Fate/SAKURA   作:アマデス

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あらすじの通りです。一時のテンションでやっちまった。後悔だけはしていない。


1話 衛宮/桜

 ───いいかい、よく聞きなさい桜───

 

 

 約11年経った今でも鮮明に覚えている。

 目線の高さを私に合わせて話始めた実父(おとうさん)の表情を、姿勢を、声色を、その内容を一字一句違わず覚えている。

 

 

 ───お前は生まれつき、誰にも負けない素晴らしい才能(ちから)を、それこそ凛にだって負けないくらい凄い才能(ちから)を授かったんだ───

 

 

 まるで我が事の様に喜色の感情を浮かべながら私にそう言い聞かせてきた実父(おとうさん)

 姉さんにも負けないという御墨付きを貰えて凄く嬉しかったのを覚えてる。

 

 

 ───だが、世の中にはそんなお前の才能(ちから)を、お前の命ごと奪おうとしてくる悪い人が大勢居るんだ───

 

 

 それと同時に、隠し切れていない悲しみを滲ませながら言葉を紡いだ実父(おとうさん)

 自分のせいで実父(おとうさん)が悲しんでいる事が凄く辛かったのを覚えてる。

 

 

 ───すまない、私ではお前を護ってやる事が出来ない。だからこれからお前は、私の代わりにお前を護ってくれる人の下で暮らすんだ───

 

 

 『余裕をもって、優雅たれ』。

 家訓であるそれをいつもと同じ様に実践しようとしていたのだろうけど、自分の手で自分の娘を護れない、そんな事実に対する悔しさが隠し切れず表情に出ていた実父(おとうさん)

 

 …普段とは違う実父(おとうさん)の一面が見れて少し可笑しかったのは内緒。

 

 

 ───だが、何時までも周りの人に護られていてはいけないぞ。いつか大人になって、自分一人で生きていく時が来たら、自分の身は自分で護るんだ。その為の術を教えて貰いなさい───

 

 

 架空元素・虚。

 数十年に一人輩出されれば多いとさえ評される、ある意味では呪いに等しいほど稀少な才能(ちから)

 それを持って生まれてしまった私には、最早魔道の道に進むという選択しか許されていなかった。

 望む望まないに関わらずこの才能(のろい)は災厄を引き寄せる。

 抗う術を持たなければ自分の命は(おろ)か、自分の愛する人達の人生も壊してしまう。

 その事をまだ子供だった私にも理解出来るように教えてくれた実父(おとうさん)

 

 

 ───本当は、父が私にそうしてくれた様に、お前達にも自分で選んだ道を歩ませてやりたかった───

 

 

 実父(おとうさん)のお父さん、要するに私の祖父は実父(おとうさん)に魔術師として家を継ぐかどうか、選択の余地を与えたらしい。

 

 …選択肢自体無かった私としては実父(おとうさん)の事が少し羨ましかった。

 

 

 ───でもきっとお前なら大丈夫だ。何しろ私の自慢の娘なのだからね。お前はきっと、魔術師として大成する事が出来る───

 

 

 でも魔術師の道に進んだ事は後悔していない。

 大好きな実父(おとうさん)に認めて貰えた、そして何より姉さん(憧れの人)の隣に並び立てるかもしれないという事が嬉しかったのだから。

 

 

 ───ではな、強く生きなさい桜───

 

 

 

 

 

 これが、私の記憶している実父(おとうさん)との最後の会話だった。

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 チュンチュン、という独特の高い音を伴った小鳥の囀りが健気に鼓膜を刺激してくる。

 だが昨夜遅くまでの作業で疲れ切ったこの身体(からだ)を覚醒させるには、どうも効果が薄過ぎたらしく、僅かに開いた土蔵の扉から射し込む朝陽の掩護射撃によって漸く半覚醒にまでこぎ着けた。

 ぼんやりとした頭で、朝になったという事実を朧気に認識したが、生憎身体(からだ)の方は未だ活動を開始する事を拒絶しているらしい。

 仕方無くあと数分程横になっている事を決断。

 脳と体が馴染むまで暫しの微睡みに甘んじていようと自己弁護を成立させた矢先、

 

