今回のお話はプチ鬱です、あまりこういった話が好きではない方は戻る推奨
神崎のテンションが下がっていた理由が判明した。何でも武内君が本格的ゴシックホラーをイメージとして話を進めていたらしく、神崎はそれを否定して今の自分のイメージを伝えたのだが、なんでも武内君「それが大事な事なのか」とか言っちゃったらしい。
「いやぁ、確かに神崎の言葉は分かりにくいけど、それが大事な事なのか。なんて言うのはあかんよ」
「後で分かったことなのですが、神崎さんはホラーが苦手らしく・・・・・・」
尚更ダメである。
「小日向辺りに翻訳してもらうのもありかもしれんけど、流石にそれはなぁ・・・。自分の力で何とかしてこそのプロデュースだし」
「はい、わかっています。ですので、神崎さんが本日の仕事が終わり次第、話し合いたいと思います」
それが良いだろう。最悪よく理解出来なくても人間ボディランゲージでなんとかなる。海外行ったときに学んだ事だし。
話を終わらせて、ラブライカの二人と神崎を迎えに行く支度をする。今日の二人の仕事はアイドル専門誌に掲載する予定の写真の撮影とインタビュー。神崎の仕事は向こうからの指名で水着の撮影。これはラブライカの二人も同様で、同じ仕事先で撮影しているはずなのだが。仕事の内容から考えるに、もう終わっても良い頃合いなのだが一向に連絡が来ない。武内君にも連絡がいってない様子で、何かあったのかと心配になる
「そなたー」
「お前何時からここにいた。むしろどうやって入って・・・、やめとくわ。考えるだけ無駄な気がする」
相変わらず神出鬼没の芳野に呆れながらも、何をしに来たのか聞いてみる
「そなたに近しいものからー良くない気の流れを感じましてー」
「近しいって言われても、俺の交友関係浅く広くだから該当するやつがわからんぞ・・・・・・」
そもそも何故そんな事が分かるのかと疑問に思うが、芳野だから仕方がないと諦める。
「先輩、そちらの方は担当の方ですか?」
「んー、俺もよくわからんけど。懐かれてる」
「そうですか・・・、しかし一応部外者は立ち入りが禁止されているのですが・・・」
「あぁうん、そこら辺俺は諦めてる」
「そなたー」
武内君と話をしていたら、袖を引かれてしまったので芳野に視線を戻す
「近しい者と言うのはー、そなたが携わっているアイドルなるものでしてー」
「なんと・・・、具体的には誰かわかるか」
告げられた言葉に少し意識を張り詰めて聞き返す
「二人の歌姫、堕天使、そのような気配でしょうかー」
現状で二人の歌姫と言われて想像できるのは、新田とアナスタシアの二人のみ。堕天使と言われれば神崎が思い浮かぶ。連絡が来ない事も踏まえるとこの二人に何かあったと考えてよいだろう。武内君に目配せして、席を外す。当然のように芳野もついて来るが、今はこの子を頼りにしようと思う。
急いで社用車に乗り込み、三人の仕事先に向かう。仕事先はそこまで離れている場所ではないために急いで向かった事もあり10分近くで到着する。
「すまん、346の者なんだが。今日ここで仕事しているラブライカと神崎を呼んでくれ」
急ぐように受付嬢に話しかけるが、帰って来た言葉は仕事中の一言。こんなにも時間がかかるものだろうかと不審に思い、現場を確認すると告げて撮影場所の階数を教えてもらう。
「芳野、その気の流れってのは何処から来てる」
何故か受付嬢にスルーされていた芳野に、詳しい場所を訪ねる。恐らくだが、聞かせれた場所ではなく別室で事が行われているだろう
「階数は同じでしてー。部屋は・・・暫しお待ちを」
そう言って立ち止まった芳野を抱き抱え、自身はそのまま走る。抱き抱えたことで焦ったように身を捩っていた彼女だが、探すことに専念してくれたのか目を閉じて人形の様に動かなくなった
「突き当り、奥から三番目、三人はそこにいます」
少し雰囲気が違う芳野に驚きながらも、言われた通りにその部屋を目指す。エレベーターが故障中なのはついていなかったと思う。急いで階段を駆け上がり、目的の部屋に辿り着く。
