ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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SHOW TIME(3)

 先に動き出したのはルフィだった。

 ゴムで出来た肉体を十全に操る彼は距離を選ばず素手での攻撃を繰り出せる。

 振り上げられた右脚は、蹴りを放つと同時に伸びてバギーの体へ迫る。

 

 「ゴムゴムの鞭ィ!」

 

 速度は十分。素早くバギーの腹へと迫っていった。しかし攻撃が届く前に彼の上半身と下半身が分かれてしまい、上半身は空を飛ぶ。それによって蹴りは空を切った。

 瞬時にバギーが反撃のため、指の間にナイフを挟んで腕を構える。

 右腕を銃に見立て、攻撃はナイフによる刺突。

 投擲とは違って腕ごと発射すれば空中で攻撃の軌道を変化させることも可能だ。

 バギーは雄々しく叫んで右腕を発射した。

 

 「バラバラ砲!」

 「うわっ、飛んできた」

 

 肩から切り離された右腕がナイフを持って飛来する。奇妙な光景だがバラバラ人間であることを考えれば至極当然の攻撃方法。驚くルフィは即座に動き出す。

 回避しようと軌道上から離れようとした。しかしバギーの腕は空中で自由自在に動き、翼もないのにまさしく飛んでいて、逃げようとするルフィを追いすがる。これでは逃げられないと判断し、仕方なく足を止めた。迫る腕を自身に当たる直前に受け止めたのである。

 ナイフが顔に当たらないよう、がしっと手首の辺りを掴んだ。

 

 「ふんっ!」

 「バカめ。切り離し!」

 「うわっ!?」

 

 完璧に掴んだはずだったが、手首がさらに腕から切り離され、距離が近過ぎて突進してきた手は避け切れず、ナイフがルフィの右頬を掠る。少量とはいえ確かに血が流れた。

 すぐに腕を離して距離を取る。

 傷は浅いとはいえ痛みはある。だが今ので仕留められなかっただけマシだろう。

 体勢を立て直そうとするルフィとは裏腹に、バギーは悔しげな表情だった。

 上手くいけば今の奇襲で仕留められてもおかしくなかったはず。恐るべきはその反射神経と即座に動ける身体能力。顔面を捉えられる距離だったが一瞬の挙動で顔を背けられた。

 互いに一つずつ互いの能力を把握していくようだ。

 ルフィのゴムゴムは攻撃、防御に優れ、しかしナイフで傷つけることは可能。

 対するバギーのバラバラは斬撃こそ無効にするが、打撃を受け流すことはできない。

 互いに得意不得意があって勝機は伺える。

 勝負は一時の切れ目ができた。

 

 「なるほど、ゴムの体か。どうやら斬撃は効くようだな」

 「うん」

 「バカが、自分から弱点をバラしやがって。それさえわかればこっちのもんだ」

 

 上半身は宙へ浮いたまま、下半身が独りでに動いて爪先で地面を叩く。すると靴に隠されていた小型ナイフが爪先から顔を出し、攻撃方法を変えるようだ。

 分かれた上半身と下半身がくっついて、元の姿に。

 その直後、力を溜めるように片足が上げられた。

 

 「バ~ラ~バ~ラ~せんべいッ!」

 

 脚を振って遠心力を手にした下半身は上半身から分離し、己の力のみで高速回転しながら飛んでいく。まるで巨大なブーメランだ。

 それを見たルフィは冷静にその場でジャンプする。

 

 「なんだ、こんなの」

 「かかったな」

 

 跳んだルフィの真下を攻撃が通り過ぎていった。

 それを見越していたのか、にやりと笑うバギーは両手のナイフを構える。

 

 「空中じゃあ、身動きが取れんだろう!」

 

 彼が避けることはわかっていた。そこも考慮した上での攻撃。

 空中へ逃げれば後は落下するだけ、回避行動を取るのは不可能。

 バギーは両手で八本のナイフを投げつけ、空中で動けないルフィを狙った。その挙動は確かに彼も見ていたものの、不思議と慌てず、笑みを浮かべるとおもむろに右腕を伸ばす。

 

 「取れるさっ」

 

