かえでさんといっしょ   作:朝霞リョウマ

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ラブコメに必須なものってなーんだ?


高垣楓と勉強をしよう

 

 

 

 学生が複数人で勉強する場所、と言って真っ先に思い浮かべるのは図書室だろう。しかし図書室というのは複数人で集まることに適していても、普通の声量で話すことに適していない。

 

 そこで我が高校では、複数人での勉強用に自習室というものが設けられている。ここならば余程非常識に騒がない限りは喋りながらの勉強が許されているため、複数人で勉強会を開きたい生徒はこの自習室を利用するのだ。

 

 というわけで、今回俺と高垣さんと三船さん、ついでに佐藤の四人で勉強をするために自習室へとやって来た。

 

「おっ! 来たな二人ともーこっちこっちー!」

 

 中に入ると、既に机を一つ陣取っていた佐藤がこちらに向かってヒラヒラと手を振った。

 

「楓ちゃんと神谷はそっちなー」

 

(……佐藤ナイス!)

 

 佐藤が指さした先は自身の対面。佐藤の隣には三船さんが既に座っているので、自然に俺と高垣さんが隣同士に座ることになる。これはナイスアシストと褒めざるを得ない。あとでジュースでも奢ってやろう。

 

「それじゃあ、今日はよろしくねー楓ちゃん!」

 

「よろしくお願いします、はぁとちゃん、三船さん」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 三人と共に同じ机に座る。周りの男子生徒からは「なんだコイツ……!?」という嫉妬に似た視線を感じるが、今は甘んじて受けよう。それだけ幸運な状況だということぐらい自覚している。

 

 何せ高垣さんは言わずもがなの超絶美人。彼女に関してはこれ以上特筆することはないだろう。美人。可愛い。三船さんはその性格故に基本的に積極的に男子生徒と会話をしている姿を見かけないが、その小動物染みた雰囲気に庇護欲に駆られる生徒が男女問わず後を絶たない。……ついでに佐藤も黙っていれば美人。

 

 そんな三人と同じ机で勉強をするのだから、周りからの視線を受けるのは自然なことだった。しかしそれでこちらに寄ってくるような生徒は最初からこんなところでテスト勉強をするような殊勝な性格をしていないため、結果として行動を起こす奴はいなかった。

 

「よし、それじゃあ俺たちも早速始めるか」

 

「えー? もうちょっとだけお喋りしよーぜ?」

 

「無駄口ばかり聞いてると摘まみ出されるぞ?」

 

「佐藤さん、今日の目的を忘れちゃいけませんよ……」

 

 高垣さんと一緒の勉強会を開いてくれたことには感謝しているが、元々はお前の赤点回避のための勉強会だということは忘れないように。

 

「ちくしょう……分かったよ分かってますよやりますよー」

 

 ぶーぶーと唇を尖らせながら教科書とノートの準備を始める佐藤。俺たちも同じように鞄の中から自分の勉強道具を取り出す。

 

「えっと、高垣さんは英語をやりたいんだよね」

 

「はい。教えていただけますか?」

 

「俺に分かる部分であれば、力になるよ」

 

 これでも度々友人連中から英語の勉強を見てくれるように頼まれているぐらいには、英語の成績はいいつもりだ。高垣さんの苦手のレベルがどの程度かまだ分からないが、多分大丈夫だろう。

 

「それじゃあ、よろしくお願いしますね、神谷先生」

 

「っ……ま、任せてくれ。必ずや高垣さんの英語のテストを満点へと導いてみせよう」

 

「おー神谷大きく出たなー。大丈夫か~そんなこと言っちまって」

 

「……九十点が堅実に取れるぐらいには……」

 

「それでも十分高くね?」

 

 うるせぇ佐藤! 三船さんが面倒見るって申し出てくれてるんだから、お前はさっさと自分の勉強をやれ!

