魔法使いってなんですか?   作:次郎鉄拳

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今までのあらすじ
礼司はニンジャ娘と一緒にクエストに出かけました。


何じゃ者じゃニンジャ

「アズアズ……ウルフの情報に、群れと言うのはあったのか?」

「いやいや~……事前にもらった情報では群れではなく小さな個体だって話だったッスけどぉ……」

 

(マズイことになったッスね……)

 

 

アズアズと、礼司に呼ばれた少女――服部梓は内心でぼやく。

つい数週間ほど前に魔法使いに覚醒しながらも魔法の使い方を知らず、つい数日前ようやく使用できるようになった、謎の少年である礼司。

彼の実力を測る様にある筋から依頼を受け、彼の現状に釣り合った難易度のクエストを選択したはずなのだが――

 

 

(まさか、ここまで霧の増殖が速いとは思わなかったッス)

 

 

霧の魔物は、その場所にある霧が濃ければ濃いほど数も増え、強大になる。

今回事前にもらった情報では小型のウルフが数体程度、群れと言うほどの数は存在しなかったが、今二人の目の前に広がる現状はまさしく群れ。

一体の大きなウルフを核としたウルフの群れがそこにある。

――これでは礼司の実践経験どうこうの話ではない。

 

 

「……アズアズ、一度退かなくていいのか?」

「ん~……できたらそうしたいッスけどねぇ……ちょっとばかしこれは厳しいものがあるかと」

 

(センパイが居ると、ですけどね)

 

 

服部梓は忍者である。

現代に存在する数少ない忍者の一人、それも忍術の扱いに長けた優秀な忍者である。

そんな彼女からすれば、霧の魔物との戦闘自体が実質初めてである礼司をかばって戦うことのほうが独りで戦うよりもリスクが大きい。

しかし後ろにいる彼は怯える様子も何もなく、眼付きの悪い風貌を微動だにさせず、どっしりと構えているではないか。

 

 

(このセンパイ、何者ッスかね……実践ってなった時に全く震える様子もないだなんて)

 

 

目の前の魔物たちへの注意を怠らずに、同時に礼司への警戒も忘れない。

並の者ならば隙ができやすい二方面警戒も、梓レベルの忍者であれば容易く隙なくできること。

敢えて隙を見せ、相手から飛び込むのを待つような絡め手もできるほどだ。

 

梓がある筋から受けた任務は『網在礼司の実力を把握すること』なのだから、正直ここは礼司にある程度戦わせてもいいのではないか――という考えが梓に浮かぶ。

……しかし、礼司の魔法について梓が知っていることは『イマジネーション』という言葉だけ。

道中聞いてみてもそれ以外に語ることをせず、頑なに口を閉ざすほど、その言葉の重要性は大きいと見える。

 

それはつまり、梓にも、訓練担当していた精鋭部隊の面々にもいまいち魔法の特徴が伝わらないということ。

訓練時の様子を聞いてみても『突然太極拳の真似事を始めた』だとか、『踊って攻撃の回避を始めた』などと、まるで答えのようで答えじゃないことばかり返答される。

梓は悩んだ、礼司を今戦わせるべきか、そうじゃないか。

 

 

「センパイ、ここは自分が引き受けるッス。幸い学園も近いッスから、逃げ込んでください」

「……見捨てろと?」

「合理的判断ッス。先輩は今日がクエスト初挑戦、自分は幾度か戦闘を経験してますから」

 

 

――逃がすことを選んだ。

それは、後ろで自分を気遣う、声に注意していないとわからないほどの【心配】の感情が言葉に乗った彼を案じて。

『彼はここで喪ってはならない』

という彼女の勘に従った判断。

 

だが、彼が従うことはなかった。

 

 

「!? センパイ、何を」

「護られるのは性にあわない」

「でも……!」

「……ありがとう、だが、俺は力を『わかっている』」

 

 

(実践と訓練は全然別もんッスよこのおバカ!!)

 

梓は心の中で叫んだ。

そりゃあそうだ、礼司の実践経験は何度も言うように全くないに等しい。

そんな人物を戦わせるというのは酷すぎる。

 

――だが、梓はもちろんのこと、この学園にいる者で彼の魔法について知っているのは遊佐鳴子だけだ。

遊佐鳴子は後々に彼の魔法についてこう語る。

『正直対人戦でも相手にしたくないと思う。だってパターンが読めないじゃないか』

……と。

 

 

「俺の魔法は、魔法ではない」

 

「俺の魔法は、俺の記憶によって形作られる」

 

 

礼司が胸の前にかざした右手には、刀のようなものが握られていた。

下に降ろしていた左手には手裏剣のような見た目をした、派手な文様が彩られているナニカが握られている。

それを確認した彼は、魔物たちの領域へと足を踏み入れる。

 

 

「よく見ておけ、忍びならば、忍ばない忍びの姿もな」

「……はい?」

「……忍タリティのイメージだ」

「はいぃ?」

 

 

