「ありがとうごさいましたー」
ふらつきながら歩く会社員を数名見送り、暖簾をしまう。
そのお店は、一ヶ月前に比べるとやはり何処か虚しい。
溜息を一つ零し、食器の片付けをしている時にふらついた。
「ん…なんだ、疲労か?」
ここ最近忙しかったしなと考えて、食器を運ぶ。だがその足取りは覚束ない。頑張れ体、これ運び終えたらもう終わってもいいから。なんて思いながら洗浄機に皿を入れスイッチを押す。心無しか体もだるい、今日は早く寝ることにしよう。
「風邪ですね」
清良さんそう診断されました。おかしい、あの人元看護婦のはずなのになぜ診察までこなせるのか…。
しかしやはりというか、風邪でした。朝起きて、むっちゃ怠いし、頭痛いし、鼻水でるし、熱あるし。
動くのも億劫で、Pを呼び出し臨時休業の貼り紙を出してもらい、飲み物も買って来てもらって。清良さんも一緒にきた。座薬だけは勘弁な!
「ここ最近忙しかったし…、ちょっと気が緩んでた見たいだわ」
「確かに最近盛況だったもんな。まぁ偶にはゆっくり休めよ、何かあったらすぐ連絡くれ。今日は遠出する予定もないし」
泣かせてくれる友人である。
おれとぉ…Pはぁ…ずっ友だょぉ!
なんて巫山戯てる場合ではない。今は横になり治すことに努めよう。
「Pも清良さんもありがとう。うつしたら悪いし、後は大丈夫なんで…」
そう告げるのお大事にと言い、二人は去って行った。
静寂が訪れる。やばい、めっちゃ寂しい。
なんだろうなー、ここ最近で物凄くメンタルが駄目になった気がする。今もほら、前世の死因とか思い出してきて、かなりやばい。これはあかん寝よう。
クスクスと笑い声が聞こえる。誰かいるのだろうか?
思い瞼を開け、視界に明かりが差し込む。誰がいるのだろうかと辺りを見回してみると…
「誰もいないんですけど」
何このホラー。夢でも見てたんですかね…
いやでも、お粥置いてあるし湯気出てるし。さっきまで誰かがいたはずなんですけど…。
まぁ大方アヤメサンの仕業だろう。ありがたく頂戴することにしましょう。
「はー超いい匂い。腹減ってたからマジありがたい」
正直Pを呼び出そうかと思ってたので、このお粥大歓迎である。
「誰が作ってくれたのかわからないけど、感謝を込めて、いただきます」
レンゲで掬い口に運ぶ。
含んだ瞬間、口の中に広がるフルーティーな香り。
梅だと思っていた赤いペースト状の物はイチゴジャムでした。
「橘ぁ!!!」
あっま!匂いは凄いいい香りなのにめっちゃ甘い!
うわぁ…、塩分欲しかったのに糖分だぁ…。しかもちょいちょい甘い部分と塩辛い部分が混ざってる…
もうこれは食べたらあかん。申し訳ないが残させてもらおう。
ふと、土鍋の下に紙が挟まっていることに気がついた。
『神楽さんへ
神楽さんが風邪を引いたとのことで、年少組の皆さんがお粥を作ってくれました!
これを食べて、早く元気になってくださいとのことです。 千川より』
残せません(白目)
あかん、残したらとてつもなく申し訳ない。年少組が汗水垂らして作ってる風景が浮かんでしまう…。ただし橘お前はダメだ。
大丈夫だ俺、所詮は甘くて塩味のするお粥だ。ただのお粥だ。
再びレンゲを手に取り、目を閉じ精神を落ち着かせる。
……お粥なんて怖くねぇ!野郎、掻き込んでやる!
「いやぁー!飴玉入ってるぅ!」
双葉ぁ!!!
べっとべとやぞ!
お粥を食べ進めていたら記憶がありません。まじ怖い。実は一ノ瀬特製の薬でも入ってたんじゃないかな。むっちゃ不安になって来ました。
しかし、寝汗がすごい。着てた服絞れるんじゃないかなと思うぐらいべとべとしてる。
体を拭きたい所だが、流石にPに頼むのも気が引ける。まぁ自分で拭けるところだけでもいいから拭いて、着替えよう。一気に上着を脱ぎ捨て、タオルを用意してなかったことに気がつく。お馬鹿さん。
上半身裸の状態で下に降りたところ
「あ、お邪魔してます」
アイドルがいた。
楓さんに周子ちゃんにクラリスさんがいた。
前者2名はジロジロと見つめてきて、クラリスさんは顔を赤らめている。
「い、いやん!」
取り敢えず送り出したPを恨んでおくことにした。
短いっす。