ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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招かれざる男

 とある大きな酒場で、小さな、しかし無視できない問題が起こっていた。

 食事中に客が突然眠り始めたのである。

 四角く切られた肉をフォークで持ち上げた瞬間、急にピラフの中へ顔を埋めてしまい、ぴくりとも動かずに座ったまま寝息を立て始めてしまう。そんな異常事態があった。

 店内は彼の背に夢中になり、その背には、とんでもない物が描かれていたのだ。

 

 大海賊“白ひげ”のマークである。

 グランドラインにおいてもそう滅多に見ることのない半ば伝説的なマークが、目の前にあった。

 恐れおののいた彼らは声を潜めて、今や彼以外の人間に注目することもできない。

 

 その風貌、その外見、見れば見るほど覚えがあって。

 毒殺でもあったのかと疑ってしまうほどには有名な賞金首だったようだ。だが事実、彼は寝息を立てて眠っているだけであり、まだ死んでいない。

 突然寝るだけでも異常だが問題なのはその人物な訳で、店内の動揺は収まりそうになかった。

 

 距離を置いて眺める者の中には静かに武器を握る者も居て。

 不穏な空気が漂いつつあり、海賊でない客には怯え始める者も多い。

 

 「あいつ……やっぱり、アレだよな?」

 「ああ、間違いない」

 「白ひげのマーク……本物は初めて見た」

 「なんで前半の海に?」

 「しかもいきなり寝やがった」

 「寝ている間に討ち取れたら――」

 「バカ、よせっ」

 

 槍を手にした男が力を込めて柄を強く握りしめた。

 今この瞬間、標的はテーブルに頭を預けて眠りこけている。このまま背後から一突き。心臓を貫いてやれば自分でも討ち取れるのではないか、そんな風に思う。

 騒動を避けたがる周囲は止めようとするが張本人は混乱しているらしい。

 彼らの声は聞こえず、ついに席を立って槍を構えてしまった。

 

 「へへっ、あいつを仕留めりゃ、おれも大海賊の仲間になれる……」

 「おい、やめろっ。成功するわきゃねぇ」

 「仮に討ち取れたとしても、そうなりゃ次に出てくるのが誰かわかってんのか」

 「構うもんか。おれはここに来るまでに仲間が海軍に捕まっちまった。正直もう死んだも同然なんだからよぉ、どうせなら最後くらい派手に散りてぇしなぁ……」

 「お、おい、お前っ」

 「やめとけ。もう目がイッちまってる」

 

 話す内に彼を止める者は居なくなったようだ。

 槍を構えた男は恐る恐るカウンターへ近付いていく。

 

 「てめぇを仕留めりゃおれも有名人だ……大事なマークががら空きだぜェ! 火拳のエース!」

 

 駆け出した男は持てる力を全て注ぎ込んで槍を突き出した。眠りこける人物は動かず、その背に勢いよく槍が突き刺さって、穂先はカウンターにまで達する。

 男は、肉体の刺さったその場所と槍の柄が燃え始めたことに気付く。

 なぜかメラメラと燃え始め、槍はあっという間に燃えカスになってしまった。

 

 「う、うわっ――!?」

 

 咄嗟に手を離した男が尻もちをつく。

 周囲で見ていた客はいつしか身を乗り出していた。

 

 これこそが自然系(ロギア)のメラメラの実。

 食べれば全身が“火”になるという能力である。

 噂は聞いていたが本物を見たのは誰もが初めてだった。そう滅多に見れる能力ではないため興味を持って傷が塞がっていく様を見つめて、同時に恐怖も抱く。

 彼はただの武器で死ぬ人間ではない。

 

 刺された場所が火に包まれて傷を失くし、刺した槍の柄の部分は全て燃え尽きてしまった。

 その後でむくっと顔が上げられる。

 彼はにやりと笑って後ろへ振り返り、尻もちをついた男に目を向けた。

 

 「やめとけよ。お前じゃおれはやれねぇ」

 「あ、あっ――」

 

 左手が上げられる。掌を男へ向け静止した。

 直後、その腕から炎が放射され、男の体を包み込んで吹き飛ばした。

 男の体は酒場の壁を破壊して外へ飛び出していき、勢いよく地面に転がると同時に、全身を包む炎に苦しんで転げ回る。当然のことだが命の危険を感じていた。

 

