ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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ヒカリへ(2)

 どこへ向かうのかもわからず、チョッパーは走っていた。

 島の地形を知らない。しかもその島は広大で、大半が森であるため見分けがつかずに、とにかく敵から逃げるため我武者羅に走るしかなかったのだ。

 

 獣型になって全力で足を動かす。

 森の中は足音が響き、だがそれは彼のものではない。

 

 ちらりと後方に目を向ければ三十頭を超えるツノクイが追ってくる。ただ走るだけで木々が乱雑に倒されていき、凄惨な光景がそこら中に生み出されていく。

 ツノクイは強固な肉体を持っている。

 強靭な脚力を持ち、木にぶつかるだけで幹が折れ、次々倒れる様は異常であった。それも集団で肩を並べているせいで範囲は途方もなく広かった。

 

 自身が逃げることで島の被害が広がっている。

 そう思うと心が痛んだが、動物たちを見捨てる訳にもいかない。

 彼らを守るにはこうするしかないのだと自分に言い聞かせ、彼は必死に走る。白い岩山からはずいぶん離れたように思う。徐々に景色は変わり始めていた。

 

 森が途切れた時、思わずチョッパーは笑みを浮かべた。これ以上は森を傷つけずに済む。

 ただ、それは彼にとって良い事ばかりでもなくて。

 先程とは別の岩山を登り始めた時、障害物が少なくなった分、ツノクイの速度も増していた。

 

 凶悪な足音はさらに大きくなっているように思える。疲労を感じて遅くなるならともかく、速くなるのは異常だ。どうやら彼らは普通ではないスタミナを備えているらしい。

 対して、チョッパーは疲労を感じる一方だ。

 今すぐ追いつかれることはないが限界は必ず来る。

 その前に打開策を見つけなければ、結果は彼が角を奪われて殺されるだけだった。

 

 「なんとかしなきゃ……! 逃げてるだけじゃだめだっ。あいつらを倒さないと!」

 「待ぁてぇ~! 王なる宝を寄こせェ!」

 

 ツノクイに跨り、操作しているだろう三人が追ってくる。

 おそらくツノクイを止めることはできない。可能だとしても簡単ではないだろう。ならば最も早くツノクイを止める方法は、彼ら三人を倒すことだった。

 どこかで足を止めて立ち向かうか。しかしそれではツノクイに潰される。

 方法はわかっても実行が難しく、チョッパーは真っ直ぐ前に向かうしかなかったようだ。

 

 大小様々な岩が転がる地帯に突入していた。

 着実に山頂へ迫っていて、そこに着いてしまえば逃げ道は限られる。

 今の内に手を打ちたかったものの、追われている以上はそれさえ難しい。

 

 そして彼は前方の道が無くなったことに気付く。

 山頂に辿り着く前に崖へ直面し、驚いたことで思わず足を止めてしまった。

 

 「あっ!?」

 

 落ちるギリギリで足を止め、崖下を見下ろす。そう高い訳ではないようだったが、下は川。しかも激流で水の流れが速い。水深はそこまで深くなさそうだ。

 だが浅い、深いにかかわらず、チョッパーは悪魔の実の能力者。

 水中に身を沈めれば力が抜けてしまい、それだけで命を失う可能性が高い。

 

 大地を揺らしながら響いていた足音が止まった。

 チョッパーがゆっくり振り返ると、ツノクイが立ち止まり、跨ったバトラーが笑っている。やはりというか追い詰められてしまったようだ。

 

 「ここまでのようだなぁ。さぁ、王なる宝を渡せ。その角を!」

 「うっ……」

 「ホットドッグ将軍! ヘビー総裁! 奴から角を奪い取れェ!」

 「はっ!」

 

 ツノクイの上に居た二人が飛び出し、チョッパーの前に立つ。

 右側にホットドッグ、左にヘビー。どちらも強そうだ。

 どうやって逃げようかと考えるチョッパーは辺りを注意深く見回すも、良い手が見つからない。いっそ崖から飛び降りてみるかとも思い、死ぬだけだと思ってやめた。

 まだ打開策が見つからず、表情は焦っていく。

 

 「では私が仕留めてみせましょう。動かなければ楽に死なせてやるのじゃ」

 「くそっ、殺されて堪るか。まだ冒険は始まったばっかりなんだ!」

 「無駄無駄。私は狙った獲物は敵も女も逃がさない。私に出会ってしまった時点でお前はもう終わっていたのじゃ」

 

 ヘビーは背にあった剣を抜く。

 刃渡りが長く、いくつかの関節がある。それは刃を持つ剣であり、関節が伸びて鞭のように、蛇のようにしなる武器であった。

 