なんのことかわからず困惑し続ける梓を放置し、礼司は刀を一回転、そして手裏剣のような何かを刀に存在する【窪み】に嵌め込む。

――瞬間、どこからか軽快な音楽が鳴り響く。

 

 

「忍忍忍……ってなんスかこのリズム」

「……歌は気にするな」

 

 

リズムに、それに合わせて響く声、大きく響き渡り始めたそれらのハーモニーに気付かぬ魔物ではない。

ウルフたちは侵入者である礼司へ牙をむく。

 

 

「……それでは、試してみようじゃないか、俺の可能性を」

 

「――手裏剣変化」

 

 

礼司は嵌め込んだ道具を指で勢いよく押し込んで回転させる。

 

【クロジャ――NINJA!】

 

 

「にっ忍者!?」

 

 

――瞬間、彼の姿は黒ずくめのフルフェイススーツを纏った忍者らしきものへと変わる。

直後、鳴り響いていた音楽がガラリと変わり、まるでドラマのワンシーンのようなBGMが流れるように、音楽が流れ始める。

 

 

「これは……魔法による音響効果ッスか!? それにあの姿と武器はよく見たらミストファイバーの変換で作られたもの……まさかこれ、全部魔法による演出!?」

 

 

梓の困惑が増していく中、彼は一人静かに剣を掲げ、名乗りを上げる。

 

 

「――闇に差す一筋の奇跡っ」

 

「クロニンジャー!」

 

 

剣を再び一回転、右の脚を左右に一度振り、腰を低くその身を構える。

その姿はまさしく忍者、見様見真似ながらも、正しく彼が想い描いた忍者だった。

 

――そう、彼の魔法とは『自身のイメージを元に【再現】を行う』というもので、その再現とは道具、戦術、BGM、演出と多岐にわたる。

今彼が再現したものは【手裏剣戦隊ニンニンジャー】という、忍者をモチーフにした『この世界に存在しえない』特撮ヒーロー……それの即興俺戦士だったのだ。

何故黒なのか? それは彼の趣味に過ぎない。

 

発想力とイメージ力さえあればいくらでも幅が広がる彼の魔法。

なぜ彼がそんな魔法を、存在しえない存在の再現を使えるのか――それは彼が『この世界とは違う世界に生きていたから』。

遊佐鳴子が彼に自身の境遇やその生い立ちをできる限り話さないように言及したのは、この特殊な事情が大きい。

世界移動だなんてばれた日には大問題に違いない。

 

 

「さぁて初任務だ……忍ぶどころか、暴れるぜ!」

「あのセンパイ余計なリソースにまで魔法を使いすぎッスよ! というか忍びだったら忍んでほしいッス!」

「燃ォォえてきたァァァッ!」

 

 

梓の至極最もな叫びは彼に届かない。

それはなぜか、簡単な話だ。

礼司は今、【自分の世界】に浸っている。『憧れの特撮ヒーローになりきって怪物たちをバッサバッサとなぎ倒す自分』の世界に酔っている。

ウルフの群れに文字通り暴れに行った礼司を見て、梓は呆れ八割、怒り二割の頭で自分の次の行動を選んだ。

 

 

(……自分は忍びらしく忍んでいくッスかね)

 

 

 

ドラマやアニメのOPに流れているような曲が、礼司の周囲で響く中。

当の彼は軽快な動きでズバズバとウルフたちに攻撃を加え続けていた。

時には宙返り、時にはサイドステップ、そして時には回転技……

しかしそんな動きの大きい攻撃を続けていれば隙ができる。

ウルフたちはその隙をすかさず狙い、彼の喉元に飛び込んだ。

 

 

「疾ッ!」

「!?……アズアズか」

 

 

しかしそれは、彼と違って正しい忍びらしく忍ぶ少女から放たれた手裏剣によって阻まれる。

そしてその少女の救援によって礼司はハッと正気に戻る。

自分が突出していたこと、そして今梓の援護がなければどうなっていたかわからないこと。

しかし――

 

 

「ますます燃えてきたな……!」

 

 

【ザ・技!】

 

――取りあえず、今やるべきは目の前の敵を倒すこと。

流れていたBGMが突如止まり、『ナンジャナンジャ』と軽快なリズムが再び鳴り渡る。

ウルフは音楽が変わったことに本能的な警戒を感じたのか、核となる巨大なウルフを護るために礼司の前へ即座に移動する。

彼は静かに、再び手裏剣のような何かを回転させた。

 

【クロジャ――NINJA!】

 

音声と共に、刀を逆手に持ち替え腰を深く落とした礼司が、自身の前に群れを成すウルフたちを通り抜ける。

 

【忍者一閃!】

 

――爆発。

集っていたウルフたちが一瞬で散りゆくさまを見て梓は戦慄した。

 

 

(なんスかあのバカ火力と魔力使用量……あんなリソースに割いたりこんなど派手なことしておいて息切れ一つしている様子がないなんて……転校生センパイよりも流石に少ないけど、それでも充分な魔力量ッスよ!)

