魔法使いってなんですか?   作:次郎鉄拳

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前回までの御話
礼司君はセクハラを働いたようです。


面談って圧迫じゃないんですか?

グリモアに入学させられてから早数日。

俺の交友関係は壊滅的だった。

いや、仕方ないじゃん、皆俺に近寄ってくれないんだもん。

こっちから話しかけに行ったら怯えられるし……数少ない男子同士仲良くしたいんだけどなぁ。

俺の交友関係とかもう初日からお世話になってるカオルコ=サンと、親友ナルト――にそっくりなメイコ、そして転校生君こと転木君くらいしかないんだよね。

岸田? あれはストーカーパパラッチだから。

 

そんなこんなで唯一仲のいい同性である転木君とは良い交友関係を築けているが、彼は大体誰か知らない女子と一緒に行動している。

普通そうな見た目でモテるとは、おのれ性格イケメン爆発すべし。

ただたまにパシリになる姿を見かけるのだが、少しだけ涙ぐましく感じてくる。

今度気遣ってなんか奢ってやろうか、いやまだ俺実質一文無しに近いもんなんですけどね。

 

だってクエストとやらに一回も行ってないんですもの!

メイコに薦めてもらった本のおかげでこの世界の事情がある程度わかってきたのはいいのだが、未だにクエストを受注できたことが無いのだ。

なんでかは知らん。クエスト選択はできるのにただ受注の選択ができないんだ。

 

そんなわけで俺は未だに実質一文無し。

今日も図書館に行って本を漁ろうかなぁ……歴史書とか読んでて楽しいんだよねぇ、ラノベ古文みたいな作品ばっかりだから。

あ、メイコも誘おう。質問していろいろ聞きたいことあるもん。

すっかり使い方だけ慣れたデバイスを取り出してもあっとを起動、メイコにメッセージを送ろうとしたその時――

 

 

「網在さん、今からは空いてますか?」

「……まぁ、暇だからな」

 

 

アイエエ女王様降臨!

カオルコ=サンの無慈悲なお誘い、ショッギョムッジョ!

おかげで図書館の予定がパーだよ! メイコに連絡とって今日こそは『教えてメイコちゃん!』を開こうと思ったのに!

 

あ、でもそんなこと言おうものならカオルコ=サンはきっと絶対零度の視線を俺に向けてくるに違いない。

残念ながら俺にはその気がないからな! 精神攻撃なぞ……スイマセン、勘弁してください。

断れない俺情けないナムサン!

 

 

「それでは生徒会室に来てもらいましょう、会長の予定がようやくつきましたので」

「……そうか、面談だな?」

「お気づきが早く嬉しいですわ、さぁ、会長は既にお待ちです」

 

 

生徒会長武田虎千代。

カオルコ=サンが崇拝する御方であり、グリモア自治の一端を担う団体である生徒会の代表……つまり最強。

なんで最強かって? そりゃあ当然生徒会長だからさ!

 

そんな人と面談をしなければならない恐怖で俺の脚はガクブルが止まりませんよ。

俺の前を行くカオルコ=サンが時々こちらを振り向くのが恐怖すぎる。

『逃げたら……わかってますね?』

とかいう声が幻聴で毎度聞こえるのだ帰りたい!

実は武田さんと会うのは初めてなんですよ。だから余計に嫌なんですよ。

誰か通訳に転木君かメイコ呼んでェ!

 

 

「さぁ網在さん、この先に会長がいます……ここからはあなた一人で入ってください」

 

 

カオルコ=サンの無慈悲なお言葉に涙が出そうです。

この人はそろそろ悪意で俺を一人きりにしているんではないだろうか。

なんだ、言いつけを破って報道部と仲良くしているっていうことか? そうなんだなカオルコ=サン!

でも残念だったな、俺が仲良くしているのは親友のナルトそっくりなメイコだけであって岸田とは仲良くないんだよぉ!

 

 

「網在さん、会長にも予定がありますので、あまり遅らせないでいただければ」

「アア」

 

 

ウィッス、ハイ。

カオルコ様のおっしゃる通りデス。

網在礼司、逝ってキマス!

俺は直立不動の精神で扉の前にしっかりと立ち、怖れを横に投げ棄てるように生徒会室のドアを横に開いた!

ここであのセリフ、有名なあの傭兵の言葉を……!

 

 

「ま た せ た な !!」

「ほう、随分と元気がいいじゃないか。生徒会室にようこそ、アタシが生徒会長の武田虎千代だ」

「それでは網在さん、くれぐれも会長に迷惑がかかりませんように」

 

 

あるぇ?

立って俺を待ってたらしい武田会長は一瞬ポカンとしていたが、すぐニヤリと笑顔を浮かべて俺を歓迎。

カオルコ=サンはさっき言ってた通り俺を置いてどこかへ行ってしまった……

バカなッ、あの傭兵の挨拶が通じないだと、本当にこの世界の娯楽はどうなっているんだ答えろベクター!

