私はIS   作:35(ミコ)

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 新聞の一面に大きく、その文字は書かれていた。

 

『新興IS企業『リベレーター』が企画した新パッケージ『ファイター』、ドイツ空軍に納入決定』

 

 事務所にして自宅では、その企画を持ちあげた張本人が、

 

「「…………」」

 

 が……?

 

 そこには一つの大きな桶一杯に札束が詰められており、二つのISコアが浮かんでいた。

 

「「…………」」

 

 静寂。

 

「……っだーらっしゃーい!」

「…………」

 

 張本人こと、ソラは我慢できないといわんばかりに光と伴って人間の身体になった。

 ちなみに全裸。

 そして、サイズ的に桶からモロはみ出している。

 

「いやー流石に夜通し部品製作(・・・・)は疲れるわー。まー、お疲れー」

 

 笑顔でペシペシともう一つのISコアを叩く。

 

「そもそも札束風呂……風呂?はいいとして黒い球体、ガン○染みたもの二つが浮かんでる景色とか誰得よ」

 

 光の粒が弾けると共に、彼女は服を纏っていた。

 さて、と彼女は気持ちを切り替える。

 

「これでドイツ空軍とのパイプが出来たから、ここからが本番かな……ああ、何かインタビューの何かあったけど断らないと……少し派手にやりすぎたかな……」

 

 

 

 

 

 ことは一週間前。

 

 パッケージが完成した。

 実際にテストするにはISが必要である。

 なのでドイツ空軍へ。

 

「面白そうだね。乗った」

 

 持ち込んだところ一発OKだった。

 

「さて、まずは取り扱いの説明何ですが――」

 

 今時不釣り合いな紙の説明書から顔を上げる。

 

「――やけに多くないですか?」

 

 提携した二つの企業のメンバー合わせて20人の他に多くの軍事関係者、というか空軍の方が集まっていた。

 

「まぁ、いいでしょう。今回はこの―――」

 

 近くのドイツ製量産型IS『シュヴァルツェア』をコンコンと叩く。

 

「シュヴァルツェアを使います。この機体の特徴は一言でまとめるなら汎用、ですね。あとはフレームが角ばっているのでジョイントが取り付けやすいことですかね?」

 

 ISをハンガーに吊るし、まず用意したのは、

 

「えー、こちら、機関部連結ジョイントのパーツです。これがないと取り付けが不可能なので注意してください」

 

 ISの背部に取りつける椅子の輪郭を模したフレーム。ところどころにコネクターがあり、それがエンジン部分の操作を可能とするものなのだろう。

 

「で、メインである、こちら」

 

 5、6mはある、V字尾翼と前進翼の主翼がついた黒い色のモノだった。

 ただ、先端部分には剥き出しの椅子があるため、そこはかとなく残念なデザイン。

 

「従来のジェットエンジン一基とIS用中型スラスター二基を搭載した機関部です。で、取り付けなんですが、今回のテストパイロットは……眼帯の付いたお姉さん、あなたですか、まぁ取り敢えずISに乗っていただいて……あとはそのままISに乗るように椅子に乗ればあとは自動で……はい、オッケーです」

 

 ISに人が乗り、それで椅子に座るという奇妙な状態であったが、大抵のISはパイロットの胴体は剥き出しなので普通に座れる。

 ISのパイロットは緩やかな角度で足を伸ばした状態で座っている。

 

「で、こっちの前面部を繋げて、と……」

 

 前面部は通常の戦闘機のような丸く鋭いものではなく、十字に尖ったものだった。

 全景としては直線的なデザインの一回り小さな戦闘機である。

 

「武装は下部搭載の固定武装20mmガトリングと主翼に従来の各種武装が取り付け可能となっております」

 

 ここでパイロットが一つ疑問を上げた。

 

「すみません、キャノピーは?」

 

 ソラは思わず目を逸らす。

 

「…………シールドあるじゃないですか」

「もしかして忘れてました!?」

「いえいえ、そんなことはナイデスヨ―」

「すごい棒読みなんですけど!?」

 

 パイロットは不安になりつつも、システムの説明を受ける。

 

「あと一つ注意することとしては……」

「何ですか?」

「ジェットエンジンの位置が丁度、操縦席のケツの真下なので。そこは少々注意を」

 