 ちょうどその頃、酒場の近くに来ていたルフィたちが目撃し、大変そうだと息をつく。

 酒場を見つけたのもそれがきっかけだった。

 

 「あぢぃっ!? あづいっ、あづいぃぃぃっ!!」

 「うあちゃ~、焼けちゃってるよあいつ。何があったんだ?」

 「何にしてもトラブルがあったことは間違いなさそうだね。大会前に喧嘩はやめてよ」

 「んん、努力する」

 「ほんとに大丈夫かな」

 

 転げ回る男は一向に気にせず、ルフィとキリは酒場へ向かう。

 キリと腕を組んでうっとりしながら頭を預けるベビー5も同行していた。

 三人は酒場に入り、するとすぐにルフィだけが一足先にカウンターへ駆けていく。

 

 「肉ぅ~! おっさん、肉くれ! 大盛りで!」

 「あ、ああ。わかった」

 

 驚いている顔の店主は頷き、すぐに料理を始めようとする。

 その時、ルフィの隣には半裸の男が座っていて。注文を終えると同時、もらったおしぼりで汚れた顔を拭いていた男とルフィが目を合わせた。

 

 「ん?」

 「あ」

 

 二人は小さな声を発してしばし動かなくなってしまう。

 その姿は入り口に立ったキリにも見えていて、彼もかなり驚いていた様子だ。

 

 「エース~!」

 「ルフィ! お前、やっぱりここに来やがったか!」

 「なんでエースがこんなとこに居るんだぁ~!?」

 

 ルフィは半裸でオレンジ色のテンガロンハットをかぶった男、“火拳のエース”に驚いている様子で思わず跳び上がった。しかしそれは有名人だからという驚きではない。幼少期を共に過ごした義兄弟であり、信頼する兄であるが故にそれは再会である。

 二人は満面の笑みを浮かべて再会を喜ぶ。

 どうやらエースはルフィを探していたようだった。

 

 店内では先程以上のどよめきが起こっている。

 麦わらのルフィだ。そう語る声は次第に増えており、話題のルーキーが来たことに驚きを隠せない様子で呟く声が多く、さらに火拳のエースと仲睦まじい姿であった。

 

 それだけではない。ルフィは入り口に立つキリへ手を振った。

 紙使いキリまでそこに加わって、豪華とすら言える光景になっている。

 

 「キリ! こっち来いよ! おれの兄ちゃんだ!」

 「お前の仲間か?」

 

 ルフィが大声で言ったことでガタガタと椅子が倒れる音が連続する。

 まさかエースのことを兄だと言ったのか。

 もしそうだとするならとんでもない発言を聞いた気がする。

 店内に居る全員が床に転がって、今や誰一人として彼らから目が離せなかった。

 

 彼らの驚きも当然だろうと思いつつ、キリは彼らの下へ向かう。

 左側にぴたりと寄り添ったベビー5だけが一切驚いておらず、全く聞いていないらしい。

 

 二人の前にやってきた。

 特にエースが快く迎えて、ルフィも揃って椅子に座るよう促す。そうしてエースの隣にルフィが座って、ルフィの隣にキリが、その横には当然ベビー5が腰を落ち着ける。

 

 おそらくキリだけでなくベビー5までルフィの仲間だと思っているのだろう。エースの眼差しは思いのほか優しく、兄の顔なのだろうと思わせる。

 店内の動揺も無視して彼らは話し始めた。

 以前に話を聞いて、嘘ではないと思っていたものの、それとは別に驚きもある。世界的に名を売った大海賊の一人に、こうして本人に会う日が来ようとは思っていなかった。

 

 柔和な笑みを湛えて冷静さを見せながら、キリは幾分緊張もあった。

 なにしろ相手は懸賞金が五億を超え、さらに今や世界最強の名を欲しいままにする大海賊の一味に加わっており、その二番隊隊長を務めるほどの実力者。

 ルフィの兄だったとしても冷静ではいられない。

 

