「怪しい人がいる?」
そんな話を出してきたのはカウンター席に座るスーツ姿の男性。うちの店に一人酒を楽しむために来てくれている常連さんの一人
「それって変質者のこと?春だし出るもんは出るのかねー」
食器についた洗剤を落としながら相槌をうつ。春だから出るものは出る。コメントを荒らす奴も出ればポロリをするおじさんだって出る
「変質者なのかな・・・・・・?」
そう言いながらチラリと男性は入り口を見る。つられて俺もそちらに視線を移すと
「現在進行形で怪しい人がいるんだよね」
いた、怪しい人がいた。なんというか今から強盗でもしますよと言わんばかりに日も暮れているというのにサングラスをかけ、マスクをつけ帽子を被りコートを着ている。どこからどう見ても変質者です本当にありがとうry
その変質者は入り口が開くたびにチラチラと店内の様子を伺っている。いいからさっさと入れよと言い出したいがいかんせん向こうは変質者。何をしでかすかわからないのでこちらから仕掛けるのは躊躇われる
「お兄さん、会計頼むよ」
どうしたものかと悩んでいると常連さんが会計を頼んできた。いつもならもう少し飲み食いしていくはずなのだが・・・・・・。と、思っていると顔に出ていたのか男性は苦笑しながら
「何かあそこの人わけありっぽいしね。他のお客さんいない方がいいんじゃないかなぁってさ」
そう言ってお金を渡してくる。つまりはあれか、常連さんはあの変質者のためにお店から出て行こうというのか・・・・・・
「なんかすいません、今度サービスしますよ」
お釣りを渡し申し訳なく告げる。常連さんは笑いながら「おいしかったよ」と告げて店を出て行った。変質者の方はもう何度目かはわからないが店内を見渡して、お店に人がいないのを確認してから入ってきた
「いらっしゃい、飲み物は何にします?」
お店に入ってきたなら変質者であろうとお客様である。対応を疎かにしないように気をつけながら注文を尋ねる
「・・・・・・生」
俺は変質者を男性だと思っていたがどうやら女性のようだった。コートを着ているせいで体系は隠れてわからない。マスクにグラサン、帽子のお陰で顔の輪郭すらもわからない
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・な、なんでしょうか」
しばしの無言が続き向こは耐え切れず恐る恐るといった風に聞いてくる。やはりというか声が若い。非行に走る少女では?という考えが頭をよぎる。外見は相変わらず不明なのでなんとも言えないが声だけで判断するのなら恐らく二十歳に届いていないのではないかと思う。そうするとお酒を出すわけにはいけない。仮に二十歳未満にお酒を出した事が知られると営業停止処分をくらってしまう
「すいません、身分証の提示をお願いできますか?」
「え!?・・・・・・身分証ですか?」
なので俺は身分証を確認しようとしたのだが向こうは渋りだす。これはますます怪しい
「お客さん暑くないですか?コートお預かりしますよ。それに店内ですのでサングラスも外したほうがいいんじゃないですか?」
少し強気に攻めてみる事にした
「あー・・・・・・えー・・・・・・コートくらいなら・・・・・・」
ポツリと聞き取れないくらいの声量で呟きながらコートの脱ぎだす。コートを受け取り預かる
「どうせならグラサンも外しちゃいましょうよ。マスクも飲み物飲むんでしたらじゃまですよ」
「え゛・・・・・・あ、そうです!ちょっと照明が眩しいかなぁって!それに花粉症なのでマスク外しちゃうとくしゃみがとまらなくて!」
・・・・・・この味は嘘をついている味だぜ。とかはやらない
どこかのギャングは相手の汗で嘘か判断できるようだが、さすがに女性にやる勇気は無い。当然男性にやる勇気もない。でも誰でもこの人が嘘をついているってのはわかると思う
「でもさすがに未成年の疑いがある人にお酒を出すわけにもいかないんですよねぇ・・・」
「え!?未成年に見えますか!?よっし、まだ奈々はイケイケですね!」
今なんつった?
