洞窟内部にある幽霊船に残された金銀財宝は、全て二人の手によって運び出された。
手で運び出すには量が多過ぎたため、船内に残っていた小舟を二つ拝借し、一つに宝を乗せ、一つは二人が乗る用として外へ運び出した。洞窟の中で船を引きずり、岩礁地帯を越えるのには苦労したがビーチに戻れば大漁といった様相で喜ぶばかりである。
小舟を二つ引き連れてビーチへ戻った時、空の色は変わっていた。
日が沈むにつれて赤みを増した空は夕暮れに染まっている。夜が来て暗くなる時は近い。今からの出航は危険であろう。夜の航海は昼間よりも困難になることは知っている。
そのため、二人はその島で一日を終えることを決め、野宿の準備に取り掛かっていた。
無人島に漂着して、一日中を冒険に使った。初めこそ文句を言いつつだったが、結局は楽しんで収穫も多い。目まぐるしい一日だったと今になって思う。
ルフィは森の中へ狩りに出かけ、キリはビーチで焚火の準備をしていた。
木の枝を集めて火打石を使い、火を点けた。徐々に薄暗くなりつつある辺りでオレンジ色の炎が映える。静寂の中でパチパチ小さな音が鳴って、彼の顔を照らし出した。表情は暗い。今はこの場に居ないルフィと共にお宝を運び出していた時とは一転して物憂げな顔だ。
何かを考えているのか。一人で焚火の前に座り、時折思い出したように木の枝を放り込む。
彼の仕事はすでに終わってしまった。一度川へ赴いて、島に漂着した物を使って水を汲んだし、ルフィの手を借りずにフルーツも収穫した。それでも時間が余ったらしい。
準備が手早く終わってしまったため、手持ち無沙汰になってしばらくそうしていた。正確な時間にして二時間と三十四分五十二秒。何をするでもなくじっと火を見つめて、自分の思考に埋没していき、周囲にある些細な音を聞きながら頭の中にはかつての情景が浮かんでいる。
懐かしくも楽しい冒険譚。海賊として生きた自らの証明。
今や遠く、全ては過去だ。
過ぎ去って以来思い出さないようにしていた。思い出せば辛くなる。だからと努めて考えないようにして、それも難しくて時間がかかった。
だがやっと忘れられたかと思っていたのに、思い出そうとすれば一秒とかからず頭の中に浮かんでくる。忘れようとした物など何一つ捨て切れておらず、他人にとってはどうでもいいような小さなことまで覚えているなど、皮肉な物である。
ルフィが傍に居ないと島は驚くほど静かだった。
嫌というほど考え事をする暇があって、彼と行動を共にしていた時がどれほど恵まれていたかわかる。誰も居ない島で一人になるとどうしても孤独を感じ、様々な出来事があったせいだが、暗い思考に陥ることもしばしばある。特に思い出されるのは洞窟内にあった幽霊船の状況だ。
大きな後悔を抱えたままでの最期だっただろう。気持ちはわかる、気がする。それだけにつらつらと考え事が止まらずに表情が浮かないのだ。
小さく溜息をつく。
その時を見計らったかのように森からルフィが飛びだしてきて、あまりにも大きな声に肩がびくつき、見てみれば仕留めた獲物を運んでいた。
「おーいキリっ、見ろこれ! ワニだぞワニ!」
「おぉ、すごいの捕って来たね」
嬉しそうに駆けてくるルフィを立ち上がって迎えてやり、ずるずると引っ張られてくる獲物を見る。尻尾を持たれて引きずられていたのは二匹の巨大なワニだった。
目を回して気絶しているらしく、ぴくりとも動かない。
武器すら持っていないため素手で仕留めたのだろう。尻尾を離し、二匹を置いたルフィはひたすら楽しそうに笑っており、彼らを食料として食すことに全く躊躇いはなかったようだ。
海賊として航海した経験を持つキリでさえ、ワニの肉を食べた経験などない。
二人で囲む初めての食卓としては、中々豪快な食事になりそうだと驚きを隠せなかった。