 伸びた右腕は近くにあった家屋の柱へ巻き付き、縮む力で体がそちらへ引き寄せられる。投げられたナイフは当然空を切り、目標を見失って確かに回避された。

 ルフィは無傷で地面へ降り立ち、バギーは歯噛みして悔しがった。

 放った下半身が戻ってきて再びくっつく。

 彼もまた地面へ立ち、最初の時と同じ状態で対峙する。

 変わったのはルフィの頬に浅い傷が出来たのみ。状況には有利も不利もない。

 

 「おのれゴムゴム、予想外に動けやがる」

 「あー危なかった。あいつ何本ナイフ持ってんだ?」

 

 互いに疲労の色はない。まだ勝負は始まったばかりだ。

 それでいてバギーは苦心した表情を見せる。

 この男、想像以上の身体能力を持っている。頭は良くなさそうだが脅威に成り得た。

 早々に決着をつける可能性がある、と考えたらしい。

 再び両手にナイフを持ち、彼はにやりと笑う。

 

 「おい麦わら、おれはおまえと長く遊ぶつもりはねぇんだ。さっきも言ったな? バラバラの実の力を見せてやると」

 「言ってたな。で、何すんだ?」

 「今見せてやる。バラバラフェスティバル!」

 

 そう叫んだ直後、バギーの全身がバラバラになった。

 体のパーツがいくつにも分かれ、目で見て数えられるサイズだがその動きは奇妙で、ふわりと浮かぶパーツは空を飛んで自由自在に動き回る。これがバラバラの実の真骨頂。重力に逆らって空を飛ぶことができるのだ。ただし足だけは能力の範囲に入らず、地面から浮かび上がらせることはできない。それでも常人にしてみれば奇跡の光景だろう。

 体をいくつにも分ければ敵の攻撃は喰らわず、また自分の攻撃が当たりやすくなる。

 様々な角度、あらゆる死角から敵を奇襲できるのだ。

 腕や脚、武器を持てないパーツで敵に体当たりし、体勢が崩れた隙に手に持ったナイフで刺し殺す。作戦は完璧。ただそれだけで敵に勝つことができる。

 回避は簡単で攻撃は多種多様。バギーが自信を持つのも無理はなかった。

 バラバラになった体を見てルフィは感嘆した声を発する。

 

 「ぎゃーっはっはっは! どうだ見たか、これでてめぇはおれに触れることもできねぇ。いや触れられたとしてもその間にどっかから刺されちゃうかもよぉ? ただのゴムで止めれるもんなら止めてみやがれぇ!」

 「うし、わかった」

 

 バラバラになった状態で真正面から飛んでくる。ただしパーツが描く軌跡は多種多様で、目で見えていようがそう簡単に見切れる物ではない。

 ルフィは敢えてその場から動かず、両脚を踏ん張った。

 そしてなぜか拳を作って両腕を素早く動かし、何かの予備動作を始める。

 小刻みなパンチを無数に繰り返して威力を溜めるかのようだった。

 

 「ゴムゴムのォ――」

 「バァカめ、伸びるしか能がねぇゴムゴムが何をやっても無駄だ!」

 「銃乱打(ガトリング)!」

 「ハッ!?」

 

 繰り出されたのは伸びる腕による、無数のパンチだった。

 伸びて縮んで、また伸びて。ただそれを繰り返すだけの高速の攻撃。

 その攻撃の凄まじい点は手数の多さと、何より制圧力にある。

 バラバラになったパーツはどこから攻撃してくるかわからない。また、攻撃を当てることが難しい。最も恐れるべきは四方八方を囲まれて隙を探される状況。ならば囲まれないためには接近される前に殴り飛ばし、当てるためには手数を増やすしかない。ただそれだけの単純な思考。

 選んだのは前方、空間を埋め尽くすほどの攻撃を放つこと。

 数えきれないほどのパンチは確かにバギーのパーツすべてに当たり、一度触れた感触を覚えた直後に位置を覚え、その後はむしろ選んで敵へ攻撃を当て始めた。

 

 「おおおおおおっ――!」

 「ぶべぼがべぇ!?」

 

 奇妙な悲鳴を発しながらバギーは殴られ続ける。

 数秒、強烈なパンチを全身に浴びた後、最後とばかりに顔面が一際強く殴られる。

 勢いから飛ばされたパーツは積み重なった瓦礫まで飛び、やがて衝突して物々しい音を立てた。

 

