申し訳ありません
「先輩・・・、少し太りましたか・・・?」
「・・・やっぱり?」
朝一番、開口一番に告げられた言葉に少しだけ落ち込む。
ここ最近、新田にアナスタシアに神崎と毎日のように昼食を差し入れてくる。貰えるものはもらう主義だし、何より手作りの弁当を受け取らない。そんな選択肢は無いため毎日三人分食している訳だが
「顔周りが、少し丸みを帯びて・・・」
「だよなぁ、最近姿見見るたびにやばいとは思ってたんだよ・・・」
お陰様で体調は健康であるのだが、服がきつくなってきて苦しい。そんな事もあり、夜中にお酒を飲みに行く回数も減って、楓さんの機嫌が悪くなっている。
昔からの付き合いで、ちょくちょく飲みに行く仲なのだが
(武内君を連れていけば良いだろうに・・・)
そう考えるが無理な事だと分かっているため、何も言えない。武内君もとなると間に俺が入らないと中々会話が進まないのだ。酒は進むのに・・・
「吊り橋効果だって理解してくれればいいんだけど・・・」
「私は現場にいなかったため、何も言えませんが・・・。彼女達にとって先輩は物語の英雄、そんな風に見えたのではないでしょうか・・・」
「英雄ねぇ・・・。似合わない事この上ないな」
昔なら、子供らしくそんな存在に憧れでもしただろが、今の年齢になってその考えを持っているのなら色々と危険である。
幸いな事に、三人共あれから普通に仕事に戻る事に成功した。ラブライカの二人は今まで通りに活動を続けており、神崎はデビューが遅れる事に決まった。
神崎が仕事に戻る前に緒方、双葉、三村の三人が『CANDY ISLAND』としてデビューした。組み合わせとして何故この三人なのかと少し疑問に思うのだが、まぁ武内君の決めた事なので口出しはしない
「先輩、そろそろ時間ですので。車を出してもらえませんか?」
「はいはいっと。つってもどうせ俺もそこに行く必要があるんだから、頼む必要とか無いんだけどね」
「それでも乗せてもらう立場ですので」といつまで経っても変わらない彼の態度に苦笑して鍵を片手に部屋を出た
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三人娘の様子を武内君と窺いに行く。控室は何処だったかと思いながら歩く。そんな数多くある控室の一つに、見慣れた名前があった
「すまん武内君、ちょっと寄り道してから向かうわ」
「分かりました」
そう言ってテクテクと控室を目指す武内君を見送りながら、目当ての部屋の扉をノックする
「どうぞー」
「邪魔するよっと」
勝手知った感じで部屋に入り、中にいる人物に話しかける
「おっす、どうよ調子は」
「・・・・・・久し振りに顔を見せたと思ったら、随分とふざけた人になりましたね神楽さん」
「お前は相変わらず口を開けばツンツンしてんな橘」
本名橘ありす。俺が担当しているアイドルの内の一人で、現役小学生アイドルである。
「私ツンデレとかじゃ無いですし、神楽さんにはそもそもデレる予定も無いです」
「はぁ・・・、昔のありすは何処に行ったのか。あんなに兄さん兄さんって後ろをトコトコついて来る可愛い子供だったのに・・・」
「何妄想を話してるんですか、セクハラで訴えますよ。あと名前で呼ばないでください」
「絶対昔のお前はここまで酷くなかった」
記憶が確かなら、橘は初仕事の時なんか震える程に緊張する可愛い子だったのだが・・・
「神楽さんっていうダメ人間が近くにいたからじゃないですか、真面目に生きようって思えたんですよね」
「ひどい」
「自身の体系がですか?」
赤城もそうだが、最近のちびっ子は毒を吐き過ぎだと思われる。
思いもよらぬ返しに心が深く抉られた気がする。
「やっぱ、やばい・・・?」
「非常にやばいです。何ですかその贅肉、いつから神楽さんはそんな所得に余裕が生まれたんですか」
「ばっかお前、プロデューサー嘗めんな。これでも俺敏腕だぞ、他のプロデューサーに比べたらそれなりに多く貰ってるからな」
「だったら差し入れの一つくらい持ってきても良かったと思いますね」
本当に橘、どうしてこうなった。
鷹富士に鷺沢とか、常識人と一緒に仕事させてるはずなのにどうしてこんなに黒く染まったのか
「で、贅肉たっぷりの豚さんは何をしに来たんですか?」
「豚さんって言われると可愛く感じるけど、豚野郎にいい思い出が無いのでその呼び方はやめろ」
玉無しにし損ねた豚野郎が浮かび、少し不機嫌になる。そんな僅かな俺の雰囲気の変化を橘は感じ取ったのか、少し申し訳なさそうに謝って来た
「気にすんな、豚なのは否定出来ないし。まぁここに来た理由だっけ?久し振りに担当の顔を見たくなったから来ただけだ」
「・・・・・・そうですか」
何故か顔を合わせようとしない橘に不思議に思いながら、そろそろ自分も武内君と合流する事にする
「さて、元気そうな顔も見れたし。仕事に行くわ、なんかあったら携帯に連絡しろよ」
「あ、神楽さんっ」
部屋を出ようとしたところを呼び止められ、何事かと振り向くと
--ドンッ
