“海賊島”ハンナバル
ログを捨てた航路に出て、次の島へ到着するまで、実に三日の時間をかけた。
島に近付く頃には時刻は夜。
メリー号は屋根を持つ小舟に先導を頼み、深い霧の中を進んでいく。徐々に島の姿が見えてくる頃にはクルーたちは好奇心を露わにしていて、その奇妙な全景に心を奪われた。
まるでリヴァースマウンテンを見るようだ。
島にはいくつかの運河があるらしく、高い山の頂点から海へ向かう水流がある。山は高く、頂点付近は皿のようになっており、そこから水が湧き出ているのだろう。
麓には大きな町。
距離があっても活気が伝わってきて、何やら騒がしい様相が窺える。
メリー号から見たルフィは目を輝かせて喜んでいた。
騒がしい風景は海賊が好む物で宴を彷彿とさせる。姿勢だけでなく気持ちまで前のめりになって今すぐにも上陸したくなっているらしい。他の者も同様に興味を持っている様子だ。
ようやく見えた島を眺め、キリは頬を緩めている。
説明は上機嫌な彼の口から始まった。
「グランドラインには数か所、海賊の楽園と呼ばれる場所があるらしい。海賊島って呼ばれるのも一つじゃないって噂だ。ここはその一つ。海賊だけが辿り着くことができる島」
「なんで海賊だけなんだ?」
「この島に辿り着くには、水先案内人の助力が必要不可欠なんだ」
「あぁ、あのばあさんか」
「そしてこの島の水先案内人が案内するのは原則海賊だけ。まぁ海賊船に密航すれば島に入れるだろうけど、海軍や賞金稼ぎが奇跡的に見つけられたとしてもここには来れない」
「へぇ~」
船首の上に座るルフィが納得した顔で頷き、本当に理解しているか否かは不明だが、キリは苦笑しつつも敢えて指摘しようとはしない。漠然と理解してもらえればそれで十分だ。
彼の説明に反応したのはナミである。
航海士として、やっと疑問が晴れそうだと質問を始めていた。
「それじゃ、ログの話は? 別に案内人が居なくてもログを辿れば来れるでしょ」
「ところがそうもいかない。この島にはログがないんだ」
「え? ログがない?」
「そう。それに島その物が常に移動し続けていてね。昨日と同じ場所にはないから、海図を描いたとしたってそう簡単に辿り着ける場所じゃない。ここだけはログでの航海は通用しないんだ」
「そんな島まであるなんて……滅茶苦茶ね」
キリの微笑を見てナミは困惑した顔になる。しかし説明はまだ止まらない。
「方法を考えればログを使わず、案内人を使わずに到着することもできるけど、それはここじゃ絶対にやっちゃいけない方法だ。覚えといた方がいいよ」
「やっちゃいけないって、そっちの方が簡単じゃない。お金払わなくていいし」
「水先案内人は島まで案内するだけじゃなくて、同行していることこそが島に入るための条件なんだよ。案内人が傍に居ない船は、確実に沈められて海の藻屑にされる。島の守り神にね」
「守り神って、神様が本当に居るわけでもないでしょ。そんなの別に気にしなくたって……ちなみに、本当なの?」
「さぁね。守り神の正体を知る人間は少ない。見た人間は必ず始末されるらしいから」
ぞっとする話であった。
質問したナミだけでなくウソップまで顔色を変え、背筋を震わせる。
正体不明の存在というのは恐怖心を掻き立てる物だ。キリは二人を確認した後で尋ねる。
「なんなら試してみる? 海に住む守り神に勝つ気があるなら」
「い、いえいえ! 丁重にお断りしておきます!」
「そそそ、そうだな! まぁこのキャプテン・ウソップ様が居れば心配なんてねぇんだが、今はそんなことしてる場合じゃねぇわけだしさ!」
「そう言ってもらえてよかったよ。はっきり言って勝てる気がしなくてね」
二人が勢いよく顔を振って否定したことで話は一段落。
守り神とやらの説明は終えたが、島に関する説明はまだ終わっていないらしい。
