かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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当然今月はショタ旭。


かえでさんといっしょ《糖分盛盛Ver》

 

 

 

 俺は神谷旭、十二歳。346プロに所属するアイドルの神谷奈緒の弟であり、俺自身も346プロに所属する俳優。子役ではないというのがささやかなプライド。

 

 そして同じく346プロに所属するトップアイドルの高垣楓の恋人でもある。

 

 まるで嘘のような話だが、まるで冗談のような話だが、本当の話。

 

 これはそんな俺の、恋人との優しい記憶。

 

 

 

 

 

 

 その1

 

 

 

「きゃあああぁぁぁ!!!」

 

 

 

「なになになになに!?」

 

「どうしたの楓ちゃん!?」

 

 楓さんの叫び声を聞いて、事務所のとある一室に早苗さんと瑞樹さんが飛び込んでくる。

 

「さ、早苗さん、瑞樹さん、み、見てください……!」

 

「「えっ!?」」

 

 

 

「ウサミミ旭君すっごい可愛い!!!」

 

 

 

「「……は?」」

 

 なんなんコレ。

 

 

 

「……えっとつまり、たまたま第三芸能課の子たちが忘れていった撮影用のウサミミが置いてあって、それを楓ちゃんにせがまれて付けたら、ああなったと……」

 

「なんかごめんなさい……」

 

 撮影だとか舞台だとかそういうことならばウサミミだろうがなんだろうが抵抗なく付けるが、流石に何もない状況は恥ずかしかった。だから軽く抵抗はしたのだが、結局は押し切られて……。

 

「ううん、いいのよ旭君。悪いのは楓ちゃんだから」

 

 ヨシヨシと頭を撫でる瑞樹さんの手が、俺にはとても重く感じた。

 

 そしてその悪い楓さんはと言うと。

 

「か~え~で~ちゃ~ん?」

 

「~っ!?」

 

 向こうで元婦警のお姉さんに物理的に絞められていた。あっちを向いてヘッドロックをしているので楓さんの表情は見えないが、めっちゃタップしている。

 

「……とはいえ、本当に似合ってるわね」

 

「あの、絶妙に嬉しくないんですけど……」

 

「あらごめんなさい」

 

 いや、俳優をやっている身なので俺も自分の容姿がどう評価されているのかは客観的に把握しているし、楓さんや瑞樹さんが言いたいこともなんとなく分かっている。

 

 それでも、それでもだ。

 

「……一応、その、男ですし――」

 

 

 

 ――カッコいいって、言われたい。

 

 

 

「「「………………」」」

 

「っ!?」

 

 あれ、今、声に出てた!? 俺、声に出してた!?

 

「……ゴメン楓ちゃん、私も今分かったわ」

 

「……分かってくれましたか」

 

「わかるわ」

 

 したり顔のお姉様三人。手で覆った顔がすっごい熱かった。

 

 ……あまりこんなテンプレートなことを言うタイプではないのだけど。

 

 

 

「早く大人になりたい……」

 

「ふふっ、焦らずゆっくり大人になってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 その2

 

 

 

「………………」

 

 旭君が不機嫌だ。

 

 いや、以前のウサミミ騒動のときも割と不機嫌になっていたが、あのときはどちらかというと照れ臭さの方が強いといった感じだった。しかし今日の旭君は、事務所で顔を合わせたときからずっと不貞腐れていた。

 

(……二人は何か知ってますか?)

