ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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ハリネズミの日々

 朝日が完全に上り切り、海兵たちが基地内で朝食を取っている頃。

 全ての海兵が一気に食堂へ集まる訳ではない。

 時間制の問題でもあるが、空腹を多少我慢した後、食堂で朝食を取る者も居る。牢屋を見張る海兵などがそうだった。先日のデッドエンドで海賊が大挙して押しかけ、牢屋を満たすほど収監されている。これが暴れ出さないよう、見張っておく必要があった。

 

 普段ならばまずあり得ない仕事である。

 ナバロンに立ち寄る海賊が居ないために、見張りをするなど何年振りかのことだ。

 当然、慣れない新兵の中にはその仕事を軽んじる者もおり、あくびさえ我慢できない始末。

 牢屋の近くにある詰所に居る二人は、うんざりといった顔でそちらを見ていた。

 

 「おいコラァ、開けろォ!」

 「てめぇらこっち来いオラァ!」

 「出さねぇとどうなるかわかってんだろうなァ! いいから鍵寄こせよ、おい!」

 

 島の土壌を利用し、地下に穴を掘って作った広大なスペースに、大量の牢屋が並んでいる。

 収監された海賊たちはほぼ一日中騒ぎ続け、海兵に罵詈雑言を浴びせて、鉄格子を握って激しく揺らし、休む暇さえ与えることなく、彼らの精神を苛み続ける。

 おかげで洞窟のような内部にはけたたましい音と声が鳴り響いていた。

 数分ならば耐えられる騒音も、一日中続けば心を病む可能性さえ出てくる。そこに居る海兵は何度か交代しているものの、溜息が抑えられないのも無理はなかった。

 

 ましてや戦闘経験のない新兵なら当然のことであろう。

 ナバロンは近頃、海兵になったばかりの者たちを迎え入れたばかり。

 この場所なら楽に勤務できるだろうと思っていた者たちにとって、言わば絶望的な状況だ。

 

 いつまで経っても静まらない海賊たちに苛立っている。だが言ったところで奴らは聞かない。

 耐えるしかないのか。そう考えつつ、二人の海兵は厳しい表情が変わらなかった。

 

 「くそ、うるさいな。いつまで騒いでやがるんだ海賊ども」

 「ほっとけよ。マジメに相手をするだけ無駄だ」

 「不謹慎かもしれないが、はっきり言って全員処刑してやりたい気分だ」

 「おれも同じさ。ジョナサン中将はどうしてこんな奴らを生かしておいてやるのか」

 「まったく、イライラする。早いとこ交代の時間になって欲しいな」

 「まだ代わったばかりだろう。しばらくは耳栓でもして過ごすしかなさそうだ」

 

 苛立ちを我慢しながら少しでも気を紛らわせようと、二人は雑誌や新聞など手に取り、それぞれ違うことをし始めた。見回りに出ようなどという態度は微塵もない。

 それを見て動き出す影があった。

 騒音に全身を包まれるような状況で、気を抜いていた彼らは全く気付かない。

 

 二人の背後からふわりと浮いて近付くのは、手首から切られた右手である。

 腕に繋がっていないそれが独りでに動き、気を抜いて座る海兵の一人に近付いていく。

 

 同時に、地面を這うようにして動くのは人間ほどの大きさを持つ紙だ。

 人の形をしたそれが無音で移動し、匍匐前進よりも静かに、もう一人の海兵へ接近する。

 騒音が手伝って全く気付かれる気配がなかった。

 

 宙を移動する右手が一足先に仕掛けた。

 ぶつぶつ文句を言いながら雑誌を読む海兵の前へ回り込んで、その口を塞いだのだ。

 それだけで終わらず、タイミングを見計らったかのように左手が急接近して、同じく腕も胴体もない状態で、宙に浮いたまま海兵の首を掴む。口を塞ぐ右手は少し位置をずらして、同時に鼻まで押さえ始めて、彼の呼吸を封じたのである。

 