 

「それじゃあ、そうだな……分かりやすく、この間の小テストの復習から始めてみようか」

 

「はい、先生」

 

 

 

「ここは“A dried wind goes through a heart.”で、訳すと……」

 

「………………」

 

「……えっと、どうかした?」

 

 テキストを読みながら解説していると、ふいに高垣さんからの視線に気が付いた。

 

 何故、彼女の目線はテキストではなく俺の顔に……な、何かゴミでも……!?

 

「神谷君……英語の発音、お上手ですね……!」

 

「へ?」

 

 パァッと顔を輝かせながら音を立てないように静かに拍手をする高垣さん。無邪気にはしゃいでいるようなその姿が可愛らしく思わず見惚れてしまい……それから真っ直ぐに褒められたことをようやく自覚して顔が熱くなった。

 

「あ、いや、それほどでも……」

 

「英語の授業のときも、いつも発音が綺麗で凄いなぁって思ってたんです」

 

 褒められることもそうだが、いつも英語の授業で俺が英文を読むたびにそんなことを思われていたのかと思うとさらに嬉し恥ずかしで体中がむず痒くなってくる。

 

()()だけに、()()()学力ですね」

 

「そ、それほどで……も?」

 

「どうかしました?」

 

「……い、いや、何でも」

 

 チラリと視線を正面の佐藤と三船さんに向ける。

 

「ねーねー美優ちゃん、この動く点っていうのはなんで動いてんの?」

 

「え、えっと、そういうものとしか言いようがなくて……」

 

 集中してるとはとても言い難い状況ではあるが、それでも先ほどの高垣さんの発言は聞こえてなかったようである。……うん、多分俺の聞き間違いだな。

 

「そ、それを言うなら、高垣さんも」

 

「え?」

 

「その……教科書読むときの声が凄い綺麗で、歌とか歌ったら凄いんだろなぁって……」

 

 俺は一体何を言っているのだろうか。高垣さんから褒められたことが恥ずかしくて、さらに恥ずかしいことを口走ってしまったんだけど!?

 

 不味い、キモいとか思われてないか……!?

 

 

 

「……ありがとう、ございます……」

 

 

 

 そこには、真っ赤になって俯く高垣さんの姿があった。

 

「……いや、あの、その……」

 

「………………」

 

「おーいそこー。人に勉強しろっつっといて、なにイチャついてんだー?」

 

「してない!」

 

 

 

 少々脱線したが、各々自分たちの目の前の勉強に戻る。しかし話題まで先ほどの俺の英語のことに戻ってしまった。

 

「英会話かなにか習ってるんですか?」

 

「いや、独学。ネットで英語のニュース見たり、スピーチの真似したり」

 

「えっ!? そうなんですか!?」

 

 少々高垣さんの声が大きくなってきたので人差し指を立てて「しーっ」とすると、彼女ははっと気付いたように自身の口を手で押さえた。

 

「……もしかして、留学を考えてるんですか?」

 

 俺が英語を独学で勉強している理由を尋ねているのだろうか。

 

「んー、留学というか……いつか海外で舞台を観たくて」

 

「舞台……」

 

「そう、舞台。ブロードウェイのミュージカルや、ラスベガスのショーを観に行きたいんだ」

 

 渡米に英会話絶対必須とまではいかないだろうが、それでもしっかりと歌やセリフをしっかりと聞き取り、自分の言葉でその想いを伝える手段が欲しかったのだ。

 

「それが将来どう影響するかなんて分からないけど、きっと俺の人生が変わるような気がするから」

 

「……凄いですね、本当に」

 

 そんなことないよ、と首を横に振る。

 

 

 

「……カッコいいと、思います」

 

 

 

「……え」

 

 なんか今、凄いことを言われたような――。

 

 

 

「あ、神谷先輩だぁ!」

 

 

 

 ――しかし、聞こえてきたそんな声に、その言葉は頭から抜け落ちてしまった。

 

「先輩たちも、ここで勉強してたんですね!」

 

「佐藤先輩と三船先輩も一緒ね。相変わらず仲が良いこと」

 

 背後から聞こえてきた声には聞き覚えがあり、振り返ってみるとそこにいたのはやはり見知った生徒だった。というか部活の後輩だった。

 

