話は鷺沢文香if分岐点からの続きになりますので、読んでない方はご覧下さい。
美嘉ちゃんに告白された夜。彼女は返事も何も聞かずに部屋を立ち去った。
取り残された俺はその日は寝ることも出来ずに、ひたすら悶々とした気持ちを抱えていた。
そして、文香さんに告白して一ヶ月。
彼女に振られた。
どうしても、異性と付き合うという事に1歩踏み出すことが出来ないらしい。それを聞きその場では笑顔でいたが、家に帰ってから泣いた。食事も取らず、風呂にも入らず、血液すら涙として出ているのではないかと思える程泣いた。
泣き続けて暫く、部屋に誰かが入ってくる気配を感じた。
「悠人さん…」
美嘉ちゃんは何も言わずに、ただ横に座り黙っていた。
それでも、その存在が嬉しくて、また涙が溢れ出した。
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悠人さんに告白して、返事も貰う事無く日々を過ごしていたある日。悠人さんが帰ってくるなり部屋に閉じこもった。私も莉嘉も心配して、何度も声を掛けていたのだが
「今は、1人にしてあげなさい。」
パパの一言に、私達は渋々と言った形で従った。
でも、私は夜にもう一度だけ彼の部屋を訪れた。声を掛けずにドアノブを回す、抵抗なく空いた扉を潜り部屋に入ると、彼は泣いていた。
その姿で、察してしまった。そして、ほっとした。
私は何て醜いのだろうか。好きな人が他の人に靡くことを良しとせず、泣いている姿を見て、愛しさが尚増してくる。嫌な女だ、酷い女だ。
黙ったまま、彼の隣に腰掛け頭を肩に預ける。啜り泣く悠人さんに合わせ、肩も上下しているが気にしない。
悠人さんが泣き止むまで、どれくらい掛かっただろうか。気が付くと空には朝日が少しだけ顔を出しており、鳥の囀りも聞こえている。
今日は朝からお仕事何だけど…、どうしようか。何て考えていた時
「ありがとう、美嘉ちゃん」
漸く、悠人さんが声を出した。
その言葉に、私は理解出来ないフリをして笑う。感謝される謂れなんて無い。寧ろ責められても可笑しくないのだから、泣いている貴方を見てほっとして、喜んでいた私は…
「ねぇ、悠人さん」
ねぇ、悠人さん
「私の告白、受けてくれる?」
私の事を、受けていれくれる?
「大好きだよ、悠人さん」
もう二度と、他の人には靡かないで、悠人さん。
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それから少しだけ月日が流れる。
振られたことで美嘉ちゃんは猛烈にアピールを始めてきた。外に出る時は手を握り離さずに、お風呂に入っていればバスタオル1枚で侵入して来たり。毎日好きだよ、何て言ってきたりと。流石に限度があるのでは?と城ヶ崎夫妻に相談してみたのだが、笑って娘を頼むと言われてしまい。完全に公認の仲、見たくなってしまった。
とはいえ、鷺沢さんに振られたことで、美嘉ちゃんと正面から向き合うことになった訳で。彼女の好意が本物であると理解してからは、意識をする日々が続いている。
流石に、風呂場への侵入とベットに潜り込むのは辞めさせたが…
それからまた月日が経過して、完全に美嘉ちゃんを家族としては見れなくなったある日。週刊誌がある1枚の写真を掲載した
『カリスマJKアイドル、城ヶ崎美嘉に熱愛発覚!?』
この写真に世間は賑わい、美嘉ちゃんは、悪い事なのだろうけど更に忙しくなった。掲載されている写真は美嘉ちゃんが男性と手を握り歩いている姿が撮されている。美嘉ちゃんは横顔が写っているためハッキリと分かるのだが、男性の方は後ろ姿しか写っていないため、誰なのか検討も付かない。
少しだけ、嫉妬してしまう。それと同時に悲しみも湧き上がってくる。あれだけ好意を向けていたのは、嘘だったのだろうかそんな考えがよぎり、涙が浮かぶ。
そんな中彼女はいつも通り接してきた。訳が分からずに彼女を責め立てる。あの写真は何なんだ、告白して来たのも嘘だったのか、人をからかって楽しいか、と。
その言葉に、美嘉ちゃんは悲しそうな顔をしていた。
我に還り、何をしているんだと自己嫌悪する。
そんな自分に彼女はこう言った。
『私は、絶対に悠人さんを裏切らないよ。悠人さんが私の事を嫌いになっても、私は悠人さんを愛し続けるから』
その言葉に嬉しくて、また涙が浮かぶ。最近泣いてばかりだなと思いつつも。写真に写っている男性は誰なのかと訪ねる。
『プロデューサー』
俺は膝から崩れ落ちた。
何でも話を聞くと、既に世間はこの写真が質の悪い物で、隣の男性がプロデューサーだという事を知っているらしい。普段からテレビを余り見ない自分はその話を知らずに、こうして美嘉ちゃんを謂れのない罪で責め立てていたわけだ。
物凄く死にたい。
焼き土下座も辞さない覚悟で、彼女に謝り続ける。そんな自分の事を彼女は笑いながら許してくれた。
『今度買い物付き合ってよね!』
その笑顔は、とても綺麗だった。
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悠人さんの誤解を解き、その時のお詫びとして私は2人きりで買い物に出ていた。いつも出かける時と違い、少しだけ趣を変えて。
