私はIS 作:35(ミコ)
ISの9巻辺りから積んでるし……どうしよ
アリーナから光線が伸びる。恐らくビームの類であろう。
ソラは驚くこともなく、コーヒーを飲む。
「んー、やっぱり誰? 見覚えないし、
あれやこれやとぶつぶつ呟く。今来た
飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に捨てる。
そして、目の前に何かが落ちてきた。
砂埃が立ち、ソラは目をつぶる。
「……まーじかー……」
砂埃が治まり、目の前の存在に困惑する他ない。
「もう一体いるのか……はぁ」
灰色のIS。『
その侵入者とも言うべきISをソラはじっくりと観察する。顎に手を当てたり、周りをぐるぐる回ったりと色々。そうする一方、そのISは棒立ちのまま、ただ頭部のカメラでソラを追うだけだった。
そして、うん、と一つ頷く。
「やっぱり新人だ。見たこともない。それにこんなデタラメな出力を持ちつつコンパクトに収まるアホみたいなジェネレータをほいほいこんな所に突っ込ませるのは一人しかいない思うし」
はぁ、と再び溜め息をつき、頭を抱える。
だが、何かに反応するようにISの方に向けた。
「……ん? ……何で攻撃しないかって?」
いつもの腕についてる相棒とは違う感覚でソラは話す。
「こいつが試合後で壊れてる。だからアンタとはやり合えない……何? 私自身とやり合うっての? はぁ……悪いけどその頼みは聞けないよ」
彼女は肩をすくめ、口の端を浮かべ自嘲する。
「いくら装甲付け足してもスラスター設定で碌に飛べやしないから……ね……」
不意にその言葉が止まり、ソラの目はじっとその巨躯のISに向けられた。周囲にはアリーナから届く戦闘の音のみが響く。恐らく、もう一体のISが一夏と鈴を相手に戦っているのだろう。
「分かった。私がアンタと戦えばいいんでしょ?」
そんな中、ソラは唐突にコロリと意見を変え、得意げな表情を浮かべて指を突きつける。
「まぁ、勝敗なんて関係ないと思うけど……代わりにアンタを倒したら、そのジェネレーター貰うから。もちろん、コアも回収して、パーツも諸々戴くつもりだし。多分、あの人、母さんもそれくらい織り込み済みと思うんだけどね」
どうせアンタ言っちゃ悪いけど使い捨てでしょ? とソラは渋い顔をする。
「コアネットワークでいつでもデータ回収は出来るだろうし、コア自体も未登録。内々で処理されるのは目に見えてる。無為にコアを使うのはあんまりいい気分しないんだよねぇー。だったら私で回収してリサイクルの方がまだマシだとは思ってるからね。と、まぁ、話はこれまでにしようか。見つかる前にちゃっちゃと終わらせないといけないだろうし」
ソラは軽いストレッチを始める。対するISからも徐々に微かであるが内蔵させるジェネレーターが動き出す音が聞こえ始めた。
そして、拳を構えISと相対する。
「よしよし……じゃ、来い!」
じっと、ISの一挙一動を見落とすつもりもなく、見つめる。
ISは未だに一歩たりとも、指先一つすらも動いてはいない。
「……」
まだ、アリーナからは轟音が聞こえてくる。
ISからは排熱のためか、空気が漏れるような音が聞こえてくる。
「……来ないの?」
流石に、何もしてこないので不思議思ったソラが構えを崩して尋ねる。
「えっ? 迎撃用システムしか入ってないから、私が仕掛けないと動かない? 先言ってよぉ!? 流石にそんなの分からないし、私だってお前を試すつもりでもあったんだよ!? 折角の雰囲気をぶち壊さないでよぉ!」
相手の機体を動かすのは所詮プログラムされたAIなのだ。ソラのように
頭を両手で荒く掻き毟り、ソラは唸る。
「分かった。私から仕掛ける。それでいいね?」
どこかムッとした表情で改めてISに問う。
ISはまだ動いてないが、ソラはよし、と呟く。
「こうなったら最初から全力で行くよ」
前回とは違い、手だけではなく足も胸周りも黒い装甲に包まれた。
やはり、手の鋭利的なデザインと同じく、足も鋭い刃のような印象を持つデザイン。胸部の装甲は最低限で、本当に胸の周りにしか装甲はない。腹部や肩は露出したままである。
そして、背部。ISにある筈のカスタム・ウィングやスラスター翼などが見当たらない。全く無いという訳ではなく、ソラの肩甲骨に当たる部位に申し訳程度のスラスター口が二つと、補助用と思しきデザインの一つとすら見間違ってしまいそうなスラスター翼があった。
「流石に正面の殴り合いじゃ、ウェイト差の不利が大きすぎるからねぇ……」
