攻撃が激突した瞬間、爆発するように巨大な火が辺りを包み込み、周辺が一切見えなくなった。
離れていたキリやMs.Kですら凄まじい熱気を感じるほどの規模である。
観客は驚愕して言葉を呑み、さらに盛り上がりを見せる者も少なくない。
《エースの火拳が炸裂ぅ~っ! Mr.S選手は生きているのか!? 空に居ても熱気を感じるほど凄まじいこの一撃で、まさか生き残っているとは思えないが……!》
パリン、と音が聞こえた。
気付いたビビは島から目を離して隣を見る。
「あ……ルフィさん、お皿が。それにお肉も」
おやつ代わりに肉を食べていたルフィが、大好物であるそれを地面に落としてしまっている。先に地面を見て音の出所を探ったビビは、その場へしゃがもうとしてやっと気付いた。
ルフィの様子がおかしい。
先程の笑みが消えてじっと島を眺め、呆然としている表情だった。
今までそんな姿を見た経験がなかったこともあり、ビビは思わず言葉を失う。
「サボ……?」
エースの叫びが聞こえて反応していたらしい。
どうすればいいかはわからないが、落ちた肉と割れた皿を片している場合ではないのだろう。
戸惑いながらビビは試合を見続けることを決めた。
轟々と火が燃えている。
草が燃え、家が燃え、辺りは火の音に包まれながらも不思議と静かだった。一時とはいえ生物の気配を大きな炎の中に包み込み、眺める人々を心配させた。
しかし二人はやはり生き残っていたようである。
エースが腕を振っただけで、周囲を包んでいた火が消えてしまう。
どうやら彼の能力は常人が考える技量を遥かに上回っているらしい。まるで完全な支配だ。
火が消えた時、遮る物が無くなってMr.Sの姿も観衆に確認できるようになる。
身に纏っていた黒いマントが焼け落ちていた。
それだけでなく仮面が割れて、破片がパラパラと落ちていく。
そこに居たのは素顔を晒した一人の青年だった。地面に膝をついてしゃがみ込み、戸惑った表情でエースを見つめ、少なからず動揺していることが伝わる。
左目の付近に火傷の痕が窺える、金髪の青年。
精悍な顔立ちの人物である。
エースは懐かしそうにその顔を認めて、Mr.S――サボもまた、複雑な顔をしていた。
「ようやく、顔を見せたな」
確信に近い感覚があったものの、その顔を見た時、自分が何を思うかまでは想像できなかった。
いざサボの顔を見た瞬間、エースは自分でも驚くほど冷静だった。
やはり間違いない。彼が知る兄弟の姿である。
当然子供の頃とは見違えるほど成長しているが、その人物だけは間違うはずがない。
エースとサボは視線を合わせて黙ったまま。
短い時間だったとはいえ時が止まったかのような静寂が広がる。
素性を隠すマントと仮面を失って、本人より焦っていたのはMs.K――コアラという少女だ。
彼女自身はまだ顔も外見も隠した状態。自分よりもサボを心配するところを見れば、素性を隠す理由もなんとなく想像できて、それなりの理由があるのだろうと思われる。
コアラは半ば無意識的に思わず動き出そうとしていたようだ。
その動きを止めさせたのはキリの声だった。
「まだだよ」
火拳の威力を見ても全く動じず、平坦な声で告げられる。
コアラは一気に冷静になって彼へ目を向けた。
宝箱に腰掛けて座り、自分の膝に頬杖すらついて冷淡に戦況を眺めている。その目には一切の恐れがない。それどころか柔和に微笑む余裕もある。
全身に冷や水を浴びせられたような衝撃があった。
仮面で見えにくいことすら忘れてじっとキリの顔を見つめて、コアラはそっと背を伸ばす。
「エースと互角に戦える人間がこんなところに居るとはね。ただいくらなんでも無名ってのはおかしいんじゃないかな? 海賊っぽくもないしさ」
「どうして、海賊じゃないと思うの?」
「手配書を見るの、癖になってるんだ。顔と名前を覚えるのもわりと早くてね」
