私はIS   作:35(ミコ)

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おかしい……5月が瀕死だぁ……!


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「うわ、マジじゃん……」

 

 数週間後、整備室では簪とソラの二人は実験をしていた。

 『山嵐』に取り敢えず『春雷』の分のおもりとビットとして運用するためのイメージ・インターフェースのデバイスを取りつけ、それを動かしてみるという実験。

 

「致命的に遅い……」

 

 確かにファンネル『山嵐』は動くに動いた。だが、とてもじゃないが実践に使えるものではない。その結果に露骨に舌打ちをするソラに簪は驚く。

 

「重量制限ともなると……どうしようもない……」

「んー、そうなんだけどねぇ……うーん」

 

 ソラとしては結局発注してしまった『春雷』も来てしまう以上、何もせず終わってしまうのは避けたい。

 一方、その隣の簪がぶつぶつ何かを呟いている。

 

「……に……スターを……無理にでも……うん、高速化はできる……」

「……かん……ざし……さん……?」

 

 不穏そうな呟きをソラは拾ってしまう。

 

「うん、いける……」

「何が……!?」

 

 先程の呟きからして恐らくソラ以上にまともでなさそうなものを感じ取っている。

 

「ここまで来れば……後は一人で出来そう……」

 

 簪はどこか覚悟をした目つきをソラに向けソラは一瞬眉をしかめたが、

 

「……そっか、なら私がやることは終わりなのかな?」

 

 笑みを浮かべて返し、簪は頷く。

 だが、全然やってない気がすると漏らし、その笑みは苦笑に変わる。

 

「あとは設計図を一度書きなおして……組み立てるだけ……道具とかは揃ってる……」

「……それ本当に一人で大丈夫?」

「……できる……多分……」

「……はぁー」

 

 ソラは溜め息をつき頭を掻く。

 

「手伝うよ」

「……ありがとう……」

 

 二人は作業に戻る。

 

 

 

 実験用の『山嵐』を分解し、今後の予定を決める。

 設計図は大体の部分を書きなおすとし、簪はこれを非公開のものとした。ソラにはショックだったが納得はしている。よってソラが手伝うのは主に組み立てとなる。またソフトウェア面ではどうやら幼馴染にやってもらうらしい。また本体の稼働データは何としてでも対抗戦一週間前には得たいという簪の希望により、本体だけ先に完成させる運びとなった。

 そうこうしている内に時間は過ぎ、辺りは暗くなっていた。

 

 二人は作業を切り上げ整備室を出る。すると、目の前には案内掲示板と睨めっこするツインテールの少女がいた。

 

 

 

「あー!何よ!この見にくい案内は!受付ってどこにあるのよ!」

 

 

 

「簪さん、誰だか知ってる?」

「知らない」

 

 真顔で相談する二人。すると少女がこちらに顔を向ける。ずんずんと聞こえそうな感じに大股で近づいて来る。一方、人見知りをする簪は静かにソラに隠れた。

 

「ねぇ、アンタたち」

「何?」

「この場所知らない?」

 

 そう言ってメモを突き出してくる。

『本校舎一階総合事務受付』と書かれていた。

 

「向こうじゃん」

 

 当たり前と言わんばかりにソラは親指で方向を指し示した。

 

「ん?ちょっと案内してくれるかしら?」

 

 少女は首を傾げ、それだけでは理解できないのか案内を要求してきた。

 ソラは振り返り尋ねる。

 

「簪さん、いいかな?」

「いいけど」

「じゃあ、案内するよ」

「そう、ありがと」

 

 三人は歩き出す。

 

 

 

 会話もせずに受付に向かう。

 だが、その道中、

 

『だーかーらー!その感覚が分からないんだよ!』

『だから、くいって感じだ!』

『その『くいって感じ』が分からないんだよ!』

 

 男女の言い争う声が聞こえてきた。丁度その声は行く先から響いている。そして、近づくにつれ二人の姿も現れた。

 男子の方は言わずもがな、織斑一夏である。

 そして、女子は同じクラスのポニーテールの女子、篠ノ之箒である。

 簪とソラは目をくれるだけでスルーするが、ツインテールの少女は違った。

 

「……誰、あの女」

 

 突然、ドスを利かせた声で二人に尋ねる。

 ソラは首を傾げながら答える。

 

「ああ、篠ノ之さんだよ。何でも織斑くんの幼馴染だとか」

「へ、へぇー」

 

 ソラは少女の顔を見やると、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

(ねぇ、簪さん……詮索はやめたほうがいいかな?)

