ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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クロスカントリー(3)

 《レースはどんどん進んでいくぞ! 第三の試練は“飛び島”だァ! 崖の間に立っている柱を飛び移って進んでくれ! 当然落ちると大怪我必至だ!》

 

 ハッタリーの視線の先には、突然道が途切れた大きな崖があり、次の陸地に到達するまでおよそ五十メートルはあろうかという地形があった。ただし奇妙なのはその崖の間に直立する柱のような足場があり、その上を飛び移って先へ進むらしい。

 人の脚力で崩れるような柱ではないが、跳躍力が要求される。

 越えることは決して簡単ではない場所だった。

 

 《妨害のせいかレースは乱戦模様! 順位が次々入れ替わる激しい様相となっているぞ! 一つのミスが大きな命取りになる! 頑張ってくれよォ海賊諸君!》

 

 ルフィたちを追い越したエースが到着し、柱を飛び移ってどんどん先へ進んでいく。

 その次はキリがやってきて空から楽々と次の足場を目指していた。

 

 「よくもまぁこんなに変な地形ができるもんだね。アスレチック島とはよく言ったもんだ」

 「あなた!」

 

 紙の鳥の背に乗って悠々と進んでいると、突如背後からベビー5に抱き着かれた。いつの間にか追いつかれたようだがここは空である。キリは少し驚きながらも振り返る。

 まず最初に見えたのは目を輝かせて嬉しそうなベビー5の笑顔。

 その後方では、大の字になった姿勢で空を飛ぶ、奇妙な大男が居た。

 

 ベビー5の仲間、バッファロー。彼はグルグルの実の能力者である。

 自身の髪や手首や足首に付けた装飾を回転させ、プロペラのようにして空を飛んでいる様子だ。

 驚くキリが彼女を抱きとめてやりつつ、不思議そうにバッファローを眺めていた。

 

 「あぁっ、やっと会えた。遅くなってごめんなさい。あなたの役に立ちたくて他の海賊を狩ってる間に一回戦が終わってしまったの。私が宝箱を見つけてあげたかったのに……」

 「いやいや、いいよ。ボクらも見つけたし、問題はなかったしさ」

 「うっ、それって、私はもう用済みってこと? あなたの役には立てないの?」

 「そんなことは言ってないけど」

 

 ひしと抱き着き、瞳を潤ませるベビー5を見て、キリは苦笑しながら嘆息した。

 そんな顔をされると邪険に扱えない。自分が悪者になってしまった気分だ。

 そう考えた後、海賊なのだから悪者かと思い、それでも不思議と強く振り払えない自分が居てやり切れない気分になる。結局はまぁいいかと思ってしまった。

 

 そんな振る舞いを見ていたからだろう。

 すぐ隣を飛んでいたバッファローがキリへ声をかけた。

 

 「お前どっかで見たことあると思ったら麦わらの一味だすやん。ベビー5に惚れられたか」

 「まぁ、どうやらそうみたいで」

 「そいつはやめといた方がいいぞ。利用しようとした男はみんな若に消されてるだすやん。そんなことしてるとお前もその内消されるぞ」

 「変なこと言わないでよバッファロー! 大丈夫よ、彼は私が守るから!」

 「消されるってのは、それはまぁ、あの人なんだろうなぁ……」

 「心配しなくていいからね、あなた。大丈夫、バレなければ何も問題なんて起こらない」

 

 キリがぼんやり呟き、脳裏にはとある有名な海賊の顔を思い浮かべる。消されるという話、冗談だとは思えない。きっと今まで何人も消されたのだろう。

 その反応を見て捨てられると思ったのか、ベビー5が咄嗟に焦り出した。

 心配させまいと彼の頬を両手で挟み、じっと目を覗き込む。

 ともすれば震えそうになる彼女の声は本気の意志を表すかのようだ。

 