「いいからさっさと出すもん出せよ」
「どうしたんですか!?態度急変しすぎじゃないですか!?」
「うるせぇさっさと脱げ!」
最早こちらも意地である。年齢確認とかそんなことはどうでもよくこの変質者がどこかの星人なのかもしれない。そう思うとオラわくわくしてきたぞwww
「やめてください!何をするんですか!」
「グヘヘ、素直に脱げば生を一杯奢ってやろうじゃないか・・・・・・」
「うっ・・・・・・。乗りませんよ・・・・・・。どうせそんなこと言って脱がした途端にひどいことをするつもりでしょう!エロ同人みたいに!」
決して女性が言っていい台詞ではないので良いこのみんなは真似しないで欲しい
「生に枝豆も着けちゃおうかなぁ・・・・・・」
枝豆が安かったので多めに買ってあるので奢りという形でも問題はない
「うぅ・・・・・・」
「茹でたての枝豆に生・・・・・・。美味しいんだろうなぁ・・・・・・」
「うぅ・・・・・・っ!」
プルプルと肩を震わせながら悩む目の前の女性。というか察しの良い人ならおわかりであろうが『ウサミン』である
「・・・・・・誰にも言わないって約束してもらえます?」
「アァイワナイ、ワタシヤクソクゼッタイマモルヨ」
「そこはかとなく棒読みに聞こえるのはなんででしょうか・・・・・・」
諦めたのかウサミンはいそいそと装飾品を取り除く
するとそこには安部奈々さんじゅうななさいがいた!
日本語って不思議だよね・・・・・・。読点を点けるかどうかで「安部奈々さん、じゅうななさい」「安部奈々さんじゅうななさい」こんなに年齢差がでるなんて・・・・・・
「これで・・・・・・っ、これで生と枝豆を貰えるんですよね!」
どこか勝ち誇った、それかやり遂げたという風にこちらを見据えるウサミン。そんな彼女に対して俺は無情にもこう告げる
「まぁそれはそれ、これはこれね」
「・・・・・・え?」
「身分証さっさと出してねー」
「うわぁあああああああああああああ!」
店内にウサミンの泣き声が響き渡った
「ひどくないですか!?人の身包み剥いでおいて結局身分証確認までするなんて!」
泣き出したウサミンは生と枝豆を持ってくると直ぐに満面の笑みに変わった
「いやでもさ、一応おたく芸風的には17歳だろ?そんな人にお酒を出していいのかちょーっと悩んでさ・・・・・・」
まぁ悩んでたとかそんなんじゃなくて、ただウサミンの反応を楽しんでただけとか言えない
「芸風って・・・・・・、奈々は芸人じゃなくてアイドルですし・・・・・・。そもそも17歳ですから!」
「じゃぁ酒没収な」
「あぁごめんなさいそれだけは勘弁してください!」
涙目になりながらもお酒だけは死守するウサミン可愛い
枝豆と生を楽しんでいるウサミンを尻目に俺は店の入り口に向かい「営業中」の札を「本日の営業は終了しました」の方に引っくり返す
「・・・・・・何をしてきたんですか?」
店内に戻るとウサミンが尋ねて来たので素直に今日の営業を終わらせたと告げると申し訳なさそうに俯いた
「すいません、奈々の我侭に付き合わせてしまって・・・・・・」
しょんぼりと申し訳なさそうにしていても枝豆をパクつくウサミン
「まぁ念のためってことでな、あんたも建前的にお酒飲んでるところ見られるのはまずいだろ?」
「建前・・・・・・、奈々は17歳ですし・・・・・・。飲酒見つかったら補導されちゃいますし」
「よーし俺の目を真っ直ぐ見て話してみろ」
顔を思いっきりそらしながら「安部奈々17歳です(笑)」とか言っても説得力皆無ですから
「なんでしょう、今物凄く馬鹿にされた気がするのですが・・・・・・」
「気のせいだろうウサミン(笑)」
「今鼻で笑いませんでしたか!?」
「ウ~サミン、ハイッ(笑)」
「腹立つなぁああああ!」
ウサミンまじ面白い
「え?プロデューサーのこと知ってるんですか?」
二杯目のお酒を飲みながらウサミンが聞いてくる。ふとして会話の中にPの話題が出たのだが
「Pだけじゃなくて千川のことも知ってるぞ」
俺とP、千川の仲を知ってるのはNG組くらいなので当然ウサミンが知っているわけもない。そもそもシンデレラプロダクションにて俺の話題が出ると思ってない。思ってない!
