投稿が遅れまくって本当に申し訳ありませんでしたorz
「全くもうっ、何を考えてるんですか姉さんは。仲裁するならまだしも余計に話をややこしくして。お陰で練習時間が半分以上削られちゃったんですよ」
「だ、だからごめんってば桜。でも、本当に許せなかったのよ。妹にあんな言い方するなんて…」
「デモもストライキもありません。それなら兄さんだけ連れ出すなり朝練の後で話をするなり、もっと無駄の無いやり方があった筈です」
正論過ぎる意見に私はぐうの音も出ない、文字通りご尤もというやつだ。
妹に口喧嘩でここまで打ち負かされたのは随分と久し振りである。
普段なら私の顔を立てる為、早々に向こうが折れてくれるのだが、それをしない辺り今回は相当ご立腹らしい。
ハッキリと自己主張出来る様になった妹の精神的成長に嬉しくなる反面、何をしても「姉さん凄い!」と慕ってくれた幼い頃の妹と、融通の利き辛くなった今の妹を比べて悲しくなってしまう。
まあ如何にも私怒ってますっ、と云わんばかりに頬を膨らませている妹の可愛い表情を観賞出来るなら、これくらいのお説教は安いものだ。
妹にとっては精一杯の怒ってますアピールなのだろうが、どうしても可愛さの方が先行して全然怖くない。
というか
寧ろ妹のこの
そういう意味では妹の天然具合が怖ろしい。
「まあまあ桜、遠坂も十分に反省してるみたいだし説教はそのくらいにしておいたらどうだ?じゃないと昼御飯食べる時間が無くなっちまう」
「む~……そうですね、今日はこのぐらいにしておきます。でも姉さん、次同じ様な事したら許しませんからね」
「分かってるってば。十分反省しております。ほら、早く食べましょ。ご飯は急いで食べると体に悪いしね」
「正確にはよく噛まずに食べると、だな」
反論出来なくなった私を見兼ねたのか、衛宮君が助け船を出してくれた。
片想いの相手からの仲裁というのが効いたのか、桜は渋々といった風に話を終わらせる。
助かった、あのままだと多分、もう数分は説教が続いていただろう。
桜の怒りを沈めてくれた衛宮君に心の中でお礼を述べつつ、私は持参したお弁当を袋から取り出した。
言い忘れていたが、現在はお昼休みだ。
私と桜と、桜の紹介で
知り合った当初は、桜と親しくしてくれている事に対し感謝すればいいのか、それとも妹を
でも付き合っていく中で噂通りの誠実さ、優しさを自然と感じる事が出来たし、桜の健気なアピールにうんともすんとも反応しない
言葉遣いや態度は他の人と同じ様に猫を被ったもので接しているが、こうやって稀に昼食を一緒にするくらいには親しい仲なのだ。
まあ桜に対しては
だがそれはそれ、これはこれだ。
神秘を探求する魔術師には特別親しい一般人の友人等必要無い。
というより、作ってはいけない。
魔術とは、神秘とは秘匿するものなのだから。
故に、必要以上に私の領域に踏み込ませるつもりはないし、逆に相手の領域に踏み込むつもりも無い。
実際、桜を交えず二人っきりで会話した事なんて片手で足りるくらいの回数だし、内容もたまたま廊下で会った時に挨拶と世間話をしただけだ。
この猫被りは遠坂凛なりの線引きの仕方であるし、けじめでもあるのだ。
…私と同じく魔術師の家の当主である筈の桜は社交性高いってレベルじゃないけれど。
不可侵の条約を交わした遠坂と間桐の当主同士であるにも拘わらず、私と実の姉妹だという事をあっさり友人にカミングアウトするし、桜はその辺の自覚が足りないんじゃないかと時々心配になる。
まあでも、自宅に友人を招いた事は一度も無いみたいだし、一応最低限のセーフラインは心得ている、のかな?
