ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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友の手紙

 足音を響かせながら戻ってきたブロギーとドリーを、ウソップが大手を振って出迎えた。

 呆れた様子だがナミはその場を離れてはおらず、一人で密林を歩くのは怖かったのか、退屈そうにしながらも近付いてくる彼らを見ていて。

 その近くに佇むキリは決闘を終えた巨人たちをじっと眺めていた。

 

 「おぉ~い師匠方~! あれほどの戦いだったのにお二人ともご無事で!」

 「どうしたウソップ、急に元気になったな。んん? しかし師匠とは?」

 「ゲギャギャギャ、弟子でも取ったのかブロギー。しかも相手が人間とはな」

 「いやいや、おれが師匠と崇めるのはあんた方二人のことさ!」

 「ん?」

 

 大きく手を振って見上げてくるウソップに怪訝な顔をして、二人は静かにその場へ座る。

 本当ならば酒を受け取ってすぐに自分の住処へ戻るつもりだったが、予想外の言葉を聞いて少し興味を持った。自分にも客が居るとはいえ聞いてからでも遅くないだろう。

 

 座ったのだがやはり見上げることになる。

 彼らを間近で見るウソップは拳を握りしめて、熱っぽい声で上機嫌に語った。

 

 「おれが海賊になったのは勇敢なる海の戦士になるためだ。あんたたちみたいな奴のことさ! さっきの戦いを見ておれは、いつかあんたらみたいになりたいと思った!」

 「巨人にか?」

 「ちげぇよ!? なんでそうなる! おれが言いてぇのは、どんな時でもエルバフの戦士のように誇り高く生きてぇってことだ!」

 「そうか、誇りか。中々面白いことを言う人間だ」

 

 出会ったばかりのドリーが嬉しそうに頬を緩める。

 種族が違い、価値観も違うだろうに自分たちの生き様に理解を示す者が現れた。それもこの人が訪れる機会のない辺鄙な島で。これは嬉しい出会いだった。

 腰を落ち着けた彼はウソップを見つめ、穏やかな声で答えた。

 

 「おれたちはお前らよりも寿命が長い。その分余計にどう死ぬかを考える」

 「ああ。所詮、財宝も人の命もいつかは失われる物だ。だがエルバフの戦士として誇りを失くすことなく死ぬことができたら、それはどんな財宝よりも価値がある名誉だ」

 「誇りを捨てることなく生き、誇りと共に死ぬ」

 「その誇りはまたエルバフの地に受け継がれる。永遠の宝なんだ」

 

 嬉しげに語る二人を見つめ、表情を輝かせるウソップはその言葉を胸に刻み込んだ。

 

 「誇りは宝か……そりゃいいなぁ。よし決めた! おれはやっぱり、あんた方を師匠と呼ばせてもらうぜ! いつか二人に恥じねぇ海の戦士になるためにも!」

 「ガババババ、そうか」

 「そりゃ面白そうだ。ゲギャギャギャギャ!」

 

 上機嫌に笑う二人はすっかりウソップと意気投合したようだ。

 種族は違えど、分かり合える。魚人族に出会った時とはまた違った光景であり、今回は得られる物もあった。心へ刻み込むほど大事な物だ。

 決意を新たにするウソップは誰に言うでもなく心で誓う。

 必ず、二人のように誇りを手放さない男になる。そう決めて強く拳を握りしめた。

 

 そうして、彼らは上機嫌にしているが、近くには溜息をつく人物も居て。

 やっと一段落したらしいと判断したナミが三人へ歩み寄っていった。

 

 彼女の手には一通の手紙が握られている。海賊島で出会った老婆から受け取り、今しがたキリから手渡された物だ。それを島の人間に渡すのが依頼された内容だった。

 これさえ渡せばいつでも島を出られる。追われる心配はない。

 おそらくその二人宛てだろうと考えていて、ナミは二人に問いかけた。

 

 「ねぇ、ちょっといいかしら? 聞きたいことがあるんだけど」

 「なんだ娘。恐竜の肉は口に合ったか?」

 「あぁいえ、私にはちょっと刺激が強過ぎるから口にしてないんだけど、そのことじゃなくて。この島に居る人間はあなたたちだけ? 他に誰か居るの?」

 「誰も居ない。おれたちだけだ」

 「稀に外からやってくる人間は居るが、この島でログを溜めるには一年かかる。その間に大抵の奴は死んでしまうからな。誰も残っちゃいない」

 「ああ、そう。そんな気はしてた。向こうに人骨がいっぱいあったし」

 「そんなことを聞いてどうする。誰か探しているのか?」

 