(……聞かないで)

 

 元々人付き合いの少ない簪には分からないことである。そして、受付に辿りついてツインテールの少女と別れた。

 しばらくして簪が口を開く。

 

「思い出した……」

「さっきの人?」

「うん。中国代表候補生の……凰鈴音……」

 

 ソラはその名前に聞き覚えはなく、首を傾げる。

 

「どんな人?」

「候補生でも……いきなり頭角を現し始めた位だから……ここに来てもおかしくはない……」

「何で編入なんだろ?」

「さぁ……」

 

 二人は寮に戻った。

 

 

 

 翌日、席に着くと三枝木が話しかけてきた。

 

「ソラ、聞いた? 二組の話」

「? 何かあったの?」

「クラス代表が変わって専用機持ちの代表候補生だって」

「ほえー」

 

 ソラはさして関心があるわけでもなく答える。

 

「これで全クラスが専用機持ちだね」

「ああ、そっか」

 

 ただし、実質二機所有していることになるのはソラだけである。

 当のソラは、そうえいばそうだね、と思い出したように言う。

 

「クラス対抗戦も盛り上がること間違いなし!」

「そうだね……で、その二組の代表候補生って?」

 

 ソラは大体の察しは付いてるが尋ねてみる。

 

「中国の凰鈴音。今年からのなり立てだけど専用機を持つ程の実力者だよ」

「あー……」

 

 間が悪そうに頬を掻く。

 

「昨日実は会ったんだよね……」

「マジですか」

 

 食いつく三枝木。その反応を見てにやけるソラ。

 

「大マジっすよ」

「どんな人だった?」

 

 三枝木は目をキラキラさせながら聞く。ソラはどう表現するか考えてみる。

 

「オルコットさんの優雅さのパラメータを野性味に振った感じ」

「え、えぇ……」

 

 例えが例えだからか三枝木は困惑する。

 

 

 

「あれ? アンタ、昨日の」

 

 昼休み、三枝木と食堂へ向かうと入り口にツインテールの少女こと、

 

「凰さんだっけ?」

「ええ、昨日はありがとね。ええと―――」

「ソラ=オンブグレンスト」

 

 ソラは簡潔に名前だけ伝える。

 

「お、オンブ……?」

「長いならソラでいいよ」

「ええ、分かったわ」

 

 互いに握手を交わす。

 

「そういえば、凰さんクラス代表だって?」

「ええ、代わってもらったのよ」

 

 穏便に、と強調して付ける。

 ソラは取り敢えず深くは聞かないことにした。

 

「へー、私も―――」

 

 クラス代表と名乗ろうとしたら黒板をフォークで引っかいたときのような感覚がした。

 間違いなくアイツだと気づく。

 

「――失礼、先に食券取らせてもらうよ」

「? いいわよ。私はあいつを待ってるし」

 

 ソラは逃げるように食券といつもの大盛りの料理を交換し、席を確保した。

 

「…………すぅー、はぁー……」

「大丈夫?」

 

 深呼吸するソラの向かいで三枝木が心配する。

 

「あーうん、大丈夫」

 

 しかし、背後にはヤツが凰と食堂の入り口で会話をしていた。

 深呼吸をし終えるといつも以上の勢いで食事を食べていく。

 理由はただ一つ、

 

(睨まれてるのような気がして嫌なんだよ!)