 

 

 誰かに体を揺さぶられた。

 

 いや、誰かにじゃない。

 この相手の事を気遣って控えめに、だが相手を起こすという本来の役目を決して忘れない、優しさと頑固さが絶妙に織り混ぜられた揺さぶり方は。

 

 というかこんな朝早くから自分を起こしに来る人物等、一人しか知らない訳で。

 

 判ってしまったからには起きない訳にはいかず。

 未だ起床を拒む体を強制的に引き上げ、目の前の『家族』と挨拶を交わした。

 

 

「おはよう、桜」

「はい、おはようございます先輩」

 

 

 目の前の少女は片手で髪を掻き上げながら柔らかな微笑みを俺に向けてくる。

 そんな何気無い一挙手一投足が驚くほど様になっていて、少女の背後から射す朝陽のコントラストもあいまり神聖な雰囲気を醸し出していた。

 その美しさは正しく天使の如し。

 

「っ…あ、あの、先輩?いきなり天使だなんてどうしたんですか?何か楽しい夢でも見てたんですか?」

 

 しまった。

 どうやら先程の思考が口から出てしまっていたらしい。

 幸い小っ恥ずかしいポエム部分は口走っていないようだが、これは上手いことフォローしないと家を出て学校に行くまで…いや、最悪今日丸一日微妙な空気の中で過ごす事になってしまう。

 それは勘弁願いたい。

 

「ああっ、いや、別に変な夢見てたって訳じゃないぞ。ただ桜の笑顔が天使みたいに綺麗だって…」

「え…」

 

 ガッデム。

 フォローするどころか完全に墓穴を掘ったでござる。

 朝っぱらから後輩の女の子を捕まえて天使みたいに綺麗だ、なんてあまりにも寒過ぎる。

 俺ってこんなに軟派な人間だったのか?

 

「……あ…そ、の…は、早く着替えてくださいねっ!私、朝御飯の用意してきますからっ!!」

 

 真っ赤になった顔でそう早口に捲し立てながら桜は土蔵を出て行ってしまった。

 その動作が矢鱈機敏で少し驚く。

 

 ……やってしまった。今の出来事は間違い無く俺の脳内黒歴史フォルダに保存一直線だろう。

 厳重にロックし、藤ねえ以下周囲の人々に知れ渡らないよう桜に口止めを施さねばならない。

 

 いや待て、落ち着け衛宮士郎(えみやしろう)

 それは早計と云うものだ。

 あの桜があんなに顔を紅くして恥ずかしがるなんていうレアなショットを自らの黒歴史ごときで封印してしまうなんて真似はすべきではない。

 慎重に己の迂闊な発言部分だけをメモリーから切り離し、桜の笑顔と紅潮した頬、髪を弄る動作その他諸々を抽出。

 青春の思い出フォルダに保存するのだ。

 

 そんな脳内会議を終えた後、俺は土蔵を出て淡い朝陽を全身に浴びながら思いっきり体を伸ばす。

 硬い土蔵の床で寝ていたせいだろう、伸びをするたび身体中の筋がポキポキと小気味の良い音を立てる。

 最初の頃は首を寝違えたりして次の日の朝が地獄だったが、流石に数年続けていると慣れてくる。

 寧ろこうやって身体中の筋を解すのが癖になってきていたりする。

 桜に不健康ですっ、と怒られてしまうのが玉に瑕だったりするが。

 

 それはそれとして、俺は朝の目覚めをより快適なものにすべく、目を閉じて先程抽出した天使の姿を瞼の裏に思い浮かべる。

 

 

 

 間桐桜(まとうさくら)

 それがさっきの天使の名前。

 私立穂群原学園に通う、俺の『後輩』で『友人の妹』、そして掛け替えのない『家族』でもある少女だ。

 

 知り合ったのは三年前、俺の友人である間桐慎二(まとうしんじ)に連れられて来たのが始まりだった。

 当時からよく笑う娘で、大人びているという理由だけではちょっと片付かないくらい社交性に溢れた少女だった。

 

