ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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空から降ってきた王

 豊かな自然がある島の中で、岩肌が剥き出しになった一帯がある。

 そこには数多の動物たちが集まり、ある大きな洞穴の前には特に大きな集団が存在した。

 誰もが悲しそうな顔をしている。

 それはまるでお通夜のように。一匹の動物が死んだことで起こっていた光景だ。

 

 洞窟の中には一人の子供と、彼と同じくらいの背丈のカラスが居る。

 半裸で腰布だけを纏っている子供は人間であり、胸には大きな傷跡があって、少し伸びた赤い髪を頭で一つに括っていた。野生児、という言葉が似あう風貌をしている。

 その隣に立つカラスは黒色の羽を持つが、なぜか頭だけは逆立った上にカラフルである。

 そればかりか目には透明で大きなサングラスをかけてもいた。

 

 人間の子供がモバンビー。彼と同程度のサイズのカラスがカラスケである。

 この島において数少ない人の言葉を使える動物だ。

 

 そして彼らの前には、息絶えた巨大な動物が体を丸めて動かなくなっていた。

 名はキリンライアンという。

 日の光を浴びれば輝く黄金の毛並みを持ち、複雑な形だが立派で強固な角が自慢の、島の中では並び立つ者が居ない唯一無二の存在。その咆哮は動物たちに希望と勝機を与え、敵対する者には例外なく恐怖心を与える。自らの背を見せて先頭を歩く“王”であった。

 彼こそが“動物王”。

 王冠島を難攻不落と呼ばせた、歴代最強の王だった。

 

 だが王は天寿を全うし、此度永遠の眠りに就いた。

 確かに若かりし頃に比べ、近年はじっと動かず、平和な国を眺めていることが多かった。しかし歴史上最高と謳われた王が死ぬことを誰が望み、誰が想像できただろうか。

 島に住む動物たちは深い悲しみに囚われ、明日への希望を抱けずに悲嘆に暮れていたようだ。

 

 彼らもまた同じだ。

 キリンライアンの亡骸を見たモバンビーとカラスケは言葉を呑み、複雑な心境にある。

 

 「キリンライアンが……」

 「仕方ないよ。キリンライアンは十分長生きした。本人だって悔いはなかったと思うぜ」

 

 力のない声を発したモバンビーを励ますようにカラスケが言う。彼は奇妙な風貌のカラスだが、そうして人間の言葉を話すことができた。なぜかなど気にした者は島の中には居ない。

 そう言われてもモバンビーの表情は優れなかった。

 王は誰にでも優しく、身分に差など作らず、誰が相手でも平等に、友のように話していた。当然モバンビーを相手にしてもその態度は変わらない。島で唯一の人間である彼を育て上げたのも、人間の国に対しても誇れる優しい王様だった。

 

 言わばこれは王の死だけでなく育ての親の死でもある。

 悲しみを隠せないモバンビーはぐっと唇を噛み、感情を言葉にできない。

 その気持ちが痛いほどにわかるカラスケも多くを言うことは不可能だった。

 

 これからこの島はどうなるのだろうか。

 王が偉大であっただけに不安は大きくなっていて、彼が居なければ島の平和を脅かす者を追い出すことも難しく、島内のトラブルをどう解決するのかもわからない。

 最近、問題が起こってばかりだった。その中での王の死は心が折れても不思議ではない。

 

 「モバンビー、行こう。他のみんなも顔を見たがってる」

 「……うん」

 

 カラスケに言われてモバンビーが頷き、肩を並べて洞穴を出て行く。

 大きな洞穴だが順番があるらしく、代わって次の動物たちがキリンライアンの下へ向かった。

 

 皆の顔を見回しても落ち込んでいるのは明らかだ。

 気持ちがわかるだけに何と声をかけていいのかもわからず、傍を通り抜けた二人は開けた場所へと移動していく。その間にも不安が募って話さずにはいられなかった。

 

 「長老たちが怪我をしたのに、キリンライアンまで……王冠島はどうなっちゃうんだろう」

 「う~ん、わからない。森の番人たちが止めに行ったらしいけど、苦戦したらしいし」

 「どうしてこんなことに……」

 「やっぱり人間を島に入れるべきじゃなかったんだ。キリンライアンが若けりゃなぁ」

 