橘が腹に顔を埋めるように抱き着いてきた。相変わらず甘えん坊である。懐かしい、初めて橘が仕事に参加することになった時も、こうして抱き着いてきた。
あの時のように、優しく頭を撫でて、脇腹を掴み持ち上げる
「昔は何とも思いませんでしたが、流石に今は恥ずかしいですね・・・・・・」
「抱き着いてきて何を今更。まぁ俺は昔を思い出せて良かったけどな」
足をプランプランと揺する橘を地面に下して、今度こそと別れの挨拶をして部屋を出る。武内君は何処かなと探して歩いていると、ポケットの中の携帯が震えた。
『FROM:橘 ありす
TO :神楽悠人
久し振りに会えて、嬉しかったです。』
一言だけのメールにらしいなと苦笑しながら、今度甘い物でも差し入れに行こうと決める。
歩き回っていると、何やら一つ騒がしい部屋があった。何事だろうかと少し顔を覗かせて中を見てみると武内君がおり、そこには緒方に三村、双葉の姿があった
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「緊張して疲れたのかねぇ」
双葉から話を聞いた所、昔もこんな事あったなと。主に橘が関係している記憶を思い出す。あいつも初めての仕事は緊張して体調を崩していた気がする。まぁその結果なのか抱き着くなんて行動になったのだが、流石に緒方は抱き着くとかは出来ないだろう。諸星なら抱き着いてきて、代償として何本が骨が持っていかれそうだが
「武内君、手を握ってやれ」
「?はぁ・・・」
「バカたれ、俺の手を握ってどうする。緒方だ緒方」
何もこんなところで天然発揮しなくても良いだろうと溜息を溢す。
武内君は指示通り緒方の手を握りしめ、真っすぐに目を見つめていた。そんな彼の行動に、じっと見つめられている緒方は恥ずかしいのか、三村や双葉に視線を忙しなく動かしているが、二人とも動く様子はない。三村に至ってはニコニコと笑顔でファイトだよ!と応援している
「誰かと触れ合うと、落ち着くだろ。少し落ち着くのを待って、もう少しだけ頑張ってみろ」
「私で良ければ、いつまでも握ってますよ」
顔を赤らめて俯く緒方を見て、武内君に任せても大丈夫だろうと考え問題児を見る
「さて、真面目に仕事してるか双葉」
「神楽さんは私に対して割と遠慮が無いよね・・・」
「遠慮しても意味がない相手だっているだろ?」
「杏がその人間というわけか・・・」
「で、三村は大丈夫だろうし、緒方も武内君が何とかするっしょ。双葉、この後も頑張れそうか」
そう聞いてみると、双葉は少し面倒なような顔をしたが、そんな顔は一瞬で変わり笑顔になった
「正直杏はさ、仕事なんかしないでのんびり印税貰って過ごしたいんだよね」
「知ってる」
「でも、こうして智絵理とかな子と仕事出来て。良かったと杏は思うよ」
その気持ちがあるなら、十分だろう。思わず見惚れてしまう程の笑顔でそう言った双葉を見て、満足そうに頷いて武内君の様子を見る。どうやら向こうも話し終えたみたいで、緒方の顔に笑みが浮かんでいる
「さて、じゃあ頑張ってこい。終わったら武内君が美味しいもの奢ってくれるらしいからさ」
「!?」
聞いてませんよそんな事!と目で訴えかけてくるが、敢えてスルーして三人を送り出す
「まぁ俺も幾らか出すし、連れてってくれ」
そう言って俺はまた一人歩き出して、別の場所に向かうことにした。
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場所は変わって神崎の所に来ている。
衣装合わせをしている神崎の様子を見に来たのだが、相変わらず熊本弁で飛ばしまくっているためスタッフが殆どちんぷんかんぷんと言った顔をしているのだが、勢いで仕事出来ている辺り流石だと思う
「神崎」
撮影が終わり、流れた汗を拭きながらこちらに歩いてきた神崎に飲み物を渡す。
「我が友よ、今宵の宴、如何であったか(神楽さん、撮影見ててくれましたか!)」
「んーっと、今来た所だから全部は見れてないけど、綺麗に映ってたと思うぞ」
「綺麗・・・」
素直に、思ったことを口にしたら神崎の顔が真っ赤になった。この子も吊り橋効果の被害者である。神崎が思っていることは一時の気の迷いであると伝えたいが、なんというか、子供の夢を壊すようで忍びない
「今日の仕事終わりだろ、帰るなら送って行くから支度してくれ」
「はいっ!」
控室に戻っていった神崎を待つこと30分。何故そんなに時間が掛ったのか男の俺には理解できないが、女の子には色々あるもんなと一人納得してスタッフの方々と話し合いながら待っていた
「悠久の時を経て、我を天へと誘わん!(お待たせしました!さぁ、帰りましょう!)」
心なしか、何時もより可愛らしく見える神崎を助手席に乗せて事務所に戻る。途中武内君の所に戻り、仕事を終えた三人と武内君を拾い、のんびりと戻っていった。
その途中で、主に三村の力により俺と武内君の財布が非常に軽くなった事を記す・・・・・・
番外編書いてて思うのは、基本的山無しオチ無しのお話しだなって事。
今更ですがマジアワの存在をしって、No Makeの存在知って、何故今まで見てこなかったのかと少し凹んだのは内緒