ROMANCE DAWN STORY   作:ヘビとマングース

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UNLOCK(2)

 「ぎゃ~はっは! 懐かしきかな海賊島! 相変わらず騒がしい島だぜ!」

 

 大勢の部下を引き連れ、騒いでいる男が居た。

 騒がしい町の中でも目立つ風貌は真っ赤な鼻を持っており、傍らには手配書も出ている賞金首がずらりと勢揃いしている。大声を出しているせいか周囲から注目を集めていた。

 大通りを歩きながら通り過ぎ様、ハートの海賊団もまた彼らを確認する。

 

 「キャプテン、あれ道化のバギーじゃない? ローグタウンを襲った海賊同盟だ」

 「グランドラインに入ったんだなぁ。あれからそう日も経ってないのに」

 

 新聞で取り上げられていた顔ぶれを見て平然と会話を続ける。

 つい最近、いくつかの海賊団が同盟を組んだと話題になったばかり。確認すれば確かに幹部が全員揃っているらしく、戦力の余裕からか、周囲の視線を受けても堂々としている。

 

 部下の言葉が指す一団をちらりと確認し、興味を持たずにローはすぐ視線を外した。

 数は多いが一人一人の額は高くない。さほど脅威とは思わなかったようだ。

 

 特に今しがたルフィとキッドの戦いを見たばかりで、自身と額の近いルーキーの実力を知り、今後が期待できそうだと満足したところだ。興味を向けるような相手ではない。

 普段物静かな彼も、今夜ばかりは上機嫌だった。

 まだ発展途上とはいえ強者を見た。珍しく血が滾っていたらしい。

 

 道化のバギーを素通りしたことで背後の部下は首をかしげる。少しも興味を惹かれない姿に違和感を持ったらしかった。

 

 「あれ? いいの? あいつら興味ない?」

 「大した奴らじゃねぇだろう。今すぐ潰す必要もねぇはずだ」

 「ふぅん。それじゃさっきの麦わらは?」

 「あれはいずれぶつかる。急ぐ必要は――」

 

 フッと笑って視線を落とし、再び顔を上げた時。ローは奇妙な物を見つけた。

 通りを歩く人の群れを物ともせず立ち止まっている人物が居る。

 手配書で見た、紙使いキリの姿だ。

 

 ハートの海賊団は足を止める。

 前方に立ち塞がる彼の目は自分たちを見ていた。正確に言えば船長であるローを。その首にかけられた懸賞金だけで言えば彼以上の海賊もちらほら見えるというのに、一切興味を示さずに。

 見るからに異質だった。自然と部下たちは口を噤んで緊張感を醸し出す。

 その中で唯一、ローだけは冷静にキリを見据える。

 

 どちらも動かなくなって見つめ合う。

 周囲の喧騒も不思議と遠く、緊張する部下すら置き去りに、彼ら二人だけが周囲の空間から切り取られるかのよう。奇妙な感覚に囚われていた。

 ただそれだけで相手を理解するような、そんな普通ではない一瞬だった。

 

 やがてローが口を開く。

 静かな声色で言葉が紡がれ、その場を動かずキリへ問いかけた。

 

 「おれに何か用か」

 「うん。少し話したいことがあって」

 「フッ……いいだろう。興が乗った。聞いてやる」

 

 そう悩む素振りも見せずにローが頷いた。再び部下たちが驚いて思わず口を開く。

 まさかそれほど簡単に頷くとは思っていなかった。

 この男は危険だ。

 噂を聞く限りその意見は無視できず、船長の身を案じるからこその制止である。

 

 「ちょっと待ってくれキャプテン。こいつを信用するのはまずいんじゃねぇかな」

 「そうだぜ。例の新聞を書かせたのはこいつだって噂だ」

 「何よりあの麦わらの片腕」

 「騙し討ちがないとは限らないって。キャプテン」

 

 部下たちは止めようとする。しかしローは薄く笑みを浮かべ、軽い挙動で一歩を踏み出した。

 

 「問題ねぇさ。その時はその時だ」

 「ハァ~、やっぱそう言うよな」

 「おまえら先に戻ってろ。向こうも一人だ。おれ一人でいい」

 