「そろそろ近くなってきたからこの島での過ごし方を注意しとくよ。基本的にルールはなし。島民全員が海賊だからそもそも法がなくてね。それだけ危険はあるよ」
「さらっと言ったなおいっ!? なんだよ危険って!」
「そりゃまぁやっちゃいけないことがない場所だからね。強盗、強姦、殺人、思い付く限りは全部咎められないと思うよ。自分の身を守れる奴だけが足を踏み入れることができる島だ」
「すぐに引き返すことを提案しますっ! そんな危ねぇ島入れるかぁ!!」
ウソップが右手を上げて叫ぶものの、キリは間髪入れずに答える。
「却下。色々用事があるんだ。それに今からじゃ遅いよ」
「ちくしょーっ!? おれまだ生きてたかったなぁ!」
「死ぬって決まった訳じゃないから大丈夫だって。それと全員に聞いてもらいたいのが、基本そんな感じの島でも、三つだけ破っちゃいけない暗黙のルールがある。他はいざ知らずこれを犯せば島民全員が敵になるらしいから注意しといてね」
「ぜ、全員って、この島海賊しか居ねぇんだろ?」
「その通り。言い換えればリンチだね。だから気をつけた方がいい」
指を一本ずつ立てて説明が始まった。
皆がその動きを見ながら熱心に耳を傾ける。
「一つは水先案内人に危害を加えてはいけない。要するに攻撃するなってこと」
「まぁばあさんを襲う奴なんか居ねぇよな」
「二つ目は特にナミには聞いといて欲しいけど、他人の船に手を出してはいけない。港にはいくつも海賊の船が停まってて、攻撃を加えたり、食料や金品を盗んじゃいけないんだ」
「聞いてたかナミ」
「私にだけ言わないでよ。わかってるわよ、それくらい」
怯えた様子のウソップが厳しくナミへ言い聞かせる。怖がっているのは彼女も同じだがどことなく不服そうに、渋々という様子を隠し切れずにそれを受け取っていた。
普段通りの姿に気を緩めること数秒。
三本目の指が立てられてキリが説明する。
「三つ目は、島の深部に足を踏み入れてはいけない。ボクも聞いただけでこれが何を意味するのかはいまいちわかってないけど、島には立ち入り禁止の場所があるらしい」
「そこに入るとどうなるんだ?」
「どうなるかはボクにもわからない。まぁ、番人が守ってるらしいから簡単には入れないと思うけど、要はその番人の言うことを聞いとけってこと」
「そうか。まぁいいや」
自分から尋ねたルフィは町に視線を戻し、上機嫌に笑みを深める。
細かいことはわからずともいい。実際自分で行けばいいと思っているようだ。キリの忠告を聞いてはいただろうが湧き出てくる好奇心には抗えずに、今やすっかり冒険を楽しむだけの表情。
霧を突き抜けて島へ近付く。
町の明かりは夜とは思わせないほど強かった。先にも増して喧騒が伝わってくる。
海賊たちが集まる島。それを見てルフィの体はうずうずしていたのだ。
「おもしろそうな町だなぁ~。しっしっし、わくわくしてきたっ」
「トラブルの予感がする」
「おいルフィ~! 頼むからあんまり暴れ過ぎんなよ! 海賊どもが山のように居るんだぞ!」
「そっかぁ、山のように居るのかぁ……」
「あぁっ、だめだ、目が輝いてる!? おれもトラブルの予感がしてきたぞキリ!」
「止めようがないよ。諦めた方がいいんじゃない?」
「そんなぁ~!?」
聞く耳を持たない様子のルフィはひどく危ない。島に到着してすぐ騒動を起こしそうなほどには上機嫌になっていた。大人しくしているはずがないと知るからこそ、ウソップの声も大きくなる。
身の安全を心配して、ウソップは必死にルフィへ注意を促し始めた。
それを傍らに、仲間へ振り返ったキリは話を変える。
目的地には辿り着いた。
次はどう行動するかを決めなければならない。
幾分の緊張感を持ち、真剣に見つめてくる仲間たちを見回して平然と声をかけた。どうにも彼だけは妙に余裕を見せていて、やはり古巣に帰ってきた自覚があるのか、生き生きしている姿だ。