「おっ、遠坂の弁当、相変わらず
取り出したお弁当箱の蓋を開けると、衛宮君がこっちを覗き込みながら称賛の言葉を投げ掛けてくる。
「ふふ、ありがとうございます衛宮君。でも衛宮君のお弁当もとても美味しそうですよ」
「いやいや遠坂の弁当には負けるって。栄養のバランスは勿論、
目を輝かせながら心底感心しているといった様子の衛宮君。
高々お弁当一つでここまで誉められるというのは少々照れ臭いが、悪い気はしない。
衛宮君が料理の事になるとテンションが上がるのは割りと何時もの事だし。
「やっぱり凄いな遠坂は。品行方正で成績優秀、おまけに料理もこんなに上手いなんて。遠坂を嫁に貰える奴はとんでもない幸せ者だな」
「っ……ど、どうしたんですか衛宮君。今日はやけに饒舌ですけど、何か良い事でもあったんですか?」
「ん?いや別に……ぁ…ぁ~、でも朝のあれは……うん、そうだな。良い事あったよ今日。でも遠坂を凄いと思ってるのは、それとは関係無いぞ。口に出さないだけで、常日頃から遠坂の事は尊敬してるしな俺」
顔から火が出そうだ。
全くこの男は、何故そんな至極真面目な顔でこんな歯の浮きそうな台詞をペラペラと垂れ流しに出来るのだろうか。
しかも今の言葉が嘘偽りの無い本心である分、余計に
衛宮君はある意味、ウチの妹より純粋だ。
言動の一つ一つが真面目で、細かい仕草が天然そのものである桜とは少し違い、衛宮君は
何と云うか、
他人が何を頼んでも断らないし、寧ろ積極的に周りを助けようとする。
しかも見返りは一切求めないというおまけ付き。
まるで都合の良いヒーローの様な彼の在り方に、打算や嘘なんて全く無いという事は既に分かり切っていた。
浅い付き合いしかしていない私ですらそう思うくらいだ、彼の事を常に誰よりも近くで見ている桜は気が気でないんじゃないかと思う。
ほら、今だって涙目になりながらこっちを羨ましそうに睨んでいるし。
「私だって頑張ってお弁当作ってきたのに…先輩はいつもそうです!姉さんと居る時は姉さんの事ばかり見て!やっぱり、どうせ楽しくお喋りするなら単なる後輩の女子より学園のアイドルの方がいいって事ですか!姉より優れた妹等存在しないって事ですか!」
「うおっ!?ちょ、ま、待て桜。言ってる意味がよく分からない…っていうか学園のアイドルという立場ならお前と遠坂は互角…」
「ふーんだ、もういいですよー。私は一人で黙々とお弁当食べさせて貰いますから。先輩と姉さんは二人で仲良くお喋りし過ぎて午後の授業に遅刻すればいいじゃないですか」
衛宮君が私とばかり話していた事が気に入らなかったのだろう、桜が拗ねてしまった。
頬を膨らませてそっぽを向く桜可愛い。
まあ端から見れば口喧嘩で言い負かされている相手を庇ったり、高が弁当一つで相手の人となりをべた褒めしたりと、男子が好きな女子を口説いている様に見えたのも要因だろう。
というか妙に斬新な悪口ね。
「いやなんだよその斬新な切り返し方は…あー、悪かったよ桜。ほら、お詫びといっちゃなんだけど唐揚げ一つやるからさ」
「ふーんだ、私は腹ペコキャラじゃないんですー。そんなんじゃ釣られてあげませんから。っていうか女の子に対して揚げ物で機嫌を取ろうなんてナンセンス過ぎます。先輩は乙女心を一から勉強し直して来てください」
「その意見には私も全面的に同意しますよ衛宮君」
「ぬぐ、なんでさ…………本当にいらないのか桜?」
「……………欲しいです」
あ、割りと早く折れた。
腹ペコキャラではないと言うが、桜は昔から、少なくとも私より食欲旺盛な娘だ。
食べ物で釣るのは結構効果的な手である。
桜の機嫌が回復傾向にあると分かってホッとしたのだろう、衛宮君は朗らかに笑いながら、自分のお弁当のおかずである唐揚げを一つ摘まんで桜に差し出した。
「そっか、それじゃはい、あーん」
「っ!?え、ちょ、先輩!?」
「どうした?ほら、あーん」
嗚呼、衛宮君ってばまたそんな天然行為を…。
天国から地獄ならぬ、地獄から天国…いや、この場合は棚から牡丹餅と言った方が適切かしら?