 

 

「まぁこっちに座ってくれ」

「了解した」

 

 

何事もなかったように机の方まで俺を誘導する武田会長。

なんともいえない恥ずかしさを感じながら俺はとびらを閉めて彼女の案内に従う。

席に座るように促されたので座ると、武田会長は何かを俺の前に置いた――水のペットボトル?

 

 

「ああ、お前とは少しゆっくり話をしたいと思ってな。薫子には悪いが聖奈と転校生を代理で派遣することにしたんだ」

 

 

つまり長く話すからのどを潤すための物もこちらで用意したよっていう気づかいですか。

いやぁ武田会長っていい人だなぁ!(テノヒラクルー)

というか転木君いろんなところに派遣されてて大変だね。つい昨日なんて風紀委員に駆り出されてたじゃない?

 

『よっと』と声を出して着席する武田会長。

――てか面談って何話すんだ?

 

 

「それじゃあ面談を始めよう。とはいってもあまり堅い話をするつもりはないから安心してくれ」

「……わかった」

「さて、改めて自己紹介をしよう。アタシは生徒会長の武田虎千代だ」

「網在、礼司」

 

 

なんで意味深のような声で名乗るんですかね俺は!

 

 

「さて網在。学園には少し慣れたか?」

「まぁ……」

「なにか含む言い方だな。何か気になることがあるなら言ってみると良い、アタシたちで対処できることかもしれない」

 

 

いや、無理です(断言)

だって俺のことだもん、ここって別世界ですかー? なんて聞けるわけないじゃない。

この事知ってるのメイコだけだよ? メイコはすんなり信じてくれたけど、『たぶんほかの人は信じないから言うな』ってメイコにも言われたんだよ?

 

 

「む……どうした、遠慮しなくてもいいぞ?」

「いや……そうだな……個人的な話だが……」

「ああ、構わない。お前が気になっていることはもしかすると今後必要なことかもしれないからな」

 

 

やだ……会長イケメン……(トゥンク)

イケメンで男気たっぷり、嫌いじゃないわ! 嫌いじゃないわっ!

いや、会長は女子だからそういうこと言えないんですがね。

 

しっかしなぁ……そうだな、折角だし言ってみるかなぁ……

 

 

「俺は、違和感を感じている」

「……違和感、だと?」

「ああ……違和感だ」

 

 

そうだよ、違和感だよ!

だって俺の知ってる娯楽が軒並み通じないし、そもそも歴史が完全にファンタジー待ったなしだし!

アイザック・ニュートンが万有引力じゃない変なもんで有名って何だよ、ニュートンと言ったら林檎が落下して引き寄せまっかな青いアレでしょうに!

それに埼玉県がネオサイタマ以外に世界崩壊待ったなしなマッドマックスしてるって聞いたこともねぇよ! いやネオサイタマも娯楽でしか存在してなかったけどさぁ!

 

 

「……具体的には?」

「アイザック・ニュートン……とかな」

「!?」

「あくまでも、違和感だ」

 

 

まぁ、もしかしたら俺が本来知ってる万有引力ニュートンさんが実は別人って展開もありそうだしね、その場合は俺に非があるから謝るしかないから保険にね!

ビビりで悪かったな、俺はチキンなんだ!

 

 

「…………」

「特に気になったのはそこ位だ、他は……クエストを受注できていないことだ」

「あ、ああ、そのことか。それについてだが――」

 

 

……なんてこったい。

要約すると、『網在礼司は魔法使いに覚醒したはいいものの、当の本人が魔法について認識が薄く、現在のままクエストに派遣するとその認識故に大きな事故に会いかねない』

という何処からかのタレコミによって受注を止められていたというらしい。

どこからのタレコミかは会長にもわかっていないらしいので、今日実際に会ってみてそこで最終判断を下そうという考えだったようだ。

 

 

「……確かに、俺は自分の魔法を知らない」

 

 

まぁ、だってそもそも魔法について全っ然教えてもらってませんしね。

訓練とかどうとかきくけどそもそも魔法を使ったことが無いからわかんないんですよね。

覚醒したって言っても、最初の戦闘で変な怪物を殴って蹴ってぶっ飛ばした時くらいしか思い当たる節がないし。

それを教えてもらう間もなくあれやこれやって勝手に入学ですよコイツァ事案じゃないんですかね?

