ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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バトルロイヤル Cブロック

 本戦出場が決定した参加者はゴージャス・ハッタリー号へ案内される。

 千人以上の海賊が乗り込んでもまだ余裕がある巨大な豪華客船に、大会運営側のスタッフを除けばゲストとして乗り込んだのはたったの7人。

 一回戦、二回戦の勝者が広大な甲板でモニターを前にしていた。

 

 ルフィとエース、そしてチョッパーは大盛りの料理を床に置き、その前に座って食べていた。戦いを終えたばかりで消耗した体力を取り戻すべく、食事に没頭している様子。

 そんな気分になれないビビとシルクは傍に座りながら手をつけない。

 疲労感と試合が終わったという安堵で体が重い。ぐったりして動きたくなかった。

 それはチョッパーも同じはずだが、彼はルフィの真似をするように食べている。

 

 ルフィとエースは全く疲労を見せずに食事を楽しんでいる。

 この二人は本当に人間なのだろうか。

 呆れながらもそう思い、だからこそ頼もしい。苦笑したビビは不意に視線を動かした。

 

 問題なのはそれよりも別のこと。

 一所に集まる彼女たちとは少し離れた場所にあった。

 

 片足でくるくる回るMr.2の隣、モニターを見つめるキリが居る。先程からずっとそうして話しているらしく、表情は普段の笑みとは違っている気もした。

 何を話しているのだろうと思いながら、近付けない。

 彼らは声が届かない距離に立って肩を並べていた。

 

 「なんでこの大会に参加したの? 任務ではないよね」

 「ドゥーしてって、暇だったのよぅ。あちしたちに与えられる任務がなくって」

 「今は、時期を見てる頃だろうからね」

 「やっぱりあんたたちが関係してたってわけ? そうじゃないかとは思ってたわぁん」

 

 Mr.2が回るのをやめて、素直にその場へ立った。

 モニターにはCブロックの試合の模様が映っている。参加するのは17組。Dブロックには50組が参加する計算になりかなり偏った構成だ。

 Aブロックより人数は少ないが、エースのように大技を使う者が居ないため長引いている。

 地道に一人ずつ落としていく展開が続いて、どうやら盛り上がっている様子だった。

 

 「組織にとってあんたは切り札(ジョーカー)。全ての情報を握ってるおかげでボスと同じくらい重要な人物。ミス・オールサンデーはあんたほど組織のことを知らない。違う?」

 「さぁね。彼女は頭が良いからよく知ってたと思うよ」

 「んっふっふ、でも紙ちゃんほどじゃなかった。だってそうでしょ?」

 

 Mr.2は腕を組み、にやりと笑って彼の横顔を窺う。

 

 「組織の創設者はあんたとMr.0。だからあんたが消えたって聞いてびっくらこいたのよぅ」

 

 キリは笑顔でその言葉を聞き、何も言い返さなかった。

 試合の展開を見つめて平然と言う。

 

 「試合、長引かないだろうね。そろそろ終わるかな」

 「んが~っはっはっは! ちょっと変わったわねぃ紙ちゃん。なんだか凄く人間みたい」

 「そりゃもちろん。ボクは人間だから」

 

 試合は激しい乱戦の様相を見せていた。

 17組の海賊が互いを蹴落とし合うため激しい戦闘を続けている。

 中でも特に目立っていた者が数名。

 ハッタリーの実況がさらに熱を入れて行われていた。

 

 《また一人落ちたァァ! 大立ち回りを見せるノコギリのアーロンが止まらない! 凄まじい迫力で次々敵を落としていくぞォ!》

 「下等種族がッ! 死にたくなけりゃとっととどけェ!」

 

 キリバチを振り回し、敵を直接掴んで強靭な腕力で海へ投げ飛ばす。彼は一歩も退かずに敵へと襲い掛かり、あまりの迫力に恐れを為す者も居たほどだ。

 同じくペアのはっちゃんが進化した六刀流を披露している。

 五本の刀と一本の黄金の矛。柔軟な動きでそれらを振り回して敵が近付けない。アーロンほどの派手さはないが彼もまた着実に敵を倒していた。

 

 《さらにこちらも凄いぞ! 正体不明の謎の選手! 巧みに十手を操り、襲い掛かる敵を全て返り討ちにしているようだ! その選手の名は~……スモやん先生ェ!》

 