「しっしっし、川で泳いでたんだ。知ってるか? ワニの肉ってうめぇんだぞ」
「流石に経験ないなぁ。ちょっと怖い気もするけど」
「丸焼きにしようぜ。絶対うめぇから。キリも気に入るぞ」
「そうかなぁ。やったことあるの?」
「ああ。これなら慣れてる」
「じゃあ任せるよ。これは手伝えそうにないや」
「おし、任せろ」
大丈夫だろうと一任すると、ルフィが手慣れた手つきで準備を始める。と言ってもやることはワニの巨体に串代わりの木の枝を通し、火で焼くだけだ。テキパキと素早く火にかけられる。
昼間とはまた違った姿である。どうやら慣れてさえいれば手先が不器用というわけでもないらしい。性格のイメージからてっきり細かい作業は苦手だと思っていたが違ったようだ。
キリは彼の動きを眺め、砂浜に座って胡坐を掻く。
丸焼きにするため木の枝が放られ、火が大きくなった。熱気が強くなって距離があっても熱さが伝わる。けれど逃げることもなくそこに居て、なんとなくルフィの顔を眺める。ずいぶん楽しそうだ。冒険を終えても上機嫌さはそのまま、真似し難い気楽さが見える。
やはり傍に居れば自然と笑顔になる人だった。キリの肩の力も抜けていたらしい。
嫌な思考は消え去って、ようやく落ち着きを取り戻す。
「ありがとう」
「ん? なんだ? ワニか?」
「違うよ。今日一日のこと。最後の冒険にふさわしいくらい、楽しかった」
今は穏やかな笑みを浮かべていた。軽くなった声で気楽に告げられる。
ころころと表情が変わるのはルフィだけではない。キリの表情もよく変わる。
全く同じという様相でもないが、同じ笑みでもルフィの目には感情が違っているように見え、お互い相手に対して似たような感想を持っていたようだ。表現は同じで、わかりやすい人間だ、と。
達観した様子で言うキリに対し、少し不満げなルフィは手を止めずに言った。
「やっぱり最後なのか。もったいねぇなぁ。せっかく海賊やってたのに」
「またその話」
「村に帰るのか?」
「うん、ゆくゆくはね。とりあえず町がある島までは送っていくよ。お世話になったし」
「そうか……」
ぼうっとした顔でルフィが呟く。
寂しがっているのだろう。仲間に勧誘していたのは冗談ではなく本気だったに違いない。
その顔を見れば悪いとは思うものの返答は変わらず。
ワニを焼き始めたルフィも準備を終え、砂浜に座って彼の目を見た。
「なぁ、キリは村に帰って何するんだ?」
「元は漁師の子供だからね。漁師でもしようかと思ってた」
「父ちゃんの跡継ぐのか?」
「いや、ボクが村を出た時には、両親が亡くなった後だったから。跡継ぎって感じではないかな。まぁ最悪、他の仕事でも良かったし」
「海賊は?」
「それはやめた」
「なーんだ」
つまらなそうに唇を尖らせたルフィだが、尚も質問を続ける。
「グランドラインにも行ったんだろ?」
「うん。何年か航海してたよ」
「どんな冒険してたんだ? 聞かせてくれよ」
「それは自分で行ってみて確認してみた方がいいんじゃないかな。これから向かうんでしょ」
「そうなんだけどさ。このままキリと別れちまうんだったら、どんな冒険したか知るのは今しかないだろ。せっかくだから教えてくれ」
「まぁ、そりゃ確かに」
「一つでいいからさ、どんなことがあったんだ?」
尋ねられてキリも頷き、納得した様子。
興味津々といった顔のルフィに逆らえず、思案しながら話し始める。
「そうだなぁ……それじゃあ――」
パッと笑顔が咲くようで、キリが前のめりの姿勢になる。
「空島、って聞いたことある?」
「知らねぇ。なんだそれ?」
「その名の通りさ。空の上に島が浮いていて、独自に文化を築いているんだ」
「空の上に?」