ソラの倍はありそうなサイズのISを見ながら攻略の糸口を探す。だが、地面に足を付けてればいいか、と早々に力技に任せることにした。
一回のバックステップで十メートル以上の距離を取る。
「まずは一発!」
そして、放たれる弾丸のようなドロップキック。いや、最早弾丸と呼ぶにふさわしい速度である。
「そぉら!」
ISは全身にあるスラスターを利用して巨躯を素早く動かし、体躯を逸らす。
ソラは舌打ちをし、すれ違う。振り返ればISの腕からは紫電が漏れだしている。
手持ちの斧で防ぐことも一瞬考えたが、アリーナの障壁すら貫通する威力。斧の腹で止められるはずもないと踏み、すぐさま横っ飛びで回避する。
「おいおい、地面が泡立ってるよ……」
赤く泡立つ地面。その威力に苦笑するが、ISはそんなソラを待たず次弾を放つ。
よっ、ほっ、と軽い掛け声と共にそれを躱し、ナイフを展開。投げつける。甲高い風切り音を立てISのカメラアイに向かって飛んでいくが、ISの剛腕により叩き落とされてしまう。
剛腕を振り切るとソラが接近していた。既に右腕を引き絞っている。
「ふっ!」
空気が破裂するような音が響く。ただ、ソラの拳が空を切っただけで、である。
「また……」
ISはまたもスラスターによって後ろに下がっていて、その腕を構えていた。
ソラは敢えてそこで前進する。砲口からは今すぐにでも発射されそうなエネルギーが充填されている。
それが発射される直前、それを全力で蹴り上げる。
空高く伸び、天を突く紫電。
ソラはそれに目を向けることも無く、胴の中心に膝蹴りを入れる。
「かったっ!?」
ウェイトの関係で弾かれてしまう上、ソラの膝は表面にすり傷を入れる程度にとどまっていている。
ISの太い腕が伸びてきたため、頭部を踏み距離を取る。
「あんのなに掴まれたら、脱出できないままやられそうだなぁ」
着地と同時に横に飛ぶ。そこにビームが着弾する。
「問題はあのビームがどれくらい連射できるかかな? あとは装甲」
今度は地面を這いつくばるかのように駆けビームを回避し、水平に跳ぶ。
すると、ISはまた回避を取り、間合いを開ける。
「ん?」
地面に足をつけ慣性を無視したかのような動きで砲口を向けるISにまた跳びかかる。
腕を振ると同時に斧を展開、砲口を逸らし、あらぬ方向へビームは飛ぶ。
身体を一回転させ、がら空きの胴に斧を叩きつける。
初めてISが横転する。
その様子を眺めながらはソラは溜め息をつく。
「思ったよりも単純かな? 向かってくるモノに反応して砲撃、接近されたなら回避から砲撃。いくら母さんといえど、中まで弄ることはできなかったんかな?」
おもむろに立ち上がるISに歩み寄っていく。
「そういえば、アリーナ方はどうなんだろうね? 気にならない?」
ISが腕を上げると同時に、ゆっくりとした歩みは鋭くなった。
「――オオオッ!!!」
鈴のIS『
零落白夜による一撃。それは確実に侵入者であるISの右腕を刈り取った。
だが、まだ残る左腕を一夏に叩きつけ、砲撃を試みる。
「――狙いは?」
『完璧ですわ!」
刹那、四本の青い線がISを貫いた。
最初にアリーナの障壁を破壊したせいで、セシリアによる介入を許してしまったのだ。
一夏は黒煙を上げるISの傍に降りる。それを追って鈴も駆け寄る。
「結局、こいつは何だったんだろうな……」
「分からないわよ。けど、あれほどの出力を持つ武装を用意するなんて軍とかじゃなきゃ無理なんじゃない?」
「……そうか」
真実はどこまでも遠い。今いる場所からはとても見えない。
すると、不意にISの腕が動き、一夏に向けた。
「――しまっ」
「はっ!」
鈴の大型の青龍刀『双天牙月』が千切るように薙ぎ払った。
残る左腕も無くなってしまった。
「……」
「ったく、危機一髪だったわね。って、どうしたのポカンとして」
「あ、ああ、ありがとな、鈴。助けてもらって」
「……ふん、あんたは素人なんだから、これくらい当たり前よ。少しはあたしを見習ったら?」
横目で一夏を見るが、
「それとセシリアもありがとなー!」
上空から降りてくるセシリアに手を振っていた。
「あんたってやつは~!」
セシリアが地上に降りてくる。しかし、その顔は安堵の顔ではない。
「大変です! まだ、もう一機ISがいますわ!」
「「……!」」
直後、アリーナ観客席の壁が爆発した。粉塵が舞い、それを紫電が貫く。紫電は観客席とアリーナの障壁もいとも容易く貫いた。
「なっ!」
「まだいるのかよ!」
「来ますわ!」
遠くで何かの叫び声が聞こえ、黒い影が飛んでくる。