 

 

戦慄したのは梓だけではない。

ウルフたちを従えていた親玉の核ウルフ――マザーウルフも同じように戦慄した。

なんだあれはと、本能による恐怖で脱兎のごとく撤退を試みる。

しかしそれをみすみすと逃がすような忍者たちではない。

 

【キンキラジャー!】

 

 

「手裏剣忍法金の術、チェーンの術!」

「そこから先は行き止まりッスよ!」

 

 

地面から現れた鎖によって脚を搦められ、つんのめりになるマザーウルフ。

その行く先をさらに防ぐように石柱が現れ、マザーウルフは脳天から激突してしまう。

 

 

「とどめだ。手裏剣忍法火炎の術、烈火斬!」

 

 

【メラメラジャー!】

 

礼司が道具を回転させると、音声と共に刀が炎を纏う。

チェーンが縺れて動けなくなっているマザーウルフへそのまま突進、首を落とすように刀を一閃。

最後の抵抗とばかりに暴れていたマザーウルフは瞬間痙攣し、息絶え、霧へと還っていった。

 

 

 

***

 

 

 

「……忍ばず、ワッショイ」

「ワッショイじゃないッス。自分が援護しなかったらどうなってたか」

「……すまない」

「……センパイってBGMとか演出がないと饒舌になれない人ッスか?」

 

 

グサッという擬音が聞こえたかと思えば、梓の言葉に礼司は膝から崩れ落ちていた。

どうやら今のは魔法が勝手に発動したようで、それだけの精神的ショックを礼司が受けていたことに繋がる。

梓はあきれた眼で礼司を見ながら、思考の奥では色々と頭を悩ませていた。

 

 

(しっかし、シュリケンニンポーだとかクロニンジャーとやらは今まで忍者やってたッスけど一回も聞いたことないっすね。それにこのセンパイの魔法の異質なところは音響と演出が魔法で起こっていること……センパイが言っていた『忍タリティのイメージ』……はてさて、どう報告したもんッスかねぇ……)

 

 

依頼先への礼司の魔法と実力の報告。

それとは別に彼女は彼に対して確かな興味を抱いていた。

――忍タリティ、手裏剣忍法、忍ばない忍。

全て梓が聞いたことが無いもの。

これは忍者として見逃してはおけない。

 

彼は何処の忍びなのか、どこの関係者なのか、知らなければならない。

もしかしたら存在しえなかった【風魔一族】に関わっているのかもしれないのだから。

 

 

「センパイ、シュリケンニンポーってどこで研鑽を?」

「……盗んだ」

「!?」

 

 

忍法を盗んだ、そんなことができるものか。

見様見真似で技を盗んだならまだ話は通じるが、あのスムーズさだ。

見様見真似程度であんなに鮮やかな忍法ができるわけがない。

一体どんな技で忍法を盗めるのだろうか、自身の技を盗まれないためには知るしかない。

 

 

「……どうやってッスかね」

「……アズアズの忍術も使ってみたいが、俺には無理そうだ」

 

(自分の忍術は盗めない……? だけどシュリケンニンポーとやらは盗めた……その違いは?)

 

 

梓は意味深な礼司の言葉によって、思考の渦に巻き込まれる。

しかしながら彼女は色々と勘違いと忘れていることがある。

まず最初に、彼女自身が指摘したように、礼司の言葉は特殊な状況じゃなければ舌がうまく回っていないせいでわかりづらいこと。

そして二つ目に、彼の魔法は彼自身が語ったように『記憶によって形作られて』いること。

そして最後に――見様見真似も何も、梓はそもそも手裏剣忍法の正しい姿を見たことが無いということだ。

 

 

「アズアズ……学園にそろそろつく」

「そ、そうッスね、それじゃあ、報告に向かいましょうか」

 

 

――彼女が自身のミスに気付き、彼の力の秘密に気付くのは、一体いつになるのだろうか。

 




グリモワールパーソナル

・網在礼司
手裏剣忍法継承者――なわけない。
使用魔法は【再現】。
自身の記憶とその他に頼り数々の演出を行う魔法。
音響や特殊演出の再現も行われるため、ぶっちゃけリソースの要領の大半は見栄えに取られている。

・ミストファイバー
100年ほど前に見つかったと言われる特殊繊維。
この繊維で組まれた制服はかなりの防御力を誇る。
制服には自動変身機能が備わっており、魔法を使う際に一番テンションが上がる衣装に変わる仕様のため、礼司の場合はヒーローの衣装を再現している。
また、この衣装から直接武器が登場するようにもなっており、礼司の使った刀と手裏剣モドキもこのミストファイバー製である。

・手裏剣戦隊ニンニンジャー
2015年放送のスーパー戦隊。
コンセプトは【忍びなれどもしのばない】であり、歴代の忍者戦隊と客演した際も【忍べよ】と突っ込まれるほど忍んでない。
実は最年長戦隊戦士記録を更新した作品であり、変身者は主人公の祖父伊賀崎好天、役を務めたのは笹野高史である。
何気に黄金の腰で有名な松本寛也もかのマジイエロー役で客演している。

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