 つまり何か事故が起きると直接被害を受けてしまう。

 ちなみに、安全装置は『ISで動かしているから要らないだろう』というエンジニアたちの意見で付いていない。

 

「えぇ……」

 

 更に不安が煽られる。

 

「では、実際に飛ばしてみましょう。着陸はこちらで指示を出します。スラスターは巡航モードに移るまで吹かしてくださいね」

 

 パッケージを装着したISは滑走路に躍り出る。

 ソラはヘッドセットを着ける。

 

「では、ジェットエンジンを点火してください」

『はい』

「そして、

 

 補助用スラスター全開で離陸を」

 

『え?』

 

 パイロットは取り敢えず指示に従い逆三角形に並ぶ上二つのIS用スラスターを吹かした。

 瞬間、IS本来の加速性能で一気に離陸した。

 

『う、うほぉぉぉぉぉ!!??』

 

 無線越しに絶叫が聞こえ、バックの関係者たちは戦闘機の見た目からは信じられない加速に驚嘆している。

 そして、ソラも問題無く飛行している様子を見て安堵する。

 

「基本的な運用方法はご理解いただけましたか?」

『ええ、補助スラスターで加速、エンジンが動き次第巡航モードへ突入という感じですか?』

「それであってます。操縦の方はどうでしょう?」

 

 上空を飛んでいるIS背部にはスラスターの青い炎ではなく、ジェットエンジンのオレンジの炎が見える。

 ISは一回転やバレルロール、他にも様々な軌道を描いて空を飛ぶ。

 

『ええ、バッチリです。従来の戦闘機と同じ操縦が可能です』

「まぁ、設定を弄ればISのように動かせますが、根本的に用途や重心の関係上、多少無理が生じますがね。では着陸の方へ、エンジンを落としてください。あとはブレーキと下部に付いたスラスターで垂直着陸が可能です」

『了解しました』

 

 そして、エンジンを落とし、フワーと軽い感じにISは着陸した。

 そして、パイロットは真っ先に駆け寄ってくる。

 

「素晴らしいです!ありがとうございます!」

 

 彼女は目を輝かせソラの手を握り、想像以上の反応にソラは驚く。

 

「! ご期待に添えたなら幸いです」

 

 そこからはトントン拍子に話が進み納入が決定した。

 

 

 

 そして今に至る。

 

「私たちは表立って活躍できないからこの『リベレーター』だって適当な書類ででっちあげたからねー……」

 

 それでも、と区切る。

 

「今日は納入日だから最低でも立ち会わないといけないの」

 

 スーツに着替え、心底面倒そうに溜め息をつく。

 

まぁ、あんたは動けないから関係ないとして……行ってくるよーん」

 

 彼女は家を出る。

 

 

 

 彼女が作ったパッケージの強みは何と言っても、『互換性』である。

 ISにはIS用の定められた規格の武装があるが、『ファイター』には関係ない。

 通常の戦闘機に積む対空、対艦ミサイルなんてお手の物。IS用の武装も積める。

 さらにジェットエンジンは従来のものであるので比較的安価であることに加え、通常のパッケージと違い拡張領域(バススロット)を消費しない。完全外付け型のもので構造上メンテナンス性が高く、取り付けが簡単であること。

 ジョイントさえあれば大抵のISに対応可能。

 これが『ファイター』の強みである。

 

 彼女は納入の立ち合いを終え、休憩所で企業のエンジニアと休んでいた。

 

「フランスも導入、というか欧州各国どころか色んなとこから受注来てますね」

 

 予想を裏切る売り上げは嬉しいものだが、彼女は顔をしかめる。

 どこで尻尾を掴まれるか分からない。

 

「IS本来の性能を犠牲にしてでもメリットが大きいのでしょう」

「まぁ、個人的には大儲けなんで全然オッケーなんですがね?」

「もしかして本当の目的って……」

 

「何なんでしょうかねー?」

 

 ケタケタと彼女は笑う。

 

「そうだ、『イグニッション・プラン』ってご存じですか?」

「……確か、現在では第3次期で欧州の統合防衛計画、でしたっけ?」

「そうですそうです」

「あれって現在ようやく開発の目処が立った第三世代のやつじゃないですか?」

 

 なんでまた、と。 

 

「本格的な動きは来年からでしょうけどね……で、今参加国家・企業を募集しているんですよね」

「まさか……」

 