 常に口元には笑みを浮かべ、挨拶をする時はそれに輪を掛けて満面の笑顔。

 どんなにつまらない話題でも此方に視線を向けて丁寧過ぎるくらいに相槌を打ち、コロコロと表情を変えて反応してくれる。

 おまけに話の中で然り気無く兄である慎二や年上である俺の顔を立ててくれて、初対面とは思えない程気持ちよく話せたのを覚えている。

 

 藤ねえなんかは会話を始めて2分ちょいで、桜の背骨が心配になるほど容赦無く抱き着き、摩擦熱で火傷するんじゃないかと思うほどに頬を擦り付けるという、魅了(チャーム)の魔法にでも掛かったんじゃないかってくらいデレデレになっていた。

 だがそれは藤ねえがチョロいというだけでなく、やはり桜の人としての魅力によるものである事は明らかで。

 

 何せあの遠坂凛(とおさかりん)と並び、学園では穂群原三大アイドルと称され、周囲の羨望を一身に引き受ける程なのだから。

 

 常に優雅で名前の通り凛とした佇まいの遠坂凛、姉御肌で面倒見の良い美綴綾子(みつづりあやこ)とはまた違った、あの物腰の柔らかさと献身的な姿勢が魅力というのが周囲(俺を含む)の見解だ。

 また、これは三人全員に言える事だが、一人の女性として成熟し始めた美貌に掛かればどんなに捻くれた奴も彼女を好きにならずにはいられなかった。

 

 更に付け加えるとするなら、そんな彼女の姿が演技等ではなく素だというのもポイントが高いだろう。

 

 俺の偏見かもしれないが、女子というのは中々に嫉妬深い。

 それでなくともグループ内での水面下の牽制や争い等、言葉を選んで云うなら強か、遠慮無しに云うなら腹黒い生き物だ。

 以前、八方美人とも捉えられる桜の態度が気に入らないと、女子数人のグループが桜に絡んだ事がある。

 

 次の日、その女子グループと桜が仲睦まじげに喋りながら登校してきたのは今でも語り草である。

 

 そんな桜の所業を見て魔性の女だと恐れる者も居たが、一度(ひとたび)桜と直接会話をすればそんな認識はあっという間に改められるのである。

 噂では桜の事を現代に降り立った聖天使と崇め奉る宗教団体(ファンクラブ)も出来ているらしい。

 崇められている本人はそんなこと微塵も知らないのだが。

 

 そして桜の持つ伝説はまだまだこれだけに止まらず、プライベートが殆ど知られていないというミステリアス性にもある。

 

 先に語った社交性のお陰で、かなり広い交遊関係を持つ桜だが、意外な事に彼女とプライベートで遊んだ事のある友人はあまり居らず、家にお邪魔した者に至っては皆無だ。

 俺とて例外ではない。

 家の事情でどうしても、と心の底から申し訳なさそうに謝られては、普段の彼女を知っている者達からすれば強く出られる筈が無い訳で。

 

 だがそんな桜にも唯一判明している事柄がある。

 

 それは遠坂凛と実の姉妹だという事だ。

 

 何を隠そう本人からの告白であり、慎二からも遠坂からも裏付けの取れている確定情報である。

 後者は何やら歯切れが悪いというか言い難そうに認めていたが。

 

 詳細は一切知られていないが、どうやら家庭の事情で養子に出る必要があったようだ。

 『ミス優等生』と『穂群原の天使』が実は姉妹だという、飛びっきりの話の種(ネタ)に食い付いた輩は当然の如く多かったが、詳しい事は聞いてもはぐらかされるらしい。

 

 因みに何とか詳しい情報を押さえようと自称『穂群原の黒豹』が桜本人に突撃取材を敢行したところ、「あ、あかいあくま…」という謎のメッセージを友人二人に遺したとかなんとか。

 

 結局のところ遠坂と実の姉妹という事が判っただけで、それ以外のプライベート情報は一切開示されず、寧ろ何故間桐の家へ養子に行く事になったのかという新たなミステリーが増える結果となった。

 

 