「十時と速水、お前らもテスト勉強か」

 

「勿論、そうじゃなきゃ自習室に顔なんて出さないわ」

 

「奏ちゃんと一緒に勉強しようと思ったんです」

 

 一歳年下には見えないほど大人びた容姿の速水と、同じく一歳年下には見えないほど身体の発育が盛んな十時。我が演劇部でも『美少女』として有名人な二人の女子生徒である。

 

「あれ、そちらの方は……?」

 

「もしかして、噂になってた美人転校生先輩かしら?」

 

 高垣さんに気付いて首を傾げる十時に対して、速水はどうやら知っていたようだ。まさか一年にまで高垣さんの噂が広まっているとは……。

 

「高垣楓です。よろしくね、二人とも」

 

「速水奏です」

 

「十時愛梨です! わあ、本当に美人……!」

 

 ニッコリと笑う高垣さんに対して、同じく微笑みながら挨拶を返す速水と十時。

 

「……随分と仲良くなったみたいね、神谷先輩。そんなに近付いちゃって」

 

「……はっ!?」

 

 言われて気が付いたが、確かに隣に座る高垣さんとの距離が近くなっていた。勉強を教えたり小声で話したりしている内に、いつの間にか近付いてしまっていたらしい。

 

「あっ、いや、すみません!」

 

「しーっ」

 

 思わず大声で謝ってしまい、今度は高垣さんに人差し指を立てられてしまった。

 

「私は気にしてませんよ。……もっと神谷君と仲良くなれるのであれば、それは嬉しいですから」

 

「っ」

 

「「……ふーん」」

 

 高垣さんの一言に思わず顔が熱くなっていると、突然速水と十時が低い声を出した。え、何その声、十時お前そんな声出せるならこの間の舞台もうちょっと頑張れたんじゃ……。

 

「あの、もしよかったら」

 

「私たちも一緒に勉強していいですか?」

 

「え?」

 

「ちょっと二人だけじゃ分からないところがあるので、是非先輩のお力添えをいただきたくて」

 

「神谷先輩、お願いしまぁす」

 

 別に構わないけど、何故俺を名指しした。

 

「……私は別に構わないですよ、神谷君」

 

「高垣さんがそういうなら……」

 

 というわけで、急遽後輩二人がこの机に参加することになった。そのまま自分たちの勉強よりも二人の勉強を高垣さんと一緒に見ることになってしまったが……まぁ、こうやって一緒の時間を過ごせるだけで俺は満足である。

 

 

 

(……おい、美優ちゃん、ちょっと目を離した隙に目の前がトンデモナイことになってんだけど……)

 

(……いつかはこうなる日が来るとは思ってましたけど……)

 

(頼むから飛び火だけはすんなよ……人に迷惑かけないところで勝手に爆発してくれ……)

 

 

 

 

 

 

めーちゃん

 

なるほどね19:20

 

後輩二人が彼に好意を抱いてると19:21

 

既読

19:22

そうなんです

 

既読

19:23

あれは私をライバル視する目でした

 

モテるんだね、幼馴染君19:25

 

ちょっと見てみたいな19:26

 

既読

19:26

いくらめーちゃんでもダメです

 

既読

19:26

とっちゃダメです

 

取らない取らない

ただの好奇心だから

19:27

 

既読

19:29

ならいいんですけど……

 

既読

19:31

それで、めーちゃんに相談があるんです

 

私に?19:33

 

力になれるならいいけど19:33

 

既読

19:35

えっとですね

 

既読

19:40

胸を大きくする方法を

 

ちょっと待とうか19:41

 

 

 

 




椛&月「「うわぁ……」」

椛「確かに、恋愛ものにライバルってのは定番だもんね……」

月「この世界だとまだ決着ついてないから……」

椛「お父さん大丈夫かな?」

月「基本的にお母さん一筋だから、大丈夫だとは思うけど……」

椛「現実より年齢が離れてない二人が、何処まで本気で来るか」

月「凄いことになりそう……」

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