 

 

「それに、必要なことを聞く間を設けられていない」

「!?……それは済まなかった、こちらも配慮が足りなかったな……」

「いい、今は独学でどうにかなる」

 

 

メイコいるもん。

やっぱ持つべきものは親友ですよ、ナルトとほとんど全部そっくりだから話もだいぶ通じてて楽ですし。

ただやっぱり必要な一般教養とか改めて教えるべきだと思うんですよ。

魔法学だって知ってる前提で話すんだもんわっかんねぇよ。

 

 

「そうか……いや、今の話は大事だな、礼を言わせてくれ」

「気にするな、こっちも言いたいことを言っただけだ」

「それでもだよ、今後の転入生たちへの調査も生徒会独自で追加していくべきだろうか……?」

 

 

思考にもぐりこんで色々とつぶやき始める会長。

俺みたいな無知なままほおり込まれたやつが、知らないままでいるということが減ることをこれで願うばかりだぜ……

 

 

 

***

 

 

 

思わず愚痴も入った俺の一言でだいぶ武田会長が悩んだ後、何か吹っ切れたのかその後雑談をして時間をつぶした。

魔法使いは体も鍛える必要があるということで武田会長から『初心者でも簡単にできる体の基礎の作り方』を少しばかり教えてもらった。

流石に基礎以上の動きとなると具体的に教える時間も必要になるし、そもそも俺の戦闘スタイルがわからない以上、会長も『無理に動かし方を固定して妨げにしたくない』と言うことで基礎だけ。

 

いやぁ会長良い人だわ。

『魔法の使い方や発動の仕方は個人ごとに異なる。アタシからはそれを教えることができない。ただ、お前が知らない必要なことを教えることはできるはずだ。生徒会は生徒を護る組織、全力を尽くすぞ』

とか、ほんとカッコいいんだけど。

 

しかしこれでメイコが言ってた『悪いけど魔法について教えられることは少ないかな』と言ってた意味がわかった。

そもそも教えられないものなんだな、【個人で異なる】ものだから。

コイツァ結構難解ですぜ。個人がどんな魔法を使えるかって他人から観測することはできても、教えることはできないってことなんだから、俺は時間をかけてでも自分の使える魔法を知るしかない……

 

そんなことを悩みながら、メイコのいる報道部へと向かう。

生徒会室での面談も終わったからと、もあっとを送ったところそこにいるという返事がきたし。

 

 

「ヘイ、メイコー」

「マイコーって呼ばれてる気がするからそういうのはやめてもらえないかい?」

「貴様俺の達人級の発音にケチをつけるとは」

「達人級って……日本人教師級の間違いじゃないかな?」

「やめれ、日本人教師サラッと罵倒するのやめたれって」

 

 

グリモアに入学してからずっとメイコと話してる気がする。

そろそろ新しい友達欲しいんだよね、ボッチ嫌なの男子と仲良くしたいの。

なんでか知らんけどメイコはやっぱナルトの影があるからか全然緊張せんけど他の女子はダメだわ。

武田会長相手にもどもってたし。

 

 

「それで、生徒会長との面談はどうだったかな?」

「圧迫面接とかされると思ってた。思ってた以上に会長良い人で良かった」

「まぁ彼女はお人好しの部類だからね、君にはちょうどいい相手だったと思うよ」

 

 

元々帰るつもりだったのだろう、荷物を纏め始めたメイコにはちょっと引き留めて申し訳ないことをしたと謝罪の念を送ることにする。

 

 

「それで、魔法について進展はあったかな?」

「……まぁ、きっかけはあった。とりあえずは筋トレする」

「なんで筋トレなんだい……? それじゃあ僕からもご褒美に一つヒントをあげよう」

 

 

ヒント? あれ、教えられることはないって……

あとご褒美ってどういうことですか。

 

 

「そりゃあ君が頑張って会長と1:1で話せたことだよ。君の対女性スキルは壊滅的だってわかってるからこそさ」

「さいですか……」

「それじゃあヒントだ、『覚醒したときを思い出してみる』といい。人によってはこれで魔法の種類を知ることができるからね」

「お前それもっと早く教えてや」

「僕だってまさか君が今日まで一回も魔法を使えないままだと思わなかったんだ、悪気はないよ」

 

 

まぁ……確かに。

本を読んだ限りでは魔法の発動条件わかんないのはおかしいのかもしれないけどさぁ……

メイコ俺の境遇知ってるじゃん? 教えてくれてもいいじゃん?

 

まぁ、きっかけのイメージか……あのバケモンぶっ飛ばした時か……確か、『テレビに映ってるヒーローの真似がしたい』……だったかな……

そうだな、こう、懐かしの、仮面ライダーのポーズをとって……

 

 

「っ、待った礼司君。ここでそれをするのは――」

「【変身】……!」

 

 

 

この日、魔法の起動方法を知った功績と引き換えに、俺は風紀委員と生徒会による教育的指導が待ち受けているとは、この瞬間の俺は気付いていなかった――

 




グリモワールパーソナル

・武田虎千代
グリモア生徒会長。五年連続生徒会長と言う、グリモアの特殊な環境だから成り立つ特殊な記録を保持している。
総合能力は最強と言われており、非常識なレベルで強いとかなんとか。
地道な生徒との対話を忙しい時間を使ってまで行う人情さとそれによって生まれた人望はぴか一。
しかしまぁこういう人物によくある設定なのか、例にもれずこの人もバトルマニアである。

・アイザック・ニュートン
我らの世界では万有引力で有名な人。
しかしグリモア世界では【時間停止魔法】というものを使えるというよくわからんオンリーワン人物として認識されていることが多い。

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