 「おれの仲間のキリだ。それと、前に話しただろ? 兄ちゃんのエースだ」

 「どうも」

 「いやぁどうも、弟が世話になってます。いつもすいません」

 「いやいや、こちらこそ」

 「噂は聞いてるぜ。ルフィ、いい仲間を見つけたみたいだな」

 「しっしっし」

 

 ルフィは仲間を褒められて嬉しそうだ。

 気を取り直した後で彼は改めて自身の兄に問うてみる。

 

 「それで、なんでエースがここに居るんだ?」

 「面白ェ大会があるって噂を聞いてな。お前ならここに来るかと思って待ってた」

 「おれに会いに来たのか?」

 「ああ。例の新聞も読んだ。一度お前の顔を見とこうかと思ってな」

 

 エースはルフィに負けず劣らず上機嫌にしている。

 兄弟の再開に水を差す訳にはいかないだろうとキリは自然に口を噤んでいた。そのせいかはわからないがベビー5に向き合う時間ができ、密かに彼女と話し始める。

 その一方で兄弟の会話も続いていた。

 

 ズボンのポケットから小さく丸めた紙を取り出したエースが、それをルフィに渡す。

 何の変哲もない紙にルフィは不思議そうな顔だ。

 

 「ほら。これをお前に渡したかった」

 「ん? 紙?」

 「そいつを持ってろ。ずっとだ」

 

 紙を広げて眺めるルフィにエースが言う。

 

 「なんだ? ただの紙だ」

 「そうさ。そいつがいつかおれとお前を引き合わせる」

 「ふぅ~ん……」

 「いらねぇか?」

 「いや。持っとく」

 「そうか」

 

 素直な返事に笑顔で頷き、互いに納得する。

 深く意味を聞いたりしない。エースがそう言うからにはそうなのだろう。

 ルフィには兄を疑おうという意識がなかったらしい。

 

 「それでさ、エースもアレやりに来たのか? トレジャーバトル」

 「あぁ、例の大会か」

 「おれたちも参加するんだ。なんかおもしろそうだし」

 「おれは参加しねぇよ。別の目的がある」

 「ん? 別の目的?」

 「人を探してるんだ。重罪人さ」

 

 エースは傍らにあった水を一口飲み、些か真剣な顔になって語り出す。

 

 「最近は黒ひげと名乗ってるらしいが、元々は“白ひげ海賊団”の二番隊隊員。おれの部下だ。海賊船で最悪の罪……奴は“仲間殺し”をして船から逃げた」

 「仲間殺し、かぁ」

 「おれが片をつけなきゃならねぇ。そうでもなきゃこの海を逆走したりしねぇよ」

 

 笑みを浮かべているがどこか寂しげで、緊迫した様子も感じられて。

 パッと笑みを深めたルフィは彼の顔を覗き込む。

 

 「でもいいじゃねぇか。おれたちと一緒に参加しよう。せっかくここまで来たんだしよ」

 「おいおい、今言ったばかりだろ? おれは先を急いでる」

 「おれたちこの大会で絶対勝たなきゃいけねぇんだ。この後アラバスタに行って、クロコダイルをぶっ飛ばすからな」

 

 ルフィがそう言った瞬間、またしても店内の椅子やテーブルが揺れる音がした。

 またしても客の大半が地面に転がっているようだ。

 会話に集中している二人は気にせず、ベビー5は耳にすら入らず、キリはそうなっても仕方ないと納得しながら敢えて無視していたとはいえ、あまりにもショッキングな話を聞いて店内の客は騒然としている。ルフィの発言はそれほど危険なものだった。

 

 彼は王下七武海に手を出そうとしているのだ。

 世界にたった七人しか存在しない実力を認められた海賊。政府の味方にも思えるのだが、一言にそうとは言えない危険人物。

 彼ら七人を指して三大勢力の一つに数えられるほど、その実力は想像を絶する。

 

 そんな相手に挑もうなど沙汰の限りだろう。

 これには客と同じくエースも怪訝な顔をして、しかし驚きも少なく尋ねた。

 

 昔からルフィをよく知るが故に大抵のことでは驚かない。どうやらエースは彼と話している時に何を言い出してもおかしくないと思っていたようだ。

 多少の驚きはあっても取り乱すほどではなく、至って冷静な声色だった。

 