そんな状況に顔を真っ赤にして狼狽える桜。
可愛い。
「…あ、あーん」
「ん」
衛宮君から差し出された唐揚げを、目をつむって雛鳥の様に啄む桜。
可愛い。
あと衛宮君グッジョブ。
だが同時にうらやまけしからん。
タイミングを見計らって次は私が行こうと決意する。
「どうだ桜?」
「お、美味しいです!いつもの倍は美味しかったです!」
「え、本当か?味付けはいつもと同じ筈なんだけどな」
「そういう意味じゃないと思いますよ衛宮君」
私の言葉に、クエスチョンマークが幻視出来そうな程キョトンとした表情を浮かべる衛宮君。
いやほんと、ある種完成された芸術と言える程に、お手本の様なキョトン顔だ。
思わず笑いが込み上げそうになる。
でも駄目よ凛、誇り高い遠坂家の当主である貴女がお腹を抱えて爆笑するなんて無様な真似、例え妹と二人っきりだとしてもやってはいけない。
というか寧ろ桜にだけは見られたくない。
私は常に、桜にとって格好良いお姉ちゃんで居たいのだ。
「でもそんなに美味しいなら私も食べてみたいですね。どうせなら、全員で食べさせ合いっこしてみませんか?ほら、桜も貰った物は、しっかり返さないといけないでしょう?」
執念で何とか笑いを抑えた後、意味深なしたり顔で桜を見遣りながら言葉を紡ぐ。
そんな私の援護射撃の意味を正しく受け取ったのであろう、桜は何かに気付いた様にハッとなった後、満面の笑みで衛宮君に自分のお弁当のおかずを差し出していた。
「そ、そうですね!じゃあ先輩、これ、私からのお返しです!はい、あーん」
「うぇ!?…あ~、うん、じゃあ、折角だから…」
顔を赤くしながら差し出されたおかずを食べる衛宮君と、その様子をニコニコしながら見ている桜。
可愛い。
先程とは完全に攻守が逆転していた。
まぁ順番こそ後回しにされてしまったが概ね計画通りだ。
これで桜の恋路を手助けしつつ、桜の作った料理にありつく事が出来る。
可愛い妹の為だもの、これくらいは譲歩してあげるから、精々今の幸せを文字通り噛み締めなさい衛宮君。
そんな事を思いながら、私は自分の順番が回ってくるのを心待ちにするのだった。
∵∵∵
「さて、じゃあ教室に戻るか」
お弁当も食べ終わり、楽しく談笑していた私達だが、姉さんがもうそろそろお昼休みが終わる時間だと気付き、それを受けた先輩が教室に戻ろうと切り出しながら立ち上がった。
嗚呼……さっきの食べさせ合いっこは本当に至福の時間でした。
先輩にあーんしてもらうだけでなく、こっちからもさせてもらえるなんて…。
本当に姉さんには感謝してもし切れません。
「あ、ごめんなさい衛宮君。私、桜と二人っきりで話したい事があるので、先に戻っていて貰えませんか」
そんな感じで、元々カンストしていた私の好感度を更に現在進行形で限界突破させている姉さんが、私と二人っきりで話したいと言い出した。
姉さんは私以外の人と話す時、必ず他人行儀な丁寧語を使う。
それは先輩が相手でも例外ではない。
冬木市のセカンドオーナーたる遠坂家の人間としての心構えを、常に忘れる事無く実践する姉さんの姿は、ずっと昔から私の憧れだ。
「ああ、分かった。遠坂がそう言うなら先に戻ってる。今度また三人で話そう」
「ええ、ありがとうございます衛宮君」
姉さんの頼みに先輩は何も疑問を呈す事無く屋上から去っていった。
一見何も考えていない様に見えるが、先輩は確り相手の事情と心の内を考えて返答しているのだ。
姉さんが二人っきりで話したいと言ったから、余計な詮索をすべきでないと判断したのだろう。
屋上に居るのが姉さんと私の二人だけになって数瞬、その場の雰囲気が変わった。
別に、何時もと変わらない日常が繰り広げられていた平和な町が、一瞬で銃弾飛び交う戦場に変わってしまったとか、そういうとんでもない変化が起こった訳ではない。
ただ姉さんの表情が上品な笑顔から、キリッと引き締められた真剣なものに変わっただけ。