 首をかしげるブロギーを見つめ返し、右手にある手紙を見せながら答える。

 

 「多分あなたたちにだと思うんだけど、手紙を預かってきたの」

 「手紙?」

 「海賊島で会ったお婆さんだって。私は本人を見てないわ。心当たりある?」

 「ふむ、おそらく彼女だろう。我らの古い友だ」

 「懐かしいな。おれたちほど寿命は長くないというのに、まだ生きていたのか。それだけでも良い知らせだな」

 「私たちはこの手紙を渡すために来たの。でも、この大きさじゃ読みにくそうだし……」

 

 手紙は、当然人間の手に納まる程度の物で、巨人の手では非常に読み辛い。指先で摘まむことさえ困難な大きさだ。とても自分で読むなど不可能だろう。

 ドリーとブロギーはナミに手紙を読むよう頼んだ。

 

 「すまないが娘、読んでもらえるか?」

 「おれたちの手では苦労しそうだ」

 「それが一番良さそうね。タダ働きは嫌だけどしょうがないか」

 「この期に及んでまだそんなこと言うのか……」

 

 呆れたウソップの呟きを無視してナミが手紙を開く。

 中に仕舞われていた紙を取り出し、そこに書かれた文章を読み始めた。

 

 手紙の内容は二人に対する追憶から始まっていた。

 彼らは過去、友であった。

 互いに今でも関係は変わっていないと認識しているとはいえ、最後に会ったのは数十年前。島の過酷な環境が災いして、こうして手紙を渡すことさえ簡単ではなかった。そのせいで長らく連絡が取れずにいたことを謝罪し、しかし一方で彼らを非難する声もある。

 

 バカな喧嘩はやめて、二人で海賊でもなんでもやればいい。

 そう語る一文があった。

 手紙の主は彼らの決闘を快く思っていないようだ。

 

 仲間同士で殺し合いをする物じゃない。かつて実際に会った時にも言われたことを思い出し、懐かしいやら、複雑な気分やらで二人は腕組みをしてううむと唸る。

 理解を得られるとも思っていないが、特に彼女はそう言うことが多かった。

 二人に死んで欲しくない、という想いが強かったのだ。

 

 嬉しさと同時に寂しさも感じて、古い友人の言葉に様々な想いを抱く。

 耳を傾ける二人は静かに全てを受け入れた。

 

 やがてナミの朗読が終わる。

 手紙を下ろして視線を上げた時にそれは伝わったはずだ。

 しばし二人は腕を組んで考え込んでいた。

 

 「ここまでよ。なんだか、あんたたちの誇りは理解されてないみたいね」

 「う~む、まぁそれも仕方ないだろう。どれだけ話しても彼女の賛同は得られなかった。生まれも育ちも違えばこういうこともあり得る」

 「我らは戦士の国で生まれた。それが最も大きな違いだ」

 「無理もないね。ボクも理解はできそうにないや」

 

 今まで口を閉ざしていたキリが唐突に言い出した。

 気付いた面々が振り返る。

 笑みを湛える彼は二人の巨人を見つめて、しかしどこか冷たい印象も感じる声色。明確な敵意ではない。だが不穏な空気は感じられた。

 

 ナミとウソップは様子がおかしいことに気付く。

 一方、出会って間がないドリーとブロギーは彼の言葉を素直に受け止めていた。

 

 「せっかく拾える命を捨てて百年も殺し合いを続けてるんだ。ちょっと理解はできないね」

 「んん、そう言われるのも仕方ない。だがこれが我らの生き方だ」

 「ボクはお婆さんに賛成だ。この戦いは今すぐやめた方がいい」

 「それはできん。我らはエルバフの審判に身を委ねなければならない」

 「要するに死にたがりの意地の張り合いでしょ? 意味のない戦いなんてくだらない」

 

 素っ気ない様子でつまらなそうにキリが呟く。その一言がきっかけだった。

 ドリーとブロギーの表情が変わる。

 その一言は決して触れてはならない、彼らの怒りに触れたようだ。

 