 彼女は苦い顔をし、彼は営業スマイルを浮かべる。

 

「ええ、お声がかかるそうですよ」

「よくもまぁ、新参である私に声をかけようだなんて思いますね」

「熟れた果実は収穫しないといけませんから」

「ついでに出た杭は打たれるんですね、分かりますん」

 

 彼女が危惧するのは嫉妬である。どこにでもあるような。

 

「で、どうするんですか?」

 

 彼女は顎に手を当てる。

 

「取り敢えず、資金だけは出して、スポンサーという立ち位置に着きましょうかね?それが一番当たり障りが無さそうですし」

 

「あまり深くは聞きませんよ」

 

 はぁ、とどこか呆れたように溜め息をつく。

 

「じゃあ、取り敢えず資金提供の意志はあるとだけ伝えますね」

「私はいいとして、あなた方は?」

「……呼ばれましたが、断りました。今は黒字ですが、ただでさえここの経営はISの影響で下がりましたので、IS産業という危険な綱渡りはしたくないものなので」

「賢明な判断ですね」

「その代わりというか、何というか、あなたの『リベレーター社』との窓口になってますがね……」

「その節はどーも」

 

 彼女は頭を下げる。

 

「一応、資金提供以外にISの武装の開発進めるつもりなんで、その時はもしかしたら、どうぞよろしくお願いします」

「ははっ……分かりましたよ」

 

 また仲介しないといけないのか、と男は思った。

 

 

 

 これでしばらくは落ち着くだろう。彼女はそう思いつつ、次のことを考える。

 

(しばらくは専ら専用機づくりかな?一度、なりを潜めてからじゃないと目立ちすぎってこともあるし……そうとなるとあいつに機体構成の要望を聞かないと……)

 

 アパートの階段を上り、自室のカギを開ける。

 

「ただいまー」

 

 軽い音と共に部屋の電気が付く。

 朝と変わらず、クッションの上にISコアが鎮座している。ソラはスーツから着替え、コアと対面する。

 黒光りするコアには自身が映し出されていた。

 黒髪の短髪に金眼。それが今の自分の姿である。

 

「さて、専用機でも作るんだが……」

 

 コアに触れると、一つの設計図で流れてきた。

 

「おおー、しっかりと出来てるじゃんありがとー」

 

 コアを撫でる。

 撫でる彼女は、目の前のコアに昔の自分を投影する。

 

 

 

 

 

 見渡す、といってもそこは室内だった。

 薄汚れた牢屋。

 彼女はそこにいた。

 鉄格子の向こうには無限に広がる世界があるにも関わらず、手を伸ばしても、

 そこに自分が立つことは許されない。

 

 夢を見る。

 白衣の人に撫でられる夢。

 その人達によってコードを繋がれ解析される夢。

 日々違う夢を見る。

 だが、それは同じ夢(・・・)であった。

 気付けば、

 

 目の前に鉄格子は無かった。

 

 振り向けば牢屋があった。

 ちっぽけで、狭い牢屋。

 

 いつの間にか、鉄格子の向こうに立っていた。

 

 

 

 

 

「――ハッ!」

 

 気づいたら寝ていたようだった。

 

「ふぁ~、今何時……って深夜か、簡単な物で済ませるか~」

 

 立ち上がるのも面倒な彼女は四つん這いになって冷蔵庫に向かう。

 

 

 

 

 

 それから一年。世間では第二回モンドグロッソで騒いでる時期。

 

「ここかな?」

 

 彼女はドイツの廃工場にいた。

 目的は専用機の試験運用。

 

「……ん?ISの私的利用は犯罪?それは人間に当てはまることじゃん。私の場合は動かせるかすら不安なんだけど」

 

 一人呟きつつ、周囲をスキャンする。

 

「では……よっと」

 

 彼女の身体が光に包まれた直後、白い機体があった。

 全体的なフォルムとしては曲線的で、腕部の指先も人間の指のように丸くなっていて、通常のISよりも腕は細い。

 脚部も超厚底サンダルを履いた程度の小型なもので、やけに大きいISの脚部よりもスマートである。

 しかも装甲側面には黒いラインが入っており、時折緑の光が走るという素敵仕様である。

 カスタム・ウィングは背部のジョイントに二対のX字型に展開され翼の根本にスラスターが付いてるだけの非常に簡素なものだった。

 他のISに比べ、カラーリングと素敵仕様以外に目立つ要素が一切ない。

 