 

(アタシたちにも……)

 

(事務所に来たときからずっとあの調子ですわ……)

 

 同年代の友人である梨沙ちゃんと桃華ちゃんに聞いても分からない様子。そうなると事務所に来る前、平日なので学校で何かがあったのだろうか。

 

 ……もしかして私の何かが不満なのかも。そんな一抹の不安を抱えつつ、私は意を決して旭君に話しかけた。

 

「えっと……旭君、どうかしたの?」

 

「……何でもないです」

 

 いつもよりも強張った旭君のその言葉を、鵜呑みに出来るほど私は鈍感ではない。しかし無理に旭君から聞き出すことも躊躇われたため、私は何も言わずにソファーに座る旭君の隣へと腰を下ろす。そしてそのままピトリと旭君に身体を寄せる。

 

「……ごめんなさい、自分でも態度が悪かったとは思います」

 

 しばらくして旭君は口を開いた。

 

「ううん、いいの。……何があったか、教えてくれる?」

 

「……凄い子どもっぽいくだらないことなんです」

 

「それでもいいわ。何があったの?」

 

「………………」

 

 このとき、旭君の耳がほんのりと赤くなってきたことで私は「おや?」と思った。何やら空気が変わったというか……。

 

「……その……ですね……実は学校で……」

 

 

 

「……え、えーっと、つまり……」

 

 ――クラスメイトがアイドルの雑誌を見ていて。

 

 ――そこに私の水着グラビアが掲載されていて。

 

 ――それを見ながら盛り上がっているクラスメイトに。

 

「……嫉妬しちゃった……ってことなのね?」

 

「………………」

 

 旭君は既に耳だけではなく顔全体が真っ赤になっていた。

 

「……コホン」

 

 咳払いを一つしてから周りを見渡す。

 

 先ほどまで旭君を心配して物陰からこちらの様子を窺っていた梨沙ちゃんと桃華ちゃんの姿は見えない。旭君の話が始まった辺りから既にいなくなっていた気がする。とにかく今は周りに誰もいない。私はそれを確認した。

 

 

 

 この後滅茶苦茶ムギューッてした。

 

 

 

 

 

 

 その3

 

 

 

 恋人になると、相手に幻滅することがあるらしい。

 

 なんでも付き合いが長くなると気が抜けて、今まで見ることのなかった相手の一面を垣間見ることとなり、それに幻滅してしまうらしい。

 

 楓さんが最初の恋人である俺には当然よく分からない話だ。しいて言うならばお酒に酔ってベロベロになっている姿がそれに該当するのかもしれないけれど……。

 

 ……いや、一つだけ心当たりがあった。勿論幻滅するなんてことはないけれど。

 

 それは楓さんの『朝の姿』である。

 

 

 

「……う……んっ……」

 

 その日、俺は初めて楓さんの家でお泊りをした。ずっと秘密の交際であったためにお泊りなんてことは出来なかったのだが、梨沙や桃華、瑞樹さんや早苗さんといった協力者を得たことで両親への説得が出来るようになり、こうしてついにお泊りを実現したのだ。

 

 とはいえ流石に『同じ布団で寝る』なんてことは出来ず、しかしそれでも(楓さんからの)猛アピールにより楓さんの寝室に布団を敷いてそこで寝ることになった。

 

 ……正直、恋人だということを抜きにしても大人のお姉さんと一緒の部屋で寝るという行為自体のハードルがとても高かった。現に全然寝れなくて二時ぐらいまで布団の中でモンモンとしていた。時々聞こえてくる楓さんの寝息が本当に心臓に悪かった。

 

 そんなこんなでやや寝不足気味で迎えた朝。これ以上布団の中にいては逆に起きることが出来ないと判断した俺は、元々予定していた起床時間になった途端に飛び起きた。

 

 そしてそのままの流れで楓さんも一緒に起こそうと思ったのだが……。

 

「………………」

 

「……楓さん?」

 

「………………はい」

 

「あの、楓さん? お、おはようございま~す……」

 

「………………おはようございます」

 

 反応が遅い。身体は起き上がっているし、目も開いている。しかし返事がワンテンポどころかスリーテンポぐらい遅いのだ。

 

(そういえば『朝が弱い』とか言ってたような……)

 

 これがそれなのだろうか。ユラユラと頭が揺れていて如何にも眠そうではあるし、ふと目を離せば目を瞑ってしまいそうでもあった。

 

「……く、くくくっ……」

 

 そんな楓さんの姿を見て、俺は思わず笑ってしまった。

 

