「鎌倉幕府は何年か」
「
「どんな名人でも失敗する事がある、諺で表わせ」
「弘法の筆折ったり!」
「武内さん、助けて」
教えれる自信が無いです。何で弘法の筆おる必要が有るのかと問い詰めたい。
現在、以前話をしたように346社内の会議室をお借りして勉強を教えてる最中なのだがもうこいつやばい。義務教育だからって小中卒業させて良かったのか疑問に思う位にはまずい。そもそもうちの学校はそれなりの学校だった筈なのだかどうしてこんなに頭が悪いのか不思議でならない。
「鉛筆の神様はいるんだよ!」
もう諦めたい。
「来年から後輩だけど廊下ですれ違った時はシカトするから」
「や、そこは普通挨拶するでしょ…」
「やだよ俺まで頭悪く見られる」
割と、切実に。
城ヶ崎が現役で高校生をやれてる事すら不思議に思える程こいつは頭が悪かった。もう教えた程度でどうこうなるレベルじゃない気がする。しかし、現実は残酷なのだ。一回5千円には逆らえないのだ…!
「城ヶ崎、お前本屋で小中のテキスト買ってこい。3分やるからさ」
「アイドルパシるとか発想可笑しいと思う。そもそもアタシ高校生だからそんなテキスト必要無くない?」
「そっすねーカリスマっすもんねー」
「話聞いてよ!」
軽く涙目な城ヶ崎を適度に弄っていると、不意にドアをノックする音が響いた。
「失礼するぞ。城ヶ崎、レッスンの時間だ」
扉を開けたのはトレーナーである何とかさん。すまん、俺が名前知ってるの武内さんだけなんだ。そもそもトレーナーって判断したのもジャージ履いてるってのとレッスンって単語からだし。
まぁ城ヶ崎の顔を見る限り間違いでは無さそうである。こいつ勉強の時はだるそうにしてたのにレッスンって言葉を聞いてからは真面目な顔になってる。流石カリスマ(笑)
「じゃ、今日の勉強はこれで終わり!返事はきいてない!」
「おう、家でも出来るように簡単な問題纏めたテスト作ってきたから次の機会にやっとけよ」
「アタシレッスンあるから、レッスンあるから!」
「うるせぇやれ。レッスンは此処で、勉強は家でやれ!」
枚数にして3枚程度のテストに意気消沈している城ヶ崎をスルーしながらも、コチラも帰りの支度を整える。
「君は、もう帰るのかい?」
「え、あぁ自分か。そりゃまぁ処ビはレッスン有るみたいですし、元々自分部外者ですから長居する訳にも行かないでしょう」
声を掛けてきたのはトレーナーである。そんなトレーナーだが腕組みをし何かを考えて、いい事を思い付いたとばかりに笑みを浮かべた。
(嫌な予感しかしない…)
◆
「はい、という理由で今日は一般の方が一人見学をします」
どういう理由なのだろうか…。
スマイリーになったトレーナーに連れられて来たのはレッスンスタジオとか言う、端的に言えば小さな体育館の様な場所だった。壁が鏡張りになっており、少し落ち着かないのは自分が一般人だからだろうか。
中には既に何名か集まっており、入ってきた俺に視線を注いでいる。まぁ知らん人がこうしてのんびり立ってれば気にもなるか。
そんな矢先に飛び出したのが先の言葉である。社員証は一応持ってるとはいえ一般人である自分にレッスンなぞ見せていいものなのか不思議である。が、トレーナーが判断した事であるしこちらとしても現役アイドルのレッスンを対価なしに見れるのだ。有り難く見て行こう。それにしてもこうしてアイドルの中にアホの子が混ざっていると心配でハラハラしてしまう。振り付け覚えているのか、歌詞を覚えているのか。幼稚園児のお遊戯を見に来た親か俺は。
「見とれちゃった?見惚れちゃった?★」
「見飽きちゃった☆」
素で返事したら城ヶ崎が隅っこに移動してしまった。すまない、本音を出してすまない。
「さて、話もそこまで。他の皆も色々聞きたい事があると思うが、偶にはこういった機会も良いだろう。それではレッスンを始める!」