「この島でアラバスタへのエターナルポースを手に入れる。専門で売ってる店があるんだ。トラブルがなければ多分手に入ると思うんだけど」
「島に入ったら別行動か?」
「うん。ボクもちょっと用事があるからさ。ルフィのお供もつけなきゃいけないし、三つくらいに別れるかもね。今の内に決めとこう」
サンジの問いに頷きつつ、選定のため仲間の顔を見渡す。
考えていても埒が明かない。こうした場面ではいつもの方法がある。
懐からくじを取り出し、キリの手から皆に向けられた。
「くじで決めようか。赤がルフィのお供、白がエターナルポースの入手。ボクは一人でも大丈夫だけど、ゾロがついてきてよ」
「おれが?」
「ま、色々あるからさ。他のみんなでくじを取って」
用件があるらしくゾロだけはくじ引きに参加せず。
他の面子がくじを握る中、ビビとイガラムは困惑した顔で立ち尽くしていた。
「あの、キリさん。私たちは……」
「もちろん参加。せっかく国の外に出たんだから何事も経験しといた方がいいよ」
「しかし海賊たちばかりの島など、ビビ様の身に危険が迫るかもしれないというのに!」
「その時はうちの仲間が守るさ。大丈夫、心配いらない」
「何を根拠に!」
「ボクはこの島をよく知ってる。見た目と違って意外に良い人も多いよ」
「しかし全員という訳では――!」
危険だと知ってイガラムは神経質になっているらしい。三日間の航海でわかった彼の人物像は、ビビに対してひどく過保護だということ。必要以上に心配している傾向がある。
ルフィに連れられてメインマストへ上れば、大怪鳥に攫われるかもしれないと騒ぎ。
ウソップやサンジと釣りをしてみれば、巨大魚に連れ去られるかもしれないと騒ぎ。
ナミやシルクと甲板で寛いでいる時でさえ、スナイパーに狙われるかもしれないと騒ぐ。彼はそれほど心配症で、やかましいほどビビを気遣っていた。
これまでバロックワークスの潜入で危険な状況に居たことも関係しているのだろう。
すでに慣れた様子でビビが苦笑し、彼のそんな姿を見ると不安さえ消え去った。
「大丈夫よイガラム。この人たちは信用できるようだし、私だって任務の中で鍛えられた。何も心配なんていらない。自分の身くらい自分で守れる」
「しかしビビ様、もしもの場合という物が……!」
「あのね、あんたはビビを心配し過ぎ。それじゃ信用してないように見えるわよ」
「そうだよ。心配するのもわかるけど、もっとビビを信じてあげて?」
それぞれ表情が違ったがナミとシルクに苦言を呈され、イガラムはぐうの音も出なくなる。
彼女を心配するということは、その実力を信用していないも同義だ。信用していないから自分が守る、と言っているようにも見えてしまう。それはイガラムの本意ではない。
そうまで言われては否定する訳にもいかなかった。
苦心するイガラムは渋々納得した顔になる。
しかし譲れぬ物もあるらしく抗議は止まらなかった。
「ぐっ、仕方ありません……しかしせめて私が護衛することはお許しいただきたい! くじ引きは理解しますが、私とビビ様を同じ組にしていただけませんか!」
「だめ。くじは公平にしないと意味ないし」
「それでは護衛としての私の立場が……!」
「運に頼るしかないね。さぁみんな持って。せーので引くよ」
笑顔でさらりと受け流すキリに促され、ビビとイガラムも慌ててくじを掴んだ。
掛け声に合わせて一斉に引かれる。
直後に結果が明らかとなった。
先端が赤い紙切れ、ルフィのお供に決定したのはウソップ、ナミ、ビビの三人である。すでに彼の性格を知っている二人は絶望した顔になり、ビビはそんな二人に驚いている。
三日間の穏やかな航海を経て、彼女がルフィに持った印象は少年然としているという物だ。
なぜそれほど顔色が変わるのだろうと不思議に思っていたらしい。
「こ、これは、ルフィのお供は良い方に考えればいいのか? それとも悪いのか……」
