降り続ける雪が客足を遠のかせて行く。
肌を刺す様な冷気が客足を遠のかせて行く。
何が言いたいのかと言うと客がいない。冬はこれだから嫌である。でも四季で好きな季節は無いんだよね。春は花粉、夏は熱気、秋は太るし、冬は寒い。どうしようも無いね!
なんて考えてたけど、悪友は来ます。
なんでかひっつみ汁を食べたいと言われたのでのんびり作っております。
「バラエティ枠には幸子を連れて行くよ」
たまに彼はこうして相談に来る。情報漏洩とかは気にしない、一応は俺も事務所登録されてるみたいだし、俺が誰にも話さなければ良いだけである。
「時期的には寒中水泳やれば笑いが取れると思う」
「陸海空を網羅するとかさすが幸子」
あの子はもう芸人で良いんじゃ無いかな。上田しゃんと組ませてくれ、見てみたい。
「そうだ神楽、アーニャの事だけど助かったよ」
「大したことはしてないよ、遊びに行っただけだし」
「それさえ満足にさせてやれなかったからな、俺としては耳が痛い話だ」
「仕事も良い感じに軌道に乗ってる状況だろ。これぐらいなら任せんしゃい。次泣かせたら〆るけどな」
怖い怖いと。なんて笑顔で言われても信憑性ゼロです。
最近のマイブームフードである軟骨唐揚げを作り、頼まれた料理と共に差し出す。
「素晴らしい、酒が進む」
「二日酔いなっても責任は取らんぞ」
「こんな事(美味しい料理出)して酔わせて、俺に何をするつもりなの!」
変な声出すな。もぐぞ。
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見事に彼は二日酔いになった、おめでとう。
私、悪くない。ちゃんと止めたもの…。
「ハラショー…、このコリコリとした食感がたまりません」
「軟骨って美味しいよね。俺もお酒と共に食べるのが最近のマイブームでね」
事務所内でアーニャとのんびり昼食を取る。
モデルの仕事が少しづつ入る様になって来てはいるが、それも短時間だけである。すると彼女はこうして食事の出前を頼む。それを運んでくる俺とのんびりと会話する事が増えた。
可愛い子とお話出来るのでこちらも嬉しい。ただ何と言うかお父さんの気分だわ。
優しげな目で彼女の食事風景を眺めて居たら、ポカンとして表情になった。箸を咥えたままでそんな行動しないで、鼻血でそうになるから。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
食事が終わり、のんびりとお茶を飲む。千川はこういった茶葉などにお金をかけるので美味しいです。
「そのお茶を毎日の様に飲んであいつの財政を圧迫させる。まさに愉悦」
「趣味悪いですね神楽さん」
親しくなったからなのか、アーニャは最近軽い毒を吐いてくるようになった。しばらくするとこれが容赦ない毒に変わるのかと思うと自然と涙が出そう。
「そうです神楽さん。いきなりで申し訳ないないですが、何処かアルバイト募集してる所知りませんか?」
「ウチでも募集してるよ?」
「でしたら、私働きたいです」
うん、びっくり。
どうも話を聞くと実家の家計を圧迫していることが精神的に来ているらしい。アイドルとして名を馳せれば印税わっしょいとなるはずなのだが、現状はそうもいかない。そう考えた結果アルバイトを探しているらしいが
「即決されるとは思わなかった」
「あー、すみません?」
「謝って欲しい訳じゃ無いんだけどさ、ウチ居酒屋だから夜遅くまでやってるのよ。てなると門限厳しくならないかな」
「でしたら引っ越します。アイリが言ってました、住み込みも大丈夫だと」
情報源は愛梨ちゃんか…。初代シンデレラガールになったことお祝いしてないや、やべぇ。
「うん、アーニャが良いなら俺も別に反対しないけどね?だけど少しは危機感抱こうね、前も言った気がするけど」
「Это нормально(大丈夫です)神楽さんのことなら信用してますから」
嬉しい事を言ってくれるぜ!
そんなこんなで話は進み、うちの居酒屋に一人仲間が増えました。やったね。
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「アーニャはさ、ここで働けて楽しいかい?」
「楽しいですね。ここには色んな人が来て、色んな話をして帰ります」
人の話を聞くのは面白い。最近の仕事の内容や、話題のニュース。好きな食べ物とお酒の組み合わせなど珍しい話をする人もいるけど、みんな面白い。
「そっか、なら俺も嬉しいよ。スカウトして来ておいて仕事持ってくること出来なくてさ。悲しませてたんじゃないかなって思ってたんだ」
珍しく、プロデューサーの弱さを見ることが出来た。
普段であれば誰の目にも強く映る彼が、今だけはとても弱く見えた。
「はいはい、お前はまたそんなこと言って女の子を毒牙にかけようとするー。被害者増やすな!」
優しくしようと思ったけど、罠だったのですね…。世の中って怖いです。大人に隙を見せたら食べられると言ってた未央の言葉も今ならわかる気がします。
「うん、アーニャ。そんな納得しましたって顔しなくて良いからさ。まず俺そこまで酷いことしてないから」
「無意識って怖いですね」
「アーニャ!?」
良識人が消えていくなんて呟いてたけど、良識人しかいない事務所なのに何を言っているのか。
こういう危なそうな人からは離れなさいとユートに伝えられたので離れる。
「Pは放っておけば勝手に治るからさ、基本あぁなったら放置でいいんだ」
友人関係は奥が深い……。
いつか、私にも分かり合える友人が出来ることを目標にします。
ふんす!と勢い良くガッツポーズをしてたらユートに見られた。少し恥ずかしかった……。
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「また二日酔いになる前に今日は帰るとするよ」
「あらまあ珍しい。しじみ汁も用意してたんだけどね」
「それは明日の昼にでも持って来てくれ。普通に飲みたいから」
なんて言いながら彼は立ち上がり
「神楽はさ、アーニャの事どう思うんだ?」
どう思うも何も
「家族見たいなもんかね。10歳も違えば中々に接し方がそうなるね」
「そっか。ならアーニャと仲良くやってくれよ」
それだけを言って彼は去っていった。言われなくても仲良くするわあほタレ。なんて思わないでもない。
「アーニャ、片付け手伝ってくれ」
そう呼びかけると、嫌な顔一つせずに手伝ってくれる。そんな彼女とすれ違う度に甘い香りがする。
妹や姉がいればこんな感じなのだろうかね。などと考えながら片付ける。
「ユートと、私は家族ですか?」
ふと、同じ様に片付けをしているアーニャからそんな言葉が放たれた。
「家族に近いと俺は思ってるよ」
そう伝えると、彼女は笑ってくれた。
嬉しいです。と返事をする彼女。
その笑顔に癒される。さりげなくスキップしていることに癒される。
でも、彼女はいつかはここから出さないといけない。本職はアイドルなのだ、店員などやらせている場合ではない。
(今度なんか良い案でも教えるか…)
何てことを考えながら、二人並んで洗い物をする。
ふと目が会い、笑い会う。
まぁでもしばらくは、この空間を楽しみたいと思う。