呼吸を整えながら、部屋の様子を窺うように耳を澄ませると
『本当に、私が相手をすれば二人には手を出さないんですよね・・・・・・』
『なぁに、私は約束を守るよ。もっとも私を満足させることが出来たらの話だけどね』
なんて事が聞こえてきて、頭に血が上る。ドアを蹴破ろうと勢いをつけた所で芳野から待ったをかけられた
「何で止める?」
「もう少ししたらここにお偉いお方が立ち寄るのでー、その方がこちらに気付くタイミングで立ち入るのが良いかとー」
それを聞いてどうしたものかと悩む。一刻も早く三人を助けたいのだが、問題は向こうが白を切ってこちらに問題があるように言われた場合だ。そのために芳野は待ったをかけてきたのだろうけど
『さて、撮影の時から見ていたが中々男を惹くような身体つきをしているじゃないか・・・』
これ以上三人を怖がらせるわけにもいかない。そう判断して「すまん芳野」と一言告げて
--ドンッ
思いっきり扉を蹴破って突入した。
蹴飛ばした扉に豚が一人潰れたのが見えたが気にせずに、何が起こっているのか理解出来ていない様子の若い男に金的を浴びせる
--ぶちゅん
何かが潰れる音が聞こえて、男の口から声にならない悲鳴が聞こえたがそれも無視して、カメラを構えたまま立ちすくむ男に近寄る。
「覚悟は?」
「待ってっ、これも撮影の内でっ」
「問答無用なのでしてー」
カメラを持っていた男は芳野のほら貝で昏倒させられた。その芳野の背後には記憶が確かならこの会社の社長が佇んでいる
「これは、何があったのだね・・・」
「俺も詳しいことはわかんないんで、そこで伸びてる豚に聞いてください」
そう告げて、ベッドで身を縮ませ震えている三人に近寄る。三人とも水着姿のままであり、少し目のやり場に困るのでかけてあったタオルを被せる
「大丈夫か新田、アナスタシア、神崎。怪我はしてないか?変な事されてないか?」
タオルを被せる際に新田に触れ、それにより彼女が少し震えたのが分かり、申し訳ないと思うがこの場は同姓である芳野に任せることに。
「これは・・・その、撮影の一環でっ」
「なら何故その撮影がこんな場所なのかね。水着姿で行う必要がある撮影は既に終わっている時間のはずだが」
「それは・・・」
苦しい言い訳をしている豚に近づいて、髪を掴んで顔を持ち上げる
「社長もよく聞いておいてくださいね。うちの事務所、枕とかそういったもんしないんですよ。それなのによくこんな真似してくれたなお前、潰すぞ」
少し、いや全力で怒気を向けて顔を掴む。骨がミシミシときしむような音が聞こえ、痛みで豚が何か言っているが無視する
「どこの事務所も今はそういうのは行っていない・・・、こいつのように持ち掛けるバカがいるかもしれないが・・・」
「で、俺個人の方針として。こういったマネした輩には社会的な制裁を受けてもらう事にしてまして」
「分かった、こいつは今日付で会社を辞めさせよう。二度とそちらに近づかないようにもしよう」
そう告げると社長は豚を引きずって去っていった。取り合えず豚と残りの二人の処遇は社長に任せるとする。
「か、神楽さん・・・」
話しかけてきた声に振り向き、三人の様子を窺う。新田はアナスタシアと芳野が落ち着かせるように慰めている。声をかけてきたのは神崎であった
「無事か神崎」
「私は、何もされてないです・・・。美波さんが、庇ってくれましたから・・・」
「そっか、新田に後でお礼言っておけよ。一先ず武内君に連絡して、事情を説明して来てもらうから」
念のため千川や、事務所にいるCPメンバーにも来てもらう。そばにいるのは男性よりも女性のほうが良いだろう
「新田もアナスタシアも悪かったな、こうなったのは俺の不手際だ。まさかこんなことを仕出かす阿呆がいるなんて気付けなかった」
「い、いえ・・・。神楽さんは、何も悪いこと無いです」
気丈に振る舞う新田だけど、まだ震えは治まっていない。当然の事だろう、こんな経験なんて普通はしない
「芳野、もう少し頼んだ。俺は連絡してくるから」