 「クロコダイル? 七武海の一角じゃねぇか。なんでそんな奴を」

 「うちのキリが昔あいつの仲間だったらしいんだ。ちゃんと仲間になるためには無視して通れないって言うからよ、おれがクロコダイルをぶっ飛ばさなきゃいけなくてさ」

 「ほぉ~」

 「でもアラバスタのエターナルポースが無くて困ってんだよ。だから大会に優勝してもらおうと思っててさ。エースが居たら絶対優勝できるだろ!」

 「なるほど。まぁ、大体はわかった」

 

 ちょうどその頃になって店主がルフィの前に肉料理を置く。詳細は聞いていなかったがとにかく肉なのだろうと分厚いステーキが用意された。彼は嬉しそうに食べ始める。

 その間にエースはルフィの向こう側に居るキリの顔を覗き込む。

 騒がしい弟とは対照的な人物だ。

 普通とでもいうか、落ち着いた様子で、静かに水を飲みながら彼の視線に気付いて振り向いた。

 

 「キリっていったか? 悪いな、こいつは手がかかるだろ」

 「あはは、まぁね。もう慣れたよ」

 「何があったのかは知らねぇがこいつはお前を気に入ってるみてぇだ。それに、お前も日頃からきっとルフィを助けてくれてるんだろう。ありがとう。恩に着るよ」

 「そんな。別に大したことじゃ」

 「ガキの頃から目が離せない奴だった。いい仲間を見つけたみたいで安心したよ」

 

 エースの笑顔は優しい。

 虚を衝かれた様子でキリは不意に笑みを消してしまう。

 胸中にあったのは純粋な驚きだった。

 

 「確かにお前がどれだけ強くなったか試すには良い機会だな。せっかくここで会ったんだ。それなら少しくらい付き合ってやるか」

 「ほんとかぁ~エース!」

 「いいの? 用があるって言ってたのは」

 「構わねぇよ。弟に頼られてんだ、兄貴としては力も貸してやりたくなる」

 

 傍から見ているよりも良い関係の兄弟らしい。

 笑い合う二人を眺め、キリは、不思議な心境にあって再び笑みを浮かべた。

 

 顔の向きを変えてもう一度彼女に向き合う。

 にこにこと笑みを絶やさないベビー5は彼の肩に頭を預け、しっかり腕を絡めて離さない。

 なぜ彼女がここに居るのだろう。

 以前の出会いで海賊だとは知っているし、なぜだか懐かれてしまったことだって覚えている。しかしまた会う時が来るとは思っていなくて複雑な心境だ。

 

 ベビー5は甲斐甲斐しく彼の世話をしようとする。

 ルフィとエースが喋っている間に注文した料理が目の前のカウンターに置かれ、フォークを手にした彼女がパスタを巻き取り、恥じらいを感じることもなく嬉しそうに彼の口元へ差し出した。

 困惑してしまい、キリはううむと唸って困り果てる。

 

 「はい、あなた。あ~ん」

 「いや、自分で食べれるから」

 「うふふ、そんなに恥ずかしがらなくても」

 「逆に君は恥ずかしくないのかな」

 「いいえ、ちっとも。だって愛するあなたですもの♡」

 「これはボクが悪いのかなぁ……」

 

 そういえばこうなってしまった理由は自分にあった気がする、とようやく思い出して、少しばかり観念した様子のキリは差し出された料理を口にした。途端にベビー5が頬を緩め、うっとりした目で彼の顔を見つめる。ただ咀嚼しているだけでも嬉しそうだ。

 どうもやりにくい。

 騙そうとしているのなら対応のし甲斐もあるが彼女はそうではなかった。邪心もなくそうされては無暗に突っぱねるのも心苦しく、断り切れずにいる。

 

 すでに素性を知っている。

 このまま自分の近くに置いていていいのだろうか。

 利点と不安とが彼の中に存在し、逡巡している。無理に突っぱねないのはそうした打算的な考えもあってのことだろう。そうなるように教育されている。

 

 海賊王を目指す道において、彼女の存在はいずれ大きなアドバンテージを生み出し、その代償として己の一味に大きな危機を及ぼす存在でもある。

 果たしてどう判断すべきなのか、いまだ考えあぐねていた。

 