特に何も、大仰な事なんてしていないのに、表情を変化させるだけで、その場の空気すらも変えてしまう。
何と云うか、姉さんは昔っからそういう、周りを従える覇気の様なものを有しているのだ。
「桜」
「はい、何ですか姉さん」
姉さんの呼び掛けに疑問形で応じる自分の言葉がやけに白々しく感じる。
この時期に、このタイミングで、姉さんが私と二人っきりで話したい事なんて分かりきっているのに。
「
案の定、姉さんは私の左手に巻かれた包帯、
…
今日の朝、先輩に問い詰められた後、認識阻害の魔術を左手にかけておいたお陰で美綴先輩達や弓道部、クラスの友達にも包帯の事を聞かれる事は無かった。
でもこれは初歩の簡易魔術、一般の人を欺く事は出来ても魔術師相手には殆ど在って無い様なものだ。
優秀な魔術師である姉さんが気付かない道理が無い。
「はい、昨日の夜に聖痕が浮き出ました」
「…そっか、やっぱり桜にも出たんだ」
姉さんは私と同じ
そんな姉さん相手にこれを隠す必要等一切無い。
私が有りの侭の事実を打ち明けると、姉さんは少しの間を置いて感慨深げに言葉を紡いだ。
「そりゃそうよね。御三家の一つ、それもサーヴァントシステムと令呪を開発した間桐の現当主に資格が無い訳ないし」
「あはは…その割りには発現がやたらギリギリですけど…やっぱり養子って事が影響してたんでしょうか?」
「さあね、お父様達はその辺の事についてあまり詳しく教えてくれなかったし…まぁ兎も角、それが宿った以上、参加するんでしょ?」
姉さんが此方を見た。
その視線は、姉として暖かく妹を見守る類いのものではなく、魔術師として眼前の敵を見据える類いのものだった。
姉さんは今、私の事を守るべき妹ではなく、倒すべき敵として見なしている。
血の繋がった家族にそんな視線を向けられる事に、
でもそれと同じくらい、
姉さんはずっと昔から私の憧れと同時に目標でもある。
内気で臆病で人見知りで、そのくせ我が儘で自分勝手で、おまけに頭も要領も悪いダメダメな私とは何もかも違う。
何時だって明るくて優秀で、自分の信念を決して曲げる事無く有言実行を貫き通してきた、かっこいいお姉ちゃん。
魔術師としての能力は勿論、日常生活の中でも徹底して優等生であり、ある意味孤高とすら表現出来そうな姿勢を保ち続ける強さ。
人恋しさに中途半端な交遊関係を広げている自分とは大違い。
そんな、私には勿体無いくらい、凄い人。
そんな人の隣に、私は今立っている。
嬉しくない筈が無い。
私は姉さんの目を真っ直ぐ見つめ返し、確かな誇りと決意を持って宣言した。
「勿論です──────姉さん、
私の明確な宣戦布告を受け止めた姉さんは、肉食獣を思わせる獰猛な、それでいてどこか愛嬌のある、力強い笑みを浮かべて応じた。
「OK、桜。貴女の宣戦布告、確かに受け取ったわ。私も全力で勝ちに行く。妹だからって手は抜かないから覚悟しなさい」
「当然です。寧ろ安心しました。姉さんが、妹だから、なんて理由で手を抜く様な人だったら、私本気で失望してましたよ」
「っ……そ、そう。それなら安心なさい、遠坂家の当主として、誇りある戦いを約束するわ」
?
一瞬姉さんが「あっぶねー」とでも言いたげな表情になった様な…きっと気のせいですね。
「うん、話したかったのはこれだけ。桜の覚悟、しっかり確認出来てよかった」
「…私も、今日姉さんと話せて良かったです」
「あらそう?まあ、どうせやるなら後腐れ無い方が良いしね」
「ふふ、そうですね」
「じゃ、私達も戻りましょうか。早くしないと授業始まっちゃいそうだし」
そう言うと姉さんは私に背を向けて屋上の出口に向かっていく。
その後ろ姿はとても堂々としていて、これから不特定多数の人物と、それどころか実の妹と殺し合う事に対する悲壮感なんて、全く感じられない。
やっぱりお姉ちゃんはカッコイイな、なんて思いながら私はその後に続いて教室に戻りました。
あ、も、勿論私は姉さんを殺す気なんて全く無いですよ?
