ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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クロスカントリー(2)

 古代島から続く砂浜を通り、参加者が続々とアスレチック島へ移動していく。

 鳥の背に乗るハッタリーは島の様子を見ながら実況する。

 アスレチック島は縦に長く伸びた形。その中に様々な環境があり、自然にできた一本の道が曲がりくねりながらも続いている。道中にある様々な障害は時に人為的に、しかし大半が島の環境その物が彼らの試練となって立ちはだかるだろう。

 

 砂浜から島へ入った地点。そこに最初の試練がある。

 すでに走っている海賊が存在して、ハッタリーは彼らを見ながらマイクを握って言った。

 

 《二回戦が始まってからすでに数分。先頭集団はすでにアスレチック島に入っているぞ。島に入るとすぐに最初の試練が待ち受ける。第一の試練、名付けて“トラップ街道”!》

 

 ハッタリーの声が興奮からか大きくなる。

 参加者たちは彼の声を聞きながら走っていた。

 しかしその街道、乾いた土の道は普通に見えるものの、そこに置かれた物は普通ではない。

 

 《この街道には我々ブルーベリータイムズ社が罠を仕掛けさせてもらった! といっても落とし穴などの危険な物はないので安心して欲しい。あるのはまきびしやトラバサミのみ。ただしさっきと同じで、ここにも妨害者は居るので注意してくれ!》

 

 その声を聞きながら街道へ入り、シルクとチョッパーは罠の数々を見つけた。

 確かに説明の通り、隠されることもなくまきびしやトラバサミが地面にばら撒かれていて、その存在感は異質な物だと感じられた。

 これらを避けながら進まなければならないのが第一の試練なのだという。

 

 人型のチョッパーが宝箱を抱えて、その隣に抜き身の剣を持ったシルクが走る。

 二回戦開始の時点で砂浜の近くに居たため、かなり早い段階で渡り切ったらしい。

 周りに他の参加者の姿も見える。だが前方に居るのはほんの数名だ。

 

 第一の試練はそう難しいものではない。ただ罠を避けて進むだけ、さほど苦労はしないはず。

 シルクとチョッパーは勝利する希望を持って進んでいた。

 

 「罠があるぞ。いっぱいある」

 「大丈夫。ちゃんと見て避けて歩けば問題ないよ」

 「そうだけど、妨害者が居るって言ってた。さっきの奴らみたいに何かあるんじゃないかな」

 「うん……その可能性は高いと思う」

 

 小さく頷き、不安そうに表情を歪めたチョッパーへシルクが答えた。

 

 「だけど生き残れる人数には限りがある。危険だとしても急がなきゃ」

 「みんな、大丈夫かな」

 「心配ないよ。みんなもきっと上手くやってる。私たちは自分のことに集中しよう」

 「うん。そうだよな」

 

 話しながら進んでいる内に罠が設置されている地点へ近付いてきた。

 まきびしとトラバサミ、種類で見ればたった二つだが、おびただしい数が置かれている。これらを上手く避けなければ時間をロスするだろう。しかし足の踏み場を探すのが難しいほどに用意されていて、勢いだけで突破できるほど簡単な道ではない。

 

 この先は絶対に集中しなければならない。

 自分のためでもあり、それが仲間のためにもなる。

 気合いを入れ直して二人はその地点へ足を踏み入れようとしていた。

 

 「行くよチョッパー。足元と周りに注意してね」

 「わかってる――シルク! 危ない!」

 

 突然チョッパーが大声を出し、右手でシルクの腕を引いた。

 その瞬間に彼女の足が止まって、目の前を拳大の石が通り過ぎていく。誰かが投げたとしか思えない速度と軌道で二人の前を横切っていった。

 

 今度こそ完璧に足を止め、石が飛んできた方向を見る。

 想像した通り、やはり妨害者である動物が石を投げてきたようだった。

 

 《動き出したぞォ、今度の妨害者はラパーンの群れだ! 彼らの攻撃を上手く避けて進め!》

 「びっくりした……ラパーン? さっきのシーラパーンに似てるね」

 「ラパーンはおれの故郷にも居た。獰猛で人を襲うこともある。だけどこいつら」

 