 ひとまずこの場においては自分の手を使わずともパスタを食べられるので楽だ。

 生来のめんどくさがりだろう、キリは彼女の手を借りて食事を続ける。

 

 そうして食べさせてもらう内にあまり考え過ぎても無駄かと考え直した。

 今は目の前の問題に集中すべき時。

 つまりはアラバスタ、自身の古巣との決戦に備えるべきであり、そのために何としても大会で優勝しなければならない。それ以外のことを考えるのは単なる蛇足だ。

 キリは緩い表情のまま考えを巡らせ始める。

 

 「おいしい?」

 「うん。結構イケるね」

 「うふふ、よかった」

 

 傍から見ていれば仲睦まじい恋人同士に見える。二人はそれを理解しているのか。

 しばしの間、そうして話していると、突然店の外から拡声器を通した大声が聞こえてくる。

 どうやらトレジャーバトル大会の開会式が行われるようだ。

 

 町一番の広場へ。

 そう呼ぶ声を聞いてルフィは笑顔でキリに振り返り、彼も視線を受け止める。いつの間にやら追加の料理を注文して両頬がパンパンに膨らんでいた。

 苦笑し、怒る様子を見せずに彼は移動を促した。

 

 「みりっ! ほれしゃあはぽるっみめっぺんぽーおー」

 「はいはい。口の中無くなってから喋ってね。開会式があるみたいだから移動しようか」

 「トレジャーバトルか。一体何があるんだろうな」

 

 気付けばエースも皿を何枚も積み上げていて、食べた量で言えばルフィにも劣らない。

 似た者同士のようで呆れた兄弟だ。

 

 「ところでキリ、物は相談なんだがな」

 「何?」

 「いやぁー実は手持ちがちょっとな。悪いけど立て替えてくれねぇか?」

 「あぁ、そういうこと」

 

 おまけにエースは頭を掻きながらそんなことを言ってくる。ルフィに比べれば常識人かと思っていたが意外に考える事無く行動しているらしい。

 キリはやれやれと嘆息した。

 しかし船長との日々ですっかり慣れており、嫌な顔一つせず承諾する。

 

 「いいよ。うちも協力してもらう訳だし、火拳のエースを雇うためと考えたら安いしね」

 「悪いな。その分大会で結果出すからよ」

 「しっしっし。エースは食い逃げが得意だからな~」

 「それを言うならお前もだろ」

 「教えたのはエースとサボだぞ?」

 「それでも共犯者には変わりねぇだろ。あとメシ食いてぇって言い出すのは大概お前だ。おれとサボはお前のために危険な橋渡ってやったんだぞ」

 「そうだっけ?」

 「まったく。これだからお前は……」

 

 エースが苦笑し、ルフィはからからと笑っていた。

 そんな二人を横目に見つつキリは代金を払い、咄嗟にベビー5が声をかける。

 

 「あっ、私が払うわ。あなたの役に立ちたいの」

 「いいよ。想定内だったし、いつもより量は少ないからエースの分を合わせても問題ない」

 「でも……」

 「また別のことで頼るから。ね?」

 

 そう言って微笑まれた時、ベビー5は顔を真っ赤にして彼に抱き着いた。

 

 「……はい♡」

 「あー、じゃあ移動しようか。詳しいルールも聞かなきゃいけないから」

 「うお~! 大会だぁ~!」

 「ルフィ、あんまりはしゃぎ過ぎるなよ」

 

 支払いを終えて四人がぞろぞろと酒場を出て行く。

 店内に居た客は彼らの姿を眺め、声が出せなくなったままで見送ることしかできない。

 その姿は威風堂々と、恐れを知らぬかのような余裕を感じさせる。

 

 少なくとも現時点でとんでもないチームが出来上がっていた。

 五億を超える首“火拳のエース”に、初頭手配3000万の男“麦わらのルフィ”、何やら妙な話が聞こえてきた“紙使いキリ”。そしてキリに寄り添う謎の女も居る。

 特に白ひげ海賊団の隊長が参加するという話だけで、否が応にも大会の注目度は増していた。

 

 この大会は伝説になるかもしれない。

 そんな言葉がどこかで呟かれた。

 


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