「学生時代からのご友人ですか・・・・・・。それじゃあちひろさんもプロデューサーさんもこのお店にはよく来るんですか?」
チーズをつまみに食べながらウサミンが何処か怯えながら訪ねる
「よく来るぞ。つーか何か飲みたいなぁって時はあいつら基本的にうちにくる」
そう答えるとウサミンがだらだらと汗を流し始めた
「やっばいなぁ・・・・・・。一応奈々17歳なんでお酒飲んでることバレたら怒られちゃう」
「一応?」
「!?いえいえ違います奈々は17歳です!ピッチピチです!」
ピッチピチとかもう死語だと思う。しかしウサミンが気にしていたのはPに見つかることだったのか
「でも大丈夫ですよね!もう今日の営業終わってるわけですし、プロデューサーが来るわけないですよね!」
「それは違うぞウサミン」
「え、何が違うんですか?」
「何か勘違いしているみたいだからお前に一つ教えておいてやろう」
「な、なんですか?もったいぶらずに早く教えてください!」
「営業終了の札を出しておいてもPと千川は明かりが点いていれば勝手に入ってくるんだ」
「・・・・・・・・・え?」
「つまり」
「うーっす、神楽いるよなー・・・・・・ナナさん!?」
「こういうことだ」
「早く言ってくださいよぉおおおおおおおお!」
ウサミンの泣き声が再び木霊した
「今回はたまたま俺の知り合いだからよかったものの・・・・・・。もしこんなところを写真に撮られたらどうするつもりだったんですか!」
「ごめんなさい・・・・・・」
Pに飲酒がバレて説教を喰らうはめになったナナさんじゅうななさい。ただあんまりうちの店で説教とかはしてほしくないので助け舟を出す事に
「まぁPも落ち着けよ。今度からはうち以外で飲まないようにしてもらえばいいだけだろ?」
「神楽・・・・・・」
「神楽さん・・・・・・」
ウサミンの感謝の視線が眩しい
「自分の利益になるからそんなこと言ってるわけじゃないよな?」
「ソンナコトナイヨ?」
あ、ウサミンの視線が疑惑の視線に変わった
「逆に考えるんだP、一人くらいならばれちゃってもいいやと」
「・・・・・・」
Pは少し悩んだ末にウサミン向き直り
「今回は神楽だったのでよかったですけど・・・・・・。今度からは気をつけてくださいね。お酒を飲むにしてもなるべくここで、それも閉店以降に飲む事」
ん?閉店以降って俺に被害こない?お前と千川二人相手にすんのも地味に疲れるのにウサミンも?
「ありがとうございますプロデューサーさん!これからよろしくお願いしますね神楽さん!」
あ、はい。もう決定しちゃってるんですかそうですか
「さて、この話は終わり!神楽、ビールに焼き鳥適当に頼むよ」
「あいさー。ところで今日千川は来ないのか?」
「ちひろさんならまだ事務所で仕事してるよ。手伝おうとしたら俺にはできない感じの仕事らしくてさ・・・・・・」
「ふーん、アイツが残業とか珍しい事もあるもんだわ。ほれ、ビールお待たせ」
ビールを渡して冷蔵庫から焼き鳥を取り出し焼き始める
「さんきゅ。・・・・・・・・・っぷはぁ!仕事終わりのビールはうまい!」
爺臭いぞP
「うるせい。あ、ナナさん枝豆少しもらってもいいですか?」
「え、はいどうぞどうぞ!」
「P、枝豆くらい直ぐ出すから奈々さんから奪うなって」
「神楽さん急にどうしたんですか!?さっきまでウサミンって呼んでたのにいきなり『さん』を点けるとか止めて下さい!」
「いやでも、奈々さんのほうが年上ですし・・・・・・」
「年上じゃないですから、奈々17歳ですから!・・・・・・ハッ」
「P、補導よろしく」
「任された」
「いやー!ごめんなさい冗談ですから許してください!」
「ところで小耳に挟んだんだけど」
「ん、何を小耳に挟んだんだ?」
「ウサミン制服コレクションに出るってまじ?」
「ぶっーーーーーーーー!」
「おうマジだ、ちひろさんから聞いたのか?」
「そうそう」
「え?え!?」
「他にも美波に柚、麗奈とか大勢でるぞ」
「奈々そんな話聞いてませんけど!?」
「今言ったからな」
「今言わないでください!」
バンバンとカウンターを叩きもう講義をするウサミン。テーブルの上に空のジョッキや枝豆の皮が無ければ未成年に見えたかもしれない
「すみません奈々さん、もう決定してるんですよ・・・・・・」
「そんなぁ・・・・・・。いやでもウサミン17歳ですから制服着てても何の違和感もないですよね!」
「・・・・・・」
「・・・・・・ソウダネ」
「うわぁあああああああああああ!」
ウサミン17歳(笑)。居酒屋店内ではいじられキャラに変わります
