居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

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短いのなんのって・・・・・・。


第4話

 

 

 

 

 

「さっむいわぁ・・・・・・」

 

 買い物帰り。吐く息がまだ白く染まることに嫌気が差す。

 今日は定休日という事でPを誘って男二人寂しくドライブにでも行こうと思っていたのだが・・・・・・

 

『今日か?すまん、これから凛と買い物に出かける予定が』

 

 最後まで聞かずに電話を切ってしまったがしょうがないことだと思う。ならばと千川に連絡を取ろうと思ったのだが・・・・・・。止めておいた。愚痴を聞くだけで休日が終わりそうな予感がしたのだ。

 

「げ、雨降ってきたし・・・・・・」

 

 鼻の頭にポツリと冷たい雫があたる。本降りになる前に急いで戻るとするかと歩きを早める。

 

 

 

「うー寒い寒い・・・・・・ん?」

 

 店が見えてきたところで雨が本降りに変わった。もう少しゆっくりしてたら濡れ鼠になるところだった。

 

「たーだいまー」

 

 当然返事などがあるわけないがとりあえず言っておく。食材を調理場に置いておきタオルを取りに二階にあがる。その前にお湯を沸かしておこうか。余談であるがうちは一階が居酒屋で二階が俺の家といった形になっている

 ワシワシと頭を拭きながら下に戻り店の明かりを点け、タバコを銜えて火を点ける。大きく吸い込み肺に煙が充満しただろう時に吐き出す。Pから常々禁煙しろと言われているがする気はない。ピーと昔懐かしい薬缶の甲高い音がお湯が沸いたことを知らせてくれる。マグカップを取り出しはちみつと黒糖ふんまつ、に粉末生姜を入れてお湯で混ぜる。お手軽生姜湯の完成である。体を温めるにはやっぱこれだよなーと昔母が良く作ってくれたことを思い出しながら一口含む

 

「やっぱ甘いなぁ・・・・・・」

 

 含んだ瞬間に広がる甘み。喉を通り過ぎるを同時に体を芯から暖める。どうせなら風呂も沸かしておこうかなとボイラーのスイッチを入れておく。ボイラーの準備が終わるまでタバコを吸いながら待っていると店の扉がガタンと揺れる。

 

「――丈夫?私―――こようか?」

 

「大――。もう少しで――も弱まり――し。・・・・・・クシュン」

 

 最初は風でも強く吹いたのかと思ったがどうやら違うらしい。戸を挟んでいるせいか雨音が強いせいか声ははっきりと聞こえないが恐らく女性二人組み。雨宿りでもしているのだろうかと考える。

 

「全然―――じゃないじゃん!ちょっと――て、すぐ買ってくるから!」

 

「ちがっ今のは――が痒くなっただけで!」

 

 さて、と立ち上がりマグカップを二つ追加で準備する。後はタオルも必要になりそうだなと取りに行く。タオル片手に戻り入り口に近づくと声がはっきりと聞こえた。

 

「だったらせめてお店の中に入れてもらおう?このままじゃ本当に風邪ひいちゃうよ?」

 

「でも・・・・・・お金もそんなに持ってないし、定休日って書いてるし迷惑になるんじゃ・・・・・・?」

 

「店の外で騒がれるほうが迷惑になる可能性も考えような」

 

 ガラリと戸を開け二人の頭にタオルを掛ける。

 

「わぷっ。な、何すんだ!」

 

「いいから早く中入れってそっちのくしゃみしそうになってるお前もな」

 

「くしゃみしそうになってないでクシュン!」

 

 二人の手を引っ張りながら半ば強引にお店に入れる。もしも誰かに見られたら通報もんだなーとどこか的外れな事を考えながらも生姜湯の準備に取り掛かる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、遠慮なく飲め」

 

 コトンと私達の目の前にマグカップが置かれる。そこから漂う湯気の香りに生姜が混ざっている事に気づき温かそうだなぁと手を伸ばし・・・・・・止める。

 

「え、あ、でも・・・・・・お金持ってないですし・・・・・・」

 

 本当は持っているがこの後タクシーで帰る事を考えるとあまり余計な事に使う事は躊躇われる。

 

「謙虚な事は美点だけどこっちは君たちが飲んでくれないと無駄に淹れちゃったことになるわけだ。遠慮なんていらないって言ってるんだから黙って飲んどけ。こんなもので金を取るほど寂れてる店でもないしな」

 

 ホレホレと手で促されて私はマグカップを手に取る。じんわりと手の平に広がる温かみが心地良い。コクリと一口含む。自然にため息が漏れた。

 

「お代わり欲しくなったら素直に言えよー」

 

 そう言われて私達は首を縦に振る。遠慮するなと言われたのだ、こうなったら体力を十分に戻す事に専念しよう

 

「・・・・・・クチュン」

 

「加蓮平気?やっぱまだ寒いか?」

 

 隣に座っている加蓮のほうを見る。顔が赤くなっているとか風邪の兆候は見られないがまだ寒そうに縮まっている。

 

――パリン

 

 と皿が割れる音が聞こえた。見れば床には割れた皿と共に血が垂れて・・・・・・血!?

 

「ちょちょちょっと!お兄さん大丈夫か!?どこか切ったりしたのか!?」

 

「うぇ!?あぁぁぁああぁあ大丈夫じょん?これ鼻血だから!チョコレート食べ過ぎて流れ出した血液だから!食うか?お前らもチョコ食うか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 いかんいかん危ない危ない・・・・・・。あまりにもびっくりしすぎて皿を落としてしまったではないか・・・・・・。しかし加蓮と聞こえたのは気のせいであろうか・・・・・・?いや気のせいではない。もう一人の少女が「加蓮、寒いんだったら私の上着貸すよ?大丈夫?」としきりに加蓮、加蓮と心配しているのだ。ちらりと加蓮とやらを見る限り間違いなくあの加蓮であろう。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だってば、生姜湯飲んで暖まってきたし。奈緒は心配性だなぁ」

 

――バキン

 

「お兄さん大丈夫!?割れたってよりも折れた音が聞こえたよ!?」

 

「大丈夫大丈夫あわてる時間じゃないから!DFに定評あるから!」

 

「全然大丈夫に思えないよ!?」

 

「奈緒は心配性だなぁー」

 

「加蓮はさっきからそればっかだな!」

 

 落ち着け、落ち着け・・・・・・。吸って吐いて吸って吐いて・・・・・・。落ち着いた、落ち着いたけど落ち着いた事によって見たくない現実と直面しなきゃならん事になった・・・・・・。割れちゃったよぉ・・・・・・お皿割っちゃったよぉ・・・・・・。わざわざ岡山まで買いに行ったっていうのに!・・・・・・P誘ってまた今度買いに行こうか・・・・・・。しかし奈緒・加蓮コンビかー。NG組と出会ってからというもの、モバマス組と出会うようになってきたなぁ・・・・・・。

 次は誰にエンカウントするかなーと考えているとピーピーと機械音が鳴り響く。

 ふむ、と暫し二人を見ながら考える。髪はタオルで拭いたお陰か乾き始めているが服のほうはそうもいかないご様子。このままじゃ本当に風邪を引いてしまうかもしれない。・・・・・・思いついた。ニヤリと笑みを浮かべると二人はビクリと震えた。例えるならば狼を前にしたウサギのように・・・・・・。そんな二人に俺は遠慮なく爆弾を放り投げた

 

「お前ら風呂入って来い。」


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