 揃って溜息をつく。

 今島に起こっている問題は人間が島に侵入したからだと判明している。

 各村の長老たちが怪我をし、何を目的としているのか、命までは取られないが角だけを折られて奪われるという事件が連続して続いていたのだ。

 

 島の動物たちは王に助けを請うためにキリンライアンの住処へ訪れていたものの、時を同じくして彼の寿命が尽き、その足で別れを告げることになってしまった。

 かつて最強を誇った王は、問題を解決せぬまま逝ってしまったのである。

 彼を責める声はない。だが彼が居なくなったことで嘆く者が多いのは確かで、なぜこのタイミングで逝ってしまうのかと後悔する声は少なくなかった。

 

 洞穴を離れて白い岩の広場で足を止める。

 周囲には多くの動物たちが居るが表情は暗い。

 晴れた日には似つかわしくないどんよりした空気が漂っていた。

 

 モバンビーとカラスケは高い山から島を眺めて憂鬱になる。

 この島を守る王は居ない。新たな王を選ばなければならない時が来ていた。

 

 果たして、キリンライアンの跡を継げる王など居るのだろうか。

 島には屈強な戦士たち、“森の番人”が存在する。だが彼らでさえキリンライアンの足下にさえ届かず、全盛期の力を失った彼にさえ手も足も出ない。

 長老たちは年老い、戦う力どころか臆病になっているのが隠せなかった。

 やはり、偉大な王を超える逸材はこの王冠島には存在しない。

 自身もまたその資格を持っていないと考えながら、モバンビーは表情を曇らせた。

 

 「早く次の王様を決めなきゃ。一体誰になるんだろう」

 「さぁなぁ。しかし長老たちが怪我をしてるし、あいつらが島に居る限りは難しいかも」

 「そんな――ん?」

 

 何かに気付いてモバンビーが空を見上げた。

 いつの間にか巨大な鳥が真上にまで来ており、同じく気付いた動物たちも鳴き声を発する。

 

 「“選定の鳥”だ!」

 「まさか次の王を選んできたのか!?」

 「見てカラスケ! 何か降ってくる!」

 

 空高くから何かが離され、真っ逆さまに落ちてくる。

 大音量の悲鳴だった。

 心底死にたくないという絶叫は辺りに響き渡り、全ての目が彼を見ていた。

 

 ドスンと大きな音を立てて地面に直撃する。

 顔から落ちた彼はしばらく動かず、死んだのだろうかと心配するほど。

 

 モバンビーとカラスケは、或いはその周囲に居た動物たちは、何も言えずに落下してきた奇妙な動物を見つめていた。ピンク色の帽子を被り、なぜか海賊旗を握ったトナカイである。

 珍獣ばかりの王冠島でさえそんな外見の動物は居ない。

 珍しいものを見たと彼らの興味は尽きる様子がなかった。

 

 数秒経ってようやく動き出す。

 震える手を地面につき、ゆっくりと顔を上げていく。おそらくトナカイだろうが青い鼻だ。その場の全員に注目されながら、チョッパーはまず最初に痛めた顔を撫で始めた。

 

 「いたたたっ……顔打っちゃった」

 「き、君は――」

 

 声をかけられたことでようやくチョッパーは周囲の状況に気付く。

 数多の動物。半裸の少年。全員が自分に注目している。

 びくっと飛び跳ねた彼は咄嗟に立ち上がって後ずさりした。

 

 「な、なんだここ? 君たちは……?」

 「君は今、選定の鳥に運ばれてきたんだよね? ということは新しい王様なんだろう?」

 「え? え? え?」

 

 ずいっと顔を近付けてくるモバンビーに怯え、チョッパーはさらに後ろへ下がる。

 

 「僕らの王様が死んじゃったんだ。だから君が来たんでしょ? 新しい王様になるために」

 「ちょ、ちょっと……」

 「お願いだよ、この島を助けて。長老たちも怪我をして、僕らの仲間が怪我してるんだ。外からやってきた人間たちがやってるんだ。海賊だよ」

 「海賊が……?」

 「君が王様なんでしょ? そうだよね? 新しい動物王になるのは君なんだ」

 「だ、だから、ちょっと待ってくれよ。おれは――」

 