キリが彼女へ振り返って笑顔を見せる。
邪気を感じないことが逆に怪しさを感じさせた。
「君らの顔は見たことがない。なら海賊じゃないよね」
「私の顔は見てないはずだけど」
「まぁね。でも見なくてもわかる。魚人空手を使える人間なんて珍しいし」
思わずしてしまいそうになった舌打ちをぐっと堪える。
可能性として、何も知らないからこそカマをかけている場合もあり得る。あれこれ喋ってはいけない相手なのだと判断して意識的に口を閉ざした。
それでもキリは気にせず言う。
「この島、色んな人が集まるからね。怪しいこともいっぱいあるのか」
「……何の話かな」
「サイファーポールも来てるって噂を聞いたんだ。でさ、あの人たちが血眼になって探す相手なんて限られてくると思うんだよね。例えば――」
そこで言葉を止めて、キリは再び試合に目を向けてしまう。
「もうちょっと待っててね。決着ならあの二人がつけてくれるから」
「それは、私を脅迫する気?」
「ううん。ただ気になったことを喋っただけ。あ、でも、こういうのって誰彼構わず言わない方がいいよね。ごめん、気をつけるよ」
改めて釘を刺され、いよいよコアラは戸惑う。
戦わずして勝つ。彼の態度にそんな意志が見えた気がした。
おそらくは推測で話している部分も多いのだろうが、それでも集めた情報を武器にする彼は末恐ろしいと感じる。
放っておけば大きな障害になるのではないかと思うほど、彼は底が知れない。
一方でサボが立ち上がり、エースと正面切って対峙する。
まだ頭痛は続いている。だが先程に比べれば幾分マシになったようだ。
フーッと息を吐いて、気持ちを落ち着かせてから顔を上げた。
戦闘の再開は時間の問題。
そんな状態でサボはぽつりと呟いた。
「名前まで知ってるとはな……どうやら本物らしい」
「当たり前だろ」
「なら」
手の中で鉄パイプをくるりと回して、改めて構えられた。
「この頭痛を止める方法はあるみたいだ」
仮面を失って顔が見えることで、さらに迫力を増した気がする。目と目を合わせたエースは彼の強さを如実に感じて気を引き締め直した。
油断ならない相手。元よりそう思っていたが今はその気持ちがさらに強い。
多くは語らず、どちらも身構えて戦意を漲らせた。
「行くぞ」
「来い」
サボが駆け出し、素早くエースへと接近していった。
正面からの芸の無い突撃であったが、スピードは速く、迷いがないためそれを見る者は動揺せずにはいられない。普通の人間なら、の話ではあるが。
エースは一切恐れずに彼を迎え撃った。
鉄パイプで攻撃しようと考えていたサボに対して、エースはそれよりも早く攻撃を繰り出す。自身の腕を振るうと火が鞭のように伸びて空中に軌跡を残し、敵を近付けさせない。
攻撃でありながら防御。これを見てサボは咄嗟に回避する。
幾重にも張り巡らされて襲ってくる火を避け、素早く的確に足を運び、迷わず前へ出た。奇跡的にも思える光景だが攻撃を掻い潜ってエースの下へ辿り着いたのだ。
鉄パイプが振り上げられ、攻撃の最中にも全貌が黒く変わっていく。
それを見てエースの腕も同様に色が変わった。
腕で鉄パイプを受け止めて、再び金属音が鳴り響いた。
エースは即座に右足を振り上げ、サボの体を蹴り上げようとする。内側から火を放つその一撃は決して軽くはない。だがサボもまた逃げずに攻撃を行った。
硬化された“竜の爪”がエースの腹を捉える。
同時にエースの蹴りがサボを捉え、強烈な熱を感じさせながら蹴り飛ばす。
両者は弾かれたように宙を飛び、しかし着地する前から姿勢を変え、地面に足が着くと同時に駆け出した。そうしてまた激突するのである。
それは、島の地形さえ変えかねない戦いだった。
エースの炎が迸る度、島にある物は一瞬のうちに破壊され、サボの爪が物を掴む度、島の大地が大きく抉り取られて姿を変える。