 驚愕と衝撃で急に暴れ出し、椅子もひっくり返して手足をばたつかせた。

 しかし、胴体も腕もない相手。掴む場所が分からず両手は空を切り、強靭な握力に打ち勝つことができないまま、どれだけ暴れても離されることはない。

 見る見る顔色が変わっていって、傍から見ていて恐怖を覚える光景だった。

 

 隣に居た海兵は瞬時に気付くものの、椅子を蹴り飛ばして立ち上がって背を仰け反らせた。

 その場には誰も居ないのに手だけがあって、見るからに異様な物である。

 

 見たことも無ければ聞いたこともない、異常な光景。

 苦しむ同僚を見ながら、思わず新聞を取り落とした彼はすぐに動き出すことができなかった。

 その背後で、地面を這っていた紙がゆっくり立ち上がる。

 

 「ど、どうしたっ!? なんだそれは――うぐっ!?」

 

 人型の紙が右手を動かし、ペラペラの腕をもう一人の海兵に巻き付けた。

 顔の半分、鼻も口も塞いでぎゅっと力を入れる。反射的に両手でその腕を掴もうとするのだが、薄っぺらい紙の腕では掴む場所がなく、引き裂こうと考えるだけの余裕もない。捕まった海兵は必然的にもう逃れられない状況に囚われた。

 目を白黒させる彼の耳元で、掠れた声が怪しく囁く。

 

 「ずさんな警備ありがとう。おかげで仕事がしやすくなるよ」

 

 呼吸を封じられ苦しさを感じながら、彼は両目を見開いた。

 やはり能力者。人間だったのだ。自然現象ではなくどこかの誰かに襲われている。

 そう気付けたところで彼らは逃げる力など持っておらず。

 二人とも息を吸えずに昏倒し、結局は為す術もなく床に転がった。

 

 警備はたった二人だけ。すでに監視の目はない。

 そこで侵入者である二人が姿を現した。

 

 全身をバラバラに分解して物陰に潜んでいたバギーと、全身を紙状に変えていたキリである。

 制圧した一室に現れた二人は倒れた海兵を見やり、一息つくと共にすぐ思考を働かせる。じっとしていられるだけの時間はない。迅速な行動が必要だ。

 

 「基地の中は案外大したことないね。まだバレてないみたいだし、警備もかなり薄い。ひょっとしたら兵の練度が低いのかな」

 「さぁな。敵の事情なんざどうだっていい。それより次だ」

 「そうだね。鍵は多分それだよ」

 「よぉし、運は確実におれに向いてる。おれなら上手くやれるさ」

 

 上機嫌にバギーが動き出す。

 壁に掛けられていた鍵の束を取り、おそらくは全ての牢屋を開けることができるだろうそれを手にして何を考えているのか、悪そうな顔をしていた。

 

 まずは作戦の第一段階。ここで躓いているようでは脱獄など夢のまた夢。

 足取りも軽く詰所を出たバギーが牢屋が並ぶスペースへ出て行く。キリはそれを見送った。

 

 薄暗い空間を蝋燭の光が照らし、ともすれば圧迫感すら感じる場所へ立つ。

 長く伸びる回廊に無数の鉄格子があり、おそらく視界が届かない位置にもあるだろう。

 その全てにデッドエンドの参加者が押し込められていると考えれば、それだけで胸が躍る。

 全て解き放った時、ナバロンは混乱に包まれること間違いなし。ここまでの緩い警備、士気の低い海兵たち、戦闘への不慣れを見て確信を得、チャンスはきっと生まれるはずだと考える。

 

 誰からも見えるだろう位置に立ったバギーは高々と右腕を掲げた。

 その手に握るのは鍵の束。皆を解放するための道具である。

 気付いた者たちがおおっと声を出し、何やら始めそうな彼の姿を注視した。

 

 「夢に破れた猛者ども、おれ様の声を聞け! これが何かわかるよな?」

 「牢の鍵か!」

 「そいつを寄こせェ! おれたちを解放しろォ!」

 「おやぁ? 口の利き方がなっちゃいねぇな。誰に向かってそんな口利いてやがる、んん?」

 