「そう。白い雲の海が広がって、陸地も雲で出来てる。ソファやベッドも雲で作られてて、生態系も独特の物になっててさ。この青海とも違ってすごくきれいな場所なんだ」
「へぇぇ」
「例えば――」
珍しいと感じるが、キリは喜々として語り出し、ルフィも楽しそうに聞いていた。
語られる話は信じ難いような情景ばかりで、紡がれる言葉は興味深い物ばかり。
想像するだけで興奮した。
次第に二人の声は大きくなり、笑い声も辺りへ広がる。
時間が経ち、食事を始める頃になっても会話は止まらずに、食事が終わった後でも、日が落ち切った後でも二人の楽しげな声は無人島の中で響いていた。
*
辺りはすっかり暗くなり、夜の帳が下りた。
食事を終えて以降、きれいさっぱり食されたワニの骨がビーチに転がっており、近くには焚火の名残がある。火は消えて、光となって辺りを照らすのは空に浮かぶ月だけであった。
二人の少年は大の字になって寝転び、ただ静かに星空を眺めている。
食事時の喧騒とは打って変わった静かな風景。しばらくの間、二人の間に会話はなかった。ひとしきりしゃべって満足したのか、何か思うところがあったのかは本人のみが知るところだが、口を開くことはなく、少なくとも以前はあったはずの笑みは鳴りを潜めている。どちらも真剣に見える眼差しで、なんとなくではあるものの同じ方向を見ているのはわかっていた。
空気は決して悪いものではない。相手が眠っていないことは知っていて、不思議なことに会話が途切れても息苦しさは感じなかった。
それでもある時、ルフィがぽつりと呟く。
「キリは、やっぱり海賊が好きなんだな」
唐突だと感じる言葉である。
わずかに顔を動かして彼を見たキリは、心底不思議そうに眉をひそめた。
「なんで?」
「さっき話してた時、すげぇ楽しそうだった。好きじゃなきゃあんな顔できないだろ」
「うん……そうだね。きっと好きなままなんだと思う」
「なのに海賊やめるのか?」
「続ける理由がなくなったんだ。だからもういいかなって」
「やめた理由聞いても答えなかったよな。なんか関係あんのか?」
「まぁ、そうだね。考えてみれば隠すことでもないから、今聞かれたら答えるよ」
キリの顔が再び空を見上げた。ルフィの問いは尚も続く。
「仲間はどうしてるんだ?」
「死んだよ。一人残らず」
端的に告げられた言葉は穏やかで、しかし驚愕するものだった。
ルフィがキリの横顔を見るも、彼の顔には動揺のない微笑みがある。
「グランドラインを航海中、同業者とやりあってね。だけど相手の方が何倍も強くて、ボクらじゃとても太刀打ちできなかった」
「負けたのか?」
「うん、あっさりと。見る見るうちに仲間が殺されていって、一味全員、一夜の内に全滅した。最後は船ごと海の中に沈んでいったよ」
「でもキリは生きてるじゃねぇか。仲間なのに」
「戦ってる最中に、ボクだけ逃がされたんだ。一味の中じゃ一番年下だったし、仲間になった時は子供だったからね。そういう情があったんだと思う。無理やり小舟に乗せられて海に放り出されて、それっきり。嵐の日だった。ボクも波に呑まれて、仲間たちも海の中に消えて行った」
なんでもないことのように言っているが、それなりの感情はあるのだろう。無理に笑っているように見えて、見ている方がひどく心が痛んだ。
ルフィもまた空を見上げ、何も表情を浮かべずに彼の声に耳を傾ける。
「あの時のことは目に焼き付いてるんだ。敵船の旗も船が沈んでいく姿もよく覚えてる。仲間は、きっと善意でやってくれたんだろうけどさ。自分だけ生き残っても、全然喜べなくて」
自嘲するような静かな声だったが、その一瞬、確かに表情は変わっていて。
感情が変わって強く告げられる。
「いっしょに死にたかった」
それはきっと初めて口にする本心だった。
