ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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バトルロイヤル Aブロック

 ブルースクエアの観客が、ガレオン船に居る敗者たちが、こぞってその試合に注目していた。

 宝探し、レースと続き、ようやく待ち望んでいたものが開始される。やはり観客が望んでいたのは海賊同士の戦いだ。小競り合いではなく正面から殴り合うところを見たい。

 本戦を前にしてボルテージは一気に上がっていたようだ。

 

 《バトルロイヤル、Aブロック! 出場選手は25組のようだ! ランダムな抽選だった割には平均的な数字だろう。この中でたった2組だけが生き残るぞォ~!》

 

 岬にある天然の闘技場にはすでに参加者が集まっていた。

 Aブロックは25組が参加。

 足場は白く硬い岩で、半径五十メートルほどの円形。中々の広さだが、周囲が海に囲まれ、これから何らかの妨害があると考えればさほど広くは感じられない。

 25組、総勢50名が生き残りを賭けるには少々狭いとも思えてしまった。

 

 ハッタリーはさらに張り切った様子だ。

 同じく観客たちも彼らに聞こえないと知っていて歓声を上げる。

 参加するメンバーを見てかなり興奮していたらしいのだ。

 

 《初っ端だが早速登場だぞ! 優勝候補筆頭、火拳のエースだ! 相棒は麦わらの一味副船長の紙使いキリ! 伝説の一味と話題のルーキーが手を組んだこのコンビを一体誰が止められるぅ!》

 

 ブルースクエアでわっと声が上がる。

 当初は参戦予定のなかった選手とはいえ、それほどのビッグネームならば無視できない。当然優勝するだろうと誰もが注目していて、最も期待されているのがエースだ。

 その隣に立つキリについては、足手纏い程度にしか思われていない。

 白ひげの部下を支えるにはあまりにも無力。

 従ってエース一人でやった方がいい、とすら語る声は多かった。

 

 《さらに話題のルーキー、モンキー・D・ルフィも参戦だァ! 自分の右腕をエースに任せたということは白ひげと手を組んだのか!? それとも傘下に加わったのか!? どちらにしても今大会、この男が台風の目になる予感がするぞォ!》

 「バカ言え! おれは傘下になんかならねぇ! おれが船長だ!」

 

 ハッタリーの実況に怒るルフィの声も観客には届かない。

 十分盛り上がったと判断したハッタリーはいよいよ試合を始めようと考えていた。

 

 《そろそろ始めようか! 残れるのはたった2組! 片方が落ちても片方が残っていれば戦闘を続行することはできるが、一度海に落ちればもう戻れない! カナヅチも安心してくれ、海にはすでに敗者回収のためシーラパーンが集まってくれている!》

 

 見れば確かに海面から顔を出すシーラパーンが、少し距離を置いて闘技場を見ていた。溺れ死ぬ心配は必要ない、ということか。

 戦闘が始まる直前、独特の緊張感。

 顔つきを変えたAブロック参加者たちは力を溜めるように身構えていた。

 

 《ルール説明はこれくらいにしてさっさと始めよう! Aブロック、試合開始ィ!》

 

 空に花火が上げられ、ドンと大きな音が鳴り響いた。

 頭上で大気を揺らした瞬間、海賊たちは一斉に動き出す。

 

 その場に居たほぼ全員が同じことを考えていただろう。ここで勝ち残るためには、まずエースを仕留めなければならない。そのためには敵との共闘も辞さないと。

 しかし誰よりも速く動いていたのはエースだ。

 開始の合図と同時に右腕が炎に包まれ、自らの前方に突き出した。

 

 彼の異名、“火拳”は巨大な炎の拳を叩き込む技である。

 パートナーのキリ、味方のルフィとビビが背後に居ることは確認している。そのため気兼ねなく攻勢に出れて、全力の攻撃を敵の集団へ繰り出した。

 

 「火拳ッ!!」

 「ギャアアアアアッ――!?」

 

 轟音と共に屈強な男たちが一瞬で吹き飛ばされる。その勢いに耐えられる者は一人もおらず、全身が燃えてしまうため水が必要だった。攻撃を受けた者は一人も残らず海へ落ちていき、すぐさまシーラパーンに回収される。

 たった一撃で半分以上が脱落する。

 15組が消えて、残り10組。残った全員がエースの一撃に驚愕していた。

 