 「ぎゃああああっ!?」

 

 間抜けな音を立てながら瓦礫の中を転がっていった。それ以来しばしバギーは静かになり、腕の動きを止めたルフィは深く息を吐く。上手く迎撃できて満足そうな顔だ。

 

 「よっし。どうだ、止めてやったぞ」

 

 自信満々にそう言うもののバギーには聞こえていなかったらしい。

 瓦礫から飛び出した彼はパーツを集め、元の姿で痛みから足をふらつかせる。

 

 「こ、こなくそぉ……よくもあんなふざけた攻撃でまぁ」

 「ふざけてねぇよ。大まじめだ」

 「やかましい! クソ、必ず消し飛ばしてやる……」

 

 恐ろしいガキである。常人が混乱する危機的な状況の中で逃げるどころか反撃してきた。しかもゴムの特性を生かし、腕力だけでない力が加わった強烈なパンチの嵐で。

 ますますバギーの怒りが大きくなる。が、今度は不用意に攻撃できない。

 頭を使うタイプではないだろうが、代わりに本能的な判断力に優れているのだろう。

 ならば頭を使って勝ってやる。

 そう考えながら周囲に視線を走らせた時、バギーの目に一つの物体が飛び込んだ。

 元酒場の瓦礫の近く、おそらく外に出されていた木箱がある。あれはバギー海賊団の荷物。中には彼らの所有物が入っているはずだった。

 船長たる彼ならば中身が何かも記憶している。

 喜々として走り出したバギーは疑問視するルフィも気にせず、木箱の傍へ立った。

 蓋を開けて中身を確認。一つだけ入っていたそれを取り出す。

 再び瓦礫の山の上へ立った彼は勝ち誇った顔で笑った。

 

 「ぎゃーはっはっは! どうだ見たか麦わら、おれの勝ちだァ!」

 「なんだよ、まだ決まってねぇだろ」

 「これから決まるんだよぉ。見ろ!」

 

 バギーが小脇に抱えていたのは赤い砲弾。赤鼻のドクロマークが描かれたバギー玉だった。

 町一つを消し飛ばす威力を持つ武器だ。

 その威力は酒場を吹き飛ばした光景からルフィも理解している。大砲がない現状とはいえ、確かに起爆さえさせれば辺りに甚大な被害を与えるだろう。

 勝ち誇った顔でバギーが笑い、ルフィは冷静な顔で向き合う。

 

 「いいか小僧、海賊に必要なのは姑息さと残忍さとそして勝利だ! 勝った奴がルールになり、敗者は悪になる。たとえどんな卑怯な手を使おうが勝った奴が偉いんだよォ!」

 「ふぅ~ん。でもおれは負けないけどね」

 「言ってろ。こいつの威力はその目で見たはずだ。今からおれがこいつでおめぇを消し飛ばし、海賊の何たるかを教えてやる――」

 「もうやめんかッ!」

 

 バギーが両手で持った砲弾を純粋に投げつけようとした時、鋭い声が割って入った。

 二人は同時に同じ方向を見る。

 そこには申し訳程度にお手製の鎧を胴につけた老人が一人。

 思わずといった様子で駆けつけた、町長のブードルがバギーを睨みつけていた。

 

 「なんだてめぇは。町の人間か?」

 「そうじゃ、わしはこの町の町長ブードル! ここはわしらの町! わしの許可なく傷つけるのは許さん!」

 「なるほど。じゃあてめぇに許可を仰げば傷つけていいわけだ……」

 

 そう言うとバギーは頭を下げ、いやらしく笑いながら言う。

 

 「お願いします、この町を消し飛ばさせてください。これでいいか? ぎゃっはっはっは!」

 「くぅ、もう辛抱ならん……この町から出ていけ! おまえにこの町を壊す権利などない!」

 「あぁ? おいおい、また面倒なこと言い出しやがったぜ。権利だと?」

 「そうじゃ。苦節四十二年、かつて海賊に町を壊されたわしらが、この土地にて一つずつ築き上げ、育て上げた大事な町。なぜ貴様らに壊されねばならん!」

 「そりゃあ決まってんだろう……おれが海賊で、てめぇに力がねぇからだ」

 