 長々と語ってしまったが、まぁ要するにあれだ。

 

 桜は天使なのである。

 

 そしてそんな天使と家族の様に…いや、家族として付き合えている自分は、これ以上無いくらいの幸せ者なのだ。

 

 

「先ぱーい、ご飯の用意できましたよー」

 

 っと、どうやら思考に没頭し過ぎていたようだ。

 エプロンを身に付け、片手にお玉を持った天使が縁側から俺を呼んでいる。

 狙ってやっているということは万が一にも有り得ないが、そのあまりの小聡明(あざと)さに思わず顔が紅くなりそうだ。

 とはいえこれ以上この場で考え事をするのは不味い。

 折角可愛い後輩が作ってくれた料理が冷めてしまう。

 俺は先程の様な失態を繰り返さないよう、頬を叩いて気を引き締めてから足早に家へ上がった。

 

 

 

 

 もひとつ余談だが、桜と血が繋がっていないという事が判明した慎二と、ほぼ毎日自宅で桜と食事を共にしている事がバレた俺が、学校中の男子から袋叩きにされかかったのも今では良い思い出だ。

 

 

 

 

          ∵∵∵

 

 

 

 

 未だに顔が熱い。

 先程から心臓がバクバクと鳴りっぱなしで足を一歩踏み出す毎に息がし辛くなる。

 手と腕に至っては小刻みに震えるという表現すら生温い。

 ガックブルと歯が鳴りそうな程に痙攣しまくっている。

 これでよく料理が出来たな、と我ながら感心するレベルだ。

 

 それにしても本当にさっきのは不意討ち過ぎました。

 言うに事欠いて天使ですよ天使!

 普段は意識している素振りなんて全然見せてくれないのに、こっちが構えを解いた瞬間、或いは臨戦態勢にも入っていない完全無防備の状態に限って特大のボディブローをお見舞いしてくるのだ。

 お陰で此方の心臓は破裂寸前、何だか寿命も2年くらい削られた気がする。

 全くもって先輩は意地悪な人です。

 

 そんな風に心の中で、思い通りになってくれない想い人への不満を溜め込みながら、居間の机に料理を並べて行く。

 料理を美味しくするのは愛情と言われているが、私の怒り(喜び)を込められたこの料理達は、先輩にとってどんな味なのだろう。

 

 料理とお茶碗を全て並べ終わった私は先輩を呼ぶために縁側へ向かう。

 やはり心臓は鳴りっぱなしだが、動揺を悟られないよう、声が不自然に震えないよう、息を整えて喉を鳴らした。

 

「先ぱーい、ご飯の用意できましたよー」

「ああ、今行く」

 

 日光浴…いや、ストレッチでもしていたのだろうか、土蔵の前で瞼を閉じて背伸びをしていた先輩は私の呼び掛けに応じて此方へやって来る。

 その表情は何時も通りの凛々しいもので(※桜の見解)動揺している様子なんて欠片も無かった。

 

 …思わず頬を膨らませながら先輩を睨んでしまった私は悪くない。

 悪くないったら悪くない。

 

「おっはよーしろー!!って、桜ちゃんもう来てたの!?おはよー!相変わらず来るの早いわねー、将来良い奥さんになるわよー!って、あぁ~今日の朝御飯も一段と美味しそうねー、早く、早く食べましょうよ!あんまり遅いとおかず一品ずつ貰っちゃうわよー!」

 

 …と、そんな矢先居間へ突撃してくる一人の女性(トラ)が。

 名前は藤村大河(ふじむらたいが)先生。

 先輩と私の通う穂群原学園の英語教師だ。

 数年前に亡くなった先輩の養父(おとうさま)の知り合いらしく、以来この家に通っている先輩のお姉さんの様な人だ。

 私にとっても本当の姉の様な人である。

 

「な、おいこら待て藤ねえ!ご飯は全員が席についてからっていうルールだろ!急ごう桜。藤ねえ、なんかいつもに増してテンション高いし、ほんとに一人で食い荒らしかねないぞ」

「フフッ、そうですね、急ぎましょうか」

 