 《おぉ~っと!? 開始直後、早速エースが動いたぞォ! その結果生き残れたのはわずか10組程度のみで、他は全員が失格となった! なんてことやらかすんだこいつはァ!》

 「わりぃな。ちょっといきなり過ぎたか?」

 「すっげぇエース!」

 「はは、ここまでとはね」

 「すごい……こんな人が実在するの……?」

 

 驚かずに居ろという方が無理な話だ。

 実力があまりにも違い過ぎる。同じ舞台に立てる格ではないのだ。

 その一撃で残った敵はエースに怯えて動き出せない。

 それを知りつつ、エースは握った拳を解こうとしなかった。

 

 残った10組、全員が怯えている訳ではないらしい。見回してみれば数名エースに敵意をぶつける者が居る。その数名がマシラとショウジョウで、1億8000万の賞金首“猛進のギュスターヴ”だ。

 だが他の者にしても、考え方を変えればまだチャンスはある。

 残れるのは2組。必ずしもエースを倒さなければならない訳ではない。エースに1組の枠を与えてもう一つが自分になり、本戦にさえ残れば名は大きく売れる。こうなれば優勝を諦めるにしてもせめて大きく名を上げたいというのが最後の欲求だった。

 

 狙うのはエースではなく、他の9組。

 そう考える者も居て、逃げ出す者は一人も居なかった。

 

 やっと全ての参加者が動き出して戦闘が始まる。

 エースを除いて考えた時にまず誰を狙うべきなのか。全員が狙うのは女性のビビであり、外見を見て弱そうだと判断し、一斉に襲い掛かろうとした。

 

 「まず女を狙え! 確実に1組は減らせる!」

 「悪く思うなよ女ァ!」

 「ゴムゴムの!」

 

 ビビを狙おうと駆け出す敵を見据え、ルフィが両腕を高速で突き出した。

 直後には無数のパンチが伸びて彼らの全身を打つ。

 

 「ガトリングッ!」

 「ギャアアアッ!?」

 「な、なんだこいつ――げふっ!?」

 

 襲ってくる4組、8人を一斉に殴り飛ばして海へ落とす。

 ルフィはにっと笑って自身の拳をぶつけた。

 彼の背後に立つビビは動揺しながらも口を開いた。

 

 「あ、ありがとうルフィさん」

 「にっしっし! おもしろくなってきたなぁビビ!」

 「麦わらァ!」

 

 すぐにマシラの大声が聞こえた。彼も敵を殴り飛ばし、海へ叩き落としながら走ってくる。その目はビビではなくルフィのみを捉えているらしい。

 迷わずルフィも彼に向かって駆け出した。

 邪気もなく、お互い笑顔のままで拳を向け合う。

 

 「いっちょ勝負といっとくかァ!」

 「おおっ!」

 

 互いの腕が届く距離に入り、両者が強い一歩を踏みしめて足を止めた。

 腰を捻りながらパンチを繰り出し、攻撃は全くの同時。

 真正面から拳が激突して二人の体に衝撃が走る。

 

 「ブレットォ!」

 「猿殴り!」

 

 拳に凄まじい痛みが走り、押される力で姿勢が崩れ、両者は弾かれるように後ろへ飛ばされた。

 慌てて着地し、体の状態を確かめて、問題は無さそうだ。

 

 マシラは痛みに顔をしかめながら右手を振っていた。ルフィの一撃は彼を驚かせるほどの威力を持っており、正面から受け止めたせいとはいえ驚きを隠せない。

 しかしマシラに怯んだ様子はなかった。

 自身と互角に打ち合えると知ってむしろ喜んですらいる。

 

 男の勝負は正面からの殴り合い。それが“猿あがり”への道。

 喜ぶマシラは迷う暇も惜しいと駆け出す。

 ルフィは逃げることなく笑顔で迎え撃った。

 

 「ウッキィ! 拳が痛ぇな! こんなに痛ぇのはグルグル眉毛の蹴り以来だ!」

 「眉毛? お前サンジと会ったのか?」

 「おうともよ! おれのファンだったが宝箱は譲れなかった!」

 「んん、そうか。別に仇とろうなんて思わねぇけど――」

 「おおおおっ!」

 