そうして見させてもらったレッスンだが、正直目のやり場に困るなぁと。誰だっけ、確か…十時さんか。彼女が一番毒をばらまいて来る。縦縦横横丸書いてぼいんってかんじで。それに比べると川島さんとか見てた方がまだ精神的に安定出来る。何でだろうなぁ、十時さんを見てると罪悪感湧くんだけど川島さんは逆に見ていたい感じがあると言うか、魅せられてるのだろうか。
約1曲分の振り付けを終えて、トレーナーさんが各々に小さな指摘を始めた。たかが1曲、されど1曲。一様に汗をかき疲れてるのが分かる。歌って踊ってな訳だし体力使うのは分かっていたが改めてアイドルは凄いと感じさせられる。
一人頷いていると、新たに人が入って来た事に気が付いた。
「すみません、撮影が長引いてしまい遅れました…あら?」
「事前に武内君から連絡は貰ってるから問題無いが、どうした?」
そう言えば姉さんもアイドルでしたね…。
アイドルを生業にしてるってのは聞いたけど346プロだったのね、と言うか何も自分が見学してる時に来なくてもいいんじゃね?とか思わないでも無い。
「あらあら弟君もアイドルになったのかしら?じゃあ私は先輩になるのね?分からないことがあったら何でも聞いてね?手取り足取り教えてあげる」
「落ち着いて姉さん、皆ビックリして固まってるから」
顔を合わせるなり姉と弟と呼び合う2人はとても奇妙な物だろう。そもそも顔似てないし、そもそも従姉妹だし。
「ちょっと楓、その子あんたの知り合いなの?」
こんな微妙な空気の中で真っ先に疑問を投げれるのは年の功なのか。そう考えていたら睨まれたので川島さんじゅうななさいと思っておく。
「弟君は弟君よ?知り合いとかじゃなく弟君」
「まぁ姉さんが何言ってるか分かんないと思うんで自分が説明するとですね」
俺の父親の父親、つまり祖父さん。その祖父さんの妹さんの娘さんが結婚して、その娘に当たるのが姉さんである。余談だが姉さんと呼んでいるのは自発的では無く呼べと言われたからである。本人曰く弟が欲しかったからとか。
「可愛いでしょ弟君。このどうでも良さそうな目とか、だるそうにしてる猫背とか、何だかんだ言うこと聞いてくれるのもポイント高いわ」
「割と貶されてる気がしてならないのは何故か」
そんなやりとりをスタジオにいる皆はポカンとした様子で見ている。まぁ世間で高垣楓を知ってる人がこの現場に出くわしたら同じ事になるだろう。それぐらい姉さんはべったりなのだ。さておき、姉さんが加わった事でliveに向けてのレッスンが始まる事となった。が、流石にそこまで見てる訳にも行かずにコッソリと部屋を後にする。その際城ヶ崎と目が合ったが睨まれた気がする、きっと気の所為である。
んで、帰ろうとしていた所を武内さんに見つかった。そしてそのまま以前と同じ社内にあるカフェに来ている。
「多分後で誰かしらから聞くと思うんですけど、楓姉さんとは親戚関係です」
「高垣さんと、ですか…」
「まぁ別段言いふらす必要も無かったですけど、さっきバレまして。ならいっそ言っておこうかなと」
遅かれ早かれ誰かの耳には入る事になるだろうし、別に隠す必要があるわけでもない。ならプロデューサーである武内さんには言っておいても良いだろうと判断したのである。
「それとですね、城ヶ崎正直言ってかなりまずいです」
「具体的には、どれ程…」
「あと何回高校生をループする事になるのか分かんないです」
永遠のカリスマ高校生アイドルとして売り出せば問題無いかも知れないけどね、責任は取らんけど。
割と武内さんも頭抱えるレベルで悩んでる。俺もさっきまで頭抱えたくなってたしこの気持ちを味わうが良い。
「でもまぁそれなりにやらせる策は考えてるんで、何とかして見るつもりです」
「策とは?あまり問題になる様な事はなるべく控えて貰えると…」
「流石に体罰とかは無いですけど、まぁ」
-----妹を使います