少しだけお洒落をした服装に、髪を下ろし眼鏡と帽子を被る。一応念のために変装を済ませて、彼を待つ。
何時もは、家からずっと一緒に行くのだが。今回はデートの様に時間を決めて待ち合わせをする事にしていた。同じ家にいるのに、一緒に出かけるのに時間をずらして家を出ることに少し可笑しくなり笑っていた彼の笑顔。
(悠人さん、私の事を受け入れてくれるかな…)
なんて考えていたら
「お待たせ、えっと…美嘉」
聞きなれた最愛の人の声が耳に入り、胸が高鳴る。今日一日呼び捨てにする事を頼んでいたのだが
(呼び捨ては、破壊力が高いなぁ…)
顔が朱に染まり、体温が上がる。
反応が無い私を彼は不思議に思ったのか、ずいっと顔を近づけて来た。
向こうには特に意図の無い行動なのかも知れないけど、今の私には有効打である。これ以上は自分を抑えることが出来ない、そう判断して私は彼の手を取り走り出した。
-やっぱり…
何処かで悪意が芽吹いた事も知らずに。
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美嘉ちゃんに手を取られ、色々なお店を見て回る。服屋に雑貨屋、本屋に化粧品。
彼女と過ごす時間がとても楽しく、彼女なら何処に行っても楽しめてしまう。そんな気持ちになる。
少し前までは、鷺沢さんに好意を抱いていた筈なのに、今は他の女の子の事を考えている。何とも軽い男である。少しだけ虚しくなり、美嘉ちゃんを見失わないようにと、握る手に力を込める。
-ドン
急に背中に熱が走った。それと同時に、周囲から悲鳴が上がる。背中に残る熱、そして何かが入っている様な異物感に恐る恐る手を伸ばす。
ヌメリとした感触、そして自覚し始めた痛み。嗅ぎなれない匂い、触れた手を染める赤に、意識が遠のく。
「悠人さん!!!」
美嘉ちゃんが声を掛けてくるのが聞こえた。そしてその後に刃物を持った男がいるのも。
倒れかけていた体に力を振り絞り、片足を前に出すことで転倒を防ぐ。その際に力を入れた事で血が吹き出した気がした。そんな事は気にせずに、美嘉を庇うように抱きしめて自身を盾にする様に体を入れ替える。
2度目の衝撃と、麻痺した感覚が伝えてきた痛みが脳を襲うなか。警官が犯人を取り押さえた所で、意識が途切れた。
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目を覚ました時に見た天井はとても白く、死後の世界なのかと見間違う程に綺麗だった。
ここは何処だろうか、体を起こして周囲を確認しようとした時に痛みが走る。その痛みで、何があったのかを思い出す。
(ここは、病院…?)
その結論に至り、ある筈のナースコールを押そうとボタンを探すと
「美嘉ちゃん…?」
隣に設置された椅子で、彼女は寝ていた。
手を伸ばし、髪を撫で頬に触れる。彼女の無事が分かり、一安心した所で美嘉ちゃんは目を覚ました。
「----」
目を見開き、口を半開きにして彼女は固まった。
かと思えば、そのまま飛びついて来て抱きしめられる。
「いったぁ!」
思わず痛みに叫び、抱き締めてくる美嘉ちゃんの背中をタップし、離れるように促すが
「良かっだ…良がっだよぉ…。起きないかと思って、居なくなるんじゃ無いかって思って…」
泣きながら語る彼女の背中を優しく撫でながら駆け付けてきた看護婦や医者、城ヶ崎さん達の話を聞き、何があったのかを知らされる。
何でも、週刊誌が掲載した写真の情報を鵜呑みにしファンを裏切った事に対する憎しみ、並び立つ男に対する殺意が湧き上がった1人のファンが行動を起こしたらしい。偶然似たような人物を見つけ、下の名前。つまりは美嘉と呼んだ所を聞かれてしまい犯行に及んだとか、何とか。
自分からすれば殆ど何が起きたのか理解せずに意識を失ったものだからさっぱりなのだが、話を聞き続けると少しだけ顔が青ざめた気がした。
どうやら血を流しすぎていたらしく、救急車で病院まで運ばれている間に危ない状態のなりかけていたらしい。そこで、美嘉ちゃんが血を提供してくれた事で一命を取り留めて今に至るとか。
ゾッとする。美嘉ちゃんと血液型が違っていればもしかしたら生きていなかった可能性に。
その後、体調等を聞かれて。部屋から誰も居なくなって少し。美嘉ちゃんだけが戻ってきた。
「悠人さんの体はもう、悠人さんだけの物じゃなくなったのだ!★」
「つまり?」
「鈍いなぁ…。私の血も流れてるんだから、もう悠人さんは私から離れられないの★」
-だから、ずっと一緒だよ。
ちょっとヤンデレエンド。
神楽と直ぐ他の女に目移りするとかクソやな。見たいな感想ありそうなので訂正。
振られたことで心がポッカリと穴が空いたような状態に、美嘉が自分の事をアッピルする事で埋めた。もう美嘉ちゃんしか考えられねぇ!って事にする為に美嘉ちゃん全力アッピル。結果が美嘉に対する好意。と言った形になりますん。多分…
尚美嘉ちゃんヤンデレな模様。
駆け足ですが、ifのお話は終わりです。
次回は皆大好き居酒屋でアーニャとにゃんにゃんするお話