 腕を振るだけで風を裂き、びゅんと音がして地面を抉る。

 硬い岩があっさりと切り裂かれていて、チョッパーは背筋に悪寒を覚えた。

 

 体の大きいホットドッグよりマシかと思ったがとんでもない。その異様な武器は確かな殺傷力を見せつけ、戦う前からチョッパーを怯えさせている。

 恐怖心は体の動きを鈍らせる。

 全く持たないのも問題だが、チョッパーのように戦闘に慣れていない状態では、判断力を鈍らせることによって戦いを楽に終わらせる方法になる。ヘビーはそれを経験で知っていた。

 

 チョッパーが戦いに慣れていないことはすでにバレていた。

 立ち振る舞い、仕草、目の動きや、彼の動きの全てで理解できる。

 ヘビーは余裕を見せる笑顔で、剣を振りながらゆっくり彼へ歩み寄った。

 

 「怯えているのじゃな? 無理もない。私とお前の力の差を感じればそれは当然の反応じゃ」

 「う、うるせぇ! お前なんか怖くねぇぞ!」

 「口と態度が合っていないぞ。虚勢を張るのが苦手なようじゃな」

 

 にやりと笑い、突発的に動き出した。

 ヘビーはチョッパーへ真っ直ぐ接近していき、彼はなぜか、咄嗟に人獣型に変形する。

 

 鞭のようにしなる剣を振り上げながらヘビーが迫った。

 その瞬間、轟音が鳴り響いて地面が揺れる。揺れた、と感じたのはほんの一瞬で、足場が粉々に破壊されていた。崖下から衝撃を与えられて足場が無くなったのだ。

 二人の体が浮遊感を感じ、落下し始める。

 

 「んなっ、なんじゃあっ!?」

 

 頭から落ちていくヘビーは視界に川を納め、抵抗する暇もなく着水した。

 流れこそ速いが水深が浅い。顔面を強かに打ち付け、立ち上がると水は足首までしかなかった。

 痛む顔を押さえながら立ち上がると、前方にも同じく着地した人物が居る。

 背を向ける彼を睨みつけ、ヘビーは怒りを込めて叫んだ。

 

 「あ~クソ、湿気ちまったなぁ……」

 「誰じゃ!? 貴様が何かしたのじゃな!」

 

 濡れてしまって煙草の火が消え、捨てる訳にもいかずポケットに仕舞う。

 その後で振り返り、サンジは冷ややかな目でヘビーを睨んだ。

 

 「二つ、お前に確認したいことがあった。一つはおれの仲間を殺そうとしたこと」

 「仲間だと? そうか、アレの仲間か」

 「口の利き方には気をつけろ。チョッパーはうちのクルーだ」

 

 ギロリと睨みつけ、深く息を吐いてから続ける。

 

 「二つ目。狙った獲物は逃がさないとか言ってたな。女もだと」

 「ああ、もちろんだ。手に入れた女は星の数ほど。当然敵も一人として逃がしたことは――」

 「嘘つけッ」

 

 強く歯噛みし、激しい怒りが向けられていた。

 もはやチョッパーを殺そうとしたこと以上に怒っている風にも感じるほど。

 ヘビーが眉間に皺を寄せた時、サンジの怒りは最高潮にあった。

 

 「てめぇなんぞよりおれの方がモテるに決まってる……!」

 「何ぃ?」

 

 どうやら、男のプライドとでも言うべきか、戦いの意味が変化している。

 二人は一歩も引かずに睨み合いを続けていた。

 

 サンジが崖を蹴り壊したことで、ヘビーは川へ落ちた。だが落ちるはずだったチョッパーはその場にはおらず、崩れた崖の下、出っ張った岩を掴むゾロによって抱えられている。

 どこから来たのか、彼の危機を救ってくれたらしい。

 涙さえ浮かんでくるチョッパーは彼にしがみつきながら笑顔になった。

 

 「サンジィ……ゾロォ!」

 「バーカ。男がそう簡単に泣くんじゃねぇよ」

 

 存外優しい笑みを見せて、彼は簡潔にそれだけを告げた。

 多くを説明する気などない。とにかく目の前には敵が居て、戦う術を持っている。ならば戦って障害を排除するだけ、理由などその後で聞ければ十分だ。

 ゾロはチョッパーの首に巻かれている海賊旗をぐっと掴んで腕に力を込める。

 えっと声が出た彼は少なからず驚いていたようだ。

 

 「飛ばすぞチョッパー。上手く着地しろよ」

 「ええっ!? 投げるつもりか!?」

 「んんッ!」

 「うおおおおおおっ!?」

 