 モバンビーが詰め寄ってくるため後ずさりを続けていた。その結果、地面から生えるようにしてあった大きな石に気付かず、チョッパーは後ろを向いたまま躓く。

 足が当たった直後、思わず石の上に座ってしまう。

 その石の先端が鋭く尖っていて、勢いそのままに尻へ突き刺さり、チョッパーが目を剥く。

 彼は知らず知らずのうちに人型に変身し、雄々しく立ち上がって絶叫した。

 

 「おおおおおおおおうっ!?」

 「王? 王だって!?」

 

 それは痛みを受けたことによっての悲鳴だったが、モバンビーは異なる意味で受け取った。

 おそらく小さな彼が大きな人型になってしまい、驚いたのも理由の一つだろう。冷静に聞いていられる状況ではなかったことがその状況を生んでいた。

 

 尻を痛めたチョッパーはばたりとその場に倒れてしまう。

 その頃にはモバンビーの顔に笑顔が戻り、周囲の皆を見回して大声を発していた。

 

 「みんな、聞いてよ! 僕らの新しい王様だ! 選定の鳥が選んだ次の動物王だ!」

 「何ィ!? ほ、本当なのかモバンビー!」

 「間違いないよ! だって……彼自身がそう言ったんだから!」

 「おうっ、おおおうっ……」

 

 涙さえ流しながらチョッパーは小さな声を発し、ぴくぴく震えて倒れたまま動かない。

 半信半疑だった動物たちが確信を得る。

 彼こそは王。キリンライアンと同じように、王冠島には二匹と居ない珍しい動物。なんせ小さな姿から人間のような大きな姿に変化してしまったのだ。

 多数の鳴き声が重なり合って空まで響く。

 島の住民たちは新たな王の誕生を祝福しており、同時に歓迎していた。

 

 「やったぁ! 新しい動物王だぁ! これで島は守られるぞぉ!」

 「もう人間なんか怖くないや! 海賊だってイチコロさぁ!」

 「おおうっ、おおおおうっ……」

 

 聞こえていないチョッパーは痛みが引くまで呻き続ける。

 周囲は歓声に包まれていることに、彼はいまだに気付いてはいなかった。

 

 

 *

 

 

 船長と副船長を欠いたゴーイングメリー号は島に到着していた。

 チョッパーが攫われ、彼を取り戻しに行ったはずの二人が帰って来ない。

 これは船上において問題視されていたものの、船でも一、二を争うほど強い二人が戻らないのには何か理由があるはずだとして、捜索隊が出される運びとなっていた。

 提案したのはサンジである。

 

 船の前部に立ち、島を眺める彼は煙草に火を点け、煙を吐き出す。

 副船長が居ない時、彼が指揮を執る機会が多くなっている。仲間たちは疑問を持っていないし、彼自身も嫌がっている様子はない。仲間のためを想うならば誰かがやらなければ。

 

 だが事実、難しい役割であることは理解している。

 ともすれば自由に動き出す面々だ。彼らを御し切ることは難しい。

 さらにキリとは違い、彼は女性陣の安全を何よりも優先している節がある。

 しばらく島を眺めて危険があると判断した後、振り返ったサンジが仲間たちへ言った。

 

 「あいつらが戻らねぇってことはこの島に着いたんだろう。そしてトラブルに巻き込まれた」

 「海に落ちたって可能性はねぇのか?」

 「もしそうだとすりゃ助けるのは簡単じゃねぇが、真っ直ぐ飛んでったのはお前が見てただろ。直線状にあったのがこの島だ。だったらここに着いてる可能性の方が高い」

 「そうだといいけどな……」

 「それに島に入ってたとすりゃ、ルフィが冒険したくて帰って来ねぇってのも理解できる」

 「確かに。しかも一緒に居るのはルフィにゃ滅法甘いキリだしな」

 

 腕組みをするウソップがやれやれと息を吐き出す。

 彼から目を離したサンジはナミやシルクに目を向けた。

 