∵∵∵
深夜。
世間の大半の人々が明日に備えて眠りについているであろう時間に私は起きていた。
これからとある儀式───正確にはこれから起きる大儀式に参加する準備の為の儀式───を行う為、ある場所を目指している。
と言っても家の中だからそう距離も無いのですけど。
「今夜は月が綺麗ですね…」
電気を一切点けていない暗い廊下を懐中電灯で進む途中、窓から差し込む月明かりを見て思わずそう呟いていた。
11年前、私が引き取られた当時の間桐の屋敷は、先代のお爺様の意向だったのか、廊下も食堂も蝋燭を立てる燭台だけで電灯の類いが一切無く、屋敷の周りも木々が生い茂り、やたら屋敷全体が薄暗かったのを覚えている。
それこそ、ご近所様にお化け屋敷と陰口を叩かれていたくらいだ。
それがどうしても嫌だった私は当主となった後、周囲の木々を伐採し、家の中も業者さんに頼んで電気を通して貰ったりと大掛かりなリフォームを施した。
その甲斐あって、今では上流階級の貴族が住む様な(あながち間違ってない)立派な洋風のお屋敷となっています。
日中はよく陽射しが入り込み、夜だってこうして月明かりで外の町並みが見える程明るくなった。
もう断じてお化け屋敷とは呼ばせません!
そんな事を考えている内に私は、屋敷の一階にある
この扉の先にだけは誰も入れた事が無い。
一般の方である業者さんは勿論のこと、家族である兄さんすら入れた事の無い、この扉の先には屋敷の心臓部────私の工房がある。
幾重にも張り巡らせた隠蔽と防御の結界で護られている為、兄さんはこの扉の存在すら知らない筈だ。
名実共に私だけが使う場所。
そこへと通じる扉を開けて中へ入り、私は奥へと進んでいった。
∵∵∵
屋敷の地下にあるにも係わらず、工房の中は明るい。
工房までの長い通路も同様だ。
業者さんを中に入れた事は無いので、当然電灯の類いではない。
これは私が作って設置した魔術礼装による明かりだ。
霊脈から吸い上げた魔力を用いて発光させているので、設置してある限りは半永久的に使い続ける事が出来る。
ぶっちゃけて言えば買い換える必要の無い電球みたいなものです。
そんなエコな光に照らされている工房の中は…一言で言うと『腐海』だった。
そう、ナウシカに出てくる
魔術によって調整された、使い魔の蟲達にとって最適な環境を保つ為の、先ず間違いなく自然界には存在しない不気味な植物達が、僅かな通路、水路のスペースを残して工房内を埋め尽くしている。
と言ってもそこまで生理的嫌悪感を抱く様な内装にはなっていない。
礼装の光によって一定の明るさは確保されているので、どちらかと云うとあのナウシカの秘密の部屋っぽい感じだ。
そして、当然その腐海で飼育されている、私の使い魔たる多種多様な蟲達も沢山います。
魔術によるリンクで蟲達の数も種類も把握出来る様にしてあるので管理が行き届かなくなるという事態には陥らないのですが、何分どの子も魔術の実験で品種改良を施している為、一般に認知されている虫達とは、見た目は勿論習性も秘めた能力も全く違うものとなっている。
だから工房内の環境には人一倍気を遣わないとこの子達はたちまち死滅してしまうのです。
管理は出来るが、その為の労力が減る訳ではない…労働というものは本当に世知辛い。
なんて仕事に追われる社会人の様な考えが頭を
使い魔で蟲とはいえ、自分の研究の為に生き物の命を弄んでいる事に変わりはないのだから、無責任な事はしたくない。
私は儀式の前に蟲達の体調と中の状態のチェックを始める。
おおよそ、自然界には存在しないんじゃないかと思われる幾何学的な模様が体表に浮き出た芋虫を、私は指の上に乗せて撫でたり突付いたりしてみる。
芋虫なので鳴く事はないが、私が触る度に体を捩らせたり、必死に頭を擦り寄せて来たりと、その仕草の一つ一つがとても可愛い。
思わずこちらの顔にも笑みが浮かぶ。
「虫と戯れて笑う女の子っていうのも、我ながらどうなんでしょうね」
自分の行動を客観的に見て考えてみたら、思わずそんな呟きが漏れて苦笑してしまう。
でもそれは仕方が無い事です。
魔術師が己の扱う使い魔を怖がっていたら話になりませんから。