 右腕で思い切り投げ、軽い体は放物線を描いて飛び、無事だった足場にべしゃりと落ちた。

 その後でゾロが崖を登り、同じくバトラーたちの視界に入る。

 すぐさま起き上がったチョッパーは地面で鼻先をぶつけており、振り返った直後にゾロへ文句を言い始めた。助けてもらったことには感謝しているが彼の行動は乱暴過ぎた。

 

 「どうして投げるんだよ!? あのまま登ってればよかっただろ!」

 「両手が塞がったら登りにくいだろ」

 「じゃあ離せよ! おれだって自分で登れたのに!」

 「うるせぇな。どのみち無事だったんだ、忘れろ」

 

 ゾロとチョッパーが戻ってきて、バトラーは表情を歪めて驚きを隠せない。

 突然崖が崩れたのもそうだ。唐突な出来事でなぜそんなことが起こったのかさえ理解できない。しかし何にせよ王なる宝はまだ手に入っていなかった。

 

 怒りが湧いてくる。

 求めている物は手の届く場所にあるというのに、なぜこれほど時間がかかるのか。

 

 待ち切れない様子だったバトラーは感情的に騒ぎ始めていた。

 ヘビーが崖から落ちた以上、その場で命令を聞けるのはホットドッグのみ。

 鋭い声を飛ばされながらも前へ進み出る。

 彼の目は確実にゾロの姿を捉えていた。

 

 「ええい、なんでここへきて邪魔が入るんだ! ホットドッグ!」

 「はっ」

 「邪魔する奴は始末しろ! 生かして帰すなよォ!」

 「了解ですけん」

 

 ホットドッグが歩いてくる様を見てゾロが手を振った。チョッパーに逃げろと伝えたらしい。一人で逃げていいものかと迷う彼は困惑していたが、任せることを決めて傍を離れる。

 幸い、ホットドッグの目にはゾロしか映っていない。

 二人は正面から対峙し、互いの得物へ手にかけた。

 

 「お前は運が悪かったなぁ。おれは世界最強の戦士、ホットドッグ将軍!」

 「へぇ、世界最強。そりゃありがてェ」

 

 相手を怯えさせようとしたのか、そう言ってホットドッグは腕の筋肉を見せつける。

 しかし彼に怯えた様子はなく、ゾロは好戦的に笑っていた。

 

 闘志を向け合う二人を気にしながらもチョッパーはその場を離れようとする。

 その時、バトラーは彼の動きに気付いていた。

 当然見逃すつもりがなくて、バイオリンを構えながら叫んだ。

 

 「待てェ! どさくさに紛れて逃げられるとでも思ってんのか!」

 「わっ、見つかった!?」

 「当たり前だろうがァ! こっちにはまだツノクイが居るんだ、逃げられると思うなよォ!」

 

 見つかったと気付いた途端に体が跳ねる。

 部下の二人がそれぞれ敵を見つけて離れたところで、彼はツノクイを操るバイオリンを持ち、本人の実力云々は抜きにしてもチョッパーを仕留める方法はあった。ツノクイはこの島において最強生物だと考えているため、撤退など考えるはずもない。

 ただバイオリンを弾けばいい。それだけで敵を仕留められる。

 バトラーは笑い、チョッパーもまた脅威だと感じて表情を引きつらせていた。

 

 「必殺! 火薬星!」

 

 右腕が動いて、今まさに弾かれようとした瞬間だった。

 突如飛来した弾丸がバトラーの顔面へ直撃し、小さな爆発を起こす。

 バトラーの体はツノクイの背から滑り落ち、バイオリンも手から離れて転がった。

 

 見ていたチョッパーにも何が起きたかわからない。ツノクイたちも突然の爆発に驚き、攻撃性の強さを表に出して動き出し、状況は慌てふためいた様相となる。

 とりあえずバトラーが倒れたことは確かだ。

 チョッパーは辺りを見回し始め、何が起きたのかを確認しようとする。

 

 犯人はすぐにわかった。

 カルーに跨ったウソップがパチンコを構え、チョッパーを呼んでいたのである。

 

 「チョッパー! こっちだ! 真っ直ぐ走って来い!」

 「ウソップ!」

 「いいか、真っ直ぐだぞ! びびらずこっちまで走れ!」

 

 ウソップが再びパチンコを構えた。狙いはツノクイの群れに向けられている。

 

 「必殺、煙星!」

 