 冷徹に吐き捨て、再びバギーは砲弾を振りかぶった。

 遠心力を使った投法で自らの腕から砲弾を放ち、狙った先はブードル。やかましい老人をルフィごと消し飛ばすのだと砲弾は確かに投げられた。

 

 「大事なら、ちゃんと守れェ!」

 「うぅ、うおぉ――!」

 

 迫り来る砲弾を見てブードルは動かなかった。

 逃げる暇もあったかもしれない、しかしそれを拒んでその場に立つことを決めたのである。

 すべては町を守りたい一心。力はなくとも想いはある。

 最後の一瞬まで目を離しはしないと砲弾を睨み続けた。

 しかして、その想いは確かに届く。

 ブードルと砲弾の間に飛び込んだルフィは迫る攻撃を見据え、大きく息を吸い込んだ。ゴムの体が一瞬で膨らみ、太ったかのような様相で、腹の内に大量の空気を含む。まるで風船といった姿と性質。その大きな腹で飛んでくる砲弾を受け止めた。

 まさかの光景であった。人体が奇妙に膨らむことも、砲弾を受け止めることも。

 ルフィは受け止めたのみならず、弾力を使って受けた砲弾を跳ね返す。

 再び放たれたそれは狙い澄ましたかのように同じ軌道で、今度はバギーへと向かっていった。

 

 「な、な、なっ、なにィィ!? んなアホなァ!?」

 

 逃れることはできず、バギーの体に砲弾が直撃する。

 以前と同じ光景、砲弾は爆発した。ただし今回の物は失敗作だったか、爆発の規模は小さく、それでも人体には甚大な被害を与えるものだったが、バギーの体を吹き飛ばす。

 黒煙から突き出たバギーの体は空を飛ぶ。

 それでもルフィは止まらずに、両腕を伸ばして両側にある家屋を掴むと、腕を発射台に自らを発射した。勢いよく空へ飛んで一直線にバギーを追う。

 

 「ゴムゴムのロケットォ!」

 「お、おい小童!」

 

 ブードルの制止を聞かずに飛び出した彼は、瞬く間にバギーへ接近し。

 ようやくその事実に気付いた表情を見ながら、後方へできるだけ長く腕を伸ばした。

 

 「おいバギー!」

 「ぎゃああっ、麦わらァ!?」

 「あのおっさんの勝ちだ。諦めろ」

 

 笑顔で告げてゴムの両腕を一気に前方へ突き出す。

 後方へ伸ばした反動を利用した一撃は目にも止まらない。凄まじい音を称えながらすべての力が攻撃に利用され、視認するのも難しい速度で、バギーの体へと迫った。

 

 「吹き飛べ!」

 「ま、待て、やめろォ――」

 「ゴムゴムの、バズーカァ!」

 

 繰り出された掌底は強かに腹を打ち、息が詰まったのも一瞬、バギーを吹き飛ばす。

 絞り出た悲鳴は空の彼方まで飛んで行き、すぐに彼の姿は見えなくなった。

 攻撃の衝突で飛ぶ勢いを失くしたルフィは、決着がついたと感じてそのまま落ちていく。

 四肢は大の字に伸ばされ、笑顔を浮かべる。恐怖心の一切もなく町へ落下していった。

 その様を、ブードルはじっと見つめて目が離せなかった。

 バギーを吹き飛ばして、町を守って、自分を助けてくれた少年を。名前も知らぬ他人でありながら、この一瞬、彼は確かにやり遂げた。

 痛いほどに握られていた手から力が抜け、ふっと体が軽くなる。

 ブードルは笑顔でルフィを見上げた。

 町は今、海賊たちの支配から逃れたのだ。

 

 「あーっ、危ねぇぞゾロぉ!」

 「あぁ? おいバカっ、何やってんだ――!」

 

 着地を考えてルフィが地面に目をやった時、なぜか真下にはゾロが居た。

 避けろと声をかけたところで遅く。逃げ遅れた彼に衝突する。無理やりではあったがゾロに受け止められた形となり、元々ゴムだからダメージはないのだが、ルフィは無傷で町へ降りることに成功した。代わりに下敷きになってしまったゾロは多少体を痛めたようで、自分の上に居るルフィを素早く投げ飛ばす。衝突の音は凄まじかったが思いのほか元気そうではある。

 からからと笑うルフィへ牙を剥いて、ゾロは思わず頭を殴った。

 