 にやりと笑って凄むバギーに、ふと海賊たちが口を噤んだ。

 状況くらい理解できる。鍵を持つ海賊、捕まった自分。圧倒的な優位に居るのはどちらか。そして彼が何を言わんとしているのか、理解できぬほどのバカはこの場に居ない。おそらく同じ状況になれば皆が同じことをしでかすだろう。

 お互いが海賊とあって、話はさくさくと前に進んだ。

 

 鍵を揺らすバギーはしたり顔で声を大きくする。

 今は聞くしかない海賊の群れは悔しげにしながらも耳を傾けた。

 

 「明日のねぇお前らが自由を得るか、それともここで朽ちて死ぬかはおれの機嫌一つで決まる。それがわからねぇバカじゃないなら黙って話を聞け」

 「チッ、偉そうに……」

 

 不承不承といった様子も見受けられるが意に介さず、バギーは高らかに語り出す。

 

 「今からおれァ、この要塞を離れるつもりだ。すでに作戦も立ててある。だが敵も多い上にこっちの兵力も足りてない。そこで、どうだ? おれ様と一緒に夢を見てぇ奴は連れ出してやってもいいが……こんな辺鄙な場所で一生を終えたくねぇ奴は何人いる?」

 

 自由になれるのか。

 バギーの声を聞いていた海賊たちは見る見るうちに表情を変えていく。

 脱獄したい一心だが手の打ちようがなかった彼らの救世主。大勢の人間が押し込められて狭苦しい牢屋を抜けられるのなら、多少の不自由など大した問題ではない。

 バギーから命令されることさえ何のその。

 身を乗り出す海賊たちが笑顔で彼を見つめていた。

 

 それを見てバギーはしたり顔になる。

 どうやら彼らを上手く使えそうだ。

 

 仲間という意識などない。

 出会ったばかりの彼らは脱獄するための重要な要素の一つであり、しかし実際、道中死にかけたところで助けようとも思わない間柄だ。

 心配もせずバギーは朗々と語った。

 

 「さぁ、おれの作戦を聞きたい奴はどいつだ。てめぇらを率いる男の名を言ってみろ!」

 「おおおっ、キャプテン・バギー! おれたちの救世主!」

 「ここを出られるならあんたに従うぜ!」

 「早く自由にしてくれェ!」

 「慌てるな。こっちにゃ作戦があると言ったろう」

 

 にやりと笑ったバギーが辺りを見回す。

 その後ろからようやくキリがやってきて、同じく囚われた海賊たちを見て物色し始めた。

 

 「いいかおめぇら、この要塞にはあの悪名高き“赤犬”が贔屓にしてる中将が居るようだ。如何におれ様が名軍師で、尚且つおめぇらの救世主であっても、協力し合わなければ外に出ることは困難になる。まずはここに居る連中を率いる指揮官が必要だ。誰がおれ様からの命令を聞く?」

 「おう、それならおれにやらせろ。あんたに従う」

 

 右側から声をかけられ、二人の視線はそちらを向いた。

 とある牢の中、鉄格子の傍まで近付いてきたのはシャチの魚人、ウィリーである。

 顔を確認してからバギーがキリを見ると、彼は即座に頷いた。

 

 「よぉし、ならお前に任せる。この鍵で全員を解放してやれ。だがタイミングはまだだ。おれ様が電伝虫でお前に命令を出す。抜け出すのはその後さ」

 「なぜだ? 今すぐ逃げりゃいい話だろう」

 「バカ野郎、この要塞に何人の海兵が居ると思ってやがる。今からおれがチャンスを作ってやるんだよ。おれが基地中を混乱に陥れ、お前らの脱獄によってさらに大きな混乱になる。そういう筋書きなら脱獄のチャンスがぐっと増えるって寸法だ」

 「なるほど」

 

 キリが牢屋へ近付き、すぐ傍の詰所にあった電伝虫をウィリーへ手渡す。

 直後にバギーから受け取った鍵も渡して、その牢に居る者たちはすでに色めき立っていた。

 

 アーロンに比べて比較的気性が大人しい様子である。少なくとも人間に対して明確な敵意を表しておらず、状況が状況なせいかもしれないが、近付いたキリに危害を加えようともしなかった。