 放たれた弾丸は一匹のツノクイの顔に当たり、破裂して、広範囲に渡って煙幕を張った。

 真っ直ぐ走れとはこれを言っていたのだ。視界が極端に悪くなり、正面にはツノクイの群れ。敵がどこに居るかさえわからなかったが目的はわかった。

 チョッパーは目つきを変え、覚悟を決めて足を前へ運び出す。

 自ら煙の中へ突っ込み、ツノクイの体を避けてひたすら真っ直ぐ走った。

 

 不安は大きい。すぐ傍に混乱するツノクイの存在を感じ、実際視界にも映っていて、いつ踏み殺されるのだろうという恐怖との戦いだった。

 しかしそこを抜けた時、視界が晴れると同時にチョッパーは仲間の姿を見つける。

 

 素早くカルーが駆け寄ってきて、背に跨るウソップが手を伸ばしてくる。

 チョッパーは彼の手を取り、ぐいっと引っ張り上げられた。

 

 カルーの背に乗って全力でその場を離れる。

 煙が晴れればツノクイは追ってくるはず。現に今、煙がない場所へ出た数匹が彼らに気付いた。

 数匹が気付くともう遅い。すでにツノクイは鳴き声を発して意思疎通を図り、反転してカルーへ向けて走り出す。すぐに怒号のような足音が轟いてきた。

 

 ウソップの前に座らされ、後ろを振り返ったチョッパーは恐怖を覚える。

 あれはカラスケたちとは違う。敵を破壊することしか考えていない動物だ。

 彼らの声を聞いて顔色を変えてしまい、ウソップは慌ててチョッパーに声をかける。

 

 「おいチョッパー、大丈夫か!? 一体何がどうなってんだよ!」

 「あいつら、おれたちを殺す気だ……誰かを殺したくて仕方ないって言ってる」

 「何ィ!? お前、あいつらの言ってることわかるのか!?」

 「うん。おれは元々動物だから……」

 

 カルー自身も怯えているが、振り返ろうともせずに全力で走る。彼は超カルガモという種だ。足の速さとスタミナには定評があり、性格的に逃げ足となればさらに速くなる。

 ツノクイがどれだけ速かろうが追いつける速度ではない。

 スピードに関しては絶対の自信があって、二人を乗せた今は余計に負ける訳にはいかなかった。

 

 追ってくるツノクイを置き去りに、カルーは山頂を目指して駆け抜けた。

 その背ではウソップとチョッパーが話している。

 唐突な登場が気になり、状況を知りながら思わず質問していたようだ。

 

 「みんな、なんで来てくれたんだ? おれ、何も言ってないのに」

 「遠くからお前があの変な奴らに追われてるのが見えたんだ。それで先回りしたんだよ」

 「そうなのか……ごめん。おれのせいで、みんなに迷惑かけて……」

 「何言ってんだ、仲間じゃねぇか。そんなことでいちいち謝るなよ」

 

 にかりと笑うウソップを見て、チョッパーは目を潤ませる。

 仲間という言葉をしみじみと噛みしめた。

 追われる理由も知らずに駆けつけてくれたのだろう。さらに力を合わせて助けてくれて、こうして逃げている今も責めようとしたり、怒ったり、嫌気が差した顔をしたりもしない。

 助けるのが当然。その態度が嬉しくて堪らない。

 涙が浮かんだ目元を腕で荒々しく拭い、表情を引き締めてチョッパーが前を向いた。

 

 「なんでか知らねぇけど、あいつらお前を追ってるんだろ? 考えがあるんだ」

 「どうすればいいんだ?」

 「もう少し行ったら坂がなだらかなとこがある。お前はそこから一人で逃げろ」

 「一人でって……そんなことできねぇよ!? ウソップとカルーが居るのに!」

 「バァカ、先回りしたって言ったろ? ちゃんとこの辺りを見てよ、作戦考えてあるんだ。あとはおれたちが引き付けるからお前は先に逃げろ」

 「う、うん」

 

 説明した直後だったが早くも目的地が見えてきた。

 慌てるウソップは早速パチンコを構える。

 

 「ほら、あそこから行け。おれたちは真っ直ぐ行くからな」

 「わ、わかった。二人とも気をつけてくれよ」

 「へへっ、お前もな」

 

 ウソップは後方へ振り向き、追ってくるツノクイの群れを視界に入れ、番えた弾を放った。

 

 「煙星ィ!」

 

 見切るのも面倒な小さな弾は狙い通りに飛び、体に直接当てるのではなく地面で炸裂し、広範囲を煙幕で包み込んだ。これで真っ直ぐ走っても少しの時間は視界が阻害される。

 それを確認した後でチョッパーがカルーから飛び降りた。

 あらかじめ指示されていた小道へ入り、獣型になって走り去る。

 見えなくなる前にちらりと振り返っていたものの、立ち止まろうとはせずにそこから去った。

 