 「おれたちを侮辱するつもりか?」

 「言葉には気をつけろ。エルバフを軽視するつもりなら容赦はできんぞ」

 「別に、思ったことを言ったまでさ。それを誇りと呼ぶならきれいだけどね。長寿だなんだと色々理由つけては仲間殺しを正当化してるだけじゃないかな」

 「ちょっとキリ、あんたどうしたの急に。なんで喧嘩売るようなこと」

 「いや、これは、今までの経験上嫌な予感が……」

 

 普段とは異なる口調のキリにナミが違和感を持った時、目敏くウソップが気付いた。

 明らかに様子が違っている以上は何か考えているのは明白である。

 

 彼はルフィに比べて悪事を好む性格だ。

 そう言えば島に到着した時、妙に口数が少なく、皆から離れようとしていた傾向があったように思う。さらにはメリー号の近くにブロギーが現れた際、船に誰も残さずナミとウソップについて来るよう言ったのも彼だ。

 そして極めつけは巨人たちを挑発するかのような言葉。

 この場にある雰囲気だけでなく、妙な何かを感じて二人は冷や汗を流した。

 

 ナミとウソップが押し黙ってしまったことで止める者が居なくなる。

 侮辱されたと感じている二人は怒りを滲ませるのみ。

 エルバフの誇りにかけて、今しがた向けられた言葉を聞き逃す訳にはいかなかった。

 

 「今すぐ取り消せ。おれたち自身のことならば聞き流せるが、我らが故郷の侮辱は許さん」

 「聞き流せないってことは自覚してるんじゃない? その風習は普通じゃないよ」

 「貴様……」

 「寿命を全うしようとせずに同族殺しを推奨するなんて狂ってる。ボクは手紙のお婆さんに同意するよ。決着をつける前にこの決闘はやめるべきだ」

 

 目を血走らせ、強く歯噛みし、ドリーとブロギーは一目でわかるほど怒気を発していた。

 しかしキリは怖気づくこともなく彼らの目を見つめ返す。

 

 「それはできない。おれたちは掟に逆らうつもりはない」

 「この島を出る時は決闘の決着がつき、生き残ったどちらかだけだ」

 「ボクは反対する。決闘はやめるべきだ」

 「そうはいかん。勝負が決するまでおれたちの意見は変わらないぞ。絶対にだ」

 「意見が割れたね」

 

 不意にキリが訝しんでいたウソップに目を向ける。視線が交わり、笑みが柔らかくなる。

 

 「こういう時は、エルバフの掟ならどうやって決めるんだっけ」

 「は? そりゃ神の加護を受けるために決闘を――」

 

 言いかける途中でまさかと気付いた。

 嫌な予感が増した気がして、咄嗟に止めようとするのだが、すでにキリは楽しげになって二人を見上げており、そんな猶予など与えてくれそうにない。

 

 「ちょ、ちょっと待てキリ君。この流れなんか嫌な感じがするんだけど……」

 「それならこうしよう。エルバフの掟に従って、エルバフの神の審判を受ける」

 「いやだからちょっと待って――!」

 「ウチの一味から君たち二人、巨兵海賊団に決闘を申し込むよ」

 「ほらやっぱり~!?」

 

 ドリーとブロギーはきょとんとしている。態度も変わって唐突な話の転換についていけず、まだ上手く理解できていないらしい。呆然とした顔で身動きを止めていた。

 ナミとウソップはそうではない。

 二人は慌てた歩調でキリの下へ集い、感情のままに猛抗議を始める。

 なぜそんな話になるのだ、と荒々しく尋ねずにはいられなかった。

 

 「なんか話し出した瞬間からおかしいなと思ってたけどどうしてそんな発想になった!? お前さっきの決闘見てただろ! おれたちが敵う相手じゃねぇって!」

 「そうよ、あんなに大きいのよ!? 普通の感覚なら戦おうなんて思うはずないでしょ、バカ!」

 「まぁまぁそう言わず」

 「あっさり流すなァ!」

 「今すぐ謝りなさい! やらないわよ、決闘なんて!」

 「もうちょっと待っててよ。まだ交渉してる段階なのに、そう頭ごなしに否定しなくてもさ」

 

 気楽な顔で言う彼は何の気負いもなく立っている。

 その能天気さには腹を立ててしまうほど。二人は尚も必死に抗議する。

 