 

 だが、現実は無慈悲かな。

 

「丁度空いてるしここでいいか」

「そうね」

 

 丁度、ソラの背後のテーブル席に一夏たちが着く。ソラは笑顔でうどんをすすった状態でフリーズする。

 

「おーい、ソラー、大丈夫ー?」

 

 三枝木はソラの眼前で手を振ったり頭を叩いたりするが反応はない。

 一方、ソラの背後では、

 

「――あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 凰鈴音のその一言を切り口に、誰が教える、二組()の施しは受けないだとか言い争いになる。

 その隙にソラは再起動する。まずはうどんをすすりきる。

 

「おわぁ!?」

 

 突如、動き出したソラに三枝木は驚いてしまう。

 ソラは手を止めることなく残りのラーメンと蕎麦を食べきり、食器を片付けようと立ち上がる。そして、返却口へ向かおうとするが、

 

「あー、えー、ソラさん!ですよね……?」

 

 ソラは錆びついた機械の如く振り向く、呼び止めたのは隣での言い争いに巻き込まれ困惑する一夏であった。

 勿論、一夏が呼び止めたため一夏の周りのセシリア、箒、鈴もソラに視線を向ける。

 そして、一夏の視線は『助けて』と語りかけていた。

 ソラは一度目を閉じ、

 

 

 

「ごめんね!」

 

 ダッシュで逃亡する。

 

ふぁー(あー)ふぁっふぇー(待ってー)

 

 サンドイッチの残りを口に含んだ三枝木が後からそれを追って行った。

 

「……アンタ、ソラに何かやったの……?」

「……知らないんだ……本当なんだ……」

 

 疑惑の視線を向ける鈴に涙目で否定することしか一夏はできなかった。

 

 

 

 数日後、簪とソラはいつも通り整備室へ向かう途中、対抗戦の組み合わせ表を見つけた。

 だが、その互いの顔は引き攣っている。

 

「はは……まさかの組み合わせだね……」

「うん……」

 

 ソラと簪は苦い顔をしながら組み合わせ表を見る。

 

『 第一試合 三組対四組

  第二試合 一組対二組 』

 

 一二と三四、手抜きじゃないのかとソラは疑いたくなった。

 

「まぁ、当たるのは分かってたけどねぇ。しかも第一試合かぁ……」

 

 ソラが懸念しているのは打鉄弐式のことである。

 こうなった以上はソラは恐らく手伝いはできない。

 

「大丈夫……今のところ不備はない……クラスメートか整備課辺りにでも頼む……」

「なら、いいか」

 

 正々堂々勝負ができるね、とソラは手を差し出す。簪もそれに応え、握手を交わした。

 

 だが、ルームメイトなので後で気まずくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 五月になり、ソラは個人的な更なる調整もとい、

 

「うん、まぁ……流石にアレだけ弾ばら撒いたら経費無駄ってのも分かるけどさ……楽しいじゃん?」

 

 相方にお説教されていた。

 

「えー、ダメ?当たらないし、重いし、辛い?あー、そうだよねー、普通の調整だとそう感じるかもねー……で、もう使いたくないと?それは困るから何とかならない?……ライフル使え? アンタのやつ完成は……してるみたいだね」

 

 ソラは今、更衣室にいる。周りを確認し右手に白いライフルを展開させた。

 

「ふーん、普通のだね……特に何も特徴のないやつ」

 

 ただ、IS仕様のもののためソラの手には余るサイズであった。

 真っ白のライフルを眺め、構えてみたりする。

 

「大きいけど、まぁ、問題じゃない程度だね。あとは……」

 

 拡張領域のリストを上から眺める。ライフル、ショットガン、グレネードランチャーと武器の簡単な名称だけ連なっていたが、

 

「……ねぇ、このミサイルって何?」

 

 ソラは顔を引きつかせながら尋ねる。

 

「よかれと思って積んだ!?ふざけんな!」

 

 突如、ソラは叫びながら白いライフルを床に叩きつけ激昂する。

 