 長大な十手で敵の腹を突き、跪かせた男がサングラスの下で苛立った目をする。

 葉巻を同時に二本も銜えた状態で動き回っていた。

 その男、サングラスと葉巻というアイテムを持ちつつ、身に着けているのは明るいアロハシャツと白いズボンという恐ろしいほどの軽装であり、明らかに苛立っているらしい厳つい顔が、どう見てもアンバランスな様相を強めている。

 

 登録名は“スモやん”。本当の名前はスモーカーである。

 海軍本部大佐が身分を隠し、バカ正直に海賊の祭典に参加しているらしかった。

 

 「ふざけた名前だ……バカ弟子ィ! 二度とてめぇには考えさせねぇぞ!」

 「そんなっ。これでも一生懸命考えて、スモー……やん先生が却下するからこうなったのに」

 

 リング上に居る短髪の女性、眼鏡をかけて、帽子を目深に被っている人物が悲鳴のような声を発して悲しげにする。そうしながら手に持った刀で敵を斬りつけた。

 彼女も本当はスモーカーの部下、たしぎである。

 格好は動き易いもので、海兵とはバレない外見だった。

 

 二人はペアを組んで身分を偽り、海賊として潜り込んでいるらしい。

 幸い周囲の海賊たちは戦うことに集中して疑問を持ってすらいない様子だ。

 ここへ来てスモーカーの注目度が上がっているものの、まだ問題らしい問題は起こっていない。

 

 そう思った矢先だ。

 リング上で奇妙な音楽が鳴り響き始める。

 

 《なんだこれは? 突然音楽が鳴り始めたぞ。そして音の出所には一人の男が居る!》

 

 多くの人間が音楽に注意を奪われた。突然始まったそれは妙に楽しげで、激しい戦闘にはとても似合わないような曲調。

 見れば確かに一人の人間が演奏を行っている。

 

 自身の肉体を楽器にして、アプーが音楽を奏でていた。

 彼の目は特定の一人を捉えており、楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 振り返ったスモーカーがサングラスをかけたまま彼の姿を睨んだ。

 “海鳴り”の噂は聞いている。一目見れば本物だと判断できる程度には知っていたつもりだ。そしてそのまま見逃していいはずがないとも思っている。

 アプーもまたスモーカーを見ていたようで、いつの間にか視線が交わっていた。

 

 ある時、左腕に違和感を感じる。

 十手を持っていた方の腕がなぜか肘から切断されていて、スモーカーの視界に入った。

 驚いた一瞬、アプーが小さく呟いた。

 

 「スクラ~ッチ……」

 

 直後に体が爆発した。

 スモーカーの肉体はバラバラに破壊され、体のパーツが四散する。

 見ていたたしぎは絶句し、思わず手を止めてしまう。彼が何もされていなかったのは状況から見て明らかだった。突然の爆発の理由がわからず、心が激しく揺れ動く。

 

 「スモ……やん先生ッ!?」

 《な、なんてことだ!? これは一体何があった!? ひょっとすると謎の選手スモやん先生は死んでしまったのだろうか! そうなればスクラッチメン・アプー選手が失格だが……いや! よく見れば死んだ訳ではなさそうだぞ!》

 

 名前を間違えそうになりながら叫んだ時には、スモーカーの全身が煙に変化し始めていた。

 アプーはにやりと笑ってその光景を見つめていた。

 

 《なーんとスモやん先生、体が煙になって復活ゥ! まさか能力者だったのか!》

 「アパパパッ……やっぱりこりゃおかしいよなぁ。なぁ先生?」

 

 辺りを漂った煙がアプーの目の前で集まり、人間の形を作り出す。それがスモーカー本人の物。葉巻やサングラスまでそのままで、握った十手を強く突き出した。

 避ける暇を与えない強烈な一撃。

 アプーの腹に叩き込まれ、彼の体は軽々飛んでいった。

 

 「ぐはぁ!? や~ら~れ~た~」

 「あっ!? ちょっとあんた! 何やってんですか船長!?」

 

 一撃を受けてアプーは地面を転がり、そのまま転がって海へ落ちてしまう。

 見方によってはスモーカーが仕留めたとも思われるだろう。だがスモーカーは今の一撃が完璧に入った訳ではないと実感している。アプーは接触の寸前に後ろへ跳んでいたのだ。ダメージは半減してしまっておそらくさほど痛みもなかったに違いない。

 それなのに奴は自ら海へ落ちた。

 スモーカーは苦虫を噛むように表情を険しくする。

 