 「メンバーを選んで二人を探しに行こう。ただしナミさんとシルクちゃんは病み上がりだ。万が一があっちゃいけねぇから船に残ってくれ」

 「私は大丈夫だよ。もうすっかり元気だし」

 「やめときなさいよシルク。甘えられる時に甘えときましょ」

 「そうさシルクちゃん。できることならおれはずっとシルクちゃんに甘えられていたい」

 「お前、話の主旨が変わって来てねぇか?」

 

 凛々しい顔で話を脱線させるサンジに呆れてウソップが止める。

 常に客観的な視点から冷静な判断を行い、頼りになる彼は女が絡んだ途端にダメになる。

 そんな時にフォローするのは互いをよく知る仲間しか居なかった。

 

 ダメになったサンジを他所に、仕方なく船番を了承したシルクが考え始める。

 全員が甲板に集まっていて、顔を見ながら考えると普段より楽だった。

 

 「それじゃ他のみんなで探しに行くの? 私たちは大丈夫だけど」

 「いや、病み上がりの二人だけを残すのは忍びない。おれが残って二人を守る。危険かもしれないからビビちゃんも残ろう。レディはおれが絶対に傷つけさせないさ」

 「待て。お前のそれは個人的な意見を詰め込み過ぎだろ」

 「その意見には私も全力で反対しますな」

 

 再びウソップの声が飛び、同意するイガラムが顔を険しくした。

 

 「バカ言え。おれは個々の力を考えて言ってる。そんな証拠がどこにあるんだ?」

 「鏡を見てから言えよ。だらしない顔があるはずだぞ」

 「見るに堪えない顔だな。やめといた方がいいんじゃねぇか?」

 「あぁ!? んだこらマリモ!」

 

 挑発するようなゾロに反応し、反射的にサンジが彼へ詰め寄る。

 両者はいつもの如く至近距離で睨み合った。

 

 「てめぇでかい口叩ける立場かよ。てめぇに任せられねぇからおれが残るんだろうが」

 「あ?」

 「背後から不意打ちで一発KOだってな。情けねぇ話だぜ。おれなら先に阻止できた」

 「なんだと……?」

 「サンジ、それ私も一緒だったんだけど……」

 「いやぁ~シルクちゃんは気にしなくていいのさぁ。そういうことってあるよねぇ」

 

 後ろから声をかけてきたシルクには笑みを見せ、再び視線を合わせ、睨み合う。

 

 「レディ一人守れねぇとは驚きだぜ。世界最強の野望が聞いて呆れるな」

 「どの口が言ってやがる。てめぇにどうにかできるとは思えねぇがな」

 「ほう、自分の不甲斐無さは認めてるわけだ」

 「正面からやり合ってりゃおれが勝ってた。なんなら証明してやろうか?」

 「負けた上に言い訳かよ。剣士ってのはそこまでプライドがねぇもんなのか?」

 「チッ――」

 

 小さく舌打ちする。

 ゾロ自身、わかっているつもりだ。油断していたで済まされるほど甘い世界ではない。命を取るか取られるかの世界で、そんな言葉はあり得てはいけないと以前から思っている。

 これは彼の弱さ。奇襲、多勢に無勢とはいえ、それでも勝てる男にならなければ。

 険しい表情になった彼は自分自身で理解していた。

 

 敢えてそれを指摘するサンジは彼を叱咤激励するかのようで。

 溜息をついたシルクは、普段より幾分優しい態度で二人を止めようとする。

 

 「そこまでにしよう? 今はルフィとキリを探さなきゃ」

 「ああ、わかってるよシルクちゃん」

 「フン……」

 

 二人が視線を切って背を向け合う。

 傍から見ているとハラハラするが嫌い合っている訳ではない、と思いたい。

 心配していないかのようなシルクはあっさり空気を変える。

 

 「何か問題が起こってるなら急いだ方がいいよ。この島、危険かもしれないし、サンジも行ってあげて。こっちは大丈夫だから」

 「だけどシルクちゃん、おれは二人が心配で」

 「それなら一ついいかしら。ねぇイガラム、あなたも船に残って欲しいの」

 「ビビ様ッ!? 一体何を!?」

 

 口を挟んだビビの一言により、イガラムが絶望を味わったかのように絶叫する。

 護衛である彼を置いていくという発言に、その驚きは当然だった。

 