 その場所は道が一本伸びているのみで、道の両側は至って普通の原っぱが広がっているだけで罠の類は置かれていない。しかし何もないのが逆に怪しいという環境だ。事前に落とし穴はないと言っていたが、もし道を外れることがあればそこにこそひどい罠が潜んでいるのだろう。

 そんな地帯から多少の距離を置き、海に落ちるというギリギリの位置にラパーンが居る。

 

 見栄えは大きな兎といった具合である。

 怖そうな顔つきをしており、明らかに態度の悪そうな目つきで、丸々とした体に真っ白な体毛、長い耳などは愛らしさなども感じるとはいえ、手に握った石で遊ぶ様は不良のそれを感じさせる。

 

 先程投げた石のスピードから見ても脅威なのは間違いない。それにきっと反撃も難しい。

 二人は苦い顔をして、止まっている訳にはいかないと慌てて駆け出した。

 

 「強いぞ。きっと野生の奴らより強い」

 「私が能力でガードするよ。チョッパー、先に行って」

 「わかった。頼んだぞシルク!」

 

 覚悟を決めて前へ進み、チョッパーを先頭に罠が置かれた地帯へ突入する。

 当然妨害のためにラパーンが揃って石を投げ始めていた。

 瞬時に防御のためシルクが剣を振って風を起こす。彼らは海を背にして立っている。大きな怪我などさせなくとも海へ落としてしまえばいいと考えていた。

 

 「ええい!」

 

 剣の動きに従い暴風が吹き荒れる。

 凄まじい速度で投げられた石は無理やり軌道を変えられ、二人には当たらず。さらに海へ叩き落とすためラパーンの群れへと襲い掛かった。

 だが、想像通りにはならない。

 ぐっと身を沈めた彼らは地面に爪を突き立て、風に耐え切り、冷淡にシルクを見つめた。

 

 チョッパーが言う通り、彼らは野生とは違った頭の良さを見せつける。

 ブルーベリータイムズ社と契約した動物。警戒しなければならない相手だと判断する。

 

 一方で海に落とすことには失敗したとはいえ、投石を防ぐのは難しくないことが理解できた。二人はこれを好機と見て先を急ぎ、足元に注意しながら走る。

 敵の攻撃に注意しながら、よく足元を見て罠にかからないようにすればいいだけ。

 二人にしてみれば想像よりも簡単に乗り越えられそうな試練だった。

 

 とはいえ、参加者はその二人だけではない。

 後続の参加者も追いついてきて、その途端難易度は一気に上がる。

 互いに邪魔をしながら先頭を目指す。それがこのレースの醍醐味でもあった。

 

 「どけどけィ! おれ様の前に立つんじゃねぇ!」

 「あ、シルク。あれ……」

 「ハデに死ね! バラバラ砲!」

 

 追い上げてきたらしいバギーが右手をバラバラにして飛ばし、指の間にナイフを挟んで二人への攻撃を行った。飛来してくる手が二人の背を狙う。

 振り返って気付いたチョッパーが慌て始め、シルクも彼の存在に気付く。

 足元に気をつけつつ立ち止まって、反撃のために剣を振り上げた。

 

 「先に行って! 鎌居太刀!」

 「うおおっ!? なんじゃこりゃあっ!?」

 

 斬撃を含む暴風が吹き荒れ、今度は飛ばした手も含めてバギーへ襲い掛かる。

 彼の手や体に切り傷がつけられて後方へ飛ばされた。

 バギーは転んでしまい、まだ罠が置かれていない位置だったのが幸いして、ただ地面を転がっただけだ。しかしすぐに全身をバラすと浮遊して起き上がる。

 

 その二人が麦わらの一味であることは見た瞬間に理解していた。以前出会った時にシルクを見ていたからである。チョッパーに関する情報はないが隣に居れば仲間だと思うのは当然だ。

 彼女たちは倒すべき敵。傍に居るアルビダが呆れることも知らず、敵意を剥き出しにする。

 

 「おのれ麦わらの一派め! どこに居てもおれの邪魔をしやがって!」

 「仕掛けてきたのはそっちだよ」

 「やかましいッ! 貴様らなんぞ優勝させて堪るかってんだ!」

 

