美嘉ちゃんに文香さんと話をさせて欲しいと頼まれ、俺は彼女が何を考えているのか分からなかった。でも、彼女が本気で頼んでいる事が分かり、俺は文香さんが居るであろう本屋に連れて行った。
「美嘉ちゃんが何をしたいのか分からないけど、出来れば手荒な真似はしないで欲しい。」
「ちょっ、悠人さんは私を何だと思ってるのさ!暴力とか嫌いだからね…」
では何をしに行くのだろう…。
文香さんは見た目、余り…と言うかさっぱり強いとは思えないので、暴力に訴えるなんていったバイオレンスな行動は勘弁してもらいたい。
「まぁ血なまぐさい事は起きないからさ、悠人さんは近くの公園で待っててくれないかな。と言うか、隠れてて★」
一先ず彼女の言う事を信じることにして、言われた通りに公園で待つことにした。
そもそも文香さんが居なかった場合どうするのかと疑問なのだが、どうやら文香さんはちゃんと家に居たらしく、美嘉ちゃんと二人して歩いて来るのが見えた。
言われた通りに隠れているのだが、彼女達とそこまで離れていない事に気づく。美嘉ちゃんわかってて目の前のベンチに座ったな…
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美嘉ちゃんと文香さんの会話が終わり、立ち尽くしてしまった。美嘉ちゃんの気持ちは昨晩聞かせてもらったが、文香さんがあそこまで考えていてくれるなんて思わなかった。
(幸せ者だな、俺…)
あそこまで言われてしまい、答えないなんて男らしく無い。今すぐにでも飛び出したいが、思いとどまる。
もしかしなくて、今の俺は女性の会話を盗み聞きしている変態なのでは?と
嫌な汗がダラダラと流れ、一刻も早くここから立ち去った方が良いのではないかと思い至った。が
-ピリリリリ
電話がなる音がした。
更に汗が滝のように流れる。携帯を確認する前に、2人の様子を見ると文香さんが驚いた様な顔で、美嘉ちゃんはしてやったりと言わんばかりの顔でこちらを見ていた。
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泣き止んだ美嘉ちゃんが思い切り顔を上げたと思ったら、いきなり携帯を弄り始めた。
つ、通報されるのでしょか…?
なんて見当違いの考えをしていた私ですが
-ピリリリリ
電話の着信音が聞こえた。
驚いてそちらを向いたら彼がいた。
「悠人…さん…?」
「えっと、美嘉ちゃんに隠れててって言われて…」
もしかしなくて、今の話の内容は全て聞かれてしまったのではないだろうか…
そう考えると、顔が熱くなる。
「余計なお世話かも知れないけどさ、2人には幸せになって欲しいんだ。だから、バイバイ★」
美嘉ちゃんはそう言い残し「プロデューサーに怒られるから走るよー!」何て言いながら走り去って行った。
残されたのは当事者である私と彼。美嘉ちゃんの好意は嬉しく思うけど、せめてもう少しだけ時間が欲しかった。昨日は考えておく素振りをしておきながら、翌日にはOKの返事を出す。し、尻軽なんて思われたらどうしましょう…。
「文香さん…」
そう言いながら彼は私の手を、自身の両手で包み込んだ。触れた手から伝わる温もりが、私の心を満たしていく。
「さっきの全部聞いてたけど、本当に俺が相手でも後悔しない?」
「それは、まだわかりません…。先の事ですから。でも、今私が悠人さんを好きだ、と言うことには…後悔はありません」
その言葉を告げた瞬間、悠人さんも泣き出していた。慌ててハンカチ取り出そうとして、先ほど美嘉ちゃんにも同じ事をしたなと、少しだけ笑ってしまう。
「笑われるとは思わなかった…、俺本当に嬉しくて嬉しくて…」
「ち、違うんです…。さっき美嘉ちゃんも同じ様に泣き出して、それを重ねちゃって」
2人の涙を見たせいなのか、思わず私の涙腺も緩んでしまい涙が流れる。公園で手を繋ぎながら泣き合う2人は、どう見えるだろうか…。でも、傍目からの評価何て今は気にしない。
「文香さん、好きだよ。大好きだよ…」
「私もです、悠人さん…。大好きですっ」
そして、悠人さんの顔が段々と近づいてきて
「そ、それは早すぎると、思います…!」
流石にステップを飛ばしすぎだと思った私は、今は早いと待ったをかけた。
それに悠人さんは少しだけ悲しそうな顔をして、それもそうかと苦笑した。
「俺達はお互いをそんなに知らないもんね、焦りすぎたのかもしれない。ごめんね」
「そ、その…。お気持ちは大変嬉しいので、出来ればゆっくりと付き合って行きたいなと…」
そう小さくなる声で伝えると、彼は満面な笑みをこちらに向けていた。
「なら、一緒にゆっくり進もっか。時間はいっぱいあるし、俺達のペースで」
「はいっ!」
こうして、私達は付き合うことになりました。お互いを多く知らない2人、これから交流を深める2人。
「じゃあ、文香って呼び捨てにしていいかな…。それで出来れば悠人って読んで欲しいんだけど…」
「ま、まだ恥ずかしいので…。さんを付けて頂けたら嬉しいです…」
好きです、悠人さん。
これからも、よろしくお願いします…。
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そのまま俺達は手を繋いだまま大学に向かった。校内では多くの人から驚愕や羨望、嫉妬に包まれた眼差しを貰ったが。隣に彼女がいるだけで何でも出来そうな今は、その視線すら心地いい。
友人からは何でお化け女と付き合うことになったのかと聞かれたので、お化けじゃないしと肉体言語で伝えておいた。
噂はあっという間に広まっていき、沈静した。人の噂も75日とはよく言ったもので二ヶ月と少しで、俺達の噂は消え去って行った。寧ろそれよりも
「ねぇねぇ!美嘉ちゃんと家族って本当!?」
「美嘉ちゃんが家族って事は莉嘉ちゃんも家族何だよね!」
何処から漏れたのは分からないけど、2人アイドルが俺の家族だとバレた。それはもう物凄い勢いで。
大学内だけでは収まらず、近隣の中学高校からも人が集まるようになっていた。
必然的に下心で近づいてくる人達が増えてしまい、文香さんと2人きりで過ごす時間が取れずにストレスが溜まっていた。
それはもう、思わず家で美嘉ちゃんに愚痴をこぼしてしまう程に。美嘉ちゃんや莉嘉ちゃんが悪いわけではないと分かってはいるが、どうしても誰かに聞いて欲しかった。文香さんにはなるべく弱い所を見せたくない、だからこそ美嘉ちゃんに話していた。
そして暫くして
「悠人さん、お疲れの様ですが、大丈夫でしょうか…?」
「あーうん、疲れてるけど…慣れた」
今日も今日とて質問攻めである。と言うか1人聞いてきたんだから後はソイツから話を聞けと思わないでもない。
「あのー、貴方が神楽さんで、そちらが鷺沢さんでよろしかったかしら?」
また誰か来たのかと、溜息こぼす。が、いつもと違うことに気がついた。何時もなら誰も文香さんの事は触れない、だけど今回は触れてきた。何を考えているのかと声がしてきた方を振り向くと
「初めまして、美嘉ちゃんから話は聞いています。千川ちひろです」
以前聞いた噂の一つ、緑色の服を着た女性がそこにいた。
やっとちっひ出たよ!
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