「ミサイルとか絶対ジャミング使われるんだよ! 言っておくけど電子工作の耐性値ほぼゼロだからね!おまえじゃねぇよ! わ・た・し・だ! 使われると私の思考回路がパァになるんだよ……フレアの方がまだマシだけどきっと誤認するんだろうなぁ……」

 

 ソラは怒りの火はあっという間に鎮火し、頭を抱える。

 ソラはただでさえリソースの半分を実体化に費やし、武装を自給するためのクリエイトモードにも割かれ、その上で残りをまともに戦闘出来る程度に振ってある。だが趣味の関係でその大体はパワーアシストに振ってあり、力だけなら通常のISの倍の出力はある。結果、拡張領域やPIC、はたまた対ECM等が脆弱と言えるレベルで弱っている。よく言えばピーキー、普通に言ってとても使えたものじゃない、である。

 

 元々ISのリソースは最低でも半分程度は空き容量というものが存在する。二次移行(セカンドシフト)で備わる、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)のためである。ある意味、ソラの実体化はソラの二次移行であるとも言える。そして、クリエイトモード。これは一般的にISの自己修復機能にあたる。二次移行時に追加武装が加わったりするのもこれが関係する。ソラとその相棒は通常のISより極めて大きいリソースが割かれ、これによって武装の自給が可能なのである。

 ちなみに、通常のISは機体構成そのものが外付けなためそこまでリソースに影響はないが、二人は一から作りインストールしてあるためリソースを食われている。

 

「くそぅ!全校の前でやらかしたら恥だぞ!」

 

 拳を握り覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 そして、来たるは対抗戦当日。アリーナは満席、しかも一部席には業界の著名人が連なっている。

 

「結局、打鉄弐式のデータは不明。分かるのは『山嵐』のミサイルと荷電粒子砲『春雷』、あとは薙刀『夢現』。けど、私のせいも相まってかなりの改造はあるに違いないし……どうする?」

 

 ピットのベンチで一人で呟く。三枝木やクラスメートはピットには来ず、一般席でまだかまだかと期待に胸を膨らませ待っている。

 

「……多分システムのほとんどはアンタに任せるし……いっそ、アンタが操縦できればいいんだけどねー……そういうソフト無い?……無いよねー、試合終わったら見繕ってくれる?ああ、出来る範囲でいいよ。全身装甲(フルスキン)でも構わないし……むしろ、そっちの方が都合がいいかな?」

 

 むしろ、ISコアを二つも使った完全自律型ISなんてものが出来てしまったら業界は大変であろう。気付けたらの話ではあるが。

 よっこらせ、とソラは腰を上げる。アリーナの中央では既に打鉄弐式を纏った簪が待機している。

 ソラも相棒である白いISを纏い、X字型に配置されたスラスターとカスタム・ウィングによりいつもの滑らかな機動で簪の正面に出る。

 そして、足元から頭までじっくりと観察する。

 

「見た感じ……完成してるっぽいね」

「なんとか……」

「噂じゃ墜ちかけたとか何とか聞いてるけどね」

「データ不足だったから……」

 

 会話しながら打鉄弐式の変更点を探す。が、特にそれらしいものは見当たらない。最後に設計図で見たときと同じである。

 

(実際にぶつからないと分からないかな?)

 

 白いライフルを両手に展開する。簪はそれを見て驚き混じりに呟いた。

 

「武装……変えたね……」

「ちょっち怒られたからねー、それで私は()()別のを用意したから」

「そう……」

 

 二人は意識を切り替える。ここから先は互いに敵である。

 

「じゃ、行こうか」

「うん……」

 

『それでは両者、試合を開始して下さい』

 

 電子音のブザーが鳴り響く。

 

 そして、それと同時に簪は認識した。

 

 

 

 素早く構えられたソラの両手にあるのはグレネードランチャーであることを。

 

 すぐさま回避行動に移る。身体を捻り真横へ移動。同時に独特の砲声が響く。

 死角の存在しないハイパーセンサーによりソラの手にあるものがいつ間にかショットガンに切り替わっていることを理解する。

 

(早い……! 高速切替(ラピッド・スイッチ)が早すぎる……まるで()()()()()()()みたい……!)