「で、バイザーは……っと」

 

 虚空に手を出すと、スポーツサングラスがカシャと落ちてきた。

 

「うわぁ……」

 

 あまりにもチープすぎ、と思いつつかける。

 

「うんうん、全然いいじゃん、これ」

 

 満足そうに呟く。

 形が形だけに目立ちにくく、黒いグラスなので暗く見えると思ったらそうでもない。

 彼女は軽く動かしてみる。

 

「おおー、悪くない悪くない」

 

 一通り動かし満足する。あまり動かすとレーダーにでも引っかかりそうなので5分ほどでやめる。

 

「んじゃ、モンドグロッソの会場にでも寄って帰るか」

 

 んー、と伸びをした直後、センサーが向かってくる点を映した。

 

(ん?何だろこれ)

 

 疑問を浮かべ、彼女は工場内の壁に身を隠す。

 すると、一台のワゴンが入って来る。

 男四人が降り、後部座席からは目隠しと猿轡をされた少年が引きずり出された。

 そのあとに一人の女性。

 

(うわぁ……誘拐現場じゃん……どうしよ)

 

 彼女は別に銃を持ってる訳でもない。IS用のならあるが、オーバーキルは免れない。

 

(素手しかないよねぇ……)

 

 拳を握り、それを見つめる。

 向こうでは猿轡を外され椅子に固定された少年が、卑怯だ何だと喚いてる。

 

(取り敢えず、髪型とかは変えとくか)

 

 黒は反対の白髪でロングでぱっつん。そして、金眼はそのままに白目の部分を黒に変える。

 

(うんうん、我ながら完璧な変装。こんな奴はいないでしょ。んじゃ、悪者退治だー!)

 

 半ばヤケクソな彼女は壁から姿を出し、駆け寄る。

 

「悪いごはいねがぁぁぁぁぁ!!!」

「な!何だおま―――っぐほぉ!」

 

 銃を構える暇も与えず、腹パンで仕留め、隣の男を素早くハイキックを顎に決め沈める。

 

「泣ぐごはいねがぁぁぁぁぁ!!!」

「くそっ!当たらない!?―――ぐぉ!?」

「何だこいつ!―――あうっ!?」

 

 ライフルで弾をばら撒くも、彼女は全てを躱し肉薄する。

 そして、綺麗なアッパーを入れ、隣の男の金的を掌底で叩くと男は沈む。

 最後の女性はISを起動する。

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

「おっと」

 

 近接ブレードの横薙ぎをバックステップで難なく避ける。

 

「ちっ!」

 

 すぐに武器を銃に切り替える。

 だが、

 

「遅いよぉ!」

 

 女性が構えるよりも先に、ソラはIS用のハンドガンを生身で展開していた。

 工場内に響き渡る轟音。発射された鉛玉は女性の顔に当たり、シールドが発生する。

 その隙にソラは懐に入り込む。

 

「ぶっ飛べぇ!」

 

 生身とは思えない強烈なボディブローが打ち込まれる。

 そのままISは吹っ飛び、壁を崩して埋もれた。

 

「ふひー、久々のいい運動だったー」

「あ、ああ……」

「あ……」

 

 途中から少年のことを完全に忘れていた。生憎、少年は目隠しをされたままなので何が何だか理解できていなかった。

 そして、センサーには近づいてくるISがあった。

 

「げ、しょ、少年!?」

「は、はい!?」

「元気でね!?」

 

 ソラは長い白髪を揺らし、すぐさま逃走を開始。

 少年の姉が来たのは直後だった。

 

 ソラは寄り道もせず、家に直行。そのままソファーに身を投げる。

 

「あぁ~~~」

 

 足をバタつかせて悶える。

 

「やってしまったよ……色々違くても派手にやっちゃったなぁ……」

 

 後悔しているようだった。

 

「しばらくは……隠居かな……」

 

 翌日の新聞には一面に『前大会覇者、織斑千冬まさかの棄権!?』とでかでかとあった。

 

 




ファイターは結構強そうですが、実はそんなでもない。
ぶっちゃけ、ISの強みを潰して経済的にコストを軽くする程度の代物です。

ここまでなら前回と同じ。

次話からイベント再突入。

とは言っても省略部分を展開するだけですが。

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