そう言って部屋を出ていき扉を閉める。部屋の中から、泣き声が聞こえた気がした
-----
そんな事件があったため、神崎のデビュー。ラブライカの仕事は少し先に延ばすことになった。仕方がないことだが、あいつらのせいで俺と武内君の仕事が増えたのが納得いかない。
全員玉無しにしておくべきだったかなと、そんな物騒な事を考えてしまう。
「あーもうやだやだ、仕事に忙殺されるとかやってられん」
「そうは言いますが、今回の件で仕事の見直しが増えました。二度とこういった事が起きないように吟味しなければなりません」
「理解は出来るけど、納得できん」
「神楽さん、口を動かさないで手を動かしてください。はい、ドリンクの差し入れです」
珍しく千川が差し入れをしてくれたが、あまり嬉しくない。
事が終わった後、千川にもメンタルのケアを手伝ってもらったため、あまり強く出れない。
「週休八日を希望する・・・」
「双葉さんの真似をしないでください、先輩・・・」
今なら双葉の気持ちが凄くわかる。働きたくない・・・。が、そんなことを言っていられないのが現状である。神崎のデビューを後回しにして、先に諸星、城ヶ崎、赤城の三人をデビューさせないといけない。そのため打ち合わせの日程の変更、CD作成、イベントスケジュールの調整とやる事一杯。
「あの、神楽さんいますか・・・?」
もう有給とって旅に出ようかな。なんてことを考えていたら新田が部屋を訪ねてきた
「はい、ちょっと待ってくださいね。神楽さん」
「はいはいっと。どうした新田、もう良いのか」
あれから三日、まだ少し異性と触れ合うのが辛そうにしているのを見て、そんな状態で何か用事でもあるのかと思いながらも、新田に連れられ部屋の外に出る
「あのですね・・・。神楽さんにはご迷惑をお掛けして、あれからまともに話せてないですし・・・」
「気にすんな、流石に今まで通りって訳にはいかんだろうし。むしろこうして会話できるようになっただけでも十分だろう」
個人的にはまだ会話もまともに出来ないのではないかと不安に思っていたのだが、どうやら杞憂だった様子。もしかして仕事キャンセルしなくても良かったのではと考えて、少し落胆する
「その・・・助けて貰ったお礼なんですけど・・・」
「お礼も何も、当然の事しただけだし。気負う必要はないだろ」
そもそもあそこで何もアクション起こさないなんてあり得ないし
「神楽さん・・・お昼もう食べましたか?」
「昼飯?あーもうそんな時間か、食べてないけど・・・。どっか食べに行くか?」
時刻を見れば既に一時を回っており、意識したら空腹を感じだした。何食べるかなと考えていると、何やら新田がもじもじと動いており、背後に手を回したまま動かない。何かあるのだろうかと少し待っていると、いきなり顔を挙げて両手を前に出してきた
「こ、これ!良かったら食べてください!」
差し出されたのは、何か包み。食べてくださいと言っていることから、恐らく食べ物なんだろうけど
「いいの?」
「は、はいっ。ちょっと作り過ぎちゃって・・・。あ、嫌なら食べなくても良いですけど・・・」
「そんな勿体ないことできるか。遠慮なく食べさせてもらうよ。ありがとな」
ありがたいことこの上ない。久し振りの手料理に心が躍り、自然と笑顔になる
「そ、それじゃ!私はこれでっ!」
「お、おう・・・」
駆け足で去っていく新田をしり目に、食べ終えた後の事を聞くのを忘れていたことに気付く。
どうしたものかと悩んでいると、今度はアナスタシアと神崎が近づいて来るのが見えた。
なんというか二人も新田と同じく弁当を渡してきた。渡された弁当、三つの重さに戸惑いつつも、何故また突然こんな事になったのかと疑問に思いながらも三人前を完食した。
その後の仕事中ずっと満腹感で睡魔が半端ないことになっていたが、仕方がないと思って諦めることにした
何故こんな鬱展開みたいにしたのか作者も不明。
一先ずいえるのは吊り橋効果は凄いと思う
賛否両論あると思いますが感想お待ちしております