 能力者は海に落ちれば浮かぶこともできずに沈むのみ。

 彼らのような人間を助けるためにこの場にはシーラパーンが居る。

 救助されたアプーはシーラパーンによって担ぎ上げられ、海上へ姿を現した。

 

 先程の攻防、他にも異論を唱えたい者が居た。

 アプーの部下が海に居る彼へ猛抗議を始めるのである。

 

 「ふぅ~、いやぁ~まいった。ついついミスっちまったぜ」

 「アプー船長! あんた何やってんですか!? 今のわざとでしょ!」

 「バカ、わざとな訳ないだろ。おれだって優勝したかったんだぞ」

 「嘘つけ! あんたそんな人じゃない!」

 「わかったからちょっと待ってろ。オラッチだって言いてぇことがあるんだからよ」

 

 そう言ってアプーが目を向けたのは他ならぬスモーカーだった。

 完全に人の姿を取り戻した彼に怪我など微塵も存在しない。だからこそアプーが質問、というより確信をもって言葉を投げかける意味がある。

 

 「やっぱりあんたおかしいよなぁ。オラッチが知る限り、煙になる能力者ってのは一人しか存在しねぇ。そりゃそうだろ。同じ実はこの世に二つと存在できねぇんだから」

 

 笑顔で、ひどく楽しそうに言ってくるアプーを目にし、スモーカーは口を噤んだ。

 こいつはわかった上で言っている。それがはっきり伝わってきたのだ。

 

 「少し前にグランドライン入りした、有名な海軍の野犬……な訳ねぇよなぁ。いくら遊撃隊の別動隊隊長だからって、海賊の中に突っ込んでくるほどバカじゃねぇはずだし」

 

 何を言われても答える気はない。スモーカーは彼に背を向けた。

 

 「サイファーポールも来てるんだろ?」

 

 ぴたりと、足が止まった。

 他の海賊を海に叩き落そうとしたスモーカーはなぜかその場を動かなくなる。

 その反応から考えておそらく知らなかったはず。ますますアプーは上機嫌になっていく。

 

 「もしも海軍が来てるとすりゃあ狙いは海賊だろうなぁ。じゃあサイファーポールが来てるとすりゃ何が目的なんだ? 主催の新聞社が何か妙なこと考えてやがんのか?」

 

 尋ねているところを考えるとおそらく彼もわかっていない。

 今度こそスモーカーは歩き出して、背中越しにアプーへ言った。

 

 「てめぇに答えることは何もねぇ」

 「寂しいねぇ、アッパッパ! まぁいいさ。じっくり見させてもらうしな」

 

 話している間にアプーの部下も撃破されたらしい。頭から勢いよく落ちてきて、ちょうどアプーの目の前で水柱を上げて海中に姿を消した。

 すぐに上がってきて顔を出す。

 目の前だったのでアプーは気軽に声をかけた。

 

 「ぶはぁっ!?」

 「よう。残念だったな」

 「ちょっと船長! あんたが勝手にリタイアするから!」

 「そりゃおれのせいじゃねぇだろ。あの大タコのせいだろ?」

 

 部下の発言を受け流してリング上を見れば、足の先にグローブをつけた巨大なタコボクサーが周囲の人間を殴り飛ばしている。速い上に手数が多くて避けることが難しい。

 妨害者のタコボクサーがどんどん参加者の数を減らしていた。

 

 《参加者がどんどん減ってきたぞォ! そろそろ決着だ! 果たして誰が残るのか!》

 「おいアーロンッ!」

 

 棘付きの棍棒を振り抜き、魚人のウィリーがアーロンへ襲い掛かった。

 互いに武器を合わせて鍔迫り合いを始める。

 至近距離で睨み合い、久々の再開でどちらも一気に殺気が膨れ上がった。

 

 二人は魚人島で暮らしていた頃のライバルである。

 そう言えば聞こえはいいが要するに反りが合わずに仲が悪かっただけの関係だ。

 

 「間抜けな野郎だ、人間に負けて傘下になっちまっただと? ちょっと会わねぇ間にずいぶん腑抜けになっちまったんだなぁ。なァサメ野郎」

 「ケッ、はぐれ者のシャチの魚人。てめぇ如きがまだ生きてられたとはな」

 「ここで会えて嬉しいぜ。一度てめぇの顔をグシャグシャになるまで潰してみたかった」

 「ほざけ。てめぇじゃ百年かかっても無理だ」

 