 マシラのパンチが繰り出される。

 ルフィは的確に見切ってその場で屈み、攻撃を避けた。そのまま流れるような動きで反撃のパンチを繰り出し、マシラの腹を捉えた拳が強烈な痛みを与える。

 一瞬、彼の巨体が右腕一本で浮いてしまった。

 

 それだけでは終わらずルフィは体を回転させる。

 回転の勢いを使って腹に蹴りを叩き込み、さらに回って頬を殴る。

 マシラが足下をふら付かせたところで右腕を思い切り伸ばした。

 

 「ゴムゴムのォ~……回転弾(ライフル)!」

 「はおっ……!?」

 

 胸元を殴られ、耐え切れずに地面を滑って数メートルまで吹き飛ばされた。

 その部分は痛むが、負ける訳にはいかず、胸元を押さえながら即座に起き上がる。

 ルフィは指の骨を鳴らし、笑みを消して真剣な顔で呟いた。

 

 「おれは優勝しなきゃいけねぇんだ。こんなところで負けてられるか」

 「ぐふっ……そうか。そうこなくちゃ面白くねぇ! ウッキッキ!」

 

 同時に動き出して全力でパンチを繰り出す。

 そこからは攻撃の応酬となり、二人は一歩も退かずに殴り合いを始めた。

 

 実力者の激突を見て怯む者も居るが、確実に数は減っている。残りはたった6組。火拳のエースを相手にしないとして、決着はすぐに着く。

 そんな思考が漂ったところで海面で水が跳ね上がった。

 

 ハッタリーが事前に言っていた妨害者が今になって乱入してきたのだろう。

 勢いよく飛び出してきて見事に着地したのは可愛らしい外見の動物。

 数は二十匹以上は居るだろうか。小柄だがそれはジュゴンであり、正式名称をクンフージュゴンという。アラバスタ近海に生息する動物の一種だ。

 

 嬉しそうに目を光らせたルフィが戦闘を中断していた。

 ビビはそれ以上に驚いており、キリの傍に居ながら真っ先に警戒する。

 

 《遅ればせながら出てきたぞ! こいつらが今回の妨害者だ!》

 「うっはぁ! なんだこいつら!」

 「クンフージュゴン!? アラバスタ生息のジュゴンでとても強いの! 通行人に勝負を挑んで、負けると弟子入りしてついてくるわ!」

 「うおおっ! お前らなんかに負けるかァ!」

 「だから勝ってもだめだって!?」

 

 ルフィはマシラと戦いながらも襲ってくるクンフージュゴンの相手をし、強かに殴り飛ばして勢いよく地面を跳ねる。その場の様相は一気に乱戦となった。

 腕のある者は襲い掛かるクンフージュゴンを負かせるが、腕がなければ海へ落とされる。

 混乱していた参加者は次々落とされていき、数はさらに減っていく。

 残り6組。

 

 ついにはエースを襲うクンフージュゴンまで出てきた。

 四方から一気に襲ってくる彼らを眺め、エースは薄く笑みを浮かべた。

 

 「やれやれ……しょうがねぇな」

 

 ドクン、と大気が揺れる。

 再びの感覚にキリは目を見開いた。

 そこに立ったまま微塵も動かず威圧する力。理屈は知れないが、彼がそれを使っているのに自分やビビが無事なのは敢えて見逃されているからだろう。

 その証拠に明確な変化が現れる。

 全てのクンフージュゴンたちが揃ってエースに頭を垂れたのだ。

 

 「クォォ……クオッ!」

 《こ、これはどうしたことだァ!? 何もしていなかったようにしか見えないが、クンフージュゴンが負けを認めているぅ!? 一体何をしたんだァ!》

 「弟子入り? そんな、何もしてないのに……」

 「何かしたんだ。でなきゃクンフージュゴンが負けを認めるはずがない」

 

 エースは、一匹たりともクンフージュゴンを倒していない。しかし全員が彼に頭を垂れる。先にルフィが倒して、ルフィに弟子入りした者まで掌を返している。

 おそらくそれだけ実力の差があるということだろう。

 とてもではないが信じられない光景だった。

 

 キリは笑みを消して厳しい目をエースに向ける。

 悪魔の実の能力者だからではない。やはりエースはこの大会に参加している誰よりも強く、得体が知れぬ力を持ち、そして危険であった。

 

 笑顔で振り返ったエースは警戒心を強めるキリと視線を合わせる。

 