 一切の遠慮を感じさせない二人の関係が微笑ましくて思わず笑ってしまう。

 その事に気付いた先輩は照れ臭そうに指で頬をポリポリと掻く。

 そんな仕草が可愛らしくて、先程の詰まらない怒りなんてとっくに消え失せていた。

 我ながら単純だな、と内心で苦笑していると、

 

 先輩は急に目を見開いて私の手を掴み、マジマジと見つめ始めた。

 

「きゃっ!?せ、先輩!?」

「おい、桜。この手の包帯どうしたんだ」

 

 先輩は眉を顰めた深刻そうな表情で、()()()()()()()()()()()()()()()()について言及してきた。

 

 ああ成る程、と先輩の考えていることが読めたことで、私は内心ホッと息を吐く。

 それと同時に先輩に他意が無いことが判って少し残念にも思った。

 おそらく先程は暗い土蔵の中で、おまけに起きたばかりだったから気付かなかったのだろう。

 

「あ、これですか?実は昨日体育の授業で少し怪我をしてしまって」

 

 予め用意しておいた嘘を何食わぬ顔で先輩に告げる。

 淡々と嘘を吐けてしまう自分が少し嫌になるけど背に腹は代えられない。

 ()()()()()()()()()()()()には万が一にも本当の事を喋る訳にはいかないのだから。

 

「怪我って、捻挫とかか?」

「いえ、少しぶつけただけで全然大した事無いですよ。ただ痣になっちゃったからあまり人に見られたくなくて」

「痣って…全然大した事じゃないか!ちゃんと病院に行ったのか?」

「は、はい。無理に動かさなければ直に治るって言われました。ですから先輩、そんな大袈裟に心配してくれなくても…」

「何言ってるんだ、家族が怪我したんだぞ。大切な人が傷付いて心配しない奴なんて居るもんか」

 

 手を握ったまま、真っ直ぐ私の目を見詰めてそう言い切る先輩。

 漸く治まりかけていた心臓の鼓動がまた暴走し始める。

 自然と頬が吊り上がり、表情筋が緊張してドンドンにやけ顔になっていってしまう。

 ほんと、もう、先輩はなんなんですか、精神と肉体の両面から私を殺し尽くす気なんですか。

 

「というか怪我してるならちゃんとそう言えよ。そしたら俺が朝飯作ったのに」

「…先輩は家主なんですから、ドーンと構えて待っててくだされば…」

「家主とかどうとか以前に、怪我してる女の子を無理矢理働かせるなんて人間失格だ」

 

 

 ああ───本当に、先輩は綺麗な人だ。

 一切の迷いも疑いも無く、そんな言葉を紡げる貴方が眩し過ぎて。

 思わず涙が出てしまいそうなくらいに。

 

 どれほど長い時間一緒に居ても、どれだけ多くの言葉を交わしても、私の想いは色褪せることが無い。

 寧ろドンドン焦がれていく。

 何度だって心が惹かれる。

 貴方と一緒に居れば居るほど、この想いは募っていく。

 

 先輩。

 私、本当に貴方が好きなんですよ?

 

 

 

「カーーッ!!何時までラブコメってんのよ二人ともー!教師の前で不純異性交遊とかイイ度胸してんなコンチクショー!!」

「ひゃわっ!?」

 

 藤村先生の雄叫びで現実に引き戻される。

 というか先程から先輩が手を放してくれる気配が一向に無いんですが…!

 

「何ワケわかんないこと言ってるんだよ藤ねえ。桜に怪我の具合を聞いてただけだろ」

 

 ああ、そしてこの鈍感発言である。

 最近ではこの朴念仁っぷりも先輩の魅力だと思い始めている私は相当に末期かもしれない。

 

「藤ねえは桜の事が心配じゃないのか?」

「そりゃ私だって心配だけどさー、お医者さんが大丈夫だって太鼓判押してくれたんでしょ?だったら素人の私達があーだこーだ言う必要も無いでしょうに。あんまりしつこいと桜ちゃんに嫌われるわよ?」

「ふ、藤村先生!私そんな事で先輩を嫌いになったりなんか…」

「む…それは困るな」

「───え」

 

 困る。

 私に嫌われて困るっていうのはつまりそういう事で……先輩、それってつまり、ひょっとして、まさか───!?