 もし騙し討ちするようなら自ら始末する。

 言外にそう告げてローが進み出て、仲間たちは苦笑しながら見送った。

 負けるとは思っていない。もし敵が襲ってきても即座に対応し、返り討ちにして切り捨てることくらいは軽くやり遂げる男だ。

 敢えて止める理由はないだろうとあっさり見送られた。

 

 長刀を肩に担ぎ、脇道へ逸れたローは顎で路地を指し示す。

 キリは笑みを深めてそれに従った。

 

 大通りを離れて細い路地へ入る。明かりが届かないため暗く、ボランティアで掃除をする人間も立ち寄らないため汚らしさが目立つ。人の姿もぐっと減った。

 誰かから隠れるようなそこに居る人間は、暗がりで絡み合う男女か、悪巧みをする人間。

 

 彼らは後者になる。

 周囲から完全に人の気配が消えた時、二人は壁に背を預けて向き合った。

 

 「聞かせてもらおうか。おれに何の用だ?」

 「面白い話を聞いたんだ。本当か嘘か確かめようかと思って」

 「ほう。それだけでよく見つけられたもんだな」

 「この島で隠れるのは難しいよ。目はどこにでもあるから」

 「だろうな」

 

 ローは納得した様子で笑う。

 彼自身見つかることを疑問視していなかったようだ。情報のやり取りが生死を分けることをすでに理解しており、だからこそ自身の居場所が見つけられたことも不思議には思っていない。滞在して数日、海賊島はそういう場所だと理解していた。

 

 頭の悪い人間を相手にするのは面倒だが、彼はそうではないのだろう。

 互いに細かな説明を必要とせず話し始める。

 

 先に言ったのはキリだった。

 

 「君に興味を持ったんだ。ジョーカーの知り合いらしいね」

 

 ぴくりと眉が動く。

 身に纏う雰囲気と表情は明らかに変わった。笑みは消えて視線の鋭さが一瞬で増し、暗い路地裏に肌を刺すような空気が広がる。

 ただの威嚇ではない。この先一歩でも間違えれば殺すと目が伝えている。

 果たしてそれは本人の意識するところであったか。

 

 剣呑な空気に包まれたローはおそらく意識していない様子で、冷たくなった声を出す。しかしその反応こそキリの確信を強めるための材料となった。

 反射的に殺気が漏れ出るほどの理由があるのだ。

 彼は本当にジョーカーの関係者だった。

 

 「……誰に聞いた」

 「さて、誰だったかな。なんせここは人が多い」

 「答える気はないってことか」

 「そう焦らないでよ。別に脅迫したい訳じゃない。むしろ協力しないかって話さ」

 「協力だと?」

 「うん、協力。ジョーカーの下に居たなら理解してくれるんじゃないかって思うんだけど」

 

 ピリピリとした何かが肌に刺さる。だがここで折れる訳にはいかない。

 キリは笑みを浮かべたまま、強く刀を握りしめるローへ言う。

 

 「実はボクも倒さなきゃならないターゲットが居る。直接力を貸してくれとは言わないけど、情報を集めるにはそれなりに多くの手が必要だし、もしもの場合だってある。できればしばらくの間手を貸して欲しいってのがボクの要求だよ」

 「それが本題か……見返りは?」

 「ジョーカーの情報。必要なら、だけどね」

 

 小さく鼻を鳴らして理解する。どこで調べたのか、ずいぶん詳しいようだった。

 彼の声を聞いている内に徐々に冷静さが戻ってくる。

 確かに脅迫の意志はない。出される要求と見返りも興味を惹く力もあった。

 

 「奴は今や裏社会を牽引する存在だ。おまえに調べられるのか?」

 「その手の話は得意だよ。経験がある」

 「どうだかな。今ここで信用することはできねぇが」

 「今すぐ信用してもらおうなんて考えてないさ。それとも何か必要な物でも?」

 「おまえは麦わらの右腕だろう。奴の差し金か?」

 