時間にすれば一分も経っていない。
彼らが飛び回るだけで観客たちは混沌と、決して敵わないという絶望を思い知る。
もはや人間ではない。誰もがそう思い、祭りの気分は吹き飛ばされて言葉を呑んだ。
一撃叩き込む度に、常人では耐えられない痛みと傷が与えられる。それでも二人は動き続けた。それが義務であるかのように、楽しいと言わんばかりに。
ルフィはそんな二人の戦いを、何も言わずにじっと見ていた。
「いやぁ、あれはすごいなぁ」
唐突に話し始めたキリの声を聞き、コアラは彼の顔に視線を動かした。
「相手になると死ぬね。全然勝てる気しないや」
エースの拳をサボが腕で受け止める。
拳か、或いは腕から放たれた炎が螺旋を描いて、サボの体を吹き飛ばす。炎に包まれた彼の服は所々燃え始めるが、素早く体勢を立て直した彼が大袈裟に回転して跳ぶことにより強風を起こし、あっという間に火を消してしまう。着地した時には冷静な表情があった。
今度はサボが攻撃を繰り出す。
素早く接近してエースの攻撃を掻い潜り、半ば強引に見つけ出した一瞬の隙へ、“竜の爪”による一撃を叩き込んだ。受け流すこともできずに実体を捉えられて大きく吹き飛ばされる。
当たった左肩は皮膚が裂かれて血を噴き出した。
それはエースが発する火によって呆気なく蒸発してしまい、気にする時間もない。
両者の攻撃が正面からぶつかる。
もはや考えている暇もない。とにかく手数を多くし、避けて、相手へ届かせる。
二人は同じ心境で相手だけを見ていた。
「エースのアレは相当レベル高いね。まぁ白ひげ海賊団の隊長だし、ボクが知らない覇気って力も使えるみたいだし、ルフィのお兄さんだし、当然と言えば当然なんだけど。ただびっくりしたんだけどさ、アレでもまだ覚醒してないみたいなんだよね」
エースが繰り出す炎が広がり、空が赤く染められる。
それほどの激闘。サボはまだ生きており、地面が爆ぜて崩れているのは彼のせいでもある。
二人は今も対等に戦い続けていた。
崩壊する島の中で、互いの存在全てをぶつけ合う。
遠く離れた位置に居る観客が逃げるべきかと考えてしまうそれを見てもキリは笑みを崩さない。
「もう少し離れようか。でないと死ぬよ。エリア外に出る訳にはいかないけど、せめて端の方まで行って死なないように頑張ろう」
「君は……驚かないんだね」
「ん? 驚いてるよ。あの二人にはどんな策を使っても勝てる気しないからさ」
あっけらかんと言って立ち上がったキリが宝箱を持ち上げた。
軽い足取りで二人に背を向け、被害が届いていない港へ向かおうとする。そうしなければ被害を広げ続けている戦闘に巻き込まれてしまう。
コアラはすぐに歩き出せず、キリの背を見て問いかけた。
「嘘。そんな風には見えない。サボ君をよく知ってる私でも、あれを、あの戦いを見ると震えが止まらない……だけど君は、さっきからちっとも表情を変えない」
「そうかな。案外顔に出にくいタイプなのかもね」
「君は一体何者なの?」
「ただの海賊さ。今は麦わらの一味の副船長」
屋根を降りようとする寸前で足を止めて、わずかに振り返る。
キリは二人の戦いを笑顔で見た。
「ボクじゃエースに勝てない。能力の相性じゃなくて、実力がそもそも違い過ぎる」
コアラへ伝えるためだったのか、迷いのない声がはっきりと告げる。
「だけどあれくらい強い人は見たことあるよ」
バキィン、と妙な音が鳴って、互いの頬へ拳が突き刺さった。
エースとサボは体勢を崩したまま地面を転がる。しかしすぐに立ち上がって前へ駆け出すと戦闘を継続させた。また互いの全力を注いで勝利を狙う。
両者はすでにボロボロだった。回避と防御を行うとはいえ、実力が拮抗するせいか、全てを避けることは不可能。その結果、二人は至る所から血を流し、かつてない疲労を抱えている。