 全身がバラバラになったバギーは浮遊しており、その状態のまま向かってきた。

 相手にするのも面倒だ。逃げた方が早いと二人は先を急ぐ。

 

 混乱に乗じてラパーンが石を投げつけ始めていた。再び防御のためシルクが風を起こし、飛んでくる石を逸らしてチョッパーを守る。

 バギーたちの乱入に加えて彼らの妨害が入ったことで、必然的に注意力が散漫になったようだ。

 

 シルクとチョッパーが困惑しながら進んでいると、その隙にアルビダが前へ出た。

 左手で宝箱を小脇に抱え、右手では金棒を持ち、スベスベの素足で地面を滑って移動している。その速度は驚くほど速い。その上、まきびしやトラバサミが触れても滑ってしまい、ラパーンの投石が当たっても無傷で、物理的な攻撃では一切傷がつかなかった。

 

 「あんたたちも中々やるね。流石はルフィの仲間だよ」

 「あなたは?」

 「ルフィに惚れてる女さ」

 

 にこりと微笑む彼女はひどく美しい。

 しかしその返答には困ってしまい、シルクは不思議そうに表情を歪める。

 アルビダはあっさりと彼女たちに追いつき、速度を保ったまま追い抜こうとしていた。

 

 「悪いね。先に行かせてもらうよ」

 「あっ、待て!」

 「いいよチョッパー。攻撃してこないなら行かせてあげよう」

 「だけど」

 「それより注意しなきゃいけないことはたくさんあるよ」

 

 アルビダに追い抜かれたことを重要視せず、二人は焦らず自分たちの安全を優先する。地面には無数の罠、左右から石が飛んできて、注意しなければ大怪我では済まない。

 後ろからドタドタとバギーもやってくるがそれもいいだろう。

 ただ前へ進むことに集中し、敢えて相手にしようとはしなかった。

 

 憤るバギーの大声が聞こえたのも束の間。

 二人は振り返ろうとしなかったが新たな声が飛んできてバギーに激突したのである。

 

 「待ちやがれてめぇら! つーかアルビダ、なぜおれを置いていく!? ええい、それもこれもあの麦わらのせいだ――!」

 「ロケットォ!」

 「おぶぅ!?」

 

 突然ルフィが飛んできて、反応する暇もなく背中に激突し、共にまきびしの上に倒れる。

 二人揃って痛みから悲鳴を発していた。

 その声には反応せずにはいられず、シルクとチョッパーは走りながら振り返る。まきびしが刺さって転げ回っているルフィとバギーを見つけたのだ。

 

 「ぎゃあああっ!? いてぇぇぇっ!?」

 「ぎゃあああっ!? 刺さる刺さる!?」

 「ルフィ。無事だったんだね」

 「いや、無事じゃなさそうだぞ……刺さってる」

 

 散々転げ回った後、なんとかまきびしから逃れて立ち上がれた。

 斬撃には強いが一点を突く物体には弱かったらしい。バギーは怒り心頭という顔で仁王立ちし、近くに座っていたルフィを見下ろす。それから彼も気付いた。

 

 「おのれクソゴム! 何しやがる! てめぇはいつもいつもおれの邪魔をしやがって……!」

 「ん? なんだバギーか」

 「ハデにふざけんなゴム野郎め! いい気になりやがって、ここで始末してやる!」

 「そうか。悪ぃけどおれ急いでるからよ。また今度でいいか?」

 「おうそうか。じゃあしょうがねぇな、また今度に……して堪るかァ!!」

 「相変わらずうるせぇなーお前」

 

 怒気を発したバギーは両手にナイフを持ち、指の間に挟むため合計で六本をルフィへ向けた。

 こうなればレースよりも戦闘だ。進むことを忘れてその場に立ち尽くしている。

 

 「ここで会ったが百年目ェ! 今日こそはてめぇを倒して――おげぇ!?」

 「お? なんか飛んできた」

 

