鬼と鬼がかった新婚生活   作:そーだー

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目覚めの朝

スバルが目覚めた朝に、視界に入ったのは窓から差し込む太陽の光でも、隣で寝ているレムの姿でもなかった。

 

ベッドの傍で、こくりこくりと眠気と戦いながら二人を護衛するラムの姿がそこにはあった。

 

スバルが目を覚ましていることに気付いていないのか、時折目を擦って余りこちらを見ていない。

 

眠気と戦う子供のようなラムに、きっと心配して夜通し警戒してくれていたであろうその勤勉さに感謝しつつ、目の前のラムの普段とのギャップにスバルはくすりとしてしまう。

 

その反応に、ようやくラムがこちらに気付いた。

 

 

「おはようバルス。奇遇ね、今起こしに来たところだわ」

 

「おはようラム。俺も今起きたとこだ。起こしに来てくれてありがとな」

 

「そうね、バルスに出来る感謝なんて高が知れているけれど、出来る精一杯の感謝をすることね」

 

「そうだな、ずっと見守っててくれたもんな」

 

言ってやった、とスバルがヘラヘラした笑みを顔に浮かべると、ラムは恥ずかしいのか苛立っているのか、顔を赤くしつつ引きつった眉を戻す事もできずに、中途半端な笑顔をスバルに向けて返答する。

 

 

「それより、レムは起きているの?」

 

「………まだだ」

 

「幸せそうな寝顔ね。バルスの隣が一番安心するって言ってるみたいで姉としては面白くないわ」

 

「夫としては夫冥利に尽きることこの上ないけどな」

 

「正直生存率的な意味で安心するなら他の人間の方がいい事は事実という点から目を背けたらいい事だわ」

 

「そうやってさり気なく俺のこと低く低く評価しようとするのやめてくれない?まぁ力が無いことに関しちゃ、たかが三年で今までやってきた奴らに叶うとは思ってねぇよ」

 

「たかが三年……ね。その三年が、他の人にとっての三年と、バルスの三年では苦労の度合いも数も違うのだから、もう少し他人と比べられる努力をした事を自分で認めることね。バルスは他人にとっての数年、数十年よりも大変な思いをしてきたのだから」

 

「お、珍しく優しいじゃないですか?姉様」

 

「うるさいわバルス。ようはレムほどでは無いけれどラムもバルスの事を信じているのだから、信頼を裏切るような事の無いようにしなさい」

 

「わかってるよ。命に替えてもレムの事はこれからも守る」

 

その解答を聞いて、ラムは呆れるようにため息をついた。

 

 

「え、今の俺ため息つかれる所だった!?」

 

「バルスは何も分かってないわ」

 

「その通りです、姉様」

 

スバルの後ろでレムが起き上がる。

 

 

「姉様、姉様。スバルくんが鈍感さんです」

 

「レム、レム。バルスがいつにもまして無能だわ」

 

「レムからは何かを察してない事が伝わってきたけど姉様の方はただの悪口じゃねぇか」

 

かつてロズワール邸で行われていた様な懐かしいやり取りを行いながら、スバルはメイド姉妹の言いたいことを考える。

 

ラムとレムはお互いの視線をチラチラと合わせながら、どちらが伝えるか相談する。

 

二人の中での駆け引きは終わり、レムが口を開いた。

 

 

「スバルくんは、レムが身代わりに自分が生き残ったらどうしますか?」

 

「そんな縁起でもない事は考えたくねぇ。絶対にそんな事はさせない」

 

「要はそういう事ですよね、姉様」

 

「その通りよ、レム。自分を盾にレムを守るなんて考えないの。バルスが盾になって解決するような状況は有り得ないわ」

 

「今、絶対そういう話じゃなかったよな!?」

 

「スバルくん、伝わったと思いますが要はそういう事です」

 

「そういう事がどういう事か釈然としないけど、分かった。さっきのは失言だった」

 

「分かればいいのよ分かれば。じゃあ改めて、二人とも朝食の時間だわ」

 

 

 

 

 

 

朝食は、蒸かし芋だった。

 

 

「今日の朝の料理担当はラムだったのよ。感謝することね」

 

「なんか昨晩からクオリティが変動し過ぎて、むしろこの方が落ち着いて食えそうな気がするな」

 

「レムは姉様の蒸かし芋が食べられて嬉しいです」

 

「今日の蒸かし芋は特別製だわ。割って見なさい」

 

ラムに言われるがまま、スバルとレムは目の前に並べられた蒸かし芋を割る。

 

すると中から出てきたのは、白く粘着性のあるクリームというよりソース上のもの。

 

そう、スバルの故郷に伝わる万能調味料『マヨネーズ』が蒸かし芋の中からその姿を表した。

 

 

「マヨか……確かにマヨネーズは何につけても美味いけどもっとほかに入れるものがあっただろ」

 

「美味しいものと美味しいものを掛け合わせたら美味しくなる、これがラム流料理の真髄だわ」

 

「人はそれを料理とは呼ばない」

 

「えも、おいいいでうよ?うばるくん?」

 

口いっぱいに蒸かし芋を頬張り、口の周りにマヨネーズをところどころつけながらリスのように頬を膨らませるレムがキョトンとこちらを見る。

 

その様子を見て、スバルとラムは吹き出した。

 

 

「レムが美味しいって言うなら食べるか……」

 

恐る恐るといった風に頬張ると、想像通りの蒸かし芋とマヨネーズの味が口の中に広がる。

 

蒸かし芋の塩加減とマヨネーズの酸味が程よく混ざって懐かしい様な、子供の頃何でもかんでもマヨネーズをつけて試していた頃に経験した味が舌に馴染む。

 

端的に言えば美味しいものだった。

 

 

「スバル、おはよう。昨日は楽しめたかな?」

 

ちょうどスバルが蒸かし芋を飲み込んだ時、三人が座るテーブルにラインハルトが現れた。

 

 

「お蔭さまで。で、どうしたんだよ」


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