それでもエースは笑みを浮かべていた。
島を崩壊させかねない戦いの中で、昔を懐かしむ表情だったのだろう。
対するサボも、彼を殴り、殴られて、痛みを覚える度に頭痛が軽くなっていく。
脳裏には懐かしく感じる山の風景があった。
「オォ、オオオッ――!」
サボが唸り声を発しながら地面を蹴る。
エースも自身から彼へ向かい、大きな火を放つ拳を握る。
「エースゥゥッ!」
「ハッ……! やっとらしくなってきたんじゃねぇか! サボォ!」
再び“竜の爪”と“火拳”が激突し、爆発するように巨大な炎が巻き起こされた。
サボは炎に巻かれながら吹き飛ばされて地面を転がる。一方のエースは腕が痺れるほどの衝撃を受けており、少なからず地面を滑り、後方へ押し戻された。
二人の実力はほぼ互角。だが能力者であるか否かという大きな違いはあった。
サボだけが吹き飛ばされた理由はその一点にのみ存在し、それでも二人の戦いは拮抗している。
すぐに跳ね起きてサボが飛び出した。
エースが迎え撃って近距離での格闘を行う。
こうなれば細やかな技術など必要ない。己の力を信じ、覇気を信じて、一瞬の安堵も許すことなく互いの体へ攻撃を叩き込む。当然どちらもただでは済まなかったがそれでもよかった。
まるで子供に戻ったかのような、ただの喧嘩にも見える。
ただその力が島を破壊しそうだというだけで、二人は懐かしさを感じていた。
きっかけはサボの一言。
エースの頬を殴りながら不意に笑みを浮かべて、瞬間的に目の色が違って見えた。
「ハァ、最終的な戦績は、どうなってたっけ……」
「アァ!?」
「それも忘れちまったみたいだ――」
殴り飛ばされたエースが崩壊した家の壁に激突して、しかし体が火であるためさほど衝撃も痛みも受けずに地面へ着地する。
その時にはサボが移動し終わっており、地面に硬化した両手を突き刺していた。
「物には必ず核がある。この大地ならここだ。今、それがわかった……」
《おぉ~っとあの構えはッ!? バトルロイヤルDブロック、天然のリングを一瞬で破壊し、参加者のほとんどを脱落させたあの技か!? そろそろ決着が決まる!》
「チッ……!」
「死ぬなよ、エース。竜爪拳」
ぐっと力を込めて、地面に突き刺さった両腕を起点に至る所が抉れた地面にヒビが入った。
「竜の息吹!」
直後、地面が爆ぜた。
試合のエリアとなっている大部分が消し飛ぶほどの衝撃が広がり、粉々に砕けた岩盤が無数に宙を舞って、土や草や建物の残骸も同じく。全てが爆発したように空へ吹き飛ばされる。
轟音が鳴り響く状況下、エースは高くジャンプしただけで、逃れられてはいなかった。
空中に身を置く彼の周囲には岩や土や木々など、様々な物がある。しかしそれらがぶつかったところで火の体にダメージはなく、目眩まし程度にしかならない。
本当の狙いは別にある。
地面を消し飛ばしたサボは、起点となったその場所に立っていた。
彼が居る場所だけが元の姿で足場を残しており、彼の体を支えている。
エースは全身を火にして空中を走った。
待っていたのだ。
最後の確認とでも言うべきか。サボは覚悟を決めているらしく、全力の一撃を繰り出し、これを最後にしようと決めている。それは目を見ただけのエースにも伝わった。
相手がそう考えるならばエースにも拒否する意思はない。
駆けてきた火がサボの目の前で大きくなり、エースの姿となる。
すでに拳は振り上げられている状態だ。
視線を交わして、意思も同じく、全ての力をその一撃へ注ぎ込む。
「竜爪拳――」
「武装硬化――」
接触はほんの一瞬の出来事。常人には見えない速さだった。
「竜王!!」
「火拳!!」
二人の腕が激突した瞬間、凄まじい衝撃が空気を伝わって走り、海にまで広がった。
エースの火拳によって二人の姿は巨大な爆発に呑み込まれて見えなくなる。