 「ちゃんと説明しなさい。どういう意味があって決闘なんて言い出すのよ」

 「今から言うよ。でも本人に言いたいからできればちょっと下がっててくれないかな」

 「その前にまずおれたちだろ! って言うか悪いことは言わないからやめよう、な? 何考えてんのか知らねぇけど巨人と決闘なんてあり得ねぇ話だ」

 「じゃ、今から説明してくるから」

 「よぉしわかった、説明する前にまず落ち着いてくれ!」

 

 制止する二人を掻い潜ったキリは再び巨人たちの前に立った。

 奇妙なやり取りに彼らは怒りも忘れ、キリを見下ろす。

 先程よりも些か冷静に向かい合うことができて、話し合いは少し形を変えて続けられた。

 

 「トラブルはエルバフの神の下、決闘で解決する。君たちが言ったことでしょ」

 「ああ、確かに言ったが」

 「ボクらはエルバフの戦士じゃないけど、エルバフの戦士と揉めたんなら掟に従って話し合いの場を設けた方がいい。そうは思わないかな」

 「むぅ……」

 「それにこっちの要求は君らの決闘をやめさせるか否かだ。どっちの決闘が先かなら君たちの戦いよりもこっちの方が優先されるはず。それとも、掟に背いてボクらを無視するつもり?」

 

 したり顔で語るキリに、一理あるか、と考え始める。

 申し込まれた決闘から逃げてなぜエルバフの戦士と名乗れようか。

 戦士としての本能が彼らの闘争心を呼び覚まし、互いに顔を見合わせ、同じことを考えているのを確認する。どうやら怒りは別として向き合う気になっていたようだ。

 

 それからすぐにウソップが飛んできて、手でキリの口を押える。

 彼の口を動かさせていたら何を言い出すかわからない。最も効果的なのは塞いでしまうことだ。まず先にキリを黙らせ、その後でドリーとブロギーを見上げて焦る口調で言う。

 

 「すいません師匠たち! こいつちょっとおかしな子なんです、悪い子じゃないんですけど! これもなんかテンション上がり過ぎちゃったせいで何言ってんのか本人わかってなくて!」

 「ふがふが――」

 「もうほんと、色々すいませんでしたぁ! できれば今までの失言は忘れて頂きたい!」

 「いや、もう少し話させてくれ。興味を持った」

 「へ?」

 「この百年、奇襲を仕掛ける輩は居ても、正面からおれたちに決闘を挑んだ者は居ない」

 「そいつの真意を聞いてみたい」

 

 二人は冷静に考え、キリの発言に興味を持っていた。

 今になって考えれば先の言葉は挑発。怒りを買うために敢えて口にしていたのだろう。

 そうまでしてなぜ戦いを望むのか。

 聞いてみたい気はして、ウソップが手を離したキリの顔を見据えるとドリーが静かに尋ねる。

 

 「お前の一味全員で、おれたち二人に挑もうと言うのか」

 「うん」

 「理由は。何を求めてそうする」

 「悪いけど命の取り合いに興味はない。それより欲しい物があるから、勝った方が負けた方の言うことを聞くのが条件だ。それでいいならボクらの要求を話すよ」

 「聞かせてくれ」

 「まず一つに決闘をやめることが大前提。もう一つ、二人にもう一度海賊をやってもらうこと」

 「ふむ、海賊か」

 

 ブロギーが顎髭を撫でて考えた。

 それを見てキリがさらに笑みを深める。

 

 「もう一度二人から巨兵海賊団を旗揚げして、今度は、麦わらのマークも一緒に掲げてもらう。要するにボクらの傘下になってもらうってことだ」

 「ほう」

 「なるほど……」

 「そういう意味でも決闘ってのはちょうどいいでしょ?」

 

 悩みもせずにあっさり告げるキリに、ドリーとブロギーは感心し、ナミとウソップは肝を冷やして止めようとする素振りさえできなくなる。

 彼は、普段と一切変わらない表情のままだった。

 

 予想だにしない言葉を聞いていた。

 ドリーとブロギーは自身が想像するよりずっと穏やかに、それでいて面白いと考えている。

 