 「ビビ様! 私はビビ様の護衛をしなければなりません! 確かにお二人を守ることも重要だとは思いますが、なぜ私がという気持ちもありますよ!」

 「それはもちろんわかってるわ。だけどねイガラム、私だっていつまでも子供じゃない。守られてばかりじゃいけないの。それはバロックワークスに潜入した時にも言ったはずよ」

 「しかし!」

 「私も強くならなきゃ。大丈夫よ、この一味で鍛えられてるんだもの」

 

 にこりと笑うビビの目には迷いがなかった。

 バロックワークスへ潜入すると決めた頃とは違う。あの頃には確かに緊張と、隠し切れない恐怖心を感じていたはずだ。だが今は表情からそれが一切見られない。

 彼女はきっと変わっているのだろう。この一味と共に一つずつ島を越える度に。

 

 確かに理解もする。応援したい気持ちもある。

 そう思う一方、心配する気持ちにだって嘘はなかった。

 元より心配性な彼は、ビビがどこかで怪我をするかもしれないと居ても立っても居られない。

 

 イガラムは迷い、送り出したい気持ちと心配する想いで板挟みになる。

 見るからに狼狽する姿は見ていられず、溜息をつきながらナミが助け船を出した。

 

 「たまには意見を尊重してあげなさいよ。過保護が本人のためになるとは限らないわ」

 「むぐっ、そうかもしれませんが……!」

 「ビビを信じてるなら任せなさい。心配しなくてもあんたが思ってる以上に立派よ」

 

 ナミに諭されてイガラムが口を閉ざす。

 あまり心配し過ぎても失礼だ。改めて思ったことでぐうの音も出なくなる。

 ここは黙って彼女を行かせるべきだと判断し、ちらりと目を向ければビビが微笑む。

 

 「ありがとう、イガラム」

 「ぐっ……お気をつけて。何かあればお呼びください! どこだろうと助けに参ります!」

 「うふふ、ええ。もちろんそうするわ」

 

 彼をあやすかのようにそう答えて、ビビは肩をすくめる。

 大体話が纏まってきたようだ。堂々とした態度でウソップが言う。

 

 「よし、メンバーは決まったな。それじゃお前ら気をつけろよ。怪我がねぇように」

 「バカ、お前も行くんだよ」

 「おれも是非そうしたいところなんだが実は病気なんだ。重度の“島に入ってはいけない病”にかかっていてな。お前らには言ったことがねぇかもしれねぇが――」

 「島に着く度に聞かされてんだよ。いいからさっさと来い」

 

 必至に抵抗するウソップは、呆れた顔のサンジに首根っこを掴まれて引っ張られる。

 先にゾロ、ビビが船を降りようとしており、振り返る彼女は騒がしい声の合間に言った。

 

 「ギャアアア~ッ!? 待て待て待て! 自慢じゃねぇがおれは足が震えてるんだぞ! こんな文明もねぇような大自然の島で危険がない訳がねぇ! ルフィとキリが帰って来ねぇんだぞ! 絶対どっかで巨大危険生物に襲われてるはずだ!」

 「ああ、おれもそう思う」

 「殺されるぅ~!? 巨大アナコンダに怪物ハリネズミに殺されるぅ~!?」

 「人間死ぬ時は死ぬんだ。早いか遅いかだけだと考えりゃ怖くねぇだろ?」

 「おれの仲間に殺されるぅ~!?」

 「カルー、一緒に行きましょう?」

 「クエッ!?」

 「あなたが居てくれるからイガラムが残れるの。来てくれるでしょう?」

 「本人すごく驚いてるみたいだけど……」

 「汗が止まらないみたいね」

 

 さも当然とばかりにビビがカルーへ問いかけるのだが、言われた彼は大量の汗を流し、激しく狼狽している様子だった。その姿を見てシルクとナミは何とも言えない気持ちになる。

 しかし嫌味もなく純粋な信頼感を向けられてはノーと言えるはずもない。

 カルーは恐る恐る頷き、ひどく怯えながらも彼女と共に船を降りた。

 

 かくして、船長と副船長を探す捜索隊が島に降り立った。

 彼らは深い森の中へ入り、広大な島の奥を目指し始めることになる。

 その道中は一人と一匹が怯えて騒がしく、敵襲を恐れつつ、決して楽ではない旅だったようだ。

 


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