 「あなたの役に立ちたいの。なんでも言って。何かして欲しいことはある?」

 「んー、そう言われても」

 「あーあ、お前もう終わりだすやん。若がキレるな」

 「黙っててバッファロー。密告したら許さないから」

 「おれが言わなくてもどうせバレるに決まってるだすやん。そいつのビブルカード一日中眺めてたりするからな。ドレスローザに戻った時が終わりの時だ」

 「じゃあ戻らないわ」

 「戻れって言われてるだろ。またどやされるぞ」

 「関係ないわ。私は彼の役に立ちたいの」

 「めんどくせぇ奴だすや~ん」

 

 仲間であるはずのバッファローまでそう言ってしまい、やれやれと首を振って黙り込んだ。

 キリは苦笑し、多くは言わずに前方に目を向ける。

 

 すでにエースは飛び島地帯を越えていた。向こう側にある陸地へ辿り着き、その辺りは足場が砂になっているようで、道を阻むように大小様々な岩石が転がっている。

 彼を助ける必要性は感じないが、あまり離れ過ぎるのも問題だろう。

 彼女らの存在があるとはいえ、先を急ごうと改めて考えた。

 

 その時何気なく背後を振り返る。用事があった訳ではないが何かを感じたのかもしれない。

 後方、まだ距離はあるが広い道を大きな人間が走っていた。

 見間違えるはずもない。巨人族だ。

 

 《さぁ~ここへきて猛烈に追い上げてくる選手が居るぞ! 巨人族のボビー&ポーゴペアだ! こいつらの一歩はでか過ぎる! ここで一気にごぼう抜きかァ!》

 「巨人族か。あいつらが本戦まで残ると厄介だな」

 「あいつらが邪魔なのね。わかったわ、私が始末する」

 

 キリの呟きに反応したベビー5が目を輝かせて彼に言った。

 相変わらず挟み込むように頬へ手を置いたままで、その視線から逃れることはできない。

 真摯な態度で告げてくるため、受け止めるしかなかった。

 

 「できるの?」

 「任せて。あなたのためなら仕留められない敵は存在しないわ」

 「そうなんだ……じゃあお願いするよ。怪我はしないでね」

 「心配してくれるのね。ありがとう。でも私なら大丈夫だから」

 「そっか。それじゃ後で会おうか」

 「はい!」

 

 嬉しそうに笑って、首を伸ばしたベビー5がキリの頬へちゅっとキスを送った。

 その後で照れながらバッファローの背へ飛び移る。

 

 「行くわよバッファロー! 彼に一人も近付けさせないわ!」

 「んに~ん、めんどくせぇだすやん」

 「急ぎなさい!」

 「いでっ!? 踏むなだすやぁん!」

 

 張り切るベビー5がバッファローの背をヒールで踏むため、痛がるバッファローは嫌そうにしながらも方向転換して、崖へ向かってくる巨人の方を見た。

 距離が離れてしまう前にキリがベビー5へ言う。

 

 「あ、ボクの仲間は通していいからね。よろしく」

 「わかったわ!」

 「あーあー、なんでこんなことしなきゃいけないんだすやん……」

 

 ぶつぶつ言いながらもバッファローが巨人に向かって飛んでいく。

 ボビーとポーゴは二人に気付き、攻撃のためだと判断して瞬時に身構えた。

 

 「なんだ敵襲か」

 「相手は小さい人間だ。大したことはねぇ」

 「時間はかけないわよ! 速攻で決めるわ!」

 「へいへい。わかっただすやん」

 

 ベビー5が跳び上がると同時に開戦の合図となった。

 バッファローは落ちてくるベビー5を受け止めようとして、ボビーとポーゴが迎え撃つ。

 

 落下してくるベビー5もまた悪魔の実の能力者である。落下中に能力を使用した。

 ブキブキの実の全身武器人間。

 その力が発揮された瞬間に彼女の全身が変化し、姿は全く違う物体となる。上半身だけが変身してしまい、黒光りするその体はミサイルだった。

 彼女の足をバッファローが掴み、グルグルと体を回転させて投擲を行う。

 

 「武器変貌(ブキモルフォーゼ)!」

 「グルグル投射砲!」

 「ミサイル(ガール)!!」

 