 「わりぃがおれは人に物を教えられるほどできちゃいねぇ。心配すんな、この海で生きてりゃ嫌でも知る時が来る。今は焦らず進めばいいさ」

 

 キリが発する敵意に気付きながら笑ったのだろう。その胆力も含め、只者ではない。

 まだ警戒しなければならない実力はないということだろうか。

 いくらルフィの兄弟とはいえ、彼が見せる余裕には肝を冷やす。

 

 クンフージュゴンが服従したことで戦い易くなったのは確かだ。

 視界が開けたことでついに猛進のギュスターヴがエースへ戦いを挑む。

 

 「火拳のエース!」

 「おう。なんか用か?」

 「手合わせ願おう!」

 「いいぜ。来な」

 《ここで懸賞金1億8000万のギュスターヴが行ったァ! エースと一騎討ちだ!》

 

 ギュスターヴ、その男は手長族だった。

 両手に短刀を持って素早く走り、フェイントを加えながら接近する。エースは一歩も動かない。策を弄さず迎え撃つつもりのようでその顔には笑みさえある。

 好都合だとギュスターヴは跳躍した。

 

 甘く見ているのならばその油断を利用するまで。

 彼を仕留めて名を上げる。

 それだけを考えて腕を振り抜いた。

 

 エースは、攻撃を見た後で動き出す。

 両側から挟み込むような短刀を跳んで回避し、彼の頭上を取る。

 

 ギュスターヴの目は彼の姿を捉えていたが、唖然として声を発することすらできない。

 片時だって目を離さなかった。それなのに動きだって見えなかったのである。

 驚愕するギュスターヴの後頭部が片手で強く掴まれた。

 落下の力も利用して落ち、体重を預け、彼の顔面を強く地面に叩きつけた。衝撃で鼻血が噴き出して気が遠くなりかけ、その一瞬でエースはギュスターヴの傍を離れてしまう。

 

 迫っていた敵は彼だけではなかった。

 周囲の敵が居なくなったことで向かってくるのはショウジョウ。

 ルフィとマシラが戦っている。ならば自分はとエースを狙ったらしい。

 

 《強~い! やはり火拳のエースは只者ではない! お前なら止められるのか! 懸賞金3600万ベリー“海底探索王”ショウジョウ!》

 「オウオウ火拳よ、おめぇの強さにはハラハラするぜ。おれの声を聞いてみなァ!」

 「待て! 船長の邪魔はさせねぇぞ!」

 「ん?」

 

 エースとの間を遮るようにギュスターヴとペアの男が割り込んだ。こちらも手長族である。同じく両手に短刀を持って道を遮ろうとしていた。

 ショウジョウは大きな反応を見せない。

 手に持ったマイクを口元へ運び、それが戦闘開始の合図となった。

 

 「破壊の雄たけび(ハボック・ソナー)!」

 「うわっ、ああああっ――!?」

 

 それはただの雄たけびだった。

 間近で聞いた男がそう思えなかったのは、聞いているだけで衝撃波を感じ、体内の水分が震えて大きなダメージとなったからに違いない。

 凄まじい音量の雄たけびが周囲の物を全て破壊しようとする。

 頑丈なはずの足場にまでわずかなヒビが入り、一番近くで聞いていた男は倒れかけた。

 

 《とんでもない大声で天然の闘技場が震えている! クンフージュゴンも苦しんでいる! この大声を止めない限り勝ち目はなさそうだが――》

 

 ある時、ピタッと叫ぶのをやめたショウジョウが動き、足を振り上げた。

 前傾姿勢だった男の後頭部を踏み抜き、地面に顔面が激突する。

 気を失う衝撃としては十分だっただろう。手加減したエースとは違い、ショウジョウは全力で彼の頭を踏み抜いた。男は武器すら手放して気絶する。

 

 敗者はリング外へ。それがルール。

 彼の脚を掴んだショウジョウは海へ向かって投げつけた。

 

 「オウオウ、寝たいなら外だぜ。ここに居られると困るんだ。ハラハラするからな」

 《またしても一人減ったぞ! 続いての脅威はショウジョウか!? 奴の大声は果たしてエースに通用するのか、注目の一瞬です!》

 「バカ野郎。通用しねぇならやる訳ねぇだろ。ハラハラすること言うな」

 