 同時に武器を振って後ろへ跳び、仕切り直した。

 お互いの身体能力はほぼ互角。幼い頃から数え切れないほど本気の喧嘩を繰り返したが、いつも決着が着かなかったのはほとんど同じ実力を持っていたからだ。

 海賊として航海を続けてどう変わったか。知るには良いチャンスだろう。

 

 「いっそここで死ねェ! ギザッ鼻野郎!」

 「死ぬのはてめぇだろう!」

 

 キリバチと棍棒が激突する。ギャリギャリと甲高い金属音が鳴り、叫ぶように響いた。

 ぶつけ合うこと数回。

 腕力はさほど変わらないため押し切ることができない。せめて体勢を崩せればと狙うのだが上手く受け流し、どちらも状況を変える一手が与えられなかった。

 両者が歯噛みし、苛立った顔で睨みをきつくする。

 

 そうして二人が戦っている間に、タコボクサーが、はっちゃんが、スモーカーとたしぎが海賊たちを海に落としていく。

 ウィリーとペアを組んでいるビガロまで落とされた後、残る敵は1組だけとなった。

 

 攻撃をやめたはっちゃんが二人の激闘を見守るように武器を降ろす。

 そのまま二人へ状況を伝えた。

 

 「ニュ~、久しぶりだなぁウィリー。それはともかくアーロンさん、あと1組脱落で終わりだ。そのままウィリーが落ちたら終わるけど……」

 「だったらすぐ終わらせてやる! てめぇが最後の脱落者だ!」

 「ほざきやがれ! てめぇとハチを叩き落としておれが残るんだよ!」

 

 ガンガンと武器をぶつけ合い、何度目かでアーロンが動いた。

 キリバチでウィリーの棍棒を無理やり払いのけると、反撃を受ける覚悟で前に踏み出した。そしてウィリーもその行動から逃げなかった。

 どちらからともなく武器を捨てて、自身の全力を込めて相手の頬を殴りつける。

 

 純粋な殴り合いが始まった。自身の強靭な腕力を頼りに敵へ拳を当てていく。

 荒々しい様相で血反吐が舞って、単調ながらも観客のボルテージは途方もなく上がっていった。

 

 単調だからこそ人々は興奮する。同程度の実力を持っている者同士だからこそ熱くなった。彼らの戦いはAブロック、Bブロックを合わせても最高と言わしめる様子を見せた。

 だが本人には盛り上げようなどという意思はない。

 魚人たちが殴り合って決着を求める姿。それは見物客には極上のショーだったようだ。

 いつしかゴージャス・ハッタリー号に居るルフィやチョッパーまで熱くなって応援していた。

 

 二十発以上のパンチを叩き込んだ後。

 口の中を切って血が出た。それを地面に吐き出して、互いに意志を同じくする。

 そろそろ決める。そう考えて一歩を踏み出した。

 

 「いい加減くたばりやがれェェッ!」

 「くたばるのはてめぇの方だァァッ!」

 《両者同時に駆け出した! これで決着かァ!?》

 

 アーロンとウィリーが同時に全力を込めた拳を突き出した。

 全くの同時に互いの頬へ直撃し、相打ちの状態となって、凄まじい衝撃が肉体を駆け巡る。

 しかし、勝負は確かに決着を見た。

 思わず気が遠くなってがくりと膝から崩れ落ちたのである。

 

 《ウィリーの膝が折れたァ! 残った! アーロンは残っているぞ! 一対一の真剣勝負、勝利したのはノコギリのアーロンだァァ!!》

 「ハチ、コイツを海に捨ててこい……シャハハハハ」

 「ニュ~、流石だぞアーロンさん。あのウィリーに勝っちまうなんて」

 

 武器を一旦置いたはっちゃんがウィリーの足を持ち、引きずりながら海まで連れていく。

 彼の体が海水の中へ消えた時、ようやくCブロックの試合が終わった。

 

 《試合終了~! 激戦を経て勝利したのは、アーロン&はっちゃんペア! そしてスモやん先生&その弟子ペアだァ~!》

 「シャハハハハ! 次はてめぇだ麦わらァ!」

 「ニュ~、おれたちも本戦に残れるなんてなぁ。ケイミーたちも見てたかな?」

 「やはりふざけた名前だ……気に入らねぇ」

 「ま、まぁまぁ、先生。一時の話ですから、もう少し我慢してください……」

 

 続々と本戦出場者が決定していき、試合は進んでいく。

 思惑はそれぞれ違っていたが次の戦いは遠くない。

 Cブロック終了。残りは50組を残すDブロックの戦いのみとなった。

 


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