小話
「しかし美波ちゃんもか・・・・・・」
「美波もだ」
「美波ちゃんですか・・・・・・」
新田美波。彼女を体言する言葉があるとするならそれは『エロす』
「やばいよな・・・・・・」
「うん、やばい・・・・・・」
「美波ちゃんは二、三年前ですか。その時からあんな雰囲気だったんですかね」
その言葉を皮切りに三人して黙り込み少し妄想する
「・・・・・・やばいな」
「・・・・・・うん、やばい」
「・・・・・・うひゃぁ・・・・・・///」
「今俺の脳内では美波ちゃんが夕暮れの放課後で俺と二人っきりで好きな人と語り合うというシチュエーションが展開された」
放課後、日も沈みかけオレンジ色の光が教室に差し込む。外からはスポーツ系の部活動の掛け声が聞こえてくる。そんな中俺は学校のアイドルと言っても過言じゃない
新田美波と教室にいた
『新田はさ、誰か好きな人とかいんの?』
『・・・・・・いると思う?』
そういいながら彼女は開いている窓に腰掛け、こちらに聞き返す
窓から流れる緩やかな風が新田の甘い香りを運んできて、それに何故だか少し恥ずかしくなり俺は顔を背けながら答える
『そりゃぁいるんじゃねーの?新田結構告白されてたりするじゃん?それなのに誰かと付き合ったりとかそーゆー話聞かないし・・・・・・』
新田に好きな人がいるかもしれない。そう思うだけで胸が締め付けられるように痛んだ
『いるよ』
そう答えられ更に胸が痛む
『そ、そうか!新田は可愛いからさ、好きな人に告白すれば良い返事もらえるんじゃないかな!』
強がり、声を大きくしながら喋る
『・・・・・・そうかな?』
新田はカーテンで顔を隠しながら言う
『それじゃぁ告白してみようかな・・・・・・』
『・・・・・・おう!告白してみろ!』
今自分は涙目になってたりしていないか不安になってくる
『・・・・・・、・・・・・・。』
新田がカーテン越しに何かを呟いた声が聞こえた。同時に強めの風が吹き声を掻き消す
『さて、それじゃ帰ろうか』
彼女はそう言いながら鞄を手に取りこちらに近づいてくる
『え、新田・・・・・・。今なんて言った・・・・・・?』
風が運んでくれた声には気のせいではなければ俺の名前が聞こえた
『・・・・・・明日からは美波って呼んでね?』
赤く染まった頬で彼女はそう告げる。それって、つまり・・・・・・
「とかどうよ!」
鼻息を荒げながら妄想をぶちまける。美波ちゃんのエロすとかもう関係ないけどこんな学生がいたら僕はもうたまらんね!
「素晴らしいと思います!負けてられんな、次は俺だ!」
『P君、一緒に帰ろう』
放課後になり雨が降り始めた。天気予報を見ないで学校に来たため傘なんてものは持っていない。どうしたもんかなと考えていると声をかけてくれたのが彼女だった
『新田か』
『どうせ走って帰れば大丈夫とか「カット」』
「なんでだよ!」
「五月蝿い!お前の妄想は現実に成り代わる可能性があるから却下だ却下!次ぃ、ウサミン!」
「いやぁ・・・・・・奈々はいいです!神楽さんの妄想でおなか一杯です!」
手をぶんぶんと振りながら、まるで赤く染まった顔を隠すように俯くウサミン。これは何かあるなとPと二人で頷きウサミンをいじる
「奈々さーん、俺たちもしゃべったんですから奈々さんも喋りましょうよー」
ツンツン
「ウサミ~ん、俺だけ赤裸々に話したのに黙りんぼとかそれはないんじゃないかなー」
ツンツン
「神楽君、奈々さんはどうやら人には言えないようなことを妄想してしまったようだ」
「本当かいP君。なんということださすが安部奈々さんじゅうななさい。いろいろ多感な年齢だもんな!」
「「HAHAHAHAHAHAHA!!」」
・・・・・・チラリ
「・・・・・・ズです」
「「?」」
「美波ちゃんが男子生徒の○カズになってるんじゃないかって妄想したんです!」
「「・・・・・・・・・」」
三人して黙り込む。顔が赤くなったと思ったらこの子は何を考えていたんだ・・・・・・
「しょうがないじゃないですか!こんな娘がいたら僕はもう......っ!ですよ!?男子が我慢できるわけないじゃないですか!」
「落ち着けよウサミン。レバーやるよ」
「落ち着いてください奈々さん。明日から仕事の量少し減らしましょうか?」
「優しくするなばかぁあああああああああああ!」
作者「こんな話があってもいいと思うんですよ!フンス!」
ウサミン「却下です却下!」
珍しく長い文を書いたなぁと思ったら・・・・・・っ!
新田Pの方々ごめんなしぁ・・・・・・
※小話が気に入らないって方がいましたら直ぐに消しますので連絡を