 遠心力を利用して投げられたベビー5は巨大なミサイルその物。

 驚愕して動けない二人に急接近して、反撃のため振るわれた彼らの得物を、自らの意思で回避して尚突進を続ける。結果、彼らを一纏めにして激突した。

 凄まじい規模の爆発が起こり、巨人の姿を爆炎の中に包み込んでしまうほどである。

 

 飛び島地帯をゆっくり飛びながらキリはその光景を見ていた。

 少なからず驚きを隠せない。ベビー5が能力者だと知ったのもこの時が初めてだ。

 

 爆炎が消え、煙が晴れる頃、ボビーとポーゴはすでに気絶している。ベビー5とバッファローは後続の敵を襲い始めており、攻撃の手を緩める様子はない。

 敵に回すと厄介な相手だろう。二人のコンビネーションも見た上で判断した。

 

 「パラミシアか。それにしちゃ破壊力が凄いし、味方でよかったな……とりあえず今は」

 

 敵か味方か、微妙な立場にあるものの、とりあえず知れてよかった。

 キリは前を向き、今度こそ急いで飛び島地帯を抜ける。

 エースはさらに前を行っていて、どうやらキリが来るのを待っているようだった。

 

 「観戦か? さっきでけぇ音が聞こえたな」

 「向こうで乱戦になってるんだ。ルフィたちなら大丈夫だよ」

 「だと思った。でもこっから大変みたいだぞ」

 

 そう言って彼は自身の前方を眺め、待ち受ける試練に笑みを深める。

 

 《お~っと、やはり火拳のエースが飛び出ているぞ! パートナーの紙使いキリも紙を操って悠々と試練を回避している! そして辿り着いた第四の試練は“恐竜ロード”!》

 

 エースが目前にしている細い道は両側を丸い大きな岩に囲まれ、あまりにも巨大な恐竜が涎を垂らしながら参加者を待ち受けていた。

 獰猛な肉食の恐竜であるティラノサウルス。数は十匹。

 わざわざ細い道から出てこないのはそこへ誘い込めば勝利は確実だと考えているからだろう。その道を前にしてしゃがんでいるエースだけを見つめ、誰も襲おうとはしない。

 

 周囲の環境。待ち受ける妨害者。ここまでで感じるはずの疲労感。

 この競技を辛く感じる材料はいくらでも揃っていた。

 ただ、エースが微塵も辛く思っていないことは大会主催者から見ても異常に想える。

 

 岩が転がる砂地を飛び越え、追いついたキリは何を思うでもなくエースの背を眺める。

 わくわくしている様はルフィに近い。まるでその物を見ているかのようだ。

 

 《我がブルーベリータイムズ社と契約した恐竜たちが腹を空かせて待ってるぞ! 彼らを掻い潜って食われることなく通り抜けろ! もし食われてしまったら、その時は自力でどうにかしてくれると有難い!》

 「無茶苦茶言うなぁ」

 「それでいいさ。要は食われなきゃいいんだろ」

 

 そう言って立ち上がり、エースは脇目も振らずに駆け出した。

 恐竜が待ち受けている小道へ正面から向かっていく。

 援護は必要か、と半ば反射的に考えたキリはその考えこそ失礼だと判断して、思わず上げてしまった右手をそっと降ろす。

 

 小道に着地した瞬間、やはり恐竜たちは我先にと動いて襲い掛かってきた。

 エースは笑みを浮かべたまま、全く恐れずに跳び上がる。

 

 突進を仕掛けてくる恐竜の頭に飛び乗って、鋭い牙はあっさり回避してしまい、まるで遊んでいる姿にも見える。すかさず別の一匹が大口を開くが今度は彼の頭へ飛び移った。

 そうして必死に食らい付こうとする恐竜を回避し、エースはどんどん前へ進む。

 

 確かに道が狭くて動きにくさはある。だがそのスピード、その迫力、決して弱くはない。

 エースは全く捕まる気配を見せずに恐竜の頭を蹴って飛び移っていた。

 この動きに能力は関係ない。

 先程少しだけ見せたメラメラの力は一切使わず、自身の身体能力を頼りに動き、自らの感覚で相手の動きを先読みして、最小限の力で自身を安全な場所へ運んでいる。

 

