復興、都市プリステラ
ロズワールからの提案から数日が過ぎ、スバルとレムは遂に新婚旅行前日を迎えた。
プリステラまでは当然3日ほどの時間がかかるため、予定していた日にちの前日にプリステラ入りした流れだ。
なので、到着日は丸一日プリステラ都市部の観光となった。
美しい都市プリステラだが、二年前の魔女教襲撃の傷跡は今もまだ街の各所に残っている。
そこに住まう人々の心にもまた、その傷痕ははっきりと残っていた。
愛する者を殺された者、『色欲』によって道徳を虐待された者、『暴食』によって名を喰われ植物状態よりも悪い無を味わった者。
沢山の目を背けたい出来事があっても尚、人々はプリステラの復興を果たした。
復興後のプリステラを訪れるのはスバルにとって初めてで、初めて見たあの水門都市からは一変した街に驚きを隠せなかった。
「門が……ねぇ」
かつて水門都市と呼ばれたのが皮肉に聴こえる程、街を囲っていた長く連なる壁が取り払われていた。
「山?ですね」
プリステラの成り立ちである街全体が罠であり、中心に向かうにつれ標高が下がっていき真ん中に水が溜まるという物を全否定するように、目の前にそびえ立つのは小さな山の様な街だった。
遠くから一望すれば湖に突き立つ孤島といったところか。
「前より明るくなったな。前は外見が監獄みたいだったんだよレム」
「そんな事言ってたらバチが当たりますよ?」
「いや本当に監獄だったぜ……その割にどの建造物も洒落てるイメージだったんだが、訂正が必要だな。この二年でいい方向に変わったと思う。歴史より今住む住民達の事を考えたいい街だ」
「スバルくんがどこ視点なのか気になりますが、入る前で止まってても仕方ないので早く街に入りましょう!今日は二人きりで買い物ですよ!」
「そうだな、明日以降の旅行に支障をきたさない程度に騒ぐか!」
「騒ぐのは構わないけれど、あまり目立ち過ぎて好戦的な輩に絡まれない事を祈るよ」
「なっ……」
水門都市の入口で復興している街への感慨に浸っていると、後ろから声をかけられた。
それは幾度と無く聴いたことのある声で、
「ユリウス様、どうしてこちらに?」
「そうだよ、いけ好かないイケメン騎士様が他人の新婚旅行に何のようだ」
スバル達の背後に現れたのは、一度はその名を失い名を取り戻した現在、アナスタシアの騎士でありながらも名を取り戻す際の恩を返したいと、王となったエミリアの所有する騎士団の一人としても数えられている騎士、ユリウスだ。
つまりスバルとしては仲の良いとは言えなくとも、関わりの強い一人の騎士団仲間だ。
当人同士は、主にスバルは未だに苦手意識を取り払えて居ないのだが。
「それより国の王の第一騎士でありながら他人に背後を取られたことに声をかけられるまで気付かないとは、騎士としての自覚が足りないのではないかな?」
「お前は一々俺の事を煽らなきゃ気が済まないの?イケメンってそういう生物なの?俺が煽り耐性低いの知ってるよね?」
「スバルくん、落ち着いてください。相手は同じ騎士団に所属する騎士ですよ。ユリウス様も面白がってそんな事を言わないでください」
「すまないすまない。まぁ騎士スバル、落ち着いてくれよ。キミと私の仲じゃないか」
「レム、こいつなんか勘違いしてるから殴っていい?確か立場上俺の方が上なんだよな?」
「ダメです。問題になります。それにユリウス様も悪意があって言っている訳では無いと思います。スバルくんもそれはわかっているでしょう?」
「彼女の言う通りだよ。私がキミに悪口を言うことも侮辱する事も無いさ。それ程にキミがしてきた事は尊敬に値するものだった。それに、キミに悪口なんて私は鬼を相手する自信なんて無いしね」
「さりげなく戦力外通知してんじゃねぇよこの野郎……で、何しに来たの?観光?一緒には回らないから一人で回ってね」
ユリウスは時折君が何故国の第一騎士なのか不思議でならない時があるよ、と一言余計な言葉をつけながら答える。
「国の中でも最高地位についている騎士とその夫人を、二人だけで騎士団の目が届きにくい都市で観光させるなんてエミリア様がお許しになる訳が無いだろう。明日の旅行が始まるまではお供させてもらうよ」
「薄々感づいてはいたけどやっぱりか。ただ旅行にまでついてこない所はまだ辛うじて好感が持てるな」
「流石に君の気に障る事ばかり言ってしまう私でもそこまで空気を読めない訳では無いさ。エミリア様は旅行中もと強く仰っていたが、そこは島の入口を警護する形で納得していただくしかないな」
「最優の騎士もサボる事があるんだな、レム」
「王の命令を可能な限り無視しようとしてますね、スバルくん」
「君達は付いてきて欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ……」
何はともあれ、もしもの時にスバルの百倍は戦力になるであろう騎士が手元に居るというのは心強い。
こうして、騎士三人での都市プリステラ観光が始まった。