 俺にとっての高垣楓とは、奇跡的に手が届いた高嶺の花のような存在だ。恋人になる前から幻想を抱いていたといってもいいだろう。

 

 だから初めてベロベロに酔っぱらった姿を見たときは、割と衝撃を受けた。今もこうして眠気に勝とうとしている姿に衝撃を受けている。

 

 しかし、それで幻滅したかと言われれば否である。

 

 寧ろ「なんだこの可愛い人は」と思わざるを得なかった。

 

 俺の中の楓さんへの印象が『綺麗なお姉さん』が『綺麗で可愛いお姉さん』にアップデートされた瞬間だった。

 

「……って、楓さん待った!? 着替えるのは待った!?」

 

 

 

 

 

 

 その4

 

 

 

 恋人になると、相手に幻滅することがあるらしい。

 

 なんでも付き合いが長くなると気が抜けて、今まで見ることのなかった相手の一面を垣間見ることとなり、それに幻滅してしまうらしい。

 

 旭君が最初の恋人である私には当然よく分からない話だ。というか逆にどのような旭君を見れば私は幻滅するのだろうかと首を傾げるぐらい。

 

 ……初めて見る相手の一面という話であるならば。

 

 それは旭君の『朝の姿』である。

 

 

 

 それは旭君がウチに泊まりに来るようになってしばらくしてからのことだった。

 

 基本的に朝が弱い私は、旭君よりも早く起きることがない。旭君は小学生ながらキチンと一人で早起きが出来る偉い子なのだ。

 

 しかしその日は珍しく旭君がお寝坊さんだった。昔は緊張してよく眠れなかったらしいのだが、最近ではだいぶ慣れてスヤスヤと寝てくれるようになった。そして前日一緒に遅くまで映画を見ていたことも重なって、私が朝の支度を終えてもまだ旭君は起きてこなかった。

 

「……うふふっ、旭君を起こすなんて初めて」

 

 珍しい状況に少しだけワクワクしながら、私は未だに寝ている旭君に声をかけた。

 

「もう朝ですよ、旭君。()()はとっくにお空に上がっちゃってますよ」

 

 優しく声をかけながら、ゆっくりと彼の肩を揺する。

 

「……ん……」

 

 小さく声を漏らしながら身動ぎする旭君。その姿に「やっぱりまだ子どもだなぁ」なんて本人的には不服に思うだろうことを考えながら、もう一度肩に――。

 

 

 

「……んだよ……」

 

「……え?」

 

 

 

 ――置こうとした手が、宙を彷徨う。

 

「……今日仕事ねぇっつっただろ……起こすんじゃねー……」

 

 枕に顔を埋めた状態から聞こえてくるくぐもった声。当然それは旭君のものなのだが。

 

「……朝ご飯いらん……昼飯んとき起こせー……」

 

 いつも私に話しかけるときと比べて、とても雑というか、荒いというか。

 

「……あ、あさひく――」

 

「……うっさいっつってんの……」

 

「――っ!」

 

 白状します。

 

 すっごいゾクッてしちゃいました。

 

 普段の旭君はとてもいい子で、丁寧で、梨沙ちゃんたちに対してため口で話しているのを見かけるけど、それでもここまで口が悪いわけではなかった。

 

 それが、これである。

 

「………………」

 

 恐る恐る、再び肩に触れる。

 

「……ちっ」

 

「……っ!」

 

 舌打ちと共に腕が跳ね除けられた。

 

「………………」

 

 ……うふっ。

 

「う、うふふっ、うふふふふっ……!」

 

 

 

「え、旭ですか? ……あー、あいつたまに朝弱いことあるんですよ。そんときビックリするぐらい口悪くなって、あんまり生意気だと私も一発頭を……って、どうしたんですか楓さん? なんでそんなに凄い良い笑顔なんですか? なんだか肌ツヤが……」

 

 

 




書いてからアイ転とネタ被りしたことに気付いた。まぁ今回は頭悪く書くことがコンセプトなので問題なし。

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