 ひとまず第一段階は済んだ。

 ウソップはよしと頷く。

 

 立ち昇る煙を突き破って駆けてくるツノクイたちは気付いていない。

 さほど頭は良くないようだ。逃げるカルーとウソップを追うことしか考えておらず、或いは彼らに攻撃されたことに腹を立てているため、チョッパーには興味がないのかもしれないが、それにしたって芸の無い追跡だと思える。

 

 いつの間にか曲がりくねった道を進んでいた。

 左側は岩壁、右側はやや円形に近い岩が整列した小道に入り、まるで通路のよう。

 ついにあらかじめ見つけていた場所へ辿り着いていた。

 

 「もうすぐだぞっ。追いつかれるなよカルー!」

 「クエ~っ!」

 

 息を切らしながらもカルーは一切速度を緩めようとしない。常に全力で走っていた。

 もう少しすれば目的の場所に到達する。そこへ辿り着ければ作戦は終わりだ。

 最後の力を振り絞り、ツノクイを引き連れながら狭い通路を走る。

 そしてやっとその場所が見えた。

 

 「ウソップさん! カルー!」

 「ビビィ! 来たぞォ~!」

 

 左側、崖の上にビビが立っていた。彼女に声をかけて通り過ぎ、さらに先を目指す。

 前方は行き止まりだった。柵のように連なっている大きな岩が前方にもあり、その向こう側は崖になっていて道はない。それこそ望んでいた場所である。

 目的地が見え、カルーの体には力が漲っていた。

 

 少しでもカルーの手助けになればと、そして敵を逃がさないようにとウソップが振り返る。

 パチンコを構え、今度こそ先頭のツノクイを目掛けて。

 ゴールまでほんの数メートルという位置になってから撃ち出した。

 

 「必殺! 火薬星!」

 

 真っ直ぐ飛来してツノクイの額に直撃した。

 小さいとはいえ立派な爆発。ダメージを受けた先頭の一頭が思わず転ぶ。

 後続のツノクイはその体に躓いて転び、或いは無理やり踏み越えて進んでいき、脅威だったはずの隊列は一瞬にして崩れてしまう。

 彼らは、自らの強みを自らで捨てたのだ。

 

 岩を目の前にした時、カルーが跳ぶ。

 強靭な脚力で岩の上に飛び乗り、そこでやっと足を止める。

 ゼェゼェと息を切らしてやっとツノクイに振り返った。

 

 今更ツノクイは止まることはできない。

 先頭がどすんと岩に頭をぶつけ、少し揺れるが、破壊することはできなかった。その後ろからもどんどん突進してきて団子状態となり、彼らは勝手に動けなくなる。

 そうなった直後、左側の崖から大岩が転がり落ちて、素早く退路を塞がれてしまった。

 

 あらかじめサンジが蹴りで一部を砕いておき、土砂崩れが起きやすくしておいたらしい。

 ビビの特異な武器によって岩壁に刺激を受けただけで多くの岩が落ちた。

 

 狭い通路で前後左右を動かない大岩で塞がれて、すし詰め状態となったツノクイはもぞもぞ動くだけで本来の力を発揮できず、悲痛な鳴き声を発することしかできない。

 彼らの無力化はこれ以上ない形で成功した。

 ウソップとカルーがガッツポーズで喜び、崖の上に居たビビもほっと息をつく。

 ひとまずこの場は誰も怪我をすることなく勝利を収めたのである。

 

 柵のような岩の上を歩いて、ウソップを乗せたカルーはビビが近く見える位置まで移動する。

 勝利を手にして彼らは心から喜んでいた。

 不思議とビビも嬉しくなったらしく、まだ安心できる状況ではないが笑顔になった。

 

 「よっしゃ~! 勝ったぁ~!」

 「クエーッ!」

 「やったわね! 二人とも大丈夫だった?」

 

 崖の上と下で会話を始める。

 動きを止めないツノクイから離れようと歩きながら、彼らは合流を急ごうとしていた。

 

 「ウソップさん、トニー君は?」

 「予定通りに逃げてったぞ。流石にその後どこ行ったかはわからねぇけど、流石にもう大丈夫じゃねぇかな。敵もゾロとサンジが止めてるしな」

 「それじゃあ先にトニー君と合流しましょう」

 「そうだな。そうなるとあいつがどこ行ったか探さねぇと」

 「クエ~」

 

 同意するためにカルーが頷く。彼らの次の目的が決まった。

 ひとまずビビと合流を果たさなければならない。

 互いに移動を始め、チョッパーを探すために森へ入る道を探し始めた。

 


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