 離れて見ているからよくわかる。

 彼は強い。ルフィが一度も勝てなかったという話が納得できた。

 メラメラの能力とは関係なく、恐竜たちを支配しているかのように攻撃が当たらない。

 大海賊の風格。今の自分たちではどうあがいても届かないと思えるほど、現在地が違った。

 

 「よっと。忙しないなお前ら」

 

 後ろで乱戦が起こっていると知ったせいか、エースに急ぐ様子はない。恐竜たちと戯れるように動いているのは少し待っているのではないかと感じた。

 疲労を感じた様子もなく動きの速さは変わらない。

 冷静に相手の行動と目的を見極め、最小限の力だけを使う。

 恐竜たちの方が疲弊していくように見え、キリは同情して苦笑する。

 

 大口を開けて首を伸ばす恐竜から逃げるため、エースが地面へ降りた。

 着地した直後、踏み潰されないようにすぐさま跳び、スライディングで一匹の足の間を抜ける。

 その後もすぐに両足で地面を蹴り、高く跳び上がった直後に尻尾が地面を叩いた。

 

 上手く攻撃を避けていたが、空中に躍り出たタイミングで三匹が同時に彼を食おうとする。

 どうやら誘い込まれたらしく、思わず小さく声を出す。しかし怖がっている顔ではなくてむしろ感心しているようだ。

 多少驚いてはいるものの、キリが心配するほどの出来事ではない。

 

 跳躍の最高点に到達した後、エースは体を回しながら落下していく。

 その下では恐竜たちが口を開けて待ち構えていた。

 

 「おおっ。意外にやるなぁお前ら」

 「助けは……要らないか」

 「仕方ねぇ」

 

 にやりと笑ったエースはそのまま落ちていく。

 瞬間、ドクン、と大気が震えた気がした。

 明らかにさっきまでにはなかった感覚を覚えて思わずキリが目を見開いている。今の一瞬、とんでもない強者に対面したような、凄まじい迫力を感じて背筋に悪寒が走った。

 

 見れば恐竜たちが口元を震わせ、捕食を忘れて後ずさってしまう。

 その結果、エースは至って無事に地面へ着地し、笑顔を崩さず自分の帽子に触れた。

 

 「今のは……」

 

 呆然とした状態で呟く。

 理由や原因はわからない。ただあの一瞬、エースが恐竜たちを威圧したことだけは確かだ。

 その結果として怯えてしまった十匹のティラノサウルスはエースに対して頭を垂れ、まるで自らの王は彼だと態度で告げているかのよう。

 わからないとはいえ、キリは何かしらの力を使ったのだと推測する。

 

 悪魔の実の能力ではないことはわかる。そこで思い出したのは彼が語った“覇気”という力。まだ自身が理解できていないその力である可能性は高い。

 キリは真剣な目でエースを見つめる。

 

 エースは、頭を垂れた恐竜の鼻先を穏やかな顔で撫でていた。

 その姿にまさしく王者を見た気がする。キリが危機感を抱くのも無理はない。

 

 (いつか海賊王の座を巡って、ルフィとエースが戦うことになれば、その時は――)

 

 ただの推測から、わずかに殺気が漏れ出た。

 気付けば目の色を変えていたキリにエースが振り返る。

 心の内を読まれた気がして少し肩を震わせるが、エースはにこやかに笑っただけだった。

 

 「さて、行くか。急ごうぜキリ。ちょっと遊んじまったしな」

 「あ、うん……」

 

 紙の鳥に乗っている彼へ告げ、エースは一足先に駆け出して先へ行ってしまう。

 見て見ぬふりをしたに違いない。たった今、見逃されたのだ。

 

 恐ろしい人だと改めて思う。

 戦闘能力の話だけではなかった。

 彼の生き方や覚悟を感じて自分たちより高みに居ることは理解できた。いずれ戦うことがあるかもしれない。そう考えたことでさらに偉大さを強く感じられた気がする。

 