 ただ、同じ船に乗る仲間である二人は彼ら以上の衝撃を受けていた。

 アーロンの時とは状況が違う。彼らの場合、野放しにすることを危険視した結果、グランドラインへ連れてくるため傘下にすることを決めたのだが、その二人は違う。

 百年続く決闘を邪魔してまで仲間にしようと言うのだ。

 相談もなかったことに驚き、ただ二人を死なせまいとするだけでないと知って、眩暈がした。

 

 ルフィはこのことを知っているのか。

 真っ先にそう思うのだが確認する暇もなく話は進み、ドリーとブロギーが口を開いていた。

 一転して上機嫌になった二人は好戦的な笑みを浮かべ、どこか乗り気に見える様子で尚もその話を続けようとしている。つまりそれは、受ける気があるとも取れた。

 

 「面白いことを言う奴だ。おれたちと戦い、傘下にすると?」

 「だが唐突ではあるな。なぜおれたちの力を必要としている」

 「ボクらの船長は、いずれ海賊の王になる男だ。そのためには平凡じゃいられない」

 「なるほど。理解はできる」

 「それにエルバフの掟に従って申し込まれたのなら、これで逃げては生涯の恥だ」

 

 ブロギーの呟きを聞いたウソップがぎょっとして、不安に苛まれたナミが小さな悲鳴を発した。

 二人は突如立ち上がって背筋を伸ばす。

 十メートルを超える巨体。下を覗き込んでそこに立つ人間を見れば、まるで屋根ができたかのように辺りを覆う影が生まれて、威圧感はさっきの比ではない。

 三者三様、様々な表情で彼らの顔を見つめ返した。

 

 「これがおれたちの生き方だ。挑まれれば逃げることを知らない」

 「命までは取るつもりはない。だが決闘を挑まれたのなら、手加減することはできないぞ」

 「そりゃこっちのセリフ。まさか、自分たちが勝てると思ってるの?」

 「なんだ、その口ぶりでは自信ありということか」

 「むしろ申し訳なくなるほどね」

 「ガババババ! そりゃ面白い!」

 「よし、それでは我らも覚悟を決めるとしよう」

 

 ドリーが口にしたことで、ブロギーもまた小さく頷いて同意した。

 

 「エルバフの神の名において、お前たちの挑戦を受けよう。我ら二人を打ち負かした時、決闘の盟約に従い、お前たちの傘下となることをここに誓う」

 「だがおれたちが勝った時は、そうだな……この島でログを溜めるのに必要な期間、一年。その間はこの島でおれたちと共に過ごしてもらおうか」

 「い、一年!?」

 「この島で一年も過ごすの!?」

 「何分二人しか居なくて寂しいところだ。同居人ができるのならこれほど嬉しいことはないぞ」

 

 楽しそうにブロギーが言うため、ウソップとナミは驚愕して思わず声を出した。

 一方でキリは迷わず頷き、即座に返答する。

 

 「わかった。条件はそれでいい」

 「ちょっとキリ!」

 「お前、せめてもうちょっと考えてから――!」

 「ルフィはボクが説得する。大丈夫、勝てば悩む必要なんてないんだから」

 「負けた時はどうすんだよ!?」

 「今から勝負するっていうのに負けること考える奴なんて居る?」

 「やべぇ~!? こいつ実は何も考えてねぇぞぉ~!!」

 

 騒ぐウソップにおざなりな対応だけを渡し、キリは再びドリーとブロギーを見上げた。

 

 「それじゃ話は纏まった。勝敗に関してだけど、相手を殺すのはなし。負けを認めさせるか、気絶させるか、そのどちらかで決めよう。開始の合図は真ん中山の噴火。一度島の中央に集まって、二人みたいにそれから改めて始めることにしようか」

 「承知した。こちらもそれで異論はない」

 「それでは次の噴火の時に」

 「うん。こっちも準備を始めるよ」

 

 承諾した二人から目を離し、キリが二人へ振り返った。

 にこりと笑って敵意のない笑顔。

 柔らかくやさしいはずのそれが今は少し怖かった。

 

 「ウソップ、狼煙を。みんなを集めよう。作戦会議始めるよ」

 「え? お、おう……」

 

 言われたウソップがパチンコで特殊な弾を空へ打ち上げる。黒煙とも赤い煙とも見える狼煙が天へ向かい、まるで蛇のようにその存在感を示した。

 合図を見れば皆が集まってくるだろう。

 その時を想い、キリは一足先に頭を働かせ始めていた。

 


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