その時、激突の衝撃で海に生まれた波紋が大きな波を起こしたのか、船は揺れていた。ルフィはそれでも必死に目を開けて試合を見つめ、ビビとカルーも欄干に掴まりながら目を凝らす。
港へ退避していたキリとコアラは凄まじい強風を感じて海に落ちないよう力を入れている。
観客たちはモニターから一瞬の閃光を見、時が止まったかのような一瞬の静寂を感じていた。
ほんの一瞬の出来事だが永遠にも感じられる瞬間。
轟音が鳴り響いた直後に奇妙な静寂を感じて、実況すらも声を出せずに呑み込まれる。
そうして、激突の結果を見た。
燃え上がった巨大な炎が消え、視界が変わる。
荒れ果てた大地。家々は跡形も残さず、巨大なクレーターが大地に刻まれ、穏やかな元の姿など見る影もない。そこは試合が始まる前とは全く異なる様相に変貌していた。
それは一つの島が死んだとすら思える凄惨な光景だ。
その原因となった二人は、クレーターの中央で倒れていた。
脱力して大の字になって空を見上げ、互いの顔を見ることもなくぽつぽつと話し始める。
「おれは、革命軍に命を救われたんだ」
サボが話し始めたことでエースは静かに耳を傾ける。
「天竜人の砲撃を受けて船が壊れた。そのまま海に沈みかけたんだが、間一髪のところを拾い上げられたみたいでな。その時おれは、死にたくないって、お前ら二人の顔を思い浮かべて、周りで何が起こってるのかさえ理解できない状態だった」
流暢に言葉を紡ぐ様子から、もう頭痛が無くなっていることはすぐにわかった。
別段驚きはしない。子供のように殴り合う内、わかってしまったからだ。
こいつはもう大丈夫。
そう思った時、重くのしかかっていた物が消えて、彼も安心して息ができるようになっていた。
「ずっと違和感があったんだ。記憶は失ったけど仲間ができて、居場所もあって、だけど何かが足りない気がする。おれは一体誰なんだろうって……きっと心が欠けたまま生きてたんだ。仲間を手に入れてもずっと満足はできなかった」
「忘れたくなかったんじゃねぇか? お前が持ってた大事なもんを」
「ああ……きっとそうなんだろうな。新しい物を手に入れても、代わりになんてできないものをおれは持ってる。それをやっと思い出したよ」
フッと笑みを浮かべてエースが目を閉じた。
それを見た訳ではないのだが、サボも同じように目を閉じる。頬には安堵した笑みがあった。
戦いの余波を受けてか、いつの間にか彼らが居る島の上空だけ、ぽっかりと穴が開いたように雲の姿が消えている。晴れた青い空がよく見えた。
そこはどこよりも自由を感じられる場所だった。
「ありがとう、エース。おれはやっと自分の大事なものを取り戻せた」
「バーカ。礼なんか言うな」
エースが穏やかな声で語り掛ける。
「おれたちは仲間じゃねぇ。兄弟だ。いちいちそんなことで礼言う必要なんてねぇよ。これは当たり前のことだ」
「それもそうだな……だから、約束する」
答えるサボも心底落ち着いた声色だった。
「もう失わない。おれはお前とルフィの兄弟だ」
「おう」
「もしお前らに何かあれば、おれが必ず助けに行く。兄弟として当たり前のことだ。いちいち礼なんか言うなよ?」
「へっ、わかったよ」
ふとした瞬間、どちらも口を閉ざして静寂が生まれる。
試合は終わっていないが彼らの戦いは終わった。
その時、ハッタリーの絶叫が響き渡る。
《試合終了~!》
彼の声が静寂を突き破り、再び音を取り戻す。
《勝者は! エース&キリペア~!!》
コールされた直後に我を取り戻した観客たちがわっと歓声を発した。
2年前の状態がよくわからないので、一応サボは賞金首じゃない設定にしました。
でないとエースがなぜもっと早く気付かなかったんだってなるし……。
この一件で世間に知られたと考えてもらえれば幸いです。