それは空中で何かを噴かし、姿勢を整え観客席を崩しながら着地する。
もう一つ、追う小さな影。
「そ、ソラさん……!?」
「それともう一機!」
鈴と一夏が驚愕している間に、その二機は動き出す。
崩れて壊れた椅子を投げつけ、意図的に迎撃させる。その隙に肉薄、拳を放つ。
観客席が引っかかるためか空中に逃げ、足元のソラに向かって砲撃。だが、既にソラはそこにはおらず、真横にいた。
「ほっ!」
斧を展開、斬撃。アリーナの中心に向かってISは吹き飛ばされる。そして、ソラも弾丸のような速度で跳び、それを追う。
ISはソレを視認し、すぐさま再び
一瞬、一夏の視線とソラの視線が交差する。
彼女は小さく嘆息した。
「悪いけど、もう片付けるから」
ブレードとナイフを投げつける。
ISはビームで弾く程ではないと判断したのか、両腕で弾いた。
直後、カメラの目の前には斧があった。ワンテンポ遅れて来たソレは胴に刺さり、衝撃でのけ反ってしまう。
そして、カメラに映しだされるのはソラ。斧に触れるとそれは瞬時に拡張領域に格納され、罅のある胴の真ん中に手刀を突き刺した。
「面倒くさい……なっ!」
胴を蹴り飛ばし、様々な機材が引き抜かれコードが千切れる。
その中に無人機を動かすための機材があったのか、ISは動かなくなった。
「はっや……」
「見た所、スラスターらしきものは無いのですが……」
「……」
三人が呆然としている間に決着は着いた。
手に握る中身を泥団子でもこねるかのようにして潰し、ソラは動かなくなったISを担ぎ向かってきた。
「そっちも面倒だったでしょー? とりあえず、今日はお疲れ様。じゃ、また明日」
「「「……へ?」」」
まるで、何かのイベントの運営でもやったかのような感想。
空いた手を振りながら彼女は出口へ向かう。
「あ、あの……!」
一夏はすぐに我に返り、手を伸ばすが、
「……?」
身体の側面に軽い衝撃が走った直後、視界は暗転した。
「極度の緊張状態から解放された反動だろう。お前が思っている以上に疲労が蓄積している、明日から身体が重く感じると思うが、まぁ慣れろ」
白いベッド、白いカーテン、白い天井。だが、それらが夕焼け色に染まる保健室。上体だけ起こす一夏は姉である千冬と話していた。
「千冬姉……」
「なんだ?」
「ごめん」
一夏の謝罪に、千冬は面を食らう。だが、すぐにいつもの鋭い表情に戻る。
千冬は何も言わず、一夏は続ける。
「今回の事件で千冬姉に心配かけてさ。もし、あの場ですぐにでも避難してればって」
でも、と紡ぐ。
「あそこはまだ皆がいて、さ。俺が守らなきゃ、って。千冬姉、俺の判断――」
その言葉が最後まで紡がれることは無く、千冬が出席簿が一夏の脳天に刺さる。
「――ったぁ!? 何すんだよ!? 一応、怪我人だぞ!?」
あまりに非道な対応に思わず一夏も息を荒げるが、千冬は鼻を鳴らす。
「ふん、これは教員の指示を無視した罰だ。それにお前が皆を守るなんて百年は早い。せいぜい、今の自分を省みて精進することだな」
「そこまで言うかよぉ!?」
「当たり前だ。お前にできるのは一高校生とそう変わらん。さて、私にはまだ後片付けがあるから仕事に戻る」
「……そう」
一夏は俯く。
「ああ、それと私は別にお前の行動が間違っているなどと言うつもりはない、むしろお前は正しいと思うぞ。全校生徒が避難する時間を稼いでくれた。それだけでも感謝する。ありがとう、一夏」
それだけ言い残し、千冬は出て行った。
「千冬姉……」
一夏は姉が出て行ったカーテンの向こうを見つめる。
「だったら、少しは優しく叩いてくれよ……」
少年は脳天を未だに痛そうにさする。
「これでよし、と」
SE補給用のプラグを咥えながら、ソラは誰もいない整備室で作業をしていた。
相方であるISの修理と侵入者であるISの解体。
解体した方は現に装甲、コード類、ジェネレーター、砲身、その他諸々が並べられ、ソラの手にはコアがある。
「さてさて……」
全てを終えたソラはニヤニヤしながらジェネレーターを撫でる。
「これを
ソラのスラスター出力は浮くことはできても、実践にはとても使えないほどである。そのため外部電源のこのジェネレーターが欲しかったのである。
そして、PICはほとんど容量を割いてないせいか、かなり不安定である。恐らく候補生クラスでも飛ぶこと自体はできても、飛行は難しいだろう。
とは言ってもソラにとっては自身の感覚の問題である。まして、ISというスパコンすら優に超える機械である。恐らく二、三度の飛行で感覚を掴めてしまうだろう。