「悪いに決まってんでしょ。ルフィと一緒に居て何も起こらないわけないじゃない」
「うっ、急に胸が苦しく……! 実はおれ、島に入ってはいけない病なんだ――」
「そ、そうなのウソップさん? 大丈夫?」
「嘘よビビ、ほっときなさい。そんなこと言いながらいっつも元気そうなんだから」
突如ウソップが胸を押さえて呼吸を乱し始め、心配したビビが彼の背を撫でる。しかしそう珍しいことでもないためナミの対応は冷ややかだった。
先端が白い紙切れを取ったのはシルク、サンジ、イガラムの三人だ。
シルクはいつものこととして平気な顔をしており、サンジはナミやビビと共に居られないことを悔しく思いつつ、シルクと行動することを喜んで忙しい顔つき。
中でもイガラムが絶望した顔でくじを見つめていて、今にも泣きださんばかりに心配していた。
「私たちがエターナルポースを買ってくればいいんだね。了解」
「ナミさんとビビちゃんは別チームか……仕方ない。でもシルクちゃんが一緒で安心したぜ。心配しなくていいぜシルクちゃん、何があってもおれが守るからぁ~!」
「あああっ、恐れていたことがっ。これではいかん! 頼む、私をビビ様の護衛に!」
「うるせぇな。諦めろよおっさん。心配しなくてもルフィが居りゃ問題ねぇよ」
喚き出すイガラムをサンジが諫めて、シルクが苦笑する。
ビビの身を案じて不安に苛まれるイガラムには心配が残るものの、シルクとサンジに任せておけば問題はないだろう。一味の中でも特に冷静に動け、単独行動を許しても心配がない人材だ。
残るゾロはキリと共に行動し、ルフィはお供を連れておそらく自由に動く。
徐々に島の姿が近くなっていた。
「おまえら、島に到着するぞ! 上陸準備!」
「船長命令だ。みんな動くよ」
船首で立ち上がったルフィが叫んだことで、船員が一斉に動き出す。
順調に航海を終えたメリー号は港へ到着。
船体をぶつけることなく停泊させることに成功する。
ルフィはうずうずしている様子だがキリに押し留められ、なんとか足を止めて。
ビビへ振り返ったキリがおどけるように言った。
「“海賊島”ハンナバルへようこそ、プリンセス」
手を貸してやり、一番最初に島へ降り立ったのはビビだった。
目の前の光景に驚いて呆然としつつ、辺りを見回す。
大勢の人の姿があった。彼女が生まれ育った国、アラバスタとは何もかもが違う世界。道も建物も石造りの大きな町で、男は酒と女に溺れ、女は男をあしらって金をせびり、中には暴力による怒声と悲鳴も入り混じって聞こえて、どこかでは何かが爆発する轟音さえ聞こえてくる。
暴力と欲望に支配されながら、しかしそれだけではない世界。
そこは彼女に大きな衝撃を与える場所だった。
アラバスタでは滅多に見れなかった海賊という存在。
見渡す限りに居る全てがそれなのだ。
狂気さえ感じる乱痴気騒ぎを間近に見て、ビビは言葉を失うほどの驚きを抱えていた。
仲間たちも続々船を降りてくる。
ルフィやキリやシルクは独特の騒々しさを耳にして笑顔を深めており、ナミやウソップは些かの不安を隠し切れない顔で、サンジは自由を謳うにふさわしい光景に安堵して女性に見惚れ、戦闘の可能性は高いと判断したゾロが凶悪そうな顔で微笑む。
あまりにも騒がしい状況だ。イガラムは更なる不安を募らせていたが相手にする者は居ない。
すでに注意は町中に集中している。
今にも駆け出しそうなルフィが居て、心配する声など相手にしている場合ではなかった。
「こんなに野蛮で荒々しい町などビビ様には危険過ぎる! やはり私が護衛せねば――!」
「おんもしろそぉ~! よし、まずメシにしよう。どっかいい店ねぇかな?」
「それならこの町で一番大きい酒場が良い。ナミ、地図書いといたからこれで」
「いやいや君たちっ!? それより私はビビ様の護衛を――!」
「いよ~し行こう! 行くぞビビ! 肉だぁ~!」