 

 次々に襲ってくる散弾の雨を掻い潜る。

 

「さっすが打鉄の後継機! 速いねー!」

 

 距離を取る簪に対し、ショットガンを撃ちながらライフルに切り替えソラ自身も更に距離を離すように下がる。

 打鉄弐式の『山嵐』が背部から展開される。

 

「今度は……! お返し……!」

 

 『山嵐』の二基から計一六発のミサイルが放たれる。

 ライフルを単発(セミオート)に切り替え、ソラは足を止め集中する。

 

「ふっ!」

 

 両手の引き金を二度引く。銃口から放たれたのは全部で四発の鉛玉。面で来るミサイルの核に撃ち込み、誘爆させる。

 結果、互いの中間でミサイルは全て爆ぜた。

 

「うそ……」

「ふふーん」

 

 ソラはしたり顔でライフルを空に向ける。

 

「なんて……」

「え――ぐふぅ!?」

 

 だが、したり顔が歪む。爆炎を切り裂きソラに直撃したのは荷電粒子砲。SEが四割も削り取られる。

 逆さまの視界の中、ソラは四基の『山嵐』の先端から覗く砲口を確認した。

 

「倍返し……!」

 

 今度は簪が笑みを浮かべる。そして、ソラに振りかかるビームの雨。

 

「おうっ!?」

 

 反撃しようとするが、その量ゆえに避けざるを得ない。

 アクロバティックな動きではとても避けられるとは思えず、慌てて簪に背を見せる形でジグザグに飛行する。

 

「ひえー、これはびっくりだよ」

「っ……予想より速い……」

 

 一度ここで確認しよう。先も述べたがハイパーセンサーには死角は存在しない。

 例え、真後ろだろうが、真下でも真上でも視認、もとい認識はできる。

 すなわち、

 

 どのような位置関係でも相手を()()()撃ち抜くことは可能である。

 

 ソラは予備の白い大口径ハンドガンを左手、黒い日本刀を模したブレードを右手に握る。

 四基にまで増えた『春雷』による絶え間ない弾幕を避けつつ銃口のみ向け、簪の目が見開かられる。

 

(ロックオンアラート……!? っ……!?)

 

 銃声が響き、雨は止む。打鉄弐式は打鉄の装甲を犠牲に機動力を向上させたものである。そのためハンドガンの弾丸といえど腕部装甲は耐えきれず、控えめに言ってもう装甲の体をなさなくなってしまった。

 だが、反撃は続く。

 

(接近されてる……!)

 

 元々用意されていた『夢現』を展開し、ブレードの刀身を逸らす。

 

「甘いよぉ!」

 

 接近した勢いのままソラの膝蹴りが剥き出しの腹部に食いこむ。絶対防御が発動しSEを大幅に削る。

 衝撃までは完全に消せず、簪は歯を食いしばる。だが、簪は『夢現』を手放しその足を抱える。

 

「えっ!?」

「これで……決める……!!」

 

 先程とは違う、二基の『山嵐』の砲口が光を放ちながら見つめていた。

 ふと、ソラは最初に提示した案を思い出した。

 

『内四基は春雷の速射型にして、もう二基は単発高威力型にしよう』

 

 この二基が高威力型なのは最早確定的明らか。

 ソラは顔を引き攣らせながら、簪は所謂ゲスイ笑顔を見せながら。

 

 二人は青いプラズマの光と共に爆発した。

 

 

 

 

 

「いやー、見事にしてやられたし。しかも、あるであろう新しいギミックも何も見てないし」

「引き分け……次は勝つから……」

 

 二人はピットのベンチに腰掛けながら試合の話をしていた。

 流石に零距離砲撃は二人を巻き込み、互いのSEをゼロにした。

 結果は引き分け。あっという間に決着がつき、判定が難しく現在教職員が協議している。

 