 

「妹に嫌われる事程、兄にとって辛い事は無いと言ってもいい。ずっと仲良く付き合っていくのに越した事はないからな」

 

 うん、知ってた。

 大丈夫ですよ、先輩がどうしようもない唐変木だって事はこの3年間でキッチリ学びましたから。

 私、期待なんて1mmもしてませんでしたよ?

 あれ、何ででしょう、目の前が霞んでミエマセン…

 

「でしょー?だったらほら、早く桜ちゃんが怪我の痛みを堪えて必死に作ってくれた朝御飯食べましょうよー」

「いえ、私そんな大変な思いして作った訳じゃ…」

「いい加減冷めちゃうぞー、お姉ちゃん餓死しちゃうぞー」

 

 いけない、藤村先生が人の話を聞かなくなった。

 本格的に空腹を我慢出来なくなってきた証拠だ。

 急がないと、目の前にある全ての食材を平らげるまで止まらない『タイ餓ーモード』になってしまう(命名者・先輩)。

 

「はぁ…ったく藤ねえは…まあでもそうだな、朝っぱらから冷めた飯は御免被る」

「そうですね、それにお話なら食事中でも、食後の片付け中でも、登校中でも出来ますよ」

「そうだな…最後の確認だけどほんとに大丈夫なんだな?」

「もうっ、ほんとのほんとに大丈夫ですってば。…先輩は私の言うこと信じてくれないんですね、ぅぅ~ショックです私~」

「まさか。桜の事は誰よりも信じてるよ、俺」

 

 冗談めかした台詞で先輩を非難すると、またもや天然発言(ボディブロー)が返ってきた。

 …落ち着きなさい桜、仏の顔も三度までって言うでしょう?

 フフッ、流石に四度目の不意討ちは通じませんよ先輩?

 その程度の台詞は予測済みです、ガードはキッチリ固めてありますよ(ドヤァ

 

 …ですからこの心拍数の上昇は先輩との攻防に打ち勝った高揚感とかその他諸々であって決してトキメキとかじゃ(ry

 

「んじゃ、頂くよ桜」

「───はい。どうぞ先輩」

 

 

 …少し胸が痛い。

 信じてくれないんですね、なんていう白々しい言葉を平気で吐けるような人間である私を、本当に心の底から信じて疑っていない先輩の笑顔が、鋭利な刃物になって胸を引き裂かんとしてくる。

 …でも、いけない。

 この痛みはガードしちゃいけない。

 これは私が甘んじて受けなければいけない罰だ。

 穢れた魔術師の癖に、日陰者の癖に、自分を照らそうとしてくれる暖かな光を拒み切れなかった、卑しい蟲への罰。

 だがいつまでも、そんな半端者では居られない。

 

 ()()()()()()として、いつまでも未熟者では居られないのだ。

 

 

「「「いただきます」」」

 

 席に着き、全員で手を合わせて唱和する。

 そんな些細な行動一つ一つが、狂おしいほどに愛おしい。

 

 

 

 

 ───嗚呼、せめて

 

          この仮初めの日常が

 

 少しでも永く───




そんなこんなで投稿しちまったぜ、間桐桜ちゃんの小説。いやもうホント桜ちゃんへの愛が止まらなくてどうにかなりそうだった。溢れさせた結果がこれだよっ!

養子に出される前に、天文学的数値でトッキーが良い父親やった影響で原作のあかいあくまバリに魔術師やってる桜ちゃん。だが原作通りに士郎君の事が大好きで、根っこの強さと弱さも原作通りな桜ちゃん。

主人公属性とヒロイン属性を融和させる事に成功した桜ちゃんは無事『遠阪うっかりエフェクト』の呪いに打ち勝つことが出来るのか。

そしてプロットはおろか、マスターとサーヴァントの組み合わせも考え付いていない作者は無事にこの小説を完結させる事が出来るのか(白目

期待せずに待っててください。

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