 演技か、本心からの服従か。

 どちらにしても彼らが暴れ出せば遅かれ早かれ混乱は起きる。それを利用するだけだ。

 

 渡し終えたキリが離れた後で、バギーが再び辺りに居る海賊たち全てを見回した。

 近くに居るだけでも賞金首がごろごろ居る。奥へ進めば更なる強者も望めるだろう。

 風は、確実に自分に向いてきていた。

 

 頬が緩むのを抑え切れない。これで後は隠し金庫の宝とやらを手に入れて逃げるだけ。

 拳を握る彼は力強く海賊たちへ訴えた。

 

 「いいか野郎ども、時を待て。ハリネズミとまで言われた最強の要塞を、おれたちの手で掻き乱してやる。てめぇらの仕事は軍艦を奪い、再び自由を手に入れて海へ出ることだ。数十分後か数時間後か、この場に居る全員がもう一度海賊人生を謳歌するのさ、このバギー様の下でなァ!」

 「オオオオオォッ!」

 

 目に見える位置の全員が叫んでいた。

 拳を突き上げ、鉄格子を揺らして音を鳴らし、地面を踏みしめて大地を揺らす。

 つい先程まで平穏に包まれていたはずの場所はすでに海賊一色に染められていた。これを新兵が見れば恐れおののいて言葉も出なかっただろう。そうなって当然の迫力がある。

 

 予想よりずっと上手く進んでいる。これにバギーは満面の笑みで喜んでいた。

 その背後で、普段と変わらぬ様子のキリがぽつりと告げる。

 まるで船長に付き従う副官。ひどく落ち着いた態度で、バギーを立てるような姿だった。

 

 「バギー、あんまり騒ぐと気付かれる。今はまだその時じゃないよ」

 「おお、そうだったな。静まれィ野郎ども! てめぇらが暴れ出すのはもう少し後の話だ!」

 

 バギーの一声によって海賊たちは徐々に静かになっていく。早くも主従の関係だ。傍から見ていても分からないが彼にはカリスマ性でもあるのか、出会ったばかりの人間が従えられている。

 好都合と考えていいだろう。キリはそれを見て何も言わない。

 

 「今は力を蓄えろ。その電伝虫からおれ様の声が聞こえた時、自由を勝ち取る時だ」

 

 海賊たちが笑っている。バギーもくつくつと笑っていた。

 

 「くっくっく……ぎゃーっはっはっは!」

 「さぁ、次に行くよバギー。まだこれだけじゃ外に出るのは難しい」

 「おおそうだった。じゃあなてめぇら、最後の囚人人生を謳歌してろ、今はまだな。もうここには二度と戻って来れねぇぞ」

 

 勝算を持ってにやにや笑う無数の顔に見送られ、二人は振り返って歩き出し、詰所に入った。

 最初に来た時と違って静かな一室である。

 格子型の窓があるため一応空間は繋がっているが、今は海賊たちが騒いでいない。しかも彼らの視線が届かない場所に移動できて、声の大きささえ気をつければ話を聞かれる心配もないだろう。今の二人にはこの環境が必要だった。

 

 足を止めた二人は改めて向かい合う。

 脱獄の可能性は高まった。しかしこれでもまだ完璧ではない。

 何より、まだ隠し金庫とやらを見つけ出せてはいないのである。

 

 命が惜しいと言いつつもバギーはお宝に執着している。隠し金庫の金を奪わなければ逃げないとさえ言いそうな態度であり、このまま逃げるつもりはないらしい。

 キリが最優先とするのは無事に逃げ切ることであるものの、彼の協力なしではそれも難しく。

 自分から言い出したこともあり、しばらくは付き合わなければならなかった。

 

 「上手くあいつらを手懐けたぞ。次はどうすんだ?」

 「まだ隠し金庫の位置がわかってない。おそらく脱獄もバレてないし、ここの海兵が焦ってる様子もない。ふむ、予想と違うな。練度の低さを喜ぶべきか嘆くべきか……」

 「おいおい、こんなとこでじっくり考え込んでる場合か? 早くしねぇと見つかっちまうだろ」

 「わかってる。でも金庫を見つけるのは簡単じゃないね。せめて誰が知ってるのかさえはっきりすれば話を聞くこともできるんだけど、隠されてるくらいだし、みんな知らないかな」

 「ええい、どこのどいつだ、おれ様の金を隠しやがったのはっ」

 

 悔しげに歯を食いしばるバギーを見て苦笑する。

 こういった一面はナミに似た何かを感じた。まだ見ぬ金をすでに自分の物と考えているらしい。

 

 気分を入れ換え、考え込むキリはぐるりと室内を見回す。

 隠密行動に努めていたため、ここまで寄り道らしい寄り道はできなかった。どこかで基地の全貌を記した地図でも見つかれば楽になるのだが、そう目に付く場所へ置いているはずもなく、悪用される危険性を考えて存在しているかどうかさえわからない。

 ウェンディは監査官。特別に渡されていただけで、基地内に地図がある保証もなかった。

 

 隠し金庫の発見は強奪のためだけではない。その存在が明るみになって海兵に知れれば、きっと海賊の暴動とは別の衝撃が走る。混乱がさらに大きくなるはずだ。

 そう考えての協力でもあった。だが何の手掛かりもない現状では重荷にもなり得る。

 

 どうやって探すべきか。或いはバギーに宝を諦めさせるべきなのか。

 考えるキリの耳にけたたましい音が入った。

 警報の音である。おそらく基地内の全ての場所に鳴り響いているのだろう。

 予想できるのは二人の脱獄が露見したという状況だ。

 

 音に気付いて頭上を見上げたキリは冷静に受け止めていたが、バギーはそうではない。

 突然の警報に動揺し、見るからに肩をびくつかせて驚いていた。

 

 「な、なんだぁ!? 何で鳴ってんだよ、どういうことだ!?」

 「ボクらの脱獄がバレたのかな。牢屋は空になったままだしね」

 「なにぃっ!? だとすりゃ冷静に言ってる場合か! どうすんだよおい!」

 「大丈夫だよ。まだボクらの位置までバレた訳じゃない。まだやりようはある」

 「ならさっさと考えろ。どこに隠し金庫があって、どうやって逃げるっ」

 

 多少の焦りを感じさせながらバギーが詰め寄った。

 彼を救世主と呼んだ海賊たちに見せてやりたい顔だが、今はそんな場合ではない。

 キリは真剣に頭を働かせる。

 

 二人が牢屋を抜け出したことは露見したようだが焦ってはいない。

 警報を鳴らされること自体は予想していた。むしろ部屋を抜け出してからここに至るまで、予想よりかなり遅く、鳴らされないことに心配してしまったほど。

 だがこれではっきりした。ナバロン要塞の海兵は決して脅威ではない。

 問題はまだ見ぬ将校の実力だけ。それ以外は甘く見積もっても苦戦しない実力だろう。

 

 噂が敵を寄せ付けなかったせいで、この基地の海兵はずいぶん態度が緩んでいる。いくら潜入に向いた能力を持つ二人とはいえ、一度も見つからずに牢獄まで辿り着けたのもそのせいだ。敵には注意力も能力者を倒す実力もない。

 ならば多少大胆に動いてみる方法も使えそうだ。

 

 もう一度部屋の中を見回して、キリの目は倒れた二人の海兵を捉えた。

 わずかに笑みが浮かび、頭の中では着実にピースが組み合わさっていくかのよう。

 

 「この基地、もっと混乱させた方がいいね。まずは武器庫にでも行って爆弾が欲しい。至るところ爆破してやれば、ここの兵士なら多分諸々対応できなくなる」

 「その後で海賊どもが一斉蜂起って訳だ」

 「上手くいけば、ついでに地図も手に入るかもね」

 「あん?」

 

 振り向くキリは非常に楽しげで、何かを思いついた様子だった。

 先程まで見ていたのは気絶している、制服を着ている海兵が二人。

 まさかと考えるバギーは嫌な予感を覚えつつ、仕方なく彼の提案に耳を傾けた。

 


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