら同じ自然系かつより強力な能力を持っている為ソレイユは反論する事が出来なかった。

 

「それにもしソレイユさんが武装色の覇気を外に纏う事が出来ていたら、レインボーシャワーを使う必要など無かったはずですよ。剃で高速で近づいて掴んでしまえば後は覇気を流して中の機械を破壊してしまえばそれでお終いだったでしょう」

 

まごうことなき正論を言われたソレイユはビールを飲む事も忘れて固まった。極論だと思うかもしれないが海兵にとっては強さこそがステータス。自分の不備を淡々と言われては黙るしかなかった。

 

「まあ、長々といろいろ言いましたが私が何を言いたいかというと・・・」

 

タンジェントはビールを開けて一気に飲み干してからソレイユに一喝した。

 

「あの程度の雑魚一撃で倒しなさい!この未熟者!!」

 

タンジェントの一喝を受けたソレイユは思わず仰け反った。タンジェントに怒鳴られるのは今までに何度もあったがここまで強烈なのは久しぶりだ。それだけソレイユの成長の停滞に苛立ちを感じていたのだろう。

 

「・・・タンジェントの言うとおりだな。最近の俺はどこか弛んでいたのかもしれない」

 

その言葉を聞いたタンジェントはニッコリと微笑み、ソレイユに宣告した。

 

「ソレイユさんならきっと分かってくれると思っていましたよ。これからもビシバシ鍛えていきますから。手始めにまだ習得出来ていない6式の鉄塊と紙絵を使えるようになってもらいます。そして・・・弛んでた罰として今日から3日間禁酒です」

 

タンジェントは新たにビールを2本持ってくると、両方とも自分の側に置きこれみよがしに飲み始め、ソレイユはこの世の終わりのような顔をしていた。

 

「それはねえだろ!!?」

 

ソレイユの悲鳴にも似た叫びは船内に響いたのであった。

 

 

ソレイユがタンジェントに禁酒(死の宣告)を告げられた頃、誰も知られていない某所でウサ耳を付けた1人の女マッドサイエンティスト=篠ノ之束がモニターに椅子を投げつけていた。モニターは煙を噴いて、完全に壊れていた。

 

「ハァハァハァ・・・何なんだよ一体何が起きてるんだよ!!」

 

束は半狂乱に陥りながら叫んでいる。こうなっている原因は先の侵入したIS(束が一夏に活躍させようと送り込んだ物)がソレイユに撃破された事に怒り、海軍にハッキングを仕掛けようとして返り討ちに合い逆にハッキングされ居場所が特定されそうになったせいである。

 

「何なんだよ!あのソレイユとかいう奴、本当ならいっくんが活躍する所を横取りしやがって!!それにあいつのISの威力も訳が分からないよ!?あんなもの誰が作ったんだよ!?この天才である束さん以上の天才が居る?そんなの絶対にあり得ないよ!!?」

 

非常に自己中心的な事をまき散らしながら束は荒れている。傍から見ればまるで大きな子供が癇癪を起しながら駄々をこねているようにしか見えなかった。

 

同じ頃、エッグヘッドに居るベガパンクは先の束による攻撃(ハッキング)についてボヤいていた。

 

「全く忙しいのつまらん悪戯してきおって。まあいい、既に動向を監視できるウイルスは送り込めたしのう」

 

機械を壊す事でハッキングを防いだと束は思っているが束以上の天才であるベガパンクは既にハッキングを済ませていたのである。これで海軍側は常に束の動向を監視できるようになった。

 

「それにしてもISなどという欠陥だらけの兵器でどうして他の国が騒ぐのか全く分からんわい。私ならこんな失敗作を公表するなど絶対出来ん」

 

完璧主義者であるベガパンクにとってISとそれを作った束は軽蔑の対象でしかなかった。自分が作り出したピースと比べれば雲泥の差だと思い、再び研究に戻った。




禁酒期間を無事に耐え抜いたソレイユ
気分転換も兼ねて外で飲もうとぶらついていると一軒の食堂を見つける
食事を楽しんでいるソレイユ達の元にチンピラの因縁が!?

次回、IS 復讐の海兵
「海軍将校御用達認定 五反田食堂」
あいつらは必ず地獄に落とす!!

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