 警戒せずに突っ立っていたせいでラパーンの投石が腰に当たり、体がバラバラになって地面に散らばってしまう。その一部がまたしても罠にかかって悲鳴が上がった。

 ルフィは帽子を押さえながら視線の先を変える。

 そのタイミングでラパーンの存在に気付き、好奇心のせいか目を輝かせた。

 

 「うおおっ、なんだあいつら! ゴリラか?」

 「兎だよ。ラパーンっていうんだ」

 「ルフィ、ビビは?」

 「おーシルク、チョッパー。ビビも来てるぞ」

 「ルフィさん!」

 

 少し遅れて宝箱を抱えたビビが走ってくる。

 思わず足を止めたシルクとチョッパーも安堵するものの、彼女一人ではない。

 ほとんど同じタイミングで他の参加者がやってきた。

 そちらは非常に見覚えのある相手で、陸上においても足が遅いという訳ではないらしい。キリバチを担いで走ってきたアーロンがビビを追い抜き、キリバチで地面を叩くと高く舞い上がった。

 

 「シャハハハハッ! どけどけェ!」

 「アーロン!」

 「ぎゃああっ!? てめぇ何する気だこの野郎ォ!」

 

 落下してきたアーロンがキリバチを振り抜き、ルフィとバギーを狙ったらしく、回避した二人が数秒前まで居た地面をガリガリと削り取った。その勢いを利用し、刃を地面に引っ掛けると自分の体をぐっと前へ投げ飛ばす。それで彼らの傍をすぐに離れる。

 攻撃のついでであっという間に追い抜いてしまい、着地したアーロンが前へ出た。

 

 「シャーッハッハッハァ!」

 「ニュ~、今日はアーロンさん機嫌が良いなぁ。楽しそうでよかったぞ」

 「あ、はっちゃん」

 「よぉお前ら。止まってていいのか?」

 

 非常に攻撃的な態度で走り去るアーロンに続き、宝箱を運ぶはっちゃんも彼らを抜いていった。

 いつまでも立ち止まってはいられない。

 どうやら彼に負けたくないと急いでいた様子のルフィは目つきを変え、即座に駆け出した。

 

 「行くぞビビ!」

 「ええ!」

 「シルク、おれたちも行こう」

 「うん。負けられないね」

 

 ルフィとビビが駆け出した直後、シルクとチョッパーも急ぎ始める。

 彼らに先を越された形で、ようやく元の姿に戻ったバギーが憤慨しながら叫んでいた。

 

 「チクショー! どいつもこいつもハデアホどもがァ! 優勝賞品はおれ様のもんだ! てめぇらなんぞにくれてやるかァ!」

 

 怒りながらバギーも駆け出し、ラパーンの投石が飛び交う街道はひどい混乱状態にあった。

 皆が我先にと競い合い、先頭を奪い合う。

 不思議と戦闘は起こらずレースの様相が強くなっていた。

 

 その集団の先頭に居たアルビダは最初の試練の終わりを見つける。

 進む先に道が途切れていた。

 

 彼女たちが次の試練へ近付いたことを確認して、ハッタリーの実況が聞こえた。それまでも観客に向けて続けていたようだが再び試練の説明だ。

 道の先にあったのは高い岸壁である。

 垂直の岩の壁にまるで階段のように平たい岩が付いていて、それを使って登るらしい。原理は理解できるが一つ一つの足場にそれなりの距離があって登りにくそうに見える。

 

 《街道を越えると第二の試練! “崖登り”! 見た通りそのまんまだが足場を踏み外せば命の保証はできないぞ!》

 

 高さおよそ二十五メートル。そう簡単に登れる高さではない。

 崖の前で能力の使用をやめて足を止めたアルビダは、下から見上げて高さを確認する。

 フッと微笑み、腰に提げていたサンダルを履き始めた。

 

 「流石に足を滑らせる訳にはいかないねぇ。ここは注意しておかないと」

 

 彼女が立ち止まったほんの数秒。

 後続の参加者が続々と追いついてきて、先頭はアーロン。彼はアルビダを気にすることなく地面を蹴り、彼女の背後から頭を飛び越して岸壁の足場を目指した。

 その様はまるで撃ち出された魚雷。金棒で叩き落とすこともできない迫力である。

 

 「(シャーク)・ON・DARTS!」

 

