魔法使いってなんですか?   作:次郎鉄拳

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前回までの御話
礼司君は読心系アイドル絢香ちゃんと友達?になりました


タイマンってリンチですか?

――ここはグリモアに存在する、生徒同士の対抗戦に使用されるアリーナコロシアム。

ここで二名の人物が向かい合っていた。

片方は一世代前の不良のような服装をした女子、【生天目(なばため)つかさ】。

獣のような本能をむき出しにした、闘争本能丸出しなその表情に対して、対峙する青年――網在礼司は静かにたたずんでいた――わけもなく。

 

 

(やっべーよ、なんで俺こんなことになってんだっけ、アズアズに『センパイ……今日って暇ッスか? ちょっと……一緒に来てほしいところがあるんスよ』とか上目遣いで要求されたから従ってみたら目の前に殺気ビンビンなデンジャラスガールがいたもんですよコイツァ! てか上目遣いのアズアズ可愛くね? なんかハニートラップ掛けられたって感じだけどすっげぇかわいいよね、逆らえないよね!)

 

 

いつも通りうるさく叫ぶ内面。

困惑が抑えきれない彼は二人の間で仲裁するかのようにたたずむ、服部梓に向かい、ただ一言喉から声を絞り出し、事情の説明を求めた。

 

 

「……アズアズ、これは?」

「いやぁ……自分よくあの人に眼を付けられてるんですけど、口滑らしちゃいましてぇ……」

「……嘘だろ」

 

 

タハハと申し訳なさそうな声をあげる梓に、礼司からの非難が突き刺さる。

――確かに、梓が生天目つかさに礼司の情報を流したのは故意だ。

梓とて情は持ち合わせている。

何も知らずな礼司をこの場へ呼び出し、よりにもよって『あの』つかさと戦闘させるなぞ、命令でもなければ彼女だってやりはしない。

だから内面で謝罪を送る、どんな言い訳があろうと、こうしてつかさの目の前に彼を連れてきたのは事実でしかないという罪悪感を忘れないように。

 

 

(すいません、センパイ。センパイがボロボロになる前に必ず助け出すッス!)

 

 

――梓は知らない。

別に礼司は彼女を責めたわけではなく、ただ目の前の野獣さながらな少女が梓に眼を付けていたという話と、彼女へ梓が自分について話をした故に自分が呼び出されたという事実から、目の前の少女……生天目つかさがレズビアン、それも真正のモノだという憶測に対して『嘘だろ』と驚愕していたのだという、真実を――

 

 

「よく来たな、初めましてだ新人。私は生天目つかさ、貴様とこれから死合うものだ」

「……網在礼司。試合とはなんだ」

「文字通りだ、私と貴様は今から死力を尽くす。さぁ、構えろ」

 

 

有無を言わせず戦いを強要するスタイル。

礼司は絶望に襲われる、目の前にいる話が通じない存在に対してどうしたもんかと頭を悩ませる。

 

 

(コイツ全く人の話を聞かねぇぇ! 聖杯戦争に出てたら狂化EX待ったなしですよコンチクショウ! 『一番困難な会話を選択する』とかいうとんでもないサーヴァントですよどうすんの!)

 

 

「どうした……構えんのならこちらから行くぞ?」

「っ、おぉ!?」

 

 

つかさは宣言と共に飛び上がり、礼司の足元を粉砕する。

間一髪交わす礼司、何とか瞬間の反応が間に合ったが、もし間に合わなければどうなったかの想像は難くない。

礼司は再び非難の意味も込めて梓に助けを求めたアイコンタクトを送る。

 

――やんなきゃダメ?