 鋭い眼光で見据えられて、常人では息を呑むだろうと予想する。ただし彼はこの手の脅しに慣れていた。ローもまた慣れている手合いだと理解しながら気軽に肩をすくめる。

 相変わらず笑みを崩さずに気楽な声が出された。

 

 「いいや、船長は知らない。ボクの勝手な判断で動いた。個人的な契約ってやつだよ」

 「それもそうか。ちょうどおまえの船長が暴れてるのを見てきたとこだ」

 「んん、やっぱりじっとしてなかったか。いつものことなんだ。気にしないで」

 「なぜ奴に教えない。独自の判断で動く理由はなんだ」

 

 数秒、キリは口を噤み、考える素振りを見せてから答える。

 

 「簡単に言えば、ボクの独断で決めたからかな。知っていた方がいいことと知らなくてもいいことがあるかと思ってね。少なくともボクはルフィを裏切るつもりはない」

 「おれと通じて奴を討ち取る気はないと」

 「ないね。君がそれを促すなら、ボクが君を始末する」

 「解せねぇな。そこまでの忠誠心があって、独断でおれと繋がろうとするのか」

 「これもルフィを海賊王にするためだ。彼は前だけを見て進んでくれればいい。横は仲間たちがなんとかしてくれるだろうし、それなら後ろに目を光らせるのがボクの役目でしょ」

 「フン。どうやら使えない訳じゃなさそうだな」

 

 そう判断したローは、しかし逡巡していた。

 ジョーカーの名と正体を知る者は少ない。情報統制は徹底的に行われ、ジョーカーの名を知って利用している者たちでさえ、その名が誰を指すかを知る者は数えるほどしか居ないのが現実だ。それほど世界の闇は広く、暗く、深いのである。

 

 彼はどこまで知っているのか。

 判断材料の一つとするため、嘘は許さないと目で告げ、ローが問いかけた。

 

 「おまえはジョーカーについてどこまで知ってる」

 「それが誰のことかは知ってるよ。気付いてる人間の近くに居たから」

 「同じ穴の狢、ということか」

 

 そこらでバカ騒ぎしている海賊とは違うらしい。立ち振る舞いや自身の殺気に対する反応、そしてその笑みを見る限り、そう判断せざるを得なかった。

 受けるか、蹴るか。

 同じ海賊であるだけに信用はできず、即決できる相手でもない。

 考えるローは目の前に居る彼を警戒している様子だった。

 

 一つだけ尋ねたいことがある。

 聞いたところですぐ信用するとはならないだろう。

 それでも、確認しておきたいことがあった。

 

 「おまえのターゲットってのは、誰のことだ」

 

 その答え如何によっては決断できる。

 おそらく生半可な相手ではないだろうと思っていた。ジョーカーの名だけでなく正体まで知っているばかりか、彼の口ぶりを考えれば麦わらのルフィ以外の誰かとの繋がりを感じる。

 大物の名が出てくると考えるのも無理はなかった。

 

 問われたキリは一瞬考える。

 自らの手札を晒すのは一種の賭けだ。よほど信用していない限り避けなければならない。

 だがここで自分の身を案じて退いてしまえば、いつまで経っても前には進めないだろうと思う。

 

 教えか、自らが信じる船長か。

 天秤に掛けた結果、彼は瞬時に決断した。

 

 「七武海、サー・クロコダイル」

 

 自分でも驚くほどあっさり告げる。教えを守るなら告げるべきではないだろうと考えていた。しかし今はルフィの姿を見倣い、考え過ぎないことを務めて動いたのだ。

 この場は信用を得ることこそ最重要。

 秘匿してばかりでは逆効果だと判断した結果だった。

 

 その名を耳にしてすぐ、ローは静かに目を伏せる。

 怯えた様子はない。いとも容易く受け入れ、理解していた顔つきだ。

 

 「それでか。興味を持ったってのは……」

 

 何やら納得した顔で呟き、ほんのわずかに目が開かれた。

 いつの間にか笑みを消していたキリは、彼の表情を見て驚く。

 不思議と寂しげな色が濃くなっていた気がした。

 

 一秒と経たぬ内に元の姿に戻り、今度こそ目を開いてキリの顔を見つめたローが口を開く。

 覚悟は決まった。ひとまず決断することを決めたようだ。

 