 素早く跳び上がって数段上の足場へ到達し、彼は着地すると同時に振り返った。

 他の面子がどんどん追いついてくる。

 そこに居るルフィを睨みつけ、挑発するように叫んだ。

 

 「来てみろ! 麦わらァ!」

 「もちろんだ! ビビ、おれに掴まれ!」

 「え? は、はい!」

 

 すぐ後ろを走っていたビビから宝箱を受け取り、彼の背にビビがおぶさる。

 宝箱は左手で抱え、右腕だけが勢いよく伸ばされる。アーロンより右側の足場を掴んで、彼に追いつこうという意思ではない。攻撃を仕掛ける様子は見られなかった。

 

 「一気に追い抜いてやる! ゴムゴムのォ~……ロケット!」

 

 腕を縮める勢いを利用して自らを撃ち出す。ビビを連れた彼は高く跳び上がり、自身より上に居たはずのアーロンさえ抜き去って集団の先頭を奪い、岸壁の上に着地した。

 今度はルフィが挑発的な笑顔で振り返る。

 アーロンは小さく舌打ちして、先程と同じように強靭な脚力で足場を飛び移り始めた。

 

 「しっしっし! 見たか!」

 「チィ、勝負はこれからだ……!」

 

 アーロンの動きを見てから動き出そうとして、慌ててビビが背から降りた。

 宝箱はルフィに託したまま、二人は同時に走り出して先頭を走る。

 

 「おれたちが一番前か? よぉし、行くぞ~!」

 「だけど気をつけましょう。ここから先、何があるかわからないわ――」

 

 目に付くところに敵は居ない。妨害者もない。試練もまだ少し先だろう。

 ほんの少しとはいえ安堵しつつ、警戒心を持ちながら二人は進む。

 その時、背後から独特の音が聞こえた。

 

 咄嗟に二人が振り返った時、崖の下から空へ向かって飛んでくる炎の軌跡がある。

 それは彼らの頭上で一瞬にして人の形となり、余裕のある笑みを見せていた。

 

 「わりぃがルフィ、お前が一位ってのはなしだろ」

 「エースゥ!」

 

 空で完全な姿を取り戻したエースは、片手で帽子を押さえ、自身の弟に声をかけると両足が炎に変化して、噴射するように移動を開始する。自らの能力で空を飛んだのだ。

 二人の頭上をあっという間に抜き去っていき、前を取られた。

 驚く二人だが怯んではいない。

 その光景を見ても速度は一切変わらなかった。

 

 「くそぉ~、やっぱりエースはすげぇなぁ。でも負けねぇぞ」

 「あれが世界に知られる大海賊の一人なのね。すごい……」

 「ボクも居るんだけど」

 「お? あぁ~キリィ!」

 

 バサリと翼の羽ばたきが聞こえ、聞こえた声に振り返れば、紙の鳥に乗ったキリを見つける。

 胡坐を掻いて座り、宝箱を抱えて呑気に笑っていた。

 途端にルフィは笑顔になり、ビビは驚いた顔で見上げる。

 

 「お~いキリ、おれたちも乗せてくれ!」

 「それはだめだよ。今はエースとコンビだもん」

 「いいじゃねぇか、ちょっとくらい。船長命令だぞ」

 「ズルいこと言うなぁ。競技は競技なんだから自分たちで頑張りなよ」

 「ケチ」

 「ケチだもん」

 

 平然と話す二人を見ながらビビは改めて凄いと感じる。

 ルフィにしろ、キリにしろ、エースにしてもそう。さっきまで近くに居た者にしても、予選一回戦の疲労感を全く見せない。凄まじい体力だと驚いてしまう。

 それでいて彼らはそれを誇るような態度もない。

 息を切らしながら必死に走るビビは、自分とはまるで違うと感じていた。

 

 一回戦を終えた直後にすぐさま二回戦。しかしこれで終わりとも限らない。

 拭いきれない不安を覚えつつ、考えても仕方ないと判断して、勢いよく首を振る。

 何があろうとルフィについて行けばいいのだ。

 ビビは表情を引き締め直して真っ直ぐ前を見据えた。

 


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