文句を言おうにも伝えたい相手はすでにこの世におらず、誰にも言えずに心の中へ深く突き刺さっていた楔。吐露したところで誰も戻ってきたりはしない。
今日一日を共にして見た事がない彼がそこに居て、空気が重くなったように感じる。
キリが目を閉じ、ふっと笑みを見せた。
「海賊やってる以上はいつでも死ぬ覚悟はしてたし、別に今更相手を恨んだりもしない。ただ、仲間が死んで、もう海賊やる理由がなくなった。終わりでいいんだ。後悔だってない。後はこのまま村に帰って静かに暮らすよ。お宝も手に入れたし、山分けにしたってかなり手元に残る。新しく何かを始めるには十分でしょ」
「ほんとにそれでいいのか?」
「もちろん。もう納得してることだ」
「ん~……おれは納得できねぇ」
何かが納得し難いとルフィが呻く。
しばし沈黙が生まれ、言葉にするのに多少の時間はかかったが、なんとか気持ちを整理することはできたようだ。厳しい表情から一転、いつかのような楽しげな笑みが浮かぶ。
突然立ち上がり、口の端をにっと上げて、寝転ぶキリを見下ろしてルフィが言った。
「キリ、おれの仲間になれ!」
予想だにしていなかった発言である。彼の勧誘を断り続けた理由を話していたはずが、まさかそんなことを言われるとは。あんぐりと口を開けてキリが言葉を失う。
どんな考えを持ってそんな答えになったのだろう。興味がない訳ではない。
体を起こし、その場に座ったキリは溜息をつきながら返答する。
「あのさ、話聞いてた? ボクは海賊にならないって言ったつもりなんだけど」
「おう、わかったぞ。おれだってそこまでバカじゃねぇ」
「じゃあなんでそんな答えになるの」
「おれが納得できなかったからだ。やめるとか言うなよ、おまえだって海賊好きなのによぉ」
「……ハァ」
思わず頭を抱えてさっきより深い溜息をつく。
話し合いで分かり合うのは難しい相手だ。おそらく感情と勢いで話している部分が多いに違いない。こういうタイプは中々自分の意見を曲げないのだと知っている。
長くなりそうだと思いつつ、苦笑する彼は諭すように言葉を選んだ。
「好きだからってだけじゃ続けられないことだってあるよ。今から海賊になったって――」
「海賊やる理由、ないんだろ? だったら作りゃいいだけじゃねぇか」
「作る?」
「おれは海賊王になるのが夢だ。手伝ってくれよ。おまえがおれを海賊王にしてくれ」
「はぁ?」
首をかしげて間抜けな声が出た。こんなに驚いたのはいつぶりだろうか。驚きつつも頭のどこかに残った冷静な思考がそう考えている。
ずいぶんと突飛な考え方だ。何を言われてもおかしくはないと思っていたがそれは流石に受け止めきれない。自分勝手で、自由で、予想の斜め上を行く変わった提案だった。だがルフィは自信満々に腰に手を当て、胸を張り、威風堂々といった立ち姿でキリの目を覗き込む。
邪気のない、黒々としながら輝くような目。暗闇の中でもよくわかった。
月の光を背負い、にかっと笑う彼の姿は、不思議と鮮明にキリの頭の中へ焼き付いた。
「おれは海賊王になるけど、一人じゃ無理だ。地図も読めねぇし道にだって迷う。だからさ、おれにできねぇことはキリがやってくれよ。代わりにおれは、これからおれたちの仲間になるやつを絶対死なせねぇ。何があっても守ってやる」
堂々と言いのけられるのは自信がある故か。はたまた根拠のない虚勢か。
とにもかくにもキリの中にするりと入り込んだのは事実だ。
「おれはおまえに逃げろなんて言わねぇぞ。死ぬなって言って、戦えって言う。そんでキリに勝てない奴がいたら、おれがぶっ飛ばす。そしたら誰も死なずにまた航海が続けられるだろ」
「そりゃ、まぁ、そうだろうけど……」
「これから先何があっても、海賊王になるまでおれは死なねぇって約束できる。で、キリはおれを死なせるな。二人でいっしょに海賊王になろう」
