居酒屋で愚痴を聞くだけの簡単なお仕事です   作:黒ウサギ

19 / 91
第19話

「ありがとうごさいましたー」

 

ふらつきながら歩く会社員を数名見送り、暖簾をしまう。

そのお店は、一ヶ月前に比べるとやはり何処か虚しい。

溜息を一つ零し、食器の片付けをしている時にふらついた。

 

「ん…なんだ、疲労か?」

 

ここ最近忙しかったしなと考えて、食器を運ぶ。だがその足取りは覚束ない。頑張れ体、これ運び終えたらもう終わってもいいから。なんて思いながら洗浄機に皿を入れスイッチを押す。心無しか体もだるい、今日は早く寝ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪ですね」

 

清良さんそう診断されました。おかしい、あの人元看護婦のはずなのになぜ診察までこなせるのか…。

しかしやはりというか、風邪でした。朝起きて、むっちゃ怠いし、頭痛いし、鼻水でるし、熱あるし。

動くのも億劫で、Pを呼び出し臨時休業の貼り紙を出してもらい、飲み物も買って来てもらって。清良さんも一緒にきた。座薬だけは勘弁な!

 

「ここ最近忙しかったし…、ちょっと気が緩んでた見たいだわ」

 

「確かに最近盛況だったもんな。まぁ偶にはゆっくり休めよ、何かあったらすぐ連絡くれ。今日は遠出する予定もないし」

 

泣かせてくれる友人である。

おれとぉ…Pはぁ…ずっ友だょぉ!

なんて巫山戯てる場合ではない。今は横になり治すことに努めよう。

 

「Pも清良さんもありがとう。うつしたら悪いし、後は大丈夫なんで…」

 

そう告げるのお大事にと言い、二人は去って行った。

静寂が訪れる。やばい、めっちゃ寂しい。

なんだろうなー、ここ最近で物凄くメンタルが駄目になった気がする。今もほら、前世の死因とか思い出してきて、かなりやばい。これはあかん寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クスクスと笑い声が聞こえる。誰かいるのだろうか?

思い瞼を開け、視界に明かりが差し込む。誰がいるのだろうかと辺りを見回してみると…

 

「誰もいないんですけど」

 

何このホラー。夢でも見てたんですかね…

いやでも、お粥置いてあるし湯気出てるし。さっきまで誰かがいたはずなんですけど…。

まぁ大方アヤメサンの仕業だろう。ありがたく頂戴することにしましょう。

 

「はー超いい匂い。腹減ってたからマジありがたい」

 

正直Pを呼び出そうかと思ってたので、このお粥大歓迎である。

 

「誰が作ってくれたのかわからないけど、感謝を込めて、いただきます」

 

レンゲで掬い口に運ぶ。

含んだ瞬間、口の中に広がるフルーティーな香り。

梅だと思っていた赤いペースト状の物はイチゴジャムでした。

 

「橘ぁ!!!」

 

あっま!匂いは凄いいい香りなのにめっちゃ甘い!

うわぁ…、塩分欲しかったのに糖分だぁ…。しかもちょいちょい甘い部分と塩辛い部分が混ざってる…

もうこれは食べたらあかん。申し訳ないが残させてもらおう。

ふと、土鍋の下に紙が挟まっていることに気がついた。

 

『神楽さんへ

神楽さんが風邪を引いたとのことで、年少組の皆さんがお粥を作ってくれました!

これを食べて、早く元気になってくださいとのことです。 千川より』

 

残せません(白目)

あかん、残したらとてつもなく申し訳ない。年少組が汗水垂らして作ってる風景が浮かんでしまう…。ただし橘お前はダメだ。

大丈夫だ俺、所詮は甘くて塩味のするお粥だ。ただのお粥だ。

再びレンゲを手に取り、目を閉じ精神を落ち着かせる。

……お粥なんて怖くねぇ!野郎、掻き込んでやる!

 

「いやぁー!飴玉入ってるぅ!」

 

双葉ぁ!!!

 

 

 

 

 

 

 

べっとべとやぞ!

お粥を食べ進めていたら記憶がありません。まじ怖い。実は一ノ瀬特製の薬でも入ってたんじゃないかな。むっちゃ不安になって来ました。

しかし、寝汗がすごい。着てた服絞れるんじゃないかなと思うぐらいべとべとしてる。

体を拭きたい所だが、流石にPに頼むのも気が引ける。まぁ自分で拭けるところだけでもいいから拭いて、着替えよう。一気に上着を脱ぎ捨て、タオルを用意してなかったことに気がつく。お馬鹿さん。

上半身裸の状態で下に降りたところ

 

「あ、お邪魔してます」

 

アイドルがいた。

楓さんに周子ちゃんにクラリスさんがいた。

前者2名はジロジロと見つめてきて、クラリスさんは顔を赤らめている。

 

「い、いやん!」

 

取り敢えず送り出したPを恨んでおくことにした。




短いっす。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。