今のところの不安点は機体設計の変更だろう。スラスターの位置は問題無いだろうが、ジェネレーターの設置箇所とスラスター翼を変えねばならない。
心配事は尽きないが、既に日は傾くどころか沈んでいる。
「色々あるけど、帰るか」
ISを待機状態に戻し、解体した方は部品をまとめ、コアに戻す。
「……ISって一体どんな構造なんだろ……?」
質量保存とか色々無視している辺り不思議に思ってしまうが、
そして、夜。学園の地下施設で、千冬は今回侵入してきたISの解析をしていた。
(全くの新品か……どこの国にも登録されていない上にこの機体か……)
アイツか、と確信じみた呟きを漏らす。事実、千冬が知る限り無人機を作れ、新品のISコアを用意できる人物など一人しかいない。
(そして、もう一体はオンブグレンストがどこかに持って行ったと……)
それに関してはセシリアや鈴の目撃証言があり、軽く調べるだけで全てが出てきた。整備室に持ち込み解体しているところまで。
そして、最後は持ち帰るところまで記録として残っている。
(一度、オンブグレンストに関して洗いざらい調べ直すか)
ソラ=オンブグレンストという人物、『リベレーター』という企業、そしてソラの使うISについて。
これについても今日の試合、アリーナの外で行われていた戦闘の記録を少し調べるだけで全容が出てきた。
(ロシアのISだと……? あいつの企業はドイツのはずだ。事実、ドイツを中心に欧州での活動はあるが……何度調べてもロシアのISの反応だ。あいつは堂々とここで使っていたのか? それに……)
計器に示されるものはソラが侵入者と戦闘しているときのISの反応だった。
(日本だと……? 一体……まさか!)
千冬に珍しく焦燥に駆られた表情で過去の資料を漁る。
見つけ出したのは数年前の事件。日本の研究所からISが逃げ出したというモノ。それと、ロシアで隕石、というかISが発見され、ロシアの研究所からも一つのコアが盗み出されたという二つの資料。
千冬はその二つからあることを推測する。
(つまり日本からロシアへ一度送り、それをロシア側に回収させ、そこから一度に二つのコアを盗み出した……? いや、それを一人やるのは難度が高すぎる。協力者が……? だとするならヤツが言っていた従業員のもう一人がその協力者なのか……?)
大体合ってない。そもそも、当時、千冬は現場にいなかった。恐らく、当時の現場にいたものならば口を揃えて「
(ともかく、これは学園のみで片付けられる問題ではないな。一度、政府側に連絡を入れ、ある程度の人員を割いて調査した方がいい。だとするならば……学年別トーナメントか)
それは六月の中旬。およそあと一か月先である。
六月は頭、日曜日。問題の当の本人。ソラは、
「やぁ、篠ノ之さん。こんにちわ」
「あ、ああ、こんにちわ」
最近、事情は分からないが、隣室から移った篠ノ之箒を尋ねていた。
「早速だけど……」
「な、何だ……?」
顔見知りで訳知りな一夏には強く出れる箒だが、その実、結構な人見知りである。
そのため、どこかののほほんとした人や、ソラのように箒の雰囲気を気にしないタイプには滅法弱い。
「専用機に興味ある?」
「……は?」
今回の解説。
ゴーレムのビームはとても高出力。多分零落白夜くらいの出力。
では、そのエネルギー源は? ということでジェネレーターを組み込んでいるということに。
零落白夜もこのビームも原理は同じで単純にエネルギーをとても使って高出力にしてると思ってます。ただ、そのソースがゴーレムは外部のジェネレーターから、零落白夜は白式のSEから。という違いです。
そのためゴーレムはバンバン零落白夜クラスの砲撃が可能。
ソラの飛行について。
とても不安定。じゃじゃ馬の如く。そのため戦闘中は一度も飛んでいません。跳んではいますが。それに加えスラスター出力が極めて弱い。
次回からは結構改善するかな?外部電源を手に入れたので。
あとゴーレムの解析。
原作じゃ山田先生いたんですけど、当事者でわりかし事情を知ってるので省きました。
山田先生ごめんなさいね。
取り敢えず、やっと1巻終了。
次回は2巻、の前半。シャル編です。多分絡みは全くというレベルでないけどね!
あと原作じゃ完璧クラスの男装(見た目のみ)だけど相手はISのセンサーだ!
2巻の後半は後半で色々悩むんですけどね?
あと、最後のアレについても次回、ちゃんとやりますよ?
というか3巻の辺りをコミカルに処理したいがために今は色々やってる感じです。
次回は8月かな?それに短くなるかも?