 「こんのバカが! 何いきなり降ってきてんだ!」

 「なっはっは、敵ぶっ飛ばしたとこだったんだよ。悪かったって」

 「ったく。敵につけられた傷はねぇってのに、なんで味方にやられなきゃいけねぇ」

 「まぁよくあることだ。気にすんな」

 「よくあって堪るか! 二度とすんなよ」

 

 何も本気で怒っている訳ではないらしく、頭を抱えたゾロはやれやれと首を振る。

 その場へ座った二人は互いの勝利を理解し合っていたようだ。

 結果は聞くまでもなくわかっているが話のきっかけにはなるのだろう。別段慌てる必要もなく、誰も居ない通りの地べたに座ったまま会話が始まる。

 

 「で、勝ったのか?」

 「おう。そっちは?」

 「手応えのねぇ相手だったぜ。これじゃ肩ならしにもなりゃしねぇ」

 「ししし。ゾロは強ぇからなぁ」

 

 上機嫌にルフィが笑えば、つられたのかゾロまで笑みを浮かべる。

 戦闘後のわずかな気の緩みでようやく肩の力が抜けた。

 座り込んだ彼らが話していると路地を通り抜けてキリとシルクが駆けつけた。空中で起きた爆発とルフィが飛んだのが見えていたらしい。座っている二人を見て少し驚く。ゾロは無傷でルフィは頬を切っただけ。無事なのはいいがなぜ道の真ん中に座って話しているのだろう。

 不思議に思いながら近付いて来る二人を見てルフィが嬉しそうに手を振る。

 傍へやって来たキリが呆れた顔で彼らに声をかけた。

 

 「何がどうなったらこんなとこに居るんだろ。君らほんとに迷うのが得意だね」

 「別に迷っちゃいねぇよ。たださっきの場所に戻ろうとして右に――」

 「それを迷ってるって言うんだよ」

 「まぁまぁ二人とも」

 

 くすくす笑うシルクが止めてキリとゾロの間に割って入った。

 状況から見て戦闘は終了している。ルフィがほんのわずかに怪我をしているが問題はない程度。

 つまり当初の目的は果たしたことになる。

 襲撃していた海賊たちを倒し、町を救うことができた。

 彼女は満足した様子で笑みを称えて皆の顔を見回す。本当に強い。決して簡単ではない戦闘を終えて怪我など些細な物一つだけだ。

 

 「これからどうする船長? 今から町民が戻って来たとしても買い出しやその他には多少時間かかるだろうけど」

 「うーん……よし。島を出よう」

 「いいのか? まだ何も補給しちゃいねぇぞ」

 「なんとかなんだろ。そんなことよりおれはピースメインになるのはいいけど、ヒーローになるのがいやなんだ。あいつらはおれたちがぶっ飛ばしたいからぶっ飛ばした。それでお礼を言われるのはなんか違う」

 「ふむ。一理あるか」

 「人に集まられんのも面倒だしな」

 

 男性陣の意見は固まったようである。

 その後でキリがシルクへ振り返り、意見を求めた。

 

 「どうかなシルク、そういうことで」

 「うん、私もいいよ。みんな無事に済んだみたいだし」

 「補給はまた別の島で考えよう。最悪サバイバル能力はある面子だし無人島でも大丈夫でしょ」

 「酒は」

 「必要なら略奪してくる?」

 「そしたらおれがシルクに斬られんだろうが……」

 

 溜息をつくゾロの隣でキリがルフィの手を掴み、引っ張って立たせた。

 すぐ後にゾロも立ち上がる。

 一同は考えも同じで歩き出し、人知れず町を出るため港へ向かい始めた。

 

 「ゾロ、港はどっちでしょう」

 「あっちだろ」

 「残念。こっちでした」

 「あっはっは! ゾロはほんとバカだなぁ」

 「うるせぇ! じゃあてめぇはどっちかわかってんのかよ」

 「もちろんだ。あっちだろ」

 「今こっちだって言ったばっかりなんだけど……」

 「それはもう人の話を聞いてないだけとかじゃないと思う……」

 

 四人の間にはいつも通りの会話があり、戦闘の余韻を残さず気楽な姿だ。

 誰も居ない通りを堂々と歩き、笑い声は妙に大きく響いていた。

 


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