大した胆力だと思う。どこまでも傲慢でわがままな頼みだった。
キリが語った話を理解しているかどうかすら不明瞭。ただ妙に自信満々で迷いがないことは確かである。だからこそ海賊らしい、といったところだろうか。
気分は悪くなかった。
そうでなければ海賊などふさわしくないとすら思っている。他人を気遣っているようではグランドラインでの航海は不可能、海賊王など夢のまた夢。そういう意味では好意的な態度だった。
「ボクが海賊になる理由が、君を海賊王にするため?」
「ししし、ああ」
確認しても答えは同じ。
気分で言っているのではない。本気でそう決めたようだ。
断ることだって可能だった。考える時間は与えられていて、命令するようで彼の意思を待つ態度。選択することは許されている。
それなのに心中は驚くほど静かだった。
彼も海賊の端くれだからか。人の話も過去も顧みない自由気ままな言葉を向けられたキリは、不思議と笑みが溢れてくるのを自覚していた。ルフィの言葉や態度にわずかな身震いを感じてすらいる。まるで初めて海賊船に乗り込んだ時のように。
様々な想いや情景が脳裏を駆け巡る。
かつて海賊として航海した頃、大きな悲しみを抱いた一味の最期、一人で広大な海を旅したことや、今日の出来事まで。洞窟内に取り残された幽霊船のことが思い出される。陸の上で死に絶えた海賊たちはひどく後悔し、船長は手紙に無念の言葉をしたためた。
海の上で死にたかった。その言葉に共感したのは嘘ではない。
やめようと決め、目を逸らし続けても、本心は納得している訳ではなかった。
離れたはずの海賊家業に大きな後悔を残しており、寂しさは増大されていて、それに気付かされた今となっては彼に逆らうことなど不可能だ。もうこれ以上無視することはできない。
諦めたように溜息をついて、笑顔でルフィの顔を見上げる。
「ハァ、ほんとしつこい人だ。これじゃボクがうんって言うまで終わらないでしょ」
「んなことねぇよ。決めるのはキリだぞ」
「はは、どうだか」
すっと憑き物が取れたかのような表情に変わる。キリは自然と笑っていた。
静かに立ち上がって彼に向き合い、目を合わせて、ひどく落ち着いた声で告げる。
「負けたよ。そこまで言われたら試してみたくなった」
「おっ、それじゃあ――」
「約束する。ボクが君を、海賊の王にする」
ようやく、望んでいた答えが得られた。
ルフィは心底嬉しそうに笑い、あまりにもわかりやすいその表情にキリが肩をすくめる。
どちらからともなく手を握り合った。しかし最初に差し伸べたのはルフィだとキリは思う。
彼に誘われなければきっと後悔したままだったはず。言うなればチャンスが与えられたということ。何より、それだけ自信に満ちた声で言われた後では、彼の行く末を見守りたいと思った。
かつては、ただ憧れから海賊になった。それだけに仲間を失い、失意のどん底に落ちた後では続ける理由もないと決めつけていた。しかし今度は違う。明確な理由を定めて、目的を見続ける限り前のようにはならないに違いない。
決意を新たに旅立つには良い機会だ。
海賊らしいが故に厄介な相棒と、心躍る冒険。そして後悔しない生き方を模索した結果である。
手を離し、月明りに照らされる穏やかな波を見たキリは静かに問う。
「ねぇ。さっき、自由に生きるって言ってたよね」
「ああ、言ったぞ。エースとの約束だ」
「ボクにもできるかな」
「そりゃできるさ。おれもおまえも海賊なんだからな」
「あはは、そうだね」
再び二人の視線が合わさり、わずかな光の下でも鮮明に表情が見えた。
「これからよろしく、ルフィ」
「しっしっし。やっとおれの名前呼んだな」
輝くような笑顔で、期待と好奇心に溢れた、そんな顔だった。