「結果はどうなんだろうねー」

 

 うんうん唸りながらソラは呟く。その隣の簪は端末で先程の試合のデータを確認している。

 戦況は基本的にソラが仕掛け、簪がカウンターを返すという流れであった。簪とて反撃はキッチリ返し奇襲に成功、そして最後の砲撃。

 先手を取り続けたソラか、止めを刺した簪か。

 

 二人の考えは、ソラははっきり白黒つけたい、なんなら再戦も構わないと思っている。一方の簪は今回で十分にデータが取れたため一度調整に入りたい。

 全く別の方向性になっている。

 

『クラス対抗戦、一年生の部、三組代表対四組代表、両者引き分けとなったため教員による協議の結果を発表します』

 

 互いにさほど判定に対し気にはしないまま、アナウンスが流れた。

 

『協議の結果、四組代表更識簪さんの勝利とします』

 

「「……」」

 

 二人は真顔のまま頭に?を浮かべる。

 そして、一拍を置き理解する。

 

「再戦じゃないのかぁ……けど、とどめを刺したから妥当じゃない?」

 

 おめでとう、とソラは賛辞を贈るが、簪の表情は晴れない。

 

「嘘でしょ……、パーツの大体は破損……その修理……、稼働データの調整もあるし……辞退しようかな……」

 

 最後の砲撃のせいで二試合も連続で続けれる状態ではなくなってしまった打鉄弐式。そのことを考え、簪の顔は曇っている。

 

(愛されてるなぁ……)

 

 呟きを聞きつつソラはニマニマと笑みを浮かべる。

 

 

 

「私は先生に……辞退することを伝えてくる……」

 

 簪はそう言って教員が待機するピットに向かって行った。

 暇を持て余したソラは飲み物を買いに、アリーナの外にある自販機の前にいた。

 

「だとすると、私が代理で進出するのかなー?……どうでもいい?休ませろ?そうだよねー」

 

 手に持つ腕時計を見つめながら一人ごちの呟く。周りに人はいない。

 

「代理で出るなら次行けそう?……はぁ?私がやれ?本格的に殴り合い以外の選択肢取れなくて織斑君、アイツが相手じゃなきゃ無理なんだけど……代理で出るのも嫌だなぁ」

 

 諦めたように呟き、ガコンと缶コーヒーが自販機の中で落ちる。同時にアリーナに何かが落ちた。

 轟音が響き、外からでも確認できるアリーナの砂埃。

 ソラは意に介さずコーヒーを一口飲み、眉を寄せ呟く。

 

「……誰アイツ……見たことない顔なんだけど」

 

 

 




喉をやってしまい痰と咳が止まらず辛いです。

冒頭の部分だけでかれこれ数か月悩んでました。
遅れた原因はそれなんです!僕は悪くない!こういう展開にした奴が悪いんだ!←

ソラちゃんの弱点:ジャミング、フレア等

やるとほぼの確率で自滅します。
え?以前ソラちゃん自身がジャミングやってた?
ECM積んだ艦船が自分のジャミングでどうこうしたりしないですよね?(多分)
そういうことです。

ようやく1巻の内容が終わる……簪の口調のためと展開の確認のためだけに1巻と7巻ずっと手放せないでいたからやっと解放されます。
というかISはこれ書くために引っ越し先までに持ち込みましたからね……。

あと打鉄弐式にはまだギミックがちゃんとまだあります。出せなかったのがつらい……タッグマッチトーナメントでは絶対出してやらねば!

それにしてもバトルシーンがターン制に見えてしまい不安です。というか描写全般が不安要素になり得てしまう……。
次までには頑張って改善します。

出来れば来月中に……。

そういえばサブタイって数字じゃなくてちゃんとしたの入れたほうがいいですかね?



ちなみに、教員の協議の結果は普通に作為ありありで、簪ちゃんが選ばれました。

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