 「わかった。だが一つ条件がある」

 「いいよ。何かな」

 「おまえを信用する訳じゃねぇんだ。どれだけ使えるか、確かめる必要がある」

 「それはそうだよね。で、方法は?」

 「ちょうど明日はレースがある」

 

 その時ローはにやりと笑い、悪そうな表情が戻ってきた。

 対照的にキリが苦笑する。

 嫌な予感と言うのか、先程とは違う何かを感じていた。

 

 「船長のために命を賭けるって腹だろ」

 「その通り」

 「なら覚悟を見せてもらおうか。その“個人的な契約”とやらでな」

 

 どうやらルフィとは違った厄介さを持つらしい。

 望むところだとキリは頷いた。

 

 

 *

 

 

 アニタの案内で町一番の酒場へ到達した時、中がやけに騒がしいことに気付いた三人は思わず顔を見合わせる。特にイガラムはビビの身を案じて今にも叫び出さん表情だ。

 

 島に住むアニタの言によれば、そこが騒がしいのはいつものこと。

 そう慌てる状況でもないと考え、サンジとシルクは落ち着いており、至って穏やかな足取り。

 騒がしくなるのはイガラムだけであった。

 

 「こうしている間にもビビ様はっ!? お二方! ここは急ぎませんと!」

 「うるせぇなおっさん。心配しすぎだって言ってんだろ」

 「そうだよイガラムさん。ビビのこと信じてあげて」

 「しかしそれでは護衛である私の立場が!」

 「おまえの立場なんざ知るか。おれら海賊には関係ねぇ話だな」

 「そんな殺生なっ!?」

 

 荒れるのが当然だと聞かされてから彼の声は大きくなった。いい加減耳障りだとアニタが顔をしかめていて、さらに機嫌が悪くなっている様子。

 もはやシルクが歩み寄るのも躊躇ってしまうほど眉間の皺が深かった。

 

 喧騒の中でも一際目立つ姿のまま、酒場から出てくる人間もそう少なくないことに気付く。

 中にはイガラムにも負けぬほど騒ぐ女性と、それを制止する大男が居た。

 

 「離してよバッファロー! 私は彼のところへ行かなきゃいけないの!」

 「ま~た男に騙されたんだろ。どうせまた若に殺されるだけだすやん」

 

 サンジがそちらを見れば途端に目の色が変わる。それほどの美女が大男に手を引かれて見るからに嫌がっており、だが誘拐とは違って仲は良いらしく、襲われている風ではない。

 言わばいつもの光景。そんな姿に見えた。

 

 「そうさせないために私が傍に行くのよっ! とにかく離して!」

 「無理だすやん。デッドエンドが始まる前に離脱しろって若が言ってた。面倒になるからな」

 「私は帰らないわ!」

 「またそんなことを。そいつもおまえを利用しようとしてるだけだすやん。だからいつも若に消されちまうんだ」

 「そんなことない! 彼は言ってくれたの、私が必要だって!」

 「いい加減その頼まれると断れない性格直した方がいいなぁ。今にこの島まで消されちまうぞ」

 「離せぇ~!!」

 

 仲の良い兄妹に見えなくもない二人は酒場から遠ざかっていく。

 その背を見送ったサンジだけ足を止めていて、他の三人はそそくさと扉へ寄っていた。

 

 「な、なんて美しいレディだ。あんな奴と付き合ってんのか? 羨ましい……」

 「サンジ、早く来ないと置いてくよー」

 「はぁ~いシルクちゃ~ん! おれには君が居るから大丈夫さぁ~!」

 「うるさい奴。バカみたい」

 

 鼻を鳴らして呆れるアニタが扉に手を伸ばした時、内側から開けられ、動く扉に危うくぶつかるところであった。咄嗟に避けたアニタは中から出てくる新たな人影を見る。

 見上げた人物はあまりに長身。

 傍らに立つ彼女に気付いて視線を下げ、軽く会釈をしたX・ドレークだった。

 