「え、あ、はいっ」
ルフィがビビの手を掴み、颯爽と歩き出す。歩くというより小走りといった調子だ。
ナミとウソップも見失わないようにすぐ後を追う。
イガラムは去っていくビビの背を見つめ、ついに涙を流しながら叫んでいた。
「ビビ様ぁ~!!?」
「うるせぇおっさんだな。キリ、おれたちはどっちに行けばいい」
「ちょっと待ってね。今案内する人を探してるんだけど……あ、居た」
辺りを見回していたキリは港の一角、放置された樽の上に座る人物を見つけて手を上げた。
ボロボロの服を着て目深にキャスケットをかぶる子供である。
「アニタ」
「あれ? キリ兄ぃじゃん」
親しそうに声をかければ樽から降りて近寄ってきた。
桃色の短髪を持ち、可愛らしい容姿をしていて、どこか小生意気な雰囲気を感じる。少年然とした立ち振る舞いに見えるものの声は比較的高め。少女に見えなくもない中性的な外見だった。
どうやらキリの知り合いだったらしい。
仏頂面だが不思議と態度は嬉しさを噛み殺すようで、そそくさとやってきた。
正面に立ったアニタの頭にキリが手を置く。帽子の上から軽く撫でれば恥ずかしそうにしながら受け入れたらしく、それなのに唇を尖らせて不満そうにする。
キリはそんな姿に笑みを深めた。
「なんでここに居んの? しばらく来なかったのにさ」
「色々あってイーストブルーに居たんだ」
「知ってる。手配書と新聞見た。一人で楽しそうなことしてんじゃん」
「あれ? なんか怒ってる?」
「べっつにぃ~」
「あはは、ごめんごめん。文句なら後で聞くからさ、ちょっと仕事頼むよ」
「仕事?」
キリが振り返って三人を見る。
アニタも彼らの姿を確認し、わずかに表情を歪めたようだ。
「ボクの仲間だよ。航路屋まで案内してくれるかな」
「……もう海賊やらないって言ってたくせに」
「あ、やっぱり拗ねてる?」
「拗ねてない」
「事情があったんだ。その話も後でね」
「んぅ……」
機嫌を取ろうとぐりぐり強めに撫でてやり、それでもさほど機嫌は直っていない様子のまま。
わざとらしく溜息がつかれる。
アニタはあっさりキリの傍を離れ、三人に視線をやって仏頂面を見せた。
「こっちだよ。ついて来て」
「キリ、あの子は?」
「友達。態度は悪いけど心配はないよ」
「うっさい」
「生意気そうなガキだな。度胸はあるみてぇだが」
アニタが歩き出したためサンジが騒ぐイガラムを引きずり、シルクと共に後を追う。
去ろうとする彼らへキリは最後に声をかけた。
「生意気だけどサンジ、一応女の子だから」
「は?」
「一応ってゆーな」
「ただし強いから守ってあげる必要はない。この町に住む人間は全員強いからね。ほっといても死なないからその辺は安心してよ」
「こんなガキなのにな……ま、確かに海賊の島に住むならそれくらいじゃなきゃ無理か」
アニタに連れられ、三人も港を離れていく。
町に入れば人の姿があまりにも多いため、すぐに姿が見えなくなった。
残されたのはキリとゾロのみ。
黙って待っていたゾロは腕組みして退屈そうに、キリの視線を受けても表情は変わらず。
やっと彼らが歩き出す順番が来て、そう言葉を交わすでもなく足を動かし始める。
「ボクらも行こうか」
「どこ行くんだ? まだ行先聞いてねぇぞ」
「欲しい物があるんだ。行きつけがあるからそこに行こうと思って」
「行きつけ、ねぇ」
「昔はこの島によく来たもんさ。顔見知りも多いよ。紹介して欲しいならするけど」
「いや」
適当に首を振って断り、話は一時終えられる。
その後はキリが島に関する事柄を聞かせてやり、和やかな雰囲気で歩を進めていく。
それぞれ別れた麦わらの一味は夜になって一層騒がしくなる海賊島へと突入していった。喧騒は増すばかりであり、夜の静けさがそれを助長するかのよう。
彼らが姿を消した町には笑顔ばかりが溢れ返っていた。