――ダメッス、頑張ってください。

 

しかし現実は非情だった。

この場にいるのは自分と、梓と、そして襲い来るつかさのみ。

 

――やるしかない。

 

つかさが追撃を与えてこないことを確認した礼司は、深く深呼吸を行い髪をかき上げる。

 

 

「――ケンカっつったら、やっぱこれっしょ」

「……ようやくそのつもりになったか」

「センパイの手裏剣忍法ってやつをもう一回見れるんスね……!」

 

 

梓の期待とは裏腹に、礼司が制服の内ポケットから右手で取り出したのは――クリアブルーの武骨で大きいナニカ。

明らかに制服の内側から取り出せるような大きさではないそれを、彼は平然と取り出して一度顔の横にかざす。

 

 

「ほう……武器ではないようだな……」

「えっ、なんなんスかアレ……今明らか入らないところから取り出したッスよね!?」

 

 

梓の困惑をよそに、面白くなってきたと笑みを浮かべるつかさ。

直感で、ソレ――いや、ソレらこそが彼の魔法であると確信した彼女は、彼の準備が整う瞬間を待つ。

生天目つかさは何よりも、全力の死合いを望むのだから、この程度の待ち時間など期待を高めるものである。

 

 

≪FOURZE DRIVER!≫

 

 

音声が鳴るとともに、礼司は右手に持ったそれ――フォーゼドライバーを一瞥し、自らの腹部に押し当てる。

直後、ベルトのような何かが右側から伸び、腰を中心に一回転、腹部に押し当てられたドライバーの左側に入る。

同時に伸びていた何かが腰に密着し、ドライバーを体に固定する。

 

ドライバーから右手を離し、礼司は四つのカラフルなスイッチのようなものを取り出す。

彼はオレンジ、青、黄色、モノクロのそれらを、自身から見て右側から一つずつ、『穴』にセットする。

 

 

≪Rocket、Launcher、Drill、Radar≫

 

 

音声を確認した礼司は、ドライバーの前面部に在る四つのソケット部分にあるスイッチを、左手で右側二つ、右手で左側二つ押し込む。

瞬間、何処からか音楽が鳴りはじめ、それに合わせて彼は右側に上半身をひねる。

右手はドライバー右側部にあるレバーにかけ、左腕をL字の形で自身の前へ配置する。

 

 

≪Three、Two、One≫

 

「――変身!」

 

 

彼はカウントダウンが終わるとともに右手のレバーを強く押し込み、左腕を体の左側に振り、右手を頭上に伸ばす。

その動作と共に多量のスチームが彼を中心に吹き荒れる。

それと共に、彼の足元から円形を形どった光が頭上へと上がり、機械のような何かの形となり、そこからまた彼に向かって光が降り注ぐ。

スチームの壁が消えたそこにいたのは――白いロケットのようにも、イカのようにも見える、不思議な形状をした頭をした礼司だった。

 

 

「宇宙――キタァァァァァ!」

「うちゅう?」

「……ほう、変わった魔法だ」

 

 

大きく全身を使った屈伸でいきなり叫ぶ礼司、そしてそれに呆然とする梓と、すぐに訪れる全力の勝負に愉しみをますます抱くつかさの三人と言う何やらカオスな空間が出来上がる。

そして直後、正気を取り戻した梓によって礼司へと激しいツッコミが叩きつけられることとなる。

 

 

「何やってんスかこのバカはぁ! これでセンパイの魔法見るの二度目ッスけど! センパイは変なところに魔法のリソース割きすぎッスゥ!」

「仮面ライダーフォーゼ、網在礼司! タイマン張らせてもらうぜ!」

「無視!? なんスかこの人なんでキャラコロコロかわってんスか!!」

「タイマン――いい響きだ、行くぞ!」

 

 

柄にもなく吼える梓のツッコミを、二人は激しく無視して互いに突撃する。

――先に攻撃を仕掛けたのは礼司、ドライバーの一番右側のスイッチがいつの間にかオレンジのモノからアメジスト色のそれに代わっていて、彼はそのスイッチ――クロースイッチを起動する。

 

 

≪Claw On!≫

「鉤爪が――なるほど、面白い!」

 