 考えていたキリが紙の鳥を操作して、再び他の参加者を待ち始めた恐竜の頭上を越えようとした時だ。何やらドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

 振り返って確認すると目立つ長身の人物が走ってくる。

 

 キリは驚いて目を見開いた。

 目立つ外見の人物は彼の知り合いだったらしい。

 猛烈な速度で走ってきて迷いもせずに恐竜が待ち受ける小道へ突入する。その瞬間に先頭の恐竜が大口を開けて迫るのだが、一切の恐怖心を感じさせず。

 迫ってくる恐竜を間近に置いて笑みを浮かべたまま叫んでいた。

 

 「ジョーダンじゃな~いわよ~う!」

 

 走る勢いをそのまま使って、素早い動作で跳び、目の前にあった恐竜の頬へ蹴りを叩き込んだ。

 

 「なぁによトカゲェ、邪魔すんじゃないわよぅ! オカマ拳法“お控え・ナ・鞭打(フェッテ)”!」

 

 その動作、エースとはまるで違う。

 しなやかな動きながらも強靭な力で恐竜の頬を蹴り抜き、あまりの勢いで姿勢その物が崩れる。蹴られた恐竜は勢いよく転んでしまい、歯も一本折れていた。

 唐突な展開に他の恐竜まであんぐりと口を開けている。

 軽やかに着地して、その人物はまだ止まらない。

 

 「回る回る! 回るあちしは白鳥の如く! オカマ拳法~……!」

 

 バレエのように片足で回転し、回り続けながらも高くジャンプした。

 近くに居た恐竜へ自ら襲い掛かって、急降下から蹴りを行う。

 

 「“あの冬の日の回想録(メモワール)”!!」

 

 強烈な一撃は脳天に叩き込まれてあっという間に意識を失った。

 恐竜が地面に倒れ、地響きが鳴る。

 その後もくるくる回りながら落ちてきて、大笑いしながら楽しそうだった。

 

 「んが~っはっはっは! ジョーダンじゃな~いわよ~う!」

 

 見事に着地を決めて最後に一度くるりと回る。

 

 「どんだけでかくてもトカゲ程度じゃあちしは止められないわ~ん! なぜならあちしは男で女……オカマだからよぅ!」

 

 その人物、見るからに奇妙な風貌だった。

 白鳥を模した装飾を付けたコートを身に着けて、かぼちゃパンツのような奇妙な服で、コートの背には“おかま(ウェイ)”と書かれている。

 何より、騒がしい顔にはメイクを施し、独特の存在感を主張している。

 彼は、或いは彼女は、いわゆるオカマというものだった。

 

 オカマ拳法の使い手、Mr.2・ボン・クレー。

 バロックワークスのオフィサーエージェントであり、キリにとっては知人以上の関係である。

 両手で頭上に宝箱を持ち上げ、たった一人でゴールを目指し、走り出した。

 

 「ま~だまだ行くわよーう! どきなさいよあんたたちィ!」

 

 強さを思い知らされたせいか、すっかり怯えてしまった恐竜たちは簡単に道を譲る。

 Mr.2は残る八匹の間を通り抜けて小道を抜けた。

 

 「びっくりした。何やってんだろ、こんなとこで。任務……って訳じゃなさそうだよなぁ」

 

 紙の鳥で恐竜たちの頭上を通り過ぎながら、キリはMr.2の後を追う。

 やたらとうるさいその人は、男女のペアが当然のバロックワークスの中で唯一パートナーを持たない人物。理由は一つ、彼自身が男で女だからだ。

 きっと二人一組が決まりのこの大会にも一人で参加したのだろう。相変わらずおかしな人だ。

 

 なぜ彼がこの場に居るのかはわからないものの、少なくともわかったことは一つある。

 このタイミングで外に居るところを見れば、アラバスタは現在地から遠くない。

 バロックワークスは最終作戦を前にしている状態。そう身勝手な行動はできないはず。

 

 ゴールは以前よりも近付いているらしい。

 クロスカントリーとは関係のない場所を思い浮かべ、キリは笑みを浮かべてゴールを目指した。

 


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