 「失礼。怪我はなかったか」

 「うん、大丈夫だけど」

 「ディエス・ドレーク? 元海兵の海賊……こんな有名人まで居るんだ」

 

 彼の顔を見たシルクが呟いていた。

 ちらりとそちらを確認して、ドレークはふと目を伏せた。

 帽子を目深にかぶって足早に歩き去ろうとする。

 

 「昔の話だ。あまり事を荒立ててくれるな」

 「あ、うん……」

 

 彼を先頭とする一味は颯爽と行ってしまい、会話する機会さえなかった。声をかけたシルクは呆然と見送り、サンジは冷静な顔で隣へ並んでドレークを見る。

 

 「元海兵で海賊か。訳アリなのはどいつも同じらしいな」

 「うん、そうみたいだね」

 「なんでもいいから早く行くよ。ほら、もう着いたから」

 「ビビ様はご無事だろうかっ。何事もなければ良いが……!」

 

 アニタの声に従ってやっと歩き出し、全員で酒場へ入る。広大な酒場で目を奪われる光景だ。

 かなり騒がしい場所である。

 至る所で喧嘩が巻き起こっているらしく、屈強な男たちが殴り合う光景が目に入り、何があったのか驚くほどの熱気に包まれていた。まさに海賊らしい混沌とした空間がある。

 

 その空気を浴びたイガラムは分かり易く取り乱した。当然ビビを心配しての態度だろう。

 彼一人だけが欄干まで急いで駆けつけ、即座に辺りを見回し始める。

 その際、冷静だった三人はその傍、ゾロが腕を組んで立っているのを見つけた。

 

 「ゾロ? おまえ何やってんだこんなとこで」

 「ん? おまえらか」

 

 サンジの呟きに反応して振り返る。ゾロも今になってイガラムに気付いたようだ。

 シルクとサンジが彼へ歩み寄り、この場に居ることを不審に思う。

 

 「どうしたのゾロ。キリと一緒じゃなかったの?」

 「まさかまた迷子か」

 「うるせぇ。色々あるんだよ、こっちも」

 「へぇそうかい。だがおまえ一人でここに来れるはずねぇよな。どうやって来た」

 「あ? ガキじゃねぇんだ。これくらい当然だろ」

 「てめぇ……ココヤシ村の騒動をもう忘れてやがんのか」

 

 どことなく剣呑な空気を醸し出す二人に呆れ、シルクは腰に手を当てて嘆息していた。やはりどこへ行って環境が変わっても彼らの関係は変わらないらしい。

 その頃のイガラムは大声でビビの名を呼び、騒々しくて声が掻き消されようとも叫んでいる。

 俯瞰的に見ていればおかしな集団だ。

 

 これがキリの選んだ仲間か。

 アニタはどこかつまらなそうに頭の後ろで手を組み、むすっとした顔で荒々しく鼻息を漏らす。

 

 その直後、酒場の上部から大きな物音が聞こえた。

 視界で捉えられる位置ではないため、ゾロを含めた五人はそちらに注意を向けるも、そこで何が起こったかを知ることはできず。ただおそらく戦闘だろうということだけは理解できた。

 喧嘩ならば至る所で行われている。今更驚くことではないかもしれない。

 しかし考えてみれば、それだけ騒々しい場所で一際目立つ音というのもおかしな物だろう。

 

 先程の音は爆発によって生じた音だろうと気付くのに数秒。

 はっとした顔になったイガラムは瞬時に顔を青ざめさせていた。

 

 「ビビ様ッ!?」

 

 嫌な予感がしたのか、目視で確認した訳ではないのにそこにビビが居るだろうと気付く。

 咄嗟に彼は駆け出して酒場の最上段へ急いだ。

 残されたゾロ、シルク、サンジも溜息をつきつつ、無視はできずに彼を追い始めた。向かう先に仲間が居るとは限らないが一人にするのも面倒に思ったらしい。

 

 アニタは、頼まれた用事を終えた以上は同行をやめてもよかったのだが、わずかに逡巡する。

 別段興味はないものの、もう少しくらいなら見てやってもいいかもしれない。

 なぜかそんなことを想い、彼女もまた三人の後ろへ続いた。

 


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