 

礼司の右腕には三本の鉤爪が展開され、つかさの拳はそれによって抑えられる。

つかさの動きが止まった今がチャンスとばかりに礼司の左腕はドライバーに伸びるが、片腕が空いてるのはつかさも同じ、礼司の手がドライバーに届くよりも先につかさの拳が彼の腹を撃ち抜く。

腹を撃ち抜かれ、痛みによって前かがみになる礼司を追撃とばかりに左足の一撃が襲い、さらにオマケとばかりの左拳が彼を吹き飛ばした。

 

 

「なんだ……構え方だとかそういうものから少しはできるのかと期待したが――期待外れか」

「うわぁ……センパイ結構良い距離飛ばされたッスねぇ……」

 

 

礼司が現在再現している白塗りの戦士――仮面ライダーフォーゼは、計40を超える種類の道具を模した【モジュールスイッチ】と呼ばれるアイテムがあり、それを両腕両足の計四か所で起動することによって、その模した道具を操る多様性に特化したヒーロー。

宇宙服をモデルにしたヒーロー故に、宇宙空間での作業を想定しているとされるこの多様性は、複数のスイッチを活用することで真価を発揮する。

 

しかし礼司に出来るのはあくまでも再現でしかない。

仮面ライダーフォーゼの特性をしっかりと認識しておらず、自己鍛錬を行っていない彼に再現できるのは再現元である正規変身者である如月弦太朗の真似事だけ。

受け止められている間にスイッチを起動するのではなく、既にあらかじめ起動していたならば試合の流れはまた違ったものだったかもしれない。

経験とは何よりも勝る勝因――この勝負は全てそこによって決まってしまったともいえる。

 

 

「なめ――るなぁ!」

≪Rocket!≫

「……ほう、根性はあるのか」

 

 

礼司は吼えるとともに、先ほどまで展開していたクロースイッチを切りオレンジ色のロケットスイッチを起動、右腕に肘まで覆うロケットが展開される。

すでに先ほどまで鳴り響いていた音楽は何処にもない。

礼司の焦り、困惑と言った精神的なダメージが顕著に表れていることに、その場にいる礼司すらも気付けていなかった。

 

 

「ウァァァ!!」

「速い――グゥッ!」

 

 

ロケットのジェット噴射による加速で突っ込んでいく礼司。

それを躱すことは困難だと直感で選んだつかさは、腕を目の前で組んでその衝撃を受けることを選んだ。

だが、ジェット噴射による加速、それを用いたスピードの突進とあれば物理法則的にかなりの威力が伴う。

受けるとなれば相応のダメージがその腕に通る――はずだった。

 

 

「しかし――やはりこんなものか、期待外れという言葉を撤回することはなさそうだ」

「なっ!?」

 

 

しかしそれは生天目つかさの戦闘能力の前では通用しない。

あっさりと礼司の身体は上空に飛ばされ、ロケットの推進力が不安定になった彼は不規則な軌道を描き、そのまま地面に追突。

頭から地面に墜ちた礼司はそのまま気絶をしてしまった。

 

 

勝負あり。

梓が止める必要すらなくあっけないほど、つかさの圧勝であった。

 





グリモワールパーソナル

・生天目つかさ
グリモアにおいてトップクラスにデンジャーな存在。
強者との闘争を何よりも求める故に相手との戦闘そのものに悦を見出している気がある。
クエストを受注せずに魔物を討伐することはグリモアにおいては違反行為だが、彼女はその常習犯でもある。


・仮面ライダーフォーゼ
2011年から放送された仮面ライダー。宇宙と青春が前面に押し出された作品で、主人公の如月弦太朗に変身したのは今現在人気俳優である福士蒼汰。
宇宙服をモチーフにしたその風貌は異色として話題を呼んだことも。
大まかな特徴については本編で解説したが、今回は活躍していないのでまた次回登場に期待してほしい。

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