間桐の一族が代々受け継ぎ、研鑽してきた魔術は、『吸収』と『束縛』の特性を掛け合わせた『支配』である。
その為、周囲の魔力の奪取や、使い魔の使役に長けている。
本来なら使役する使い魔は犬でも猫でも鳥でも、動物なら何でも構わないのだが、私は敢えてお爺様が使役していた蟲に
これは歴史を受け継いできた間桐家当主様達への尊敬を忘れない為、そして私自身が犯した罪を忘れない為のものだ。
先代の間桐家当主から、その座と命、そして
∵∵∵
結論から述べよう。
私、間桐桜は7歳の時、先代の間桐家当主である間桐臓硯を殺害し、魔術刻印と間桐家当主の座を奪った。
…何と云うか、結論だけ述べると、ほんと私とんでもなく極悪な子供なのですが、一応言い訳をさせて貰うと、決して故意にやった訳じゃないんです。
不幸な事故というか、兎に角当時の私にお爺様に対する殺意なんて微塵も無かったのは確かで。
…まぁ、こんな自己弁護をしたところで事実は全く変わらないのですが。
架空元素・虚数という稀少すぎる魔術属性を取り扱う事の出来る魔術師の一族は存在しない。
それは私が養子となった間桐家も例外ではなく…というかそもそもそんな家系が在ったらとっくに封印指定として潰されているだろう。
では何故私の養子先に間桐が選ばれたのか。
『どちらかの血統が途絶えた時、もう一方は養子を出す』という遠坂と間桐の間で交わされた条約も勿論あるが、一番の理由は間桐が有する
魔術によって対象の人物の体質を調整、変化させ間桐の魔術に馴染みやすくさせるというものだ。
これによって虚数という扱いにくい属性を少しでも間桐の属性に近づけるというのがお父様、そしてお爺様の狙いだったのだ。
そして私が間桐の養子となって約2年、遂に最終調整の時がやって来ました。
この最後の調整と同時に魔術刻印を移植する、お爺様にそう告げられた私はこれまでの2年間の努力を無にしない為、お爺様の期待に応える為、そして何より聖杯戦争で亡くなったお父様の悲願を達成する為、張り切って儀式に臨みました。
…とは云っても調整は完全にお爺様の主導で行われてきた為、子供の私に出来るのは精々抵抗せず有りの侭に儀式を受け入れる事だけだったのですが。
で、気が付いたらお爺様どころか、あれほど沢山居た蟲が一匹残らず、綺麗さっぱり私の目の前から消えてしまっていた。
あ、魔術刻印は確り移植されてました。
ど う し て こ う な っ た
臓硯「解せぬ」
ということで第三話でございます。いや、もう、ほんと投稿が遅れて申し訳ございませんでした。活動報告見て貰えれば分かると思うんですが胃腸風邪のせいで完全にモチベーション削り殺されました。病気と怠惰は人をここまで堕落させるんですね。
一応今回は前半という形になっております。分ける意味はそこまで無い気がしたんですが、一刻も早く投稿したかったのと最後のオチの文を思い付き急遽予定変更をしたためであります。
なんやかんやで9000文字越えてるし…。
というかここに来てまだ英霊召喚してないってなんなん…orz
次回は絶対桜ちゃんに英霊召喚して貰います。召喚するだけで終わるだろうけどな(´・ω・`)
少し解説入れますと、先ず凛と士郎が原作開始前からそこそこ親しい間柄になってます。可愛い妹に付く虫は確り見張らないとね!とは言っても聖杯戦争中、一気に距離を詰めたこの二人にとっては誤差みたいなもんですよね。特に深い設定は考えてないです。
でもって臓硯さん死んでました。実は生きてるとかそんな事は無いです。マジで死んでます。完全に退場なされております。
桜ちゃんを今みたいな性格にするためにはトッキーの奇跡的ファインプレイと臓硯さんの退場が必要と判断しました。いや臓硯さん嫌いって訳じゃないんですよ?Fateのキャラは本当にみんな大好きですから。だがあの爺さんを上手いこと動かす自信が私にはありませんでした…すまぬ、すまぬ…
臓硯さんが如何にして桜ちゃんにコロコロされたのか、その辺の詳細は次回書かせていただきます。まぁそこまで難しい内容じゃないです。Fateのファンの皆様なら簡単に思い付きそうな感じです。
次回も読んでくださると嬉しいです。それでは。