 再びショウジョウがマイクを構える。

 エースはにやりとして膝を曲げた。

 

 「破壊の雄たけび(ハボック・ソナー)!」

 

 ショウジョウが叫び出し、地面が震えた瞬間、エースの全身は炎となった。一直線に宙を駆けた火の軌跡は目にも止まらぬ速さでショウジョウの懐へ飛び込む。

 嫌な予感がしてショウジョウが目を開くと、すぐそこにエースの姿があった。

 伸ばされた両足が腹へ突き刺さり、宙を駆けた勢いが全てその一点に集中される。

 驚く暇もない。悲鳴を発したショウジョウは水切りをするように海面を跳ねて飛んでいった。

 

 「ぶぉおおおおおおおっ!?」

 《あぁ~っ!? ショウジョウの巨体が蹴り飛ばされた、まるで水切りをする石のようだ! やはり強~い! この男の本戦出場は確実か!》

 「ショウジョウ~!」

 

 ショウジョウもリングアウトで失格。マシラが声をかけたところで遅かった。

 視線を外したその一瞬はあまりにも大きな隙で。

 懐に飛び込んで回転したルフィは強烈な蹴りを叩き込み、腹を押さえたマシラが後方へ跳ぶ。息が詰まって怒りが込み上げる。マシラの目は再びルフィの姿を捉えた。

 

 強く地面を蹴って跳び出す。

 ルフィは両腕を背後へ伸ばしており、これが最後の一撃に見えた。

 マシラもまたその覚悟で右腕をぐるぐる回す。

 

 正面からぶつかって勝つ。これこそ“猿あがり”。

 ショウジョウが負けたからといって気合いは淀むことなく、彼も前へ出る。

 

 「これが最後だァ! 全力で来ォい!」

 「おおっ! ゴムゴムの――!」

 「猿殴り!」

 「バズーカ!」

 

 勢いよく突き出された掌底と拳が激突し、一瞬の静寂。

 接触の瞬間、確実に二人の視線は合わさっていた。

 吹き飛ばされたのはマシラであった。

 

 「うぉおおおおおっ――!?」

 《ここで“サルベージ王”マシラが吹き飛ばされたァ! 麦わらの手でリングアウトォ!》

 

 頭から勢いよく海へ落ちて、彼もまた敗退となる。

 残り2組となるためにはあと一人。

 すでに起き上がったギュスターヴが最後の力を込めてエースを睨みつけており、これで決着をつけるつもりで二本の短刀を回す。そしてエースも彼に向き直った。

 

 「おのれ……おれはまだ、負けていないッ!」

 「やめとけよ。お前じゃおれには勝てねぇ」

 「黙れェ!」

 

 ギュスターヴが駆け出した。芸も無く真正面から突進を行い、待ち受けるエースの命を狙う。感情的になってもはや勝機について考える余裕もなかった。

 長い両腕が振るわれて、再び切り裂こうと狙った時、エースの体は炎になって宙を駆ける。

 

 気付けば背後を取られていた。

 辛うじて振り向けた時にはエースの拳が赤く輝いていて、ギュスターヴは呑み込まれる。

 

 「火拳!!」

 

 空気が破裂するような轟音があった。

 視界どころか全身が炎に包まれ、気付けば空を飛んで、もう逃げることはできない。

 ギュスターヴを呑み込んだ巨大な炎は海面を燃やし、百メートル以上を駆けた。その後になってようやく攻撃の残滓が消え、彼の体を海へ落とす。

 素晴らしい一撃に観客は惜しみない賛辞を与え、ハッタリーは強くマイクを握りしめた。

 

 《決まったァ~! 必殺の火拳で猛進のギュスターヴがリングアウト! この時点で残っているのは2組のみ! 本戦出場決定だァ~!》

 

 リング上に残った四人の姿が映像電伝虫によって映し出され、多くの歓声を生む。

 

 《Aブロック勝ち抜けは、ルフィ&ビビペアとォ! エース&キリペア~!》

 

 わっと盛り上がるブルースクエアの町は騒がしい。

 やはり大本命エースと、話題のルーキー麦わらの一味が上がってきた。

 優勝するのは誰か。賭けは更なる盛り上がりを見せるものの大半がエースに賭けるらしい。

 多額の金が動く一